リヒテンシュタイン財団で日本の課税は逃れられる?東京高裁の逆転判決(2026年4月)を税理士が解説
- 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
- 2. 前提知識:CFC税制(タックスヘイブン対策税制)とは
- 3. 何が論点だったのか──「その財産は、誰のものか」
- 4. 専門家の視点:もう一つの重要判例「日産キャプティブ事件」との対比
- 5. 判決の実務への影響:海外財団・信託で日本の課税は逃れられるのか
- 6. これから資産を守りたい方へ(まとめ)
- よくある質問(FAQ)
1. 何が起きたのか(3行サマリー)
報道および公表されている内容を整理すると、概要は次の通りです。
- 日本の居住者が2005年にリヒテンシュタインに財団(ファウンデーション)を設立し、その財団を通じて海外法人の株式など多額の資産を保有していたとされます。
- 国税当局は、この居住者が実質的に財産を保有していると認定し、CFC税制(タックスヘイブン対策税制)を適用して追徴課税を行いました。
- 東京地裁(2025年9月)は国側勝訴。ところが東京高裁(2026年4月14日)はこれを取り消し、納税者が逆転勝訴したと報じられています。最終的には最高裁の判断が注目されます。
地裁と高裁で結論が真っ二つに分かれた、極めて重要な事案です。
2. 前提知識:CFC税制(タックスヘイブン対策税制)とは
この事件を理解する鍵がCFC税制です。聞き慣れない方のために、まず基本を押さえます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制) |
| 根拠条文 | 租税特別措置法 第66条の6 ほか |
| ねらい | 税率の低い国に所得をためて日本の課税を逃れる行為を防ぐ |
| しくみ | 日本の居住者・法人が一定の外国法人を支配している場合、その外国法人の所得を日本側に合算して課税する |
ざっくり言えば、「タックスヘイブン(低税率国)に会社を置いて利益をためても、その利益は日本で課税しますよ」という制度です。富裕層が海外法人や財団を使うとき、必ず立ちはだかる壁になります。
3. 何が論点だったのか──「その財産は、誰のものか」
今回の最大の争点は、シンプルに言えば 「リヒテンシュタイン財団が持つ資産は、実質的に誰のものか」 でした。
CFC税制を適用するには、その人が外国法人の「株式又は出資」を保有しているといえる必要があります。ところが「財団」は、株主がいる株式会社とは構造が違い、“持分”という概念がないのが特徴です。だからこそ、富裕層のプライバシー保護や資産承継に使われてきました。
- 国税側の主張:形式はどうあれ、実質的に本人が支配・享受しているのだから、保有しているのと同じだ(実質支配論)。
- 高裁の判断:報道によれば、高裁は条文の文言を重視し、「株式又は出資」という法的概念から離れて課税対象を広げることには慎重な姿勢を示した、とされています。
つまり高裁は、「国税の“実質的に支配しているはずだ”という理屈だけで、無制限に課税を広げることはできない」という線を引いた、と整理できます。納税者にとっては重要な意味を持つ判断です。
4. 専門家の視点:もう一つの重要判例「日産キャプティブ事件」との対比
ここがKMPならではの解説です。CFC税制を考えるうえで、今回のリヒテンシュタイン事件と必ずセットで理解すべき判例があります。日産自動車のキャプティブ(自家保険)事件・最高裁判決(令和6年7月18日)です。
| 事件 | 結論 | 何を示したか |
|---|---|---|
| 日産キャプティブ事件(最高裁・確定) | 国側勝訴(日産が逆転敗訴、約50億円の課税が確定) | 形式上は非関連者との取引でも、実質的に関連者のリスクを担保していると見られれば、CFCの適用除外は認められない |
| リヒテンシュタイン財団事件(高裁・係争中) | 納税者側勝訴(追徴取消) | 国税の実質支配論を、条文の文言が押し返した |
一見、逆の結論に見えますが、両者を並べると国際税務の本質が見えてきます。
- 日産事件の教訓:箱(形式)だけ整えても、中身(経済的な実質)が伴わなければ否認される。
- リヒテンシュタイン事件の教訓:一方で、国税の実質論も条文という歯止めを超えては及ばない。
実務家の立場から申し上げると、海外スキームで本当に大切なのは、「条文上の要件を厳密に満たすこと」と「現地に実体を伴わせること」の両方だということです。どちらか一方では足りません。
5. 判決の実務への影響:海外財団・信託で日本の課税は逃れられるのか
では結局、富裕層が海外に財団や信託をつくれば、日本の課税から逃れられるのでしょうか。
率直に申し上げると、「住所も生活も日本に置いたまま、器だけ海外に移して課税を逃れる」ことは、年々難しくなっています。 今回の高裁判決は納税者勝訴ですが、これは「海外財団なら課税されない」というお墨付きではなく、あくまで個別事案で条文要件の当てはめが問われた結果です。むしろ国税が富裕層の海外資産を本気で追っている流れ自体は変わりません。
——弊社にも、「海外に財団や信託を設けて資産を守りたい」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、最初につまずきやすいのは、「日本に住み続けながら課税だけ切り離せる」という誤解から設計を始めてしまうケースです。私たちが関与する場面では、まず「日本側で課税される範囲」を正確に把握したうえで、現地に実体を伴わせられるか、そもそも費用対効果に見合うかを一緒に検証していきます。
海外スキームを検討するうえで、最低限おさえるべき視点を挙げます。
- CFC税制をクリアできるか:低税率国の法人・財団は、原則として日本で合算課税の対象になりうる
- 現地に実体があるか:取締役会・事務所・帳簿・現地での意思決定など、ペーパーだけでは否認リスクが高い
- 「誰のものか」を説明できるか:実質的な支配・享受の構図が、課税の有無を分ける
- 費用と継続コスト:設立・維持・専門家報酬まで含めて、本当に見合うのか
6. これから資産を守りたい方へ(まとめ)
リヒテンシュタイン財団事件の高裁逆転判決は、「国税の実質支配論にも、条文という歯止めがある」ことを示した重要な判断です。一方で、日産キャプティブ事件が示すように、形式だけ整えて実体が伴わないスキームは否認される——この二つは、海外を使った資産防衛を考えるすべての方が知っておくべき“両輪”です。
そして大原則は変わりません。節税は「実体」と「透明性」を伴って初めて成り立つということ。器だけを海外に移す発想は、もはや通用しにくくなっています。
税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、トリプルホルダー(公認会計士・税理士・米国公認会計士)の視点で、国際税務・資産防衛のご相談に対応しています。海外スキームをご検討の方は、動く前に一度ご相談ください。
よくある質問(FAQ)
海外に財団や信託を作れば、日本の相続税・所得税は逃れられますか?
CFC税制(タックスヘイブン対策税制)は個人にも関係しますか?
海外に資産を移せば、日本の税務署には分からないのでは?
すでに海外スキームを使っている場合、どうすればよいですか?
出典・参考資料
- リヒテンシュタイン財団CFC事件(東京地裁 令和7年9月/東京高裁 2026年4月14日 判決)※係争中
- 租税特別措置法 第66条の6(外国子会社合算税制/タックスヘイブン対策税制)
- 最高裁判所 令和6年7月18日 第一小法廷判決(民集78巻3号1097頁/日産自動車キャプティブ事件)※対比判例
- 国税庁「外国子会社合算税制に関するQ&A」/報道各社(日本経済新聞ほか)
本件は最高裁で争われる可能性があります。上告・判決等の動きがあり次第、本記事に【追記】します。
本記事は、報道および公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務・法務判断に代わるものではありません。係争中の事案については今後の判断により結論が変わる可能性があります。税制は改正され、適用は個別事情により異なります。実際の判断にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年5月30日
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