相続した不動産に抵当権が設定されていた場合はどうなる?
不動産には、土地建物が活用されるという役割のほかにも『信用』としての役割も担います。
金融機関は、土地建物を担保として相手を信用し融資をします。
もし返済ができない状態になれば土地建物を売却して回収することになります。
これが『抵当権』の設定ですね。
では、抵当権が設定された不動産を相続した場合はどうなるのでしょうか?
今回は抵当権が設定された相続不動産についてお話しします。
1 抵当権が設定された不動産は『消極財産』として相続される
相続とは、財産の元々の所有者から相続人が財産を引き継ぐことです。
そして相続は、預貯金などのプラスの財産と同様に、借入金や未払金などのマイナスの財産も引き継がれます。
このようなマイナスの財産のことを『消極財産』と呼びます。
では、抵当権が設定された不動産はどうでしょうか?
抵当権が設定された不動産は、相続によって相続人の名義に変更する必要があります。
これが『相続登記』と呼ばれる手続きです。
相続登記によって変更されるのは所有権だけなので、既に設定されている抵当権の負担者までは変更されません。
分かりやすく例示してみましょう。
父親Aから息子BとCに対して土地建物の相続が発生したとします。
相続された土地建物には父親Aが金融機関から融資を受けた際に抵当権が設定されていました。
協議の結果、土地建物の相続人は息子Bになりました。
息子Bは、法務局で相続した土地建物を自分の名義に変更しました。
すると、ここで相続登記後の登記簿を見てあることに気が付きます。
「土地建物の所有者は息子Bに変更されているが、抵当権の負担者は父親Aのまま」
所有者は相続人に変更されても、そもそも設定されていた抵当権の負担者は変更されないのです。
だからといって、既に故人である被相続人が金融機関に対して返済をすることはできません。
この場合は、法定相続人全員が等分して返済義務を負うことになります。
先ほどの例示に照らした場合、息子BとCのうち、土地建物を相続したのはBだけですが、返済義務はBとCが等分して負担することになるのです。
2 どうする?抵当権が設定された不動産の相続
抵当権が設定された不動産の相続にはいくつかの問題があります。
まずは相続税です。
いくら抵当権が設定されていたとしても、例えその抵当権が不動産の価値をはるかに超える金額だったとしても、相続税の評価には何ら影響しません。
相続税は固定資産税評価額を基礎に算出されるため、抵当権の設定は考慮されないのです。
マイナス価値を抱えた不動産に対しても関係なく相続税が課税されるのですから、相続人としては頭を悩ませる問題になることは必至です。
返済義務が法定相続人で等分されることも不公平感があります。
考え方としては、土地建物などの不動産というプラスの財産と、不動産を担保にした借入金というマイナスの財産は、連携はしていても別個の財産ということです。
土地建物を相続した人にとっては仕方ないことかも知れませんが、土地建物を相続していないほかの法定相続人にしてみれば返済義務だけを押し付けられるのですから「不公平だ!」と怒りたくもなるでしょう。
これらの問題を解消する方法は2つあります。
まず「金融機関との協議で相続人1人に返済義務を設定してもらう」ことです。
こうすれば不動産を相続していない相続人の不公平感を解消できるだけでなく、返済義務を負ってでも不動産を相続したい人にとっては、他の相続人が返済不能に陥った際に競売にかけられてしまうことを防ぐ役割も果たします。
もう1つの方法は『相続放棄』です。
相続放棄をすれば、被相続人の債務が相続人に引き継がれることはありません。
ただし「この財産は相続するが、この財産は相続放棄する」ということはできず、一切の相続を放棄することになるので、負債を補っても余りある場合には相続放棄しないほうが懸命です。
3 まとめ
抵当権が設定された相続不動産についてお話ししました。
今回のポイントとなるのは
・相続した不動産に抵当権が設定されている場合、法定相続人が等分して債務を負担することになる
・抵当権が設定されていることは相続税の算出に影響しないため、相続税は当然のように発生する
・負債が等分されてしまう不公平感を解消するためには、金融機関との協議で不動産自体を相続した当人が単独で債務を負担するか、相続放棄する方法が挙げられる
という3点です。
先にも説明しましたが、不動産を相続することと、故人が抱えていた負債は別個の財産であると捉えれば、負債を差し引いても余りあるのか、それとも相続放棄が適当かを判断しやすくなるでしょう。
いずれにしても、抵当権を設定した金融機関との協議は必要になるので、相続が事前に判明している場合は相続人同士で早めに話し合いをしておくと実際に相続が発生した際にスムーズでしょう。