賃上げ促進税制が縮小へ|中小企業の最大控除率45%→35%(令和8年度改正)を税理士が解説

人手不足のなか、多くの中小企業が「防衛的な賃上げ」に踏み切っています。その賃上げを後押ししてきたのが、給与の増加額の一部を法人税額から差し引ける「賃上げ促進税制」です。ところが、令和8年度(2026年度)税制改正で、この制度が縮小の方向に向かいます。とくに中小企業では、これまで最大45%だった税額控除率が、教育訓練費の上乗せ廃止により最大35%へと下がる見込みです。 「賃上げをすると、結局いくら税金が安くなるのか」「制度が変わるなら、いつまでに何をすればよいのか」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも、賃上げと税負担をめぐるご相談が実際に増えています。本記事では、賃上げ促進税制の現行の仕組みと令和8年度改正での見直しを、「賃上げ(人件費)を、いかに税額控除に結びつけるか」という経営者目線で、税理士が解説します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 何が変わるのか(3行サマリー)
  2. 2. 前提:賃上げ促進税制とは(中小企業の現行制度)
  3. 3. 令和8年度改正での見直し(大綱で示された方向)
  4. 4. 経営者の視点:賃上げの「税メリット」をどう取りにいくか
  5. 5. まとめ
  6. よくある質問(FAQ)

1. 何が変わるのか(3行サマリー)

  • 大企業向け措置は令和8年3月31日をもって廃止中堅企業向け措置は適用要件・控除率を見直したうえで令和9年3月31日をもって廃止(いずれも財務省「令和8年度税制改正の大綱」による)
  • 教育訓練費に係る上乗せ措置(控除率+10%)は、企業規模を問わず廃止。これにより中小企業の最大控除率は45%から35%へ下がる見込み
  • 中小企業向けの基本部分は維持される方向。ただし上乗せが減るため、「いつ・どう賃上げと教育投資を行うか」の設計がより重要になる

2. 前提:賃上げ促進税制とは(中小企業の現行制度)

賃上げ促進税制は、従業員への給与(雇用者給与等支給額)を前年度より増やした企業が、その増加額の一定割合を法人税額から直接差し引ける(税額控除)制度です。所得控除ではなく税額控除なので、節税効果がダイレクトに効くのが特徴です。

中小企業向けの現行制度(国税庁タックスアンサー No.5927-2)の控除率は、次のとおりです。

区分要件控除率
基本(通常)雇用者給与等支給額が前年度比 +1.5%以上増加額の 15%
基本(上乗せ)雇用者給与等支給額が前年度比 +2.5%以上増加額の 30%
上乗せ① 教育訓練費教育訓練費が前年度比 +5%以上 等+10%
上乗せ② 子育て・女性活躍くるみん/えるぼし等の認定+5%
最大上記をすべて満たす45%

つまり現行では、しっかり賃上げ(+2.5%)し、教育訓練費を増やし、くるみん・えるぼし認定を受けると、給与増加額の最大45%を法人税額から控除できます。なお、中小企業はその年に控除しきれなかった分を5年間繰り越せる措置もあります(赤字でも将来に活かせる)。

💡 「税額控除」だからインパクトが大きい … たとえば給与増加額が1,000万円で控除率30%なら、法人税額から300万円を直接差し引けます。賃上げは人件費という固定費の増加ですが、その一部を税で取り戻せるのがこの制度の狙いです。

3. 令和8年度改正での見直し(大綱で示された方向)

財務省「令和8年度税制改正の大綱」では、賃上げ促進税制について次の見直しが示されています。

対象見直しの内容
大企業向け措置令和8年3月31日をもって廃止
中堅企業向け措置適用要件・税額控除率を見直したうえで、適用期限(令和9年3月31日)をもって廃止
教育訓練費の上乗せ措置企業規模を問わず廃止(+10%がなくなる)
中小企業向け措置大綱で廃止対象として挙げられておらず、基本部分は維持される方向(各専門機関の解説)

ポイントは、教育訓練費の上乗せ(+10%)が廃止されることです。これにより、中小企業の最大控除率は、

改正前:30%(基本)+10%(教育訓練費)+5%(子育て・女性活躍)=最大45%
改正後:30%(基本)+5%(子育て・女性活躍)=最大35%

へと、最大10ポイント下がる見込みです。

教育訓練費の上乗せが廃止される背景には、「教育訓練費の増加額を税額控除額が上回るケースがある」という会計検査院の指摘があったと報じられています。制度の費用対効果を踏まえた見直し、というわけです。

⚠️ 「いつから」は事業年度で決まる … これらは大綱で示された改正の方向です。適用は会社の事業年度を基準に判断されるため、決算期によって「どの年度から影響を受けるか」が変わります。自社の決算月をもとに、顧問税理士と適用時期を確認しておくことをおすすめします。

4. 経営者の視点:賃上げの「税メリット」をどう取りにいくか

賃上げ促進税制は縮小に向かいますが、中小企業向けの基本部分(最大30%+くるみん・えるぼし5%=35%)は残る方向です。賃上げそのものは人材確保のために避けて通れない以上、使える制度は確実に使い切る設計が重要になります。

❌ つまずきがちな失敗
  • 賃上げはしているのに、賃上げ促進税制の適用を申告で取り忘れている(事前の届出は不要だが、申告書への明細添付が必要)
  • 「赤字だから関係ない」と思い込む。中小企業は5年間の繰越控除があり、将来黒字化したときに活かせる
  • 教育訓練費の上乗せが廃止される改正後も、従来どおりの控除率(45%)で資金計画を立ててしまう
  • 給与の「何が雇用者給与等支給額に含まれるか」を誤解し、増加率の判定や控除額を見誤る
⭕ これから取るべき王道
  • 自社の決算期をもとに、改正前ルール(最大45%)が使える事業年度を確認し、教育訓練投資のタイミングを設計する
  • 賃上げを行う年度は、雇用者給与等支給額の前年度比をシミュレーションし、+2.5%以上(控除率30%)を狙えるか検討する
  • くるみん・えるぼし等の認定は控除上乗せ(+5%)と採用力の両面で効く。取得を中長期で計画する
  • 控除しきれない分は繰越控除(5年)を前提に、単年でなく複数年で税メリットを設計する
💬 実務の現場から
弊社にも、「賃上げはしているのに、税金は思ったほど減らない」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、つまずきやすいのは控除率の数字そのものよりも、(1) 適用そのものを申告で取り忘れている、(2) 赤字を理由に繰越控除を使っていない、という“もったいない”ケースです。私たちが関与する場面では、賃上げの計画段階から、雇用者給与等支給額の増加率・教育訓練費・認定取得のタイミングを一体で設計し、改正で使える期間のうちに税メリットを取り切ることを意識しています。

5. まとめ

令和8年度税制改正では、賃上げ促進税制について、大企業向け措置の廃止(令和8年3月31日)、中堅企業向け措置の見直し・廃止(令和9年3月31日)、教育訓練費の上乗せ(+10%)の廃止が大綱で示されました。中小企業向けの基本部分は維持される方向ですが、上乗せ廃止により最大控除率は45%から35%へ下がる見込みです。

賃上げは人材確保のために避けられない投資です。だからこそ、改正で使える期間のうちに教育訓練投資を設計し、賃上げ率・認定取得・繰越控除を一体で組み立てて、税メリットを取り切ることが重要になります。税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、賃上げ・採用・設備投資といった「お金の出る意思決定」を、税額控除や各種優遇とあわせて設計するご支援をしています。賃上げと税負担のバランスにお悩みの経営者の方は、お気軽にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

賃上げ促進税制はいつから縮小されますか?

財務省「令和8年度税制改正の大綱」では、大企業向け措置は令和8年3月31日をもって廃止、中堅企業向け措置は適用要件・控除率を見直したうえで令和9年3月31日をもって廃止とされています。教育訓練費の上乗せ措置は企業規模を問わず廃止される方向です。適用は会社の事業年度を基準に判断されるため、決算期により影響を受ける年度が異なります。

中小企業の賃上げ促進税制はなくなるのですか?

大綱では中小企業向け措置は廃止対象として挙げられておらず、基本部分は維持される方向とされています。ただし教育訓練費の上乗せ(+10%)が廃止されるため、最大控除率は45%から35%へ下がる見込みです。最終的な内容は今後の法令・通達で確定します。

赤字でも賃上げ促進税制は使えますか?

控除はその年の法人税額から差し引く仕組みのため、赤字の年は控除できません。ただし中小企業には5年間の繰越控除が認められており、将来黒字化したときに繰り越した控除額を使えます。「赤字だから関係ない」と決めつけず、適用と繰越を申告しておくことが大切です。

教育訓練費の上乗せがなくなると、社員研修はやめた方がよいですか?

税の上乗せがなくなっても、人材育成そのものの価値は変わりません。むしろ上乗せが使える改正前の期間に、必要な教育訓練投資を前倒しで計画する、という考え方が有効です。税メリットは判断材料の一つと位置づけ、人材戦略の中で設計することをおすすめします。

申告で気をつけることはありますか?

賃上げ促進税制は事前の届出は不要ですが、法人税の申告書に所定の明細を添付して適用を受ける必要があります。賃上げをしているのに適用を取り忘れるケースが実務では少なくありません。雇用者給与等支給額に含まれる範囲の判定も含め、顧問税理士に確認することをおすすめします。

出典・参考資料

  • 財務省「令和8年度税制改正の大綱」令和7年12月| https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/index.html
  • 財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」| https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_gaiyou.pdf
  • 国税庁 タックスアンサー No.5927-2「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における賃上げ促進税制)」| https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5927-2.htm
ご利用上の留意事項
本記事は、財務省・国税庁の公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。大企業向け措置の廃止・教育訓練費上乗せの廃止等は令和8年度税制改正の大綱で示された改正の方向であり、適用時期や細目は今後の法令・通達等により変更される場合があります。現行の控除率は国税庁タックスアンサーの公表値です。実際の判断にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月9日

賃上げ・税額控除・税務顧問のご相談は KMP へ

トリプルホルダーの視点で、賃上げ・採用・設備投資といった『お金の出る意思決定』を、税額控除や各種優遇とあわせて設計するご支援をしています。賃上げと税負担のバランスにお悩みの経営者の方は、お気軽にご相談ください。

無料相談はこちら
小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から富裕層・オーナー経営者の資産防衛・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp