空き家の3,000万円特別控除が4年延長へ?築年要件の緩和と民事信託の追加も|国交省が令和9年度税制改正要望を公表【2026年8月28日時点】
- 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
- 2. いまの空き家特例(措置法第35条第3項)を確認する
- 3. 今回の要望の中身
- 4. 専門家の視点:なぜ「民事信託の追加」が効くのか
- 5. 実務でどう備えるか
- 6. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 何が起きたのか(3行サマリー)
- 2026年8月28日、国土交通省が令和9年度(2027年度)税制改正要望を公表。空き家の3,000万円特別控除の拡充・延長が主要項目に入りました
- 要望は3点です。適用期限の4年延長(令和10年1月1日〜令和13年12月31日)、築年要件の緩和(現行は昭和56年5月31日以前に建築された家屋に限定)、民事信託の終了に伴う取得を対象に追加
- 現行の適用期限は令和9年(2027年)12月31日です(措置法第35条第3項)。延長が決まるかどうかは年末の大綱まで分かりません。相続した実家の売却をお考えなら、要望の行方とは別に、相続開始から3年の期限が先に走っている点にご注意ください
税制改正は、各省庁が8月末に財務省・総務省へ要望を提出し、政府税制調査会や与党税制調査会の議論を経て、年末の与党税制改正大綱で方向が定まり、翌年の通常国会で法律が成立して初めて確定します。要望に入っただけの内容は、削られることも、要件が大きく変わることも、実現しないこともあります。とくに「築年要件の緩和」は緩和の幅が示されておらず、「民事信託の追加」も対象となる信託の範囲は要望文に書かれていません。本記事は2026年8月28日時点の公表資料に基づくものであり、確定情報ではありません。
2. いまの空き家特例(措置法第35条第3項)を確認する
どんな制度か
相続または遺贈で取得した、被相続人が住んでいた家屋とその敷地を売ったとき、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。マイホームを売ったときの3,000万円控除(同条第1項・第2項)とは別に、相続した空き家に特化して用意されています。
条文は次のとおりです。
「相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。)による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人(包括受遺者を含む。)が、平成二十八年四月一日から令和九年十二月三十一日までの間に、次に掲げる譲渡(当該相続の開始があつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にしたものに限るものとし……その譲渡の対価の額が一億円を超えるものを除く。)をした場合……には、第一項に規定する居住用財産を譲渡した場合に該当するものとみなして、同項の規定を適用する。」
主な要件
条文と国税庁の取扱いから、押さえるべき要件は次のとおりです。
- 取得原因:相続または遺贈による取得であること
- 家屋:昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(旧耐震)
- 区分所有でないこと:建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物(分譲マンションなど)は対象外です(同条第5項第2号)
- 同居者:相続開始の直前に、被相続人以外に居住していた者がいなかったこと(同項第3号)
- 用途:相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住のいずれにも使っていないこと
- 売却期限:相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
- 制度の期限:令和9年12月31日までの譲渡
- 金額:譲渡対価が1億円を超えるものは対象外
- 家屋の状態:譲渡時に耐震基準に適合していること。または家屋を取り壊して敷地を売ること(譲渡の翌年2月15日までに耐震改修または取壊しを行った場合も対象)
- 控除額:3,000万円。ただし取得した相続人が3人以上のときは1人あたり2,000万円(同条第4項)
(出典:国税庁タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例。条文はe-Gov法令検索「租税特別措置法」の現行施行版〔令和8年8月12日施行〕により確認)
3,000万円の控除は、税額でいえば長期譲渡(20.315%)なら約609万円、短期譲渡(39.63%)なら約1,188万円の差になります。使えるか使えないかで、手取りが数百万円単位で変わる制度です。
3. 今回の要望の中身
国土交通省の要望資料には、次の3点が記載されています。現行の内容と並べると次のとおりです。
| 項目 | 現行 | 要望 |
|---|---|---|
| 適用期限 | 令和9年12月31日 | 令和13年12月31日 |
| 築年要件 | 昭和56年5月31日以前 | 緩和 |
| 民事信託 | 対象外のおそれ | 対象に追加 |
(出典:国土交通省「令和9年度国土交通省税制改正要望事項」〔令和8年8月〕。現行の適用期限は租税特別措置法第35条第3項による)
① 適用期限を4年延長する 現行の令和9年12月31日を、令和13年12月31日まで(令和10年1月1日から令和13年12月31日まで)延長するという要望です。
② 対象家屋の築年要件を緩和する 現行は昭和56年5月31日以前に建築された家屋に限られています。要望資料は、制度創設から10年が経過し、新耐震基準を満たす相続空き家であっても腐朽・破損のあるものが増加していることを理由に挙げています。ただし、緩和後の基準がどうなるかは要望文に書かれていません。
③ 民事信託の終了に伴う取得を対象に追加する 要望資料の文言は「相続・遺贈と同視し得る民事信託契約の終了に伴い家屋・敷地等を取得した場合」を対象に追加する、というものです。
要望資料は、その背景として、相続後に空き家が放置されないためには、民事信託の活用など相続前の準備を進めておくことも重要であると述べています。
4. 専門家の視点:なぜ「民事信託の追加」が効くのか
いまの条文は「相続又は遺贈による取得」に限っている
上に引いたとおり、措置法第35条第3項の主語は「相続又は遺贈による……取得をした相続人」です。ここが出発点です。
家族信託(民事信託)では、親が委託者兼受益者、子が受託者となって実家を信託財産に入れておく、という組み方が典型です。親が亡くなると信託は終了し、残余財産の帰属権利者として指定された子が実家を受け取ります。この受け取りは、法形式としては「信託の終了に伴う残余財産の給付」であって、民法上の相続そのものではありません。
相続税の計算上は、信託の受益権や残余財産は相続により取得したものとみなす規定が置かれています(相続税法第9条の2)。しかし、措置法第35条第3項が求めているのは「相続又は遺贈による取得」という取得原因です。ここが一致しないため、空き家特例が使えないおそれがあると整理されてきました。
何が起きていたか
つまり、こういうことです。
- 親の認知症に備えて、正しく家族信託を組んだ
- 親が亡くなり、信託が終了して、子が実家を受け取った
- 実家を売却したが、取得原因が「相続」ではないため3,000万円控除が使えない
認知症対策として合理的な選択をした人ほど、出口で不利になり得るという構造でした。今回の要望は、この歪みを「相続・遺贈と同視し得る民事信託契約の終了」という表現で正面から扱っています。要望どおりに手当てされれば、家族信託の設計はかなりやりやすくなります。
ただし、現時点では要望にすぎません。「相続・遺贈と同視し得る」の範囲がどう定義されるかも未定です。信託契約の内容によっては対象外になる可能性は十分にあります。
——「親の認知症に備えて家族信託を組みたい」というご相談は、弊社でも実際によく頂きます。一般論として申し上げると、家族信託の検討では組成の場面ばかりが議論され、終了後の税務が後回しになりやすいという傾向があります。今回の空き家特例のように、信託を使ったがゆえに使えなくなる特例は他にもあり得ます。私たちが関与する場面では、信託を組む前に「この信託が終わったあと、その財産をどう処分するか」「そのときにどの特例を使う想定か」まで先に置いてから、契約の中身を設計するようにしています。認知症対策と出口の税務は、同じテーブルで検討すべきものです。
5. 実務でどう備えるか
要望の段階なので、いま制度を前提に動くことはできません。ただし、次の3点は今のうちに確認できます。
① 相続開始から3年の期限を先に確認する 空き家特例で最も多い失敗は、制度の期限ではなく、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日という個別の期限に間に合わないことです。遺産分割が長引くと、この3年が先に尽きます。延長要望の行方とは無関係に、この3年は走っています。
② 家屋の築年月と、耐震基準への適合を確認する 現行の築年要件は昭和56年5月31日以前です。緩和は要望されていますが、緩和後の基準は未定です。いま使えるかどうかは現行要件で判定するしかありません。あわせて、譲渡時に耐震基準に適合させるのか、取り壊して敷地だけ売るのかも早めに決めておきます。
③ 家族信託を検討中なら、出口の税務を先に置く 今回の要望が通れば状況は変わりますが、現時点では信託終了による取得は空き家特例の対象外となるおそれがあります。実家の売却を想定しているのであれば、信託の設計段階でこの点を織り込むか、遺言との使い分けを検討する必要があります。
やってはいけないこと
- ❌ 「4年延長されるはずだから急がなくていい」と考え、3年の期限を逃す
- ❌ 相続人が3人以上いるのに、1人あたり3,000万円が使える前提で試算する(正しくは2,000万円)
- ❌ 売却価額が1億円を超えるのに、控除が使える前提で手取りを計算する
- ❌ 実家が分譲マンションなのに、この特例が使えると思い込む(区分所有建物は対象外)
王道
- ✅ 相続開始日から3年の期限を最初にカレンダーに落とす
- ✅ 登記事項証明書で家屋の建築年月を確認し、現行の築年要件で判定する
- ✅ 家族信託を組むなら、終了後の売却と特例の適用可否まで設計に含める
6. まとめ
- 2026年8月28日、国土交通省が令和9年度税制改正要望を公表。空き家の3,000万円特別控除(措置法第35条第3項)の拡充・延長が主要項目に入りました
- 要望は3点です。①4年延長(令和10年1月1日〜令和13年12月31日)②築年要件の緩和(現行=昭和56年5月31日以前)③民事信託の終了に伴う取得を対象に追加
- 現行制度の期限は令和9年12月31日まで。控除額は3,000万円ですが、取得した相続人が3人以上なら1人あたり2,000万円、譲渡対価が1億円を超えると対象外です。分譲マンション(区分所有建物)はそもそも対象外である点にもご注意ください
- 民事信託の追加は実務的に大きい論点です。現行条文は「相続又は遺贈による取得」を要件としているため、家族信託の終了によって実家を受け取った場合は対象外となるおそれがあると整理されてきました
- ただし、これはすべて要望の段階です。緩和の幅も、対象となる信託の範囲も、要望文には書かれていません。確定するのは年末の与党税制改正大綱と翌年の法改正です
- いま動くべきは、相続開始から3年の期限の確認と、家族信託を検討中なら出口の税務を先に置くことの2つです
よくある質問(FAQ)
4年の延長は決まったのですか?
築年要件はどこまで緩和されますか?
家族信託を使って実家を受け取りました。いま空き家特例は使えますか?
相続した実家を貸していました。特例は使えますか?
相続人が3人います。3人合わせて9,000万円控除できますか?
マイホームの3,000万円控除と両方使えますか?
売却価額が1億円を少し超えそうです。分けて売れば使えますか?
実家が分譲マンションでも使えますか?
出典・参考資料
- 国土交通省「令和9年度税制改正」(令和9年度国土交通省税制改正要望事項の掲載ページ)
- 国土交通省「令和9年度国土交通省税制改正要望事項」(令和8年8月・PDF)
- 国税庁タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
- 国税庁タックスアンサー No.3302 マイホームを売ったときの特例
- 国税庁タックスアンサー No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」(昭和32年法律第26号)
- e-Gov法令検索「相続税法」(昭和25年法律第73号)
- 財務省「税制改正の概要」(各年度の税制改正要望・大綱の掲載ページ)
- 根拠法令:租税特別措置法第35条(第1項・第3項・第4項・第5項・第6項)、相続税法第9条の2。条文はe-Gov法令検索の現行施行版(令和8年8月12日施行・令和8年法律第64号)により確認
本記事は、法令および公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案における税務上の取扱いを保証するものではありません。本記事のうち適用期限の4年延長、築年要件の緩和、民事信託の終了に伴う取得の追加に関する記述は、国土交通省の令和9年度(2027年度)税制改正要望の内容であり、決まった制度ではありません。税制改正要望は、年末の与党税制改正大綱および翌年の法律の成立によって初めて確定するものであり、内容が変更されること、実現しないことがあります。現行の適用期限は令和9年12月31日までの譲渡です。また、民事信託の終了に伴い取得した家屋・敷地について現行制度で特例が適用できるか否かは、信託契約の内容および個別の事実関係により判断が分かれ得る事項です。本記事は2026年8月28日時点の情報に基づくものであり、その後の制度改正・公表資料の更新により記載内容が現行と異なる場合があります。本文中の税額の差は税率のみを用いた単純計算であり、実際の税額とは異なります。相続した不動産の譲渡にあたっては、最新の法令および国税庁の公表資料をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年8月28日
相続した実家の売却と家族信託の設計は KMP へ
公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、相続開始から3年の期限の管理、築年要件と耐震基準の判定、家族信託を組む場合の出口の税務までを一体でご支援しています。信託は、終わったあとに何が起きるかを先に決めてから組むものです。契約書を作る前にご相談ください。
無料相談はこちらこの記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月28日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。
