役員報酬はいくらにすべきか?税務で否認されない決め方と手取りの最適解
- 1. なぜ役員報酬の設定がそれほど重要なのか
- 2. 役員報酬の3つの型(損金にできる支給方法)
- 3. 「不相当に高額」とは?過大役員報酬が否認される基準
- 4. 手取りを最大化する考え方(法人+個人のトータル最適)
- 5. よくある失敗 vs 適切な対応
- 6. まとめ:役員報酬を決める前にやるべきこと
- よくある質問(FAQ)
1. なぜ役員報酬の設定がそれほど重要なのか
役員報酬の本質は、「会社(法人税)」と「社長個人(所得税・住民税・社会保険料)」のあいだで、お金をどう配分するかという意思決定です。
- 役員報酬を高くすれば → 会社の利益(=法人税)は減るが、個人の所得税・社会保険料は増える
- 役員報酬を低くすれば → 個人の負担は減るが、会社に利益が残り法人税がかかる
つまり、どちらかだけを見て最適化しても意味がありません。「法人+個人のトータルで、手元に最も多く残る点」を探すのが正解です。ここを見ずに「とにかく報酬を高くして会社を赤字に」「とにかく低くして節税」と振り切るのが、最もよくある失敗です。
さらに役員報酬には、後述する厳格な税務ルールがあります。決め方や時期を間違えると、「払ったのに経費として認められない(損金不算入)」という最悪の事態が起こります。
2. 役員報酬の3つの型(損金にできる支給方法)
法人税法では、役員給与は原則として経費(損金)になりません。例外として、次の3つのいずれかに当てはまる場合だけ損金算入が認められます(法人税法第34条)。
| 型 | 内容 | 主な使いどころ |
|---|---|---|
| 定期同額給与 | 毎月同じ時期に、同じ金額を支給する | 中小企業の役員報酬の基本形 |
| 事前確定届出給与 | 「いつ・いくら払うか」を事前に税務署へ届け出て、その通りに支給 | 役員にボーナス(賞与)を出したいとき |
| 業績連動給与 | 利益等の指標に連動して支給。要件が厳しく、同族会社は原則使えない | 上場企業・大企業向け |
中小企業のオーナー社長は、実務上ほぼ「定期同額給与」で設計し、必要に応じて「事前確定届出給与」を組み合わせる、と理解しておけば十分です。
ここが落とし穴:「金額を変えられるタイミング」は決まっている
定期同額給与は、事業年度が始まってから原則3か月以内(通常は定時株主総会のタイミング)に改定する必要があります。「今期は儲かりそうだから、期の途中で報酬を上げよう」とすると、増額分が損金として認められないおそれがあります。役員報酬は1年に1回しか実質的に動かせない——これを知らずに損をする社長が後を絶ちません。
3. 「不相当に高額」とは?過大役員報酬が否認される基準
「経費になるなら、報酬を思いきり高くすればいい」——そう考えたくなりますが、ここにもブレーキがあります。不相当に高額と判断された部分は、損金として認められません(法人税法第34条第2項)。実際に、税務調査や裁判で「過大」と認定され、追徴課税となった事例が複数あります。
判断は、大きく2つの基準で行われます。
| 基準 | 中身 |
|---|---|
| 形式基準 | 定款や株主総会で定めた支給限度額を超えていないか |
| 実質基準 | 職務の内容、会社の収益や従業員給与の水準、同業・同規模の他社の支給状況などに照らして妥当か |
ポイントは、「社長がいくら働いているか(職務の実態)」と「会社の規模・利益に見合っているか」が見られるということです。仕事の実態がない家族を役員にして高額報酬を払う、利益に対して突出して高い報酬を取る、といったケースはリスクが高くなります。
4. 手取りを最大化する考え方(法人+個人のトータル最適)
では、具体的にどう決めるか。考え方の軸は次の通りです。
- 来期の会社の利益を予測する(ここが起点。どんぶり経営では最適化できません)
- 会社に残す利益にかかる法人税等を見る
- 個人で受け取る報酬にかかる所得税・住民税・社会保険料を見る
- 両者を合算し、手取り合計が最大になる報酬額を探す
会社側にかかる税金(法人税等)
資本金1億円以下の中小法人の場合、所得のうち年800万円以下の部分は法人税率15%(軽減税率。令和9年3月末までに開始する事業年度まで延長)、800万円を超える部分は23.2%です。これに地方法人税・法人住民税・法人事業税を加えた実効税率は、おおむね30〜34%程度になります。
個人側にかかる税金(所得税は累進)
個人の所得税は、所得が大きいほど税率が上がる超過累進課税です(令和7年分・速算表)。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
| 195万円〜329万9,000円 | 10% | 97,500円 |
| 330万円〜694万9,000円 | 20% | 427,500円 |
| 695万円〜899万9,000円 | 23% | 636,000円 |
| 900万円〜1,799万9,000円 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
(出典:国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」。令和7年4月1日現在の法令等に基づく)
これに住民税(おおむね一律10%)と社会保険料が加わります。報酬が上がるほど、この3つが重なって効いてきます。
給与所得控除という「うまみ」
ここで効いてくるのが、給与で受け取る人だけが使える給与所得控除(給与収入から自動的に差し引かれる「みなし経費」)です。令和7年度の税制改正で最低保障額が65万円に引き上げられ、給与収入850万円で上限195万円に達します。報酬を給与で受け取ると、この控除のぶんだけ課税対象が圧縮されます。
つまり、「会社の軽減税率+給与所得控除のうまみ」と「個人の累進・社会保険料の重さ」が逆転する手前に、法人+個人トータルの最適点があるイメージです。
忘れてはいけないトレードオフ
- 社会保険料:報酬を下げれば社保負担は減りますが、将来の厚生年金も減ります。目先の節約が老後の手取り減になることも。
- 融資:役員報酬を下げて会社の利益(自己資本)を厚くすると、銀行の評価が上がり、融資が受けやすくなることがあります。「節税」と「資金調達力」はしばしば逆方向に働きます。ここは資金調達支援(ユウシサポ)も手がける当事務所が、特に重視している論点です。
5. よくある失敗 vs 適切な対応
- 期の途中で「儲かったから」と役員報酬を増額する(増額分が損金にならないおそれ)
- 利益予測をせず、前年同額をそのまま据え置く(最適化の機会損失)
- 実態のない家族役員に高額報酬(過大役員報酬として否認リスク)
- 節税だけを追って報酬を上げ、社会保険料と所得税で逆に損をする
- 報酬を下げすぎて会社に利益を貯めすぎ、出口(退職金・承継)で課税が膨らむ
- 期首前に来期の利益を予測し、法人・個人トータルで報酬額を決める
- 賞与を出すなら事前確定届出給与を期限内に届け出る
- 職務実態と会社規模に見合った金額にする(議事録等の根拠も残す)
- 「節税」「手取り」「将来の年金」「融資」「承継」の5つのバランスで判断する
6. まとめ:役員報酬を決める前にやるべきこと
役員報酬は、「来期の利益予測」から逆算して、会社と個人のトータルで決めるもの。そして、改定できるのは事業年度の開始から原則3か月以内の一度きりです。なんとなくで決めてしまうと、税金・社会保険・融資・将来の承継まで、長く影響が残ります。
「自社の場合、いくらが最適なのか」は、利益予測・家族構成・社会保険・将来の出口まで含めた個別シミュレーションが必要です。当事務所では、経営者一人ひとりの状況に合わせて、税務リスクを抑えながら手取りを最大化する役員報酬設計をご支援しています。役員報酬の決め方にご不安のある経営者の方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
役員報酬は途中で変更できますか?
役員報酬を高くすれば法人税が減って得ですか?
役員賞与(ボーナス)は経費にできますか?
役員報酬をゼロにしてもいいですか?
出典・参考資料
- 国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」(本記事の速算表の出典)
- 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与」
- 法人税法 第34条(役員給与の損金不算入)
- 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」/中小企業庁「法人税率の軽減」
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務判断に代わるものではありません。税制は改正され、適用は個別事情により異なります。実際の判断にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年5月30日
