「1億円の壁」是正で超富裕層の税金はどう変わる?ミニマムタックスを税理士が解説
- 1. 何が起きているのか(3行サマリー)
- 2. 前提:なぜ「1億円の壁」が問題なのか
- 3. ミニマムタックスの仕組み(2025年分から適用)
- 4. 【2027年から強化】対象拡大・税率引き上げの方向
- 5. 実務でどう備えるか:誰が、何を考えるべきか
- 6. よくある誤解 vs 正しい理解
- 7. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 何が起きているのか(3行サマリー)
- 所得が1億円を超えると税負担率がかえって下がる「1億円の壁」を是正するため、超富裕層向けのミニマムタックスが導入されました。
- 現行制度は2025年分の所得から適用。基準となる所得が3.3億円を超える人が対象です。
- さらに2027年(令和9年)分から、対象拡大・税率引き上げの方向で見直しが進んでいます。
2. 前提:なぜ「1億円の壁」が問題なのか
会社員の給与や個人事業の所得(総合課税)には、最高45%の累進税率がかかります。ところが、株式の売却益や配当などの金融所得は、多くが約20%(所得税15%+住民税5%)の分離課税で済みます。
ここに逆転が生まれます。所得の大半が金融所得である超富裕層ほど、平均的な税負担率が下がっていくのです。
| 所得の中心 | 主な税率 | 税負担率の傾向 |
|---|---|---|
| 給与・事業所得(総合課税) | 累進 最高45% | 所得が増えるほど上がる |
| 株式譲渡益・配当(分離課税) | 約20% | 金額が大きくても一定 |
その結果、財務省の統計でも、所得が1億円を超えるあたりを境に、税負担率が右肩下がりになることが示されてきました。これが「1億円の壁」と呼ばれる、税の公平性をめぐる長年の論点です。
3. ミニマムタックスの仕組み(2025年分から適用)
この壁を是正するのがミニマムタックスです。正式には「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」と呼ばれ、その根拠は租税特別措置法 第41条の19にあります。
仕組みは、「基準となる所得に最低限の税率をかけた額」と「通常計算した所得税額」を比べ、前者が上回れば、その差額を追加で納めるというものです。計算式は次の通りです。
- 基準所得金額:おおむね、総合課税の所得に加えて、分離課税の株式譲渡益などを合算した金額(一部の所得は除く)
- 3.3億円:いわば「ここまでは追加課税しない」という控除ライン
- 22.5%:最低限の負担として求められる税率
ポイントは、対象となるのは基準所得が3.3億円を超えるごく一部の超富裕層だということ。多くの方には直接の影響はありません。一方で、所得の大半を株式譲渡益が占めるような方は、この制度で追加負担が生じる可能性があります。
4. 【2027年から強化】対象拡大・税率引き上げの方向
注目すべきは、この制度が早くも見直しの対象になっていることです。2026年度(令和8年度)の与党税制改正大綱で、さらなる強化の方向が示されました。2027年(令和9年)分の所得から適用される見込みです。
報道・公表されている方向性を整理すると、次の通りです。
- 控除ライン:基準所得 3.3億円
- 税率:22.5%
- 控除ライン:1.65億円に引き下げ(対象者が広がる)
- 税率:30%に引き上げ(負担が重くなる)
控除ラインが下がれば、これまで対象でなかった層も新たに対象に入ります。税率も上がるため、「対象が広がり、かつ負担も重くなる」という二重の強化です。富裕層・資産家にとっては、見過ごせない変化です。
5. 実務でどう備えるか:誰が、何を考えるべきか
「自分には関係ない」と思われるかもしれませんが、影響は意外と広く及びます。
——弊社にも、保有株式の売却や事業承継にともなって一時的に所得が大きく跳ねる方からのご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、見落とされやすいのは「普段は対象外でも、株の売却やM&Aがあった年だけミニマムタックスの対象に入る」ケースです。私たちが関与する場面では、売却のタイミングや複数年への分散も含めて、事前に税負担をシミュレーションすることをおすすめしています。
特に意識しておきたい点を挙げます。
- 金融所得が中心の方:株式譲渡益・配当が所得の大半なら、基準所得を試算しておく
- 大きな売却・M&Aを控える方:その年だけ所得が跳ね、一時的に対象になり得る
- 事業承継・自社株売却:まとまった譲渡益が出る年は要注意
- 2027年の強化を前提に:今後はより多くの層が対象になる前提で、中期的に設計する
6. よくある誤解 vs 正しい理解
- 「1億円を超えたら全員、課税が強化される」→ 実際の対象は基準所得3.3億円超(強化後1.65億円超)のごく一部
- 「毎年必ずかかる」→ 所得が基準を超えた年だけ。普段は対象外の人も、売却益が出た年だけ対象になり得る
- 「自分には一生関係ない」→ 事業売却・自社株譲渡で、一時的に所得が跳ねると対象に入ることがある
- 対象は超富裕層に限られるが、「一時的な高所得」でも対象になり得る
- 2027年から対象が拡大・税率が上昇する方向。今のうちから前提に入れる
- 大きな譲渡を伴う取引は、事前のシミュレーションとタイミング設計が効く
7. まとめ
ミニマムタックスは、「1億円の壁」という税の不公平を是正するための、超富裕層向けの課税強化策です。2025年分から適用が始まり、2027年分からはさらに対象が広がり負担も重くなる方向にあります。
直接の対象は一部の超富裕層ですが、株式売却・事業承継などで一時的に所得が跳ねる方にも影響しうる制度です。だからこそ、「自分は関係ない」と決めつけず、所得の構成や今後の大きな取引を踏まえて、早めに試算しておくことが大切です。
税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、トリプルホルダー(公認会計士・税理士・米国公認会計士)の視点で、富裕層・資産家の税負担シミュレーションや資産防衛のご相談に対応しています。所得の構成や大きな売却をお考えの方は、お早めにご相談ください。
よくある質問(FAQ)
「1億円の壁」とは何ですか?
ミニマムタックス(最低税負担)は誰が対象ですか?
いつから適用されますか?
普段は対象でなくても関係することはありますか?
出典・参考資料
- 租税特別措置法 第41条の19(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置=ミニマムタックス)
- 国税庁 タックスアンサー No.2240「申告分離課税制度」
- 財務省「令和5年度税制改正の解説/極めて高い水準の所得に対する負担の適正化」
- 与党「令和8年度税制改正大綱」(超富裕層課税の見直し・2027年分以降の方向性)/日本経済新聞ほか報道各社
2027年分からの強化は今後の法案で確定します。詳細が固まり次第、本記事を更新します。
本記事は、公表資料および報道に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。改正の具体的内容は今後の法令で確定します。実際の判断にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月3日
富裕層・資産防衛のご相談は KMP へ
トリプルホルダーの視点で、富裕層・資産家の税負担シミュレーションや資産防衛のご相談に対応しています。所得の構成や大きな売却をお考えの方はお早めにご相談ください。
無料相談はこちら
