死亡保険金の非課税枠は上がるのか|金融庁が令和9年度税制改正要望を公表、結婚・子育て資金の一括贈与は「廃止」を税理士が解説【2026年9月1日時点】
- 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
- 2. 死亡保険金の非課税枠――いまの条文はどうなっているか
- 3. 結婚・子育て資金の一括贈与――「廃止」の要望が意味すること
- 4. 教育資金の一括贈与は、すでに終わっています
- 5. そのほかに並んだ項目
- 6. 実務でどう備えるか
- 7. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 何が起きたのか(3行サマリー)
- 2026年8月31日、金融庁が令和9年度(2027年度)税制改正要望項目を公表しました。主な要望はNISA・金融所得課税の一体化・生命保険料控除・信託型ステーブルコインの4分野ですが、資料末尾の「その他の要望項目」に相続・贈与の項目が複数含まれています
- 相続・贈与に関するものは、死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ、上場株式等の相続税に係る見直し、相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(取得費加算)に係る所要の措置、民法の改正(遺言制度の見直し)に伴う所要の措置〔法務省主担〕、そして結婚・子育て資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置の廃止〔こども家庭庁主担〕です
- あわせて、外国子会社合算税制(CFC税制)に係る外国税控除制度の特例措置の拡充やOECDの新国際課税ルールに係る所要の措置(事項要望)も並んでおり、国際税務の分野も動きます
税制改正は、各省庁の要望を出発点として、政府税制調査会・与党税制調査会の議論を経て、年末の与党税制改正大綱で方向が定まり、翌年の通常国会で法律が成立して初めて確定します。要望に入っただけの内容は、削られることも、要件が大きく変わることも、実現しないこともあります。引上げの幅も、廃止の時期も、現時点では何も決まっていません。本記事の記述は2026年9月1日時点の公表資料と現行条文に基づくものであり、確定情報ではありません。
2. 死亡保険金の非課税枠――いまの条文はどうなっているか
要望は「死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ」です。幅は示されていません。そこで、まず現行の枠を正確に確認します。
死亡保険金は、被相続人が保険料を負担していた場合、相続または遺贈により取得したものとみなされて相続税の対象になります(相続税法第3条第1項第1号)。そのうえで、受取人が相続人であれば、次の金額までは課税価格に算入されません。
500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額
(出典:国税庁タックスアンサーNo.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」、相続税法第3条・第12条・第15条)
死亡保険金の非課税枠について、実務で押さえておくべき点は次のとおりです。
- 相続人以外の人が受け取った死亡保険金には、この非課税の適用はありません。孫や兄弟姉妹を受取人にしている場合は要注意です
- 相続を放棄した人も、この非課税の適用を受けられません(相続税法第3条第1項かっこ書き)。ただし「法定相続人の数」を数えるときは、放棄がなかったものとして数えます(同法第15条第2項)
- 法定相続人の数に含める養子の数は、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人までです(同法第15条第2項第1号・第2号)
- 退職手当金等にも、別枠で同じ「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額があります。保険金の枠とは別に計算します
⚠️ 条文の号が、令和8年4月1日にずれています
ここは実務家でも間違えやすいところですので、はっきり書いておきます。
死亡保険金の非課税を定める号は、令和8年3月31日までは第12条第1項「第五号」でした。しかし、公益信託に関する法律(令和6年法律第30号)の施行に伴い、同項第四号に公益信託の受託者が遺贈により取得した財産の規定が新たに挿入され、以降の号が1つずつ繰り下がりました。その結果、令和8年4月1日以後の現行条文では、生命保険金の非課税は第12条第1項第六号です。退職手当金等の非課税は、旧第六号から現行第七号に移っています。
この繰下げは、e-Gov法令検索で現行施行版(令和8年4月1日施行)と旧版(令和7年6月1日施行)を突き合わせて確認したものです。ウェブ上の解説記事や社内資料には「第12条第1項第5号」と書かれたものが多く残っていますが、いま条文に当たるときは第六号を見てください。なお、国税庁タックスアンサーNo.4114は根拠法令を「相法3、12、15」と条単位で示しており、号までは記載していません。
3. 結婚・子育て資金の一括贈与――「廃止」の要望が意味すること
もう一方は、結婚・子育て資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置の廃止です。こども家庭庁が主担で、金融庁が共同で要望しています。
いま使える制度の中身を、条文で確認します。根拠は租税特別措置法第70条の2の3(直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税)です。
- 適用期間――平成27年4月1日から令和9年3月31日まで
- 非課税枠――1,000万円まで。うち結婚に際して支出する費用は300万円が限度です
- 受贈者の年齢――結婚・子育て資金管理契約を締結する日において18歳以上50歳未満
- 所得制限――信託受益権等を取得した日の属する年の前年分の合計所得金額が1,000万円を超える場合は適用を受けられません
- 契約の終了――受贈者が50歳に達した日、受贈者が死亡した日などのいずれか早い日に終了します
(出典:租税特別措置法第70条の2の3、国税庁タックスアンサーNo.4511「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」)
ここで押さえておきたいのは、この制度はもともと令和9年3月31日で期限を迎えるということです。したがって「廃止」の要望は、新たに何かを打ち切るというより、期限が来たら延長しないという趣旨と読むのが素直です。とはいえ、要望項目としてはっきり「廃止」と書かれた以上、延長される可能性は下がったと見るのが実務的な構えでしょう。
この制度は「渡した時点で非課税」で完結する仕組みではありません。契約期間中に贈与者(父母・祖父母)が死亡した場合には、その時点の管理残額が相続税の対象になり得ます。また、契約が終了した時点で使い残しがあれば、その残額に贈与税がかかり得ます(租税特別措置法第70条の2の3、国税庁タックスアンサーNo.4511)。「1,000万円を非課税で渡せる制度」と単純化して理解すると、後で想定外の課税が生じます。
4. 教育資金の一括贈与は、すでに終わっています
結婚・子育て資金の一括贈与には、よく似た兄弟制度があります。教育資金の一括贈与(租税特別措置法第70条の2の2)です。こちらは1,500万円まで非課税という、より知られた制度でした。
条文を確認すると、適用期間は平成25年4月1日から令和8年3月31日までです。つまり、この制度はすでに期限を迎えて終了しています(新規の契約締結ができないという意味です。既存の契約は契約に従って続きます)。
並べると、流れがはっきりします。
- 教育資金の一括贈与(措置法70条の2の2・1,500万円・30歳未満)――令和8年3月31日をもって終了済み
- 結婚・子育て資金の一括贈与(措置法70条の2の3・1,000万円・18歳以上50歳未満)――令和9年3月31日まで。今回、廃止が要望された
一括贈与の非課税措置は、2つとも出口に向かっているということです。世代間の資産移転を促す政策としては、暦年課税と相続時精算課税の見直し(令和5年度改正)を経て、こうした特例型の措置は整理される方向にある、と読めます。
5. そのほかに並んだ項目
金融庁の要望資料の「その他の要望項目」には、上記のほかにも実務に効く項目が並んでいます。項目名のみが示されているもので、具体的な内容は公表されていません。
- 上場株式等の相続税に係る見直し――上場株式を相続財産に持つ方に関係します
- 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(取得費加算)に係る所要の措置――相続した財産を相続税の申告期限の翌日以後3年以内に売った場合に、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例です(租税特別措置法第39条)
- 民法の改正(遺言制度の見直し)に伴う所要の措置〔法務省主担〕
- 外国子会社合算税制(CFC税制)に係る外国税控除制度の特例措置の拡充
- 国際情勢を考慮した国際租税に係る所要の措置
- OECDの新国際課税ルールに係る所要の措置【事項要望】
- 保険会社に係る収入金額による外形標準課税方式の維持
- 店頭デリバティブ取引の証拠金に係る利子の非課税措置の恒久化及び拡充
- 投資法人(J-REIT)等及び特例事業者等が取得する不動産に係る登録免許税等の特例措置の延長等〔国土交通省主担〕
(出典:金融庁「令和9(2027)年度 税制改正要望について」)
国際税務の分野では、CFC税制の外国税控除の特例拡充とOECDルール対応が並んでいます。海外子会社をお持ちの法人にとっては、年末の大綱で具体的な中身を確認すべき項目です。
6. 実務でどう備えるか
要望の段階ですので、制度が変わる前提で動くべきではありません。そのうえで、いまの時点で確認しておくと判断がぶれない点を挙げます。
- 死亡保険金の受取人が「相続人」になっているかを確認する。非課税枠は相続人が受け取った場合にのみ使えます。お孫さまを受取人にしていると、非課税枠が使えないうえに相続税額の2割加算の対象になり得ます。枠の引上げが実現するかどうかにかかわらず、いま確認できることです
- 結婚・子育て資金の一括贈与を検討中なら、令和9年3月31日という期限から逆算する。金融機関での契約手続には時間がかかります。ただし、廃止の要望が出たから駆け込む、という判断は勧めません。この制度は使い残しや贈与者の死亡で課税が生じ得る設計で、贈与の目的や資金の使途がはっきりしていない段階で契約すると、かえって扱いにくくなります
- 前年分の合計所得金額1,000万円の所得制限を先に確認する。受贈者側の要件ですので、お子さまの所得状況によっては最初から使えません
- 上場株式や海外子会社をお持ちの場合は、年末の大綱を待つ。項目名だけが示されている段階で、方向すら読み取れません
一般論として、こうした場面で重要になるのは、「制度が使えるうちに使う」と「その制度が自社・ご家族に合っているか」を分けて考えることです。期限のある特例は、期限が近づくほど「いま使わないと損」という空気が出ます。ただ、私たちが関与する場面で最初につまずきやすいのは、期限に押されて契約したあとで、資金の使途が制度の定める範囲に収まらなかったり、贈与者の相続が先に発生したりして、想定外の課税が生じるケースです。守秘義務がありますので詳細は控えますが、構図としては「制度の期限」ではなく「ご家族の予定」から逆算していれば避けられたものがほとんどです。
7. まとめ
- 2026年8月31日、金融庁が令和9年度税制改正要望項目を公表しました。資料末尾の「その他の要望項目」に、相続・贈与の項目が複数含まれています
- 死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げが要望されています。引上げの幅は示されていません。現行の枠は500万円×法定相続人の数です
- 現行条文の号に注意が必要です。生命保険金の非課税は、令和8年3月31日までは相続税法第12条第1項第五号、令和8年4月1日以後は第六号です。公益信託に関する法律(令和6年法律第30号)の施行に伴い、同項第四号に規定が挿入されて繰り下がりました
- 結婚・子育て資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置は、廃止が要望されました。この制度はもともと令和9年3月31日が期限で、非課税枠は1,000万円(結婚関係は300万円限度)、受贈者は18歳以上50歳未満、前年分の合計所得金額1,000万円超は適用不可です
- 兄弟制度の教育資金の一括贈与(1,500万円)は、令和8年3月31日をもって終了済みです。一括贈与の非課税措置は2つとも出口に向かっています
- あわせて、上場株式等の相続税に係る見直し、取得費加算に係る所要の措置、CFC税制の外国税控除の特例拡充なども並んでいます。いずれも項目名のみの段階です
- 現時点では要望です。年末の与党税制改正大綱と翌年の法律の成立まで、確定した制度としては扱えません
よくある質問(FAQ)
死亡保険金の非課税枠は、いくらに上がるのですか?
孫を死亡保険金の受取人にしています。非課税枠は使えますか?
相続放棄をした人が受け取った死亡保険金は、非課税になりますか?
結婚・子育て資金の一括贈与は、いつまでに契約すればよいですか?
教育資金の一括贈与は、まだ使えますか?
生命保険料控除の話も出ていますが、これは相続税とは別ですか?
この要望は、いつ結論が出ますか?
出典・参考資料
- 金融庁「金融庁の令和9年度税制改正要望について」(令和8年8月31日)
- 金融庁「令和9(2027)年度 税制改正要望について」(令和8年8月・PDF)
- 国税庁タックスアンサーNo.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」
- 国税庁タックスアンサーNo.4511「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
- e-Gov法令検索「相続税法」(昭和25年法律第73号)
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」(昭和32年法律第26号)
- 財務省「税制改正の概要」(各年度の税制改正要望・大綱の掲載ページ)
- 根拠法令:相続税法第3条第1項第1号・第12条第1項第六号・第七号・第15条第2項、租税特別措置法第39条・第70条の2の2・第70条の2の3。条文はe-Gov法令検索により確認(相続税法は現行施行版=令和8年4月1日施行、および旧版=令和7年6月1日施行を突合。租税特別措置法は現行施行版=令和8年8月12日施行)
本記事は、法令および公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案における税務上の取扱いを保証するものではありません。また、特定の保険商品・金融商品の加入や取得を勧誘するものではありません。本記事のうち金融庁の要望に関する記述は、令和9年度(2027年度)税制改正に向けた要望の内容であり、決まった制度ではありません。死亡保険金の非課税限度額の引上げ幅、結婚・子育て資金一括贈与の非課税措置の廃止の時期を含め、現時点で確定した内容はありません。税制改正要望は、政府税制調査会・与党税制調査会の議論、年末の与党税制改正大綱、翌年の法律の成立を経て初めて確定するものであり、内容が変更されること、実現しないことがあります。一方、本記事に記載した現行条文(非課税限度額の計算、法定相続人の数の数え方、一括贈与の期限・金額・年齢要件・所得制限)は、記事作成時点における条文および国税庁の公表資料の内容です。本記事は2026年9月1日時点の情報に基づくものであり、その後の制度改正・公表資料の更新により記載内容が現行と異なる場合があります。相続対策・贈与の実行にあたっては、最新の法令および国税庁の公表資料をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年9月1日
相続の対策は、制度の期限ではなくご家族の予定から逆算します
公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、保険の受取人の設計、一括贈与を使うかどうかの判断、上場株式や海外資産まで含めた財産全体の現在地の把握を一体でご支援しています。期限に押されて動く前の段階でのご相談が、もっとも効果的です。
無料相談はこちらこの記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年9月1日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。
