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2020.01.28

使用目的だったビルを売却に回す際の会計処理とは?

使用目的だったビルを売却に回す際の会計処理とは?

土地や建物を取得するには目的があるはずです。

マイホームや会社の社屋を建てる、家賃収入を得る、転売するなどなど…

ところが、経済的な事情や周辺事情などによっては当初の目的と異なった利用法に転じることもあるでしょう。

このように固定資産の保有目的に変更が生じた場合、その固定資産に対する税法上の取扱いにも変更が生じることになります。

今回は、固定資産の保有目的変更に伴う会計処理について紹介しましょう。

特に、今後、使用目的で保有していた固定資産を売却に転じる可能性がある方にはぜひしっかりと目を通して頂きたい内容です。

1 その建物は固定資産?それとも棚卸資産?

建物といえば固定資産税が課税されるから固定資産だと考える方は多いでしょう。

おそらく「建物とは( )資産である」という問題を作成すれば、ほとんどの方がかっこの中に『固定』と書き込んでしまいそうですが、実はこれ、ひっかけ問題です。

資産には『固定資産』と『棚卸資産』があります。

カンタンに仕分けると、

・固定資産とは企業が長期的に事業に使用するため保有する資産のこと

・棚卸資産とは近い将来に販売または販売活動などによって消費される短期的に保有する資産のこと

です。

土地に関していえば、社屋などが建っている自社所有の土地は固定資産になりますが、不動産業者が販売目的で所有している土地は棚卸資産になるわけです。

資産は保有目的によって性格が異なる、という基本を覚えておきましょう。

2 固定資産→棚卸資産、固定資産←棚卸資産の変更は可能?

さて、資産には固定資産と棚卸資産の違いがあることを理解して頂いたところで本題に入りましょう。

固定資産から棚卸資産へ、その逆で棚卸資産から固定資産へという振替は可能

なのでしょうか?

答えは「可能」です。

ただし、一定の条件下において、としておきましょう。

例えば「個人がセカンドカーとして自動車を購入し、自分で使用するつもりだったが買い手がついたので売却することにした」とします。

考え方としては自分が使うつもりだったが売却に回すことにした、という理屈になるので、何ら問題はなさそうですね。

では、企業が保有していたビルを、資金確保のために売却用として買い手を探し始めるというケースではどうなるのでしょうか?

「保有していたビルを売却目的に変更するだけなのだから、何の問題もないのでは?」と考えるかも知れませんが、ここには税法上の大きな問題が生じてきます。

当たり前の考え方であれば、ビルなどの建物は減価償却によって取得費用を年ごとに費用計上していくことになります。

ところが、そのビルが棚卸資産である場合は減価償却が不可能になってしまうのです。

会計処理上、この問題の影響は非常に大きくのしかかります。

収入から必要経費として差し引くことができる減価償却分がなくなってしまうので、所得額に大きく影響してしまいます。

固定資産から棚卸資産へ、反対に棚卸資産から固定資産への振替には、合理的な理由が必要になります。

固定資産から棚卸資産への振替であれば

・それまでの固定資産としての使用状況

・販売計画の実在と実現可能性などを検討する必要があります。

反対に、棚卸資産から固定資産への振替であれば

・振替までの使用状況

・振替後の保有目的が、企業や資産の状況と一致しているか?

などを検討することになります。

取締役会の決議はもちろんですが、その経緯などを合理的な資料とともに疎明しておくことが重要です。

会計処理の面では、資産の価額をそのまま振り替えることはできません。

固定資産から棚卸資産へと振り替える場合は『固定資産の減損に係る会計基準』に従って、減損の認識と測定の手続きを実施した後の帳簿価額を記載することになります。

一方、棚卸資産から固定資産へと振り返り場合は『棚卸資産の評価に関する会計基準』に従って帳簿価額を算定します。

販売用に保有していた建物などの不動産であれば「販売見込額−販売経費等見込額」が正味の売却価額となって帳簿に記載されることになります。

いずれの場合でも「帳簿上はそのまま転記すればよい」ということをしっかりと認識しておく必要があります。

さらに、資産の保有目的に変更が生じることによって、企業の財務諸表に大きな影響を与える場合は、貸借対照表に注記を加える必要があります。

特に土地や建物などの不動産は価額が大きいので財務状況に大きな影響を与えることになります。

例えば、固定資産として保有していた建物を販売目的の棚卸資産に振り替える場合には、貸借対照表に注記表などを作成のうえ添付することになります。

3 まとめ

今回は固定資産・棚卸資産の保有目的変更における会計処理を紹介しました。

実務上は非常に煩雑な作業になるため、専門家の出番となってくることが多いでしょう。

押さえておきたいポイントは

・『固定資産』は長期的に使用する目的で保有する資産、『棚卸資産』は販売などを目的に短期的に保有する資産を指す

・固定資産から棚卸資産へ、棚卸資産から固定資産へと保有目的を変更することは可能だが、合理的な理由と疎明資料を揃える必要がある

・保有目的の変更が生じた場合、会計処理上は会計基準に従った減損を加味して帳簿処理する必要がある

・保有目的の変更が企業の財務諸表に大きな影響を及ぼす場合は、貸借対照表への注記が必要になる

という点です。

専門家に一任することが多い手続きではありますが「そのまま転記してしまえばいい」と勘違いしていれば大きなミスにつながります。

保有目的の変更時にはこれらの手続きが必要になる、ということをしっかりと認識しておきましょう。

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