地下に地下鉄が走る不動産の価値は下がるのか?
現在、日本には東京・神奈川・愛知・宮城・北海道・大阪・京都・兵庫・福岡の9都市10路線の地下鉄が営業運行しています。
主に大都市を走り、住民の利便性を豊かにしている地下鉄ですが、地上の住民を苦しめているのが地下鉄の走行音による騒音問題。
地上を走る鉄道のような騒音ではなく、地面を伝って地響きのような騒音を立てる地下鉄の走行音は、地下鉄の地上に住んだことがある人にしか理解できない特殊な騒音です。
では、地下鉄の地上に存在する不動産の価値はどのように評価されるのでしょうか?
やはり騒音が気になるので低くなるのでしょうか?
今回は、地下に地下鉄が走る不動産の価値について掘り下げていきましょう。
1 「電車の走行音」に見る騒音による価値の減少
まず最初に少しだけ地下鉄から離れてみましょう。
鉄道の沿線や踏切の近くの物件は「住んでみれば慣れる」とも言われていますが、騒音や振動が激しく、落ち着けるような環境ではありません。
鉄道による騒音や振動に関する問題はこれまでに具体的な基準がありませんでしたが、平成15年の判例によって「鉄道からの距離が20m以内で、騒音60dBを超える場合には、相続税評価額を10%減額するのが適当」という指針が生まれました。
では、地下鉄の場合はどうでしょう?
今のところ、具体的な判例や行政による指針などはないので、先の鉄道による騒音を引用して考えてみましょう。
地下鉄は、走行している場所によって深度が異なります。
最も地中深くを走っていると言われている大江戸線では地下60mの場所を走っていますが、多くの路線では区間によっては地上に出たり、地下ほんの数mの深さで走っている場合もあり、一様ではありません。
こう考えると、自宅の地下数mに地下鉄が走っていれば、想像を絶する騒音や振動に悩まされることでしょう。
特に地下鉄は地面の振動で家ごと大きく揺れるので、地下鉄が自宅の真下を走行するたびに住民は大きなストレスを感じるはずです。
20m、60dBという指針を大きく上回っている地下鉄上の住宅はかなりの軒数があるはずですから、これらの不動産価値は、相続税が10%減額されるべきであるという結論が準拠されるべきでしょう。
2 実際に地下鉄上の不動産は価値が低いのか?
相続税の評価では鉄道の影響が著しい範囲内の不動産物件の評価が10%減になることは分かりました。
では、実際に市場で出回っている地下鉄上の不動産物件の価値はどうなのでしょうか?
賃貸や販売においては、不動産業者は「地下に地下鉄が走っているので騒音や振動の影響がある」ということを告知する義務があります。
もしこれを怠れば、賃料の値下げや仲介手数料の返金、果ては損害賠償請求にも発展するおそれが大です。
このようなマイナス要素を抱えている不動産物件であれば、通常よりも賃料や販売価格が減額されていて然るべきですね。
ところが、分譲マンションなどでは地下鉄上物件を理由に値下げ販売されているケースは少ないようです。
防音・耐震性能の基準を満たすように建設している、というのが販売側の建前のようですが、実際にそこに居住して寝泊まりしていない販売側はそこで生活することのストレスまでは考えていないようです。
かといって、地下鉄上の土地だからということを理由に固定資産税評価額が減額されるなどということもなく、表面的には「地下鉄上の土地だからといって不動産価値が下がる」とは言えないようです。
ただし、地下鉄の騒音や振動が起こるということを正直に告知したうえで賃貸の募集や買い手を探すと、おそらく相手からの値下げ交渉を受ける材料となるでしょう。
「住めば不快な要素があり、それでも節税にもならず、賃貸しても売却しても値下げの材料にされるなんてあんまりでは?」と嘆くことでしょう。
ただし、先ほど紹介した騒音による相続税評価額の減額のほかにも、相続税が減額される可能性はあります。
地下鉄が走っている上の土地には『区分地上権』が設定されています。
区分地上権が設定された土地は、土地の利用において制限が生じますが、相続税を算出する場合には30%程度の減額が望めます。
先々を見越して、相続人の利益になるように手はずを整えておくと良いでしょう。
3 まとめ
今回は地下に地下鉄が走っている不動産の価値は下がるのか?をテーマに考えていきました。
住めば慣れると言われてもやはり騒音や振動が気になる地下鉄。
固定資産税評価額が下がるなどの即効性のあるメリットはなく、しかも賃貸や売却の際には値下げ交渉の材料になってしまうというデメリットがあるので、わざわざ地下鉄上の不動産だと知ったうえで購入するのは避けたほうが賢明でしょう。
ただし、相続などで地下鉄上の土地を取得する場合は、騒音や振動の程度、権利関係などに応じて減額の可能性は大いにあります。
地下鉄による騒音や振動などを感じる場合は、登記簿謄本を取得したり、登記簿謄本に記載がなければ役所に問い合わせるなどして、権利関係を調べてみると良いでしょう。