銀行の格付け(債務者区分)の決定版|5区分の定義と中小企業の特例を税理士が解説【2026年版】

「同じ決算書を出しているのに、A銀行は貸してくれてB銀行は渋る」「去年より金利が上がった理由を教えてもらえない」「赤字を出したら、途端に態度が変わった」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズには、経営者の方からこうしたご相談が実際に寄せられます。 その背後にあるのが、債務者区分(および各行が内部で付ける信用格付け)です。銀行は決算書を受け取ると、自行の基準で会社を格付けし、正常先・要注意先・破綻懸念先・実質破綻先・破綻先という5つの区分に振り分けます。融資が出るか、金利がいくらになるか、保証や担保を求められるか——その大半が、この区分でほぼ決まります。 そして、ここが本記事の核心ですが、この枠組みの原典である「金融検査マニュアル」は、2019年(令和元年)12月18日に廃止されています。にもかかわらず、債務者区分の実務は今も残っています。何が廃止され、何が残り、中小企業には何が特別に認められているのか——一次資料に基づいて整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 3行サマリー
  2. 2. 格付け・債務者区分・自己査定の関係を整理する
  3. 3. 債務者区分の5つの定義——原文をそのまま掲載
  4. 4. 金融検査マニュアルは廃止された——では何が変わったのか
  5. 5. 中小企業には特例がある——別冊〔中小企業融資編〕の考え方
  6. 6. 決算書のどこを整えるか——経営者が今日からできること
  7. 7. 2026年5月から始まった新しい選択肢——企業価値担保権
  8. 8. よくある失敗と王道
  9. 9. まとめ
  10. よくある質問(FAQ)

1. 3行サマリー

  • 債務者区分とは、「債務者の財務状況、資金繰り、収益力等により、返済の能力を判定して、その状況等により債務者を正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先および破綻先に区分すること」をいいます(金融庁「金融検査マニュアル(預金等受入金融機関に係る検査マニュアル)」別表1)。
  • この金融検査マニュアルおよび別冊〔中小企業融資編〕は、金融庁のウェブサイトに明記されているとおり 「令和元年12月18日に廃止」 されました。
  • しかし金融庁は、廃止と同時に公表したディスカッション・ペーパーで、「金融検査マニュアル別表に基づいて定着している現状の実務を否定せず、現在の債務者区分を出発点に」 見積りの道筋を示すと述べています(金融庁「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」令和元年12月)。枠組みは残り、運用の硬直性だけが外れた——これが正確な現在地です。
💡 経営者にとっての意味はシンプルです。「決算書がすべて」ではなくなったが、「決算書が土台」であることは変わっていない。むしろ、形式的な基準が緩んだぶん、日頃の説明と対話が効きやすくなったと捉えるのが実務的です。

2. 格付け・債務者区分・自己査定の関係を整理する

言葉が3つ出てくるので、先に関係を固定します。

  • 信用格付け……各金融機関が内部で付ける、債務者ごとの信用度のランクです(金融機関によって10段階前後)。各行の内部基準によります。
  • 債務者区分……返済能力に応じた5区分(正常先・要注意先・破綻懸念先・実質破綻先・破綻先)です。各金融機関が自己査定のなかで判定します。
  • 自己査定……金融機関が保有する資産を自ら検討・分析し、回収の危険性等の程度に応じて区分することをいいます。貸倒引当金の計上額の算定につながります。

信用格付けと債務者区分は連動しており、格付けが下がる → 債務者区分が下がる → 貸倒引当金を多く積む必要が生じる → 銀行にとってその会社への融資コストが上がる、という因果でつながっています。「金利が上がった」「追加融資が止まった」という現象の裏側には、たいていこの動きがあります。

3. 債務者区分の5つの定義——原文をそのまま掲載

金融検査マニュアル別表1が定めていた5区分の定義を、要約せず原文どおりに掲載します。廃止された文書ではありますが、現在の実務がこれを出発点にしている以上、経営者が読む価値のある一次資料です。

① 正常先

正常先とは、業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者をいう。

② 要注意先

要注意先とは、金利減免・棚上げを行っているなど貸出条件に問題のある債務者、元本返済若しくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する債務者をいう。
また、要注意先となる債務者については、要管理先である債務者とそれ以外の債務者とを分けて管理することが望ましい。

(注)「要管理先である債務者」とは、要注意先の債務者のうち、当該債務者の債権の全部又は一部が要管理債権である債務者をいいます。

③ 破綻懸念先

破綻懸念先とは、現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者(金融機関等の支援継続中の債務者を含む)をいう。
具体的には、現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており、業況が著しく低調で貸出金が延滞状態にあるなど元本及び利息の最終の回収について重大な懸念があり、従って損失の発生の可能性が高い状況で、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいう。

④ 実質破綻先

実質破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者をいう。
具体的には、事業を形式的には継続しているが、財務内容において多額の不良資産を内包し、あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがない状況、天災、事故、経済情勢の急変等により多大な損失を被り(あるいは、これらに類する事由が生じており)、再建の見通しがない状況で、元金又は利息について実質的に長期間延滞している債務者などをいう。

(注)「実質的に長期間延滞している」とは、原則として実質的に6か月以上延滞しており、一過性の延滞とは認められないものをいいます。

⑤ 破綻先

破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者をいい、例えば、破産、清算、会社整理、会社更生、民事再生、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者をいう。

(出典:金融庁「金融検査マニュアル(預金等受入金融機関に係る検査マニュアル)」(PDF) 別表1「自己査定」。同マニュアルは令和元年12月18日に廃止

区分と融資の現実的な関係

債務者区分実務上の位置づけ
正常先通常の新規融資・追加融資の対象。金利条件も相対的に良い
要注意先(うち要管理先)新規融資は慎重になる。既存取引の継続が中心。要管理先はさらに厳しい
破綻懸念先新規融資は原則として困難。再生支援や条件変更の局面
実質破綻先・破綻先回収・整理の局面

経営上のいちばん重要な分水嶺は「正常先」と「要注意先」の間です。ここを割ると、金額の問題ではなく「貸せるかどうか」の問題に変わります。

💡 破綻懸念先について、マニュアルは重要な但し書きを置いていました。金融機関等の支援を前提として経営改善計画等が策定されている債務者は、一定の要件を満たす場合には「経営改善計画等が合理的であり、その実現可能性が高いものと判断し、当該債務者は要注意先と判断して差し支えない」とされ、さらに「本基準を機械的・画一的に適用してはならない」「本基準の要件を形式的に充たさない債務者を直ちに破綻懸念先と判断してはならない」と明記されていました。計画の合理性と実現可能性で、区分は動き得る——これが経営改善計画を作る意味です。

4. 金融検査マニュアルは廃止された——では何が変わったのか

ここが本記事でもっとも誤解の多い論点です。

金融庁のウェブサイト「金融検査マニュアル関係」のページには、「※これらの文書は令和元年12月18日に廃止しました。」と明記されています。廃止対象には、預金等受入金融機関に係る検査マニュアル本体、FAQ、そして金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕が含まれます。

なぜ廃止されたのか(金融庁自身の説明)

金融庁は、同時に公表したディスカッション・ペーパー「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」(令和元年12月)で、次のように振り返っています。

金融監督庁は、金融機関の裁量の余地が少ない一律の基準を策定し(検査マニュアル別表)、貸出先が実質債務超過かどうか、貸出が担保・保証により保全されているかを重視して、自己査定結果の検証を行ってきた。

そのうえで、この運用が招いた副作用として、「金融機関において債務者の実態よりも形式を重視する債務者区分がなされ」「債務者の実態から乖離した債務者区分を行い」、また当局の検査においても「個別の債務者区分の相違を指摘する」ことに偏った、という趣旨の課題認識を示しています。

では何が残ったのか

同じ文書は、こう述べています。

本文書では、金融検査マニュアル別表に基づいて定着している現状の実務を否定せず、現在の債務者区分を出発点に、現行の会計基準に沿って、金融機関が自らの融資方針や債務者の実態等を踏まえ、認識している信用リスクをより的確に引当に反映するための見積りの道筋を示している

(出典:金融庁「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」(令和元年12月・PDF)パブリックコメントの結果等

廃止前廃止後
一律の基準(別表)で当局が自己査定を検証金融機関の個性・特性に即した検査・監督へ
実質債務超過か、担保・保証で保全されているかを重視将来を見据えた信用リスクの特定・評価を重視
過去の貸倒実績をベースとした定量的・一律・客観的な引当認識している信用リスクをより的確に引当に反映する見積りへ
債務者区分の枠組み維持(出発点として使われる)
💡 経営者への含意は明快です。「決算書の数字だけで機械的に決まる」という前提は、当局の側からむしろ否定されたということです。であれば、数字以外の材料を、こちらから出すことに意味があります。事業の見通し、受注残、取引先の構成、改善の進捗——これらを説明できる会社は、同じ決算書でも評価が変わり得ます。

5. 中小企業には特例がある——別冊〔中小企業融資編〕の考え方

中小企業の経営者に最も知っていただきたいのが、金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕の内容です。こちらも廃止済みの文書ですが、中小企業の実態をどう見るべきかという考え方そのものは、実務で今も参照されています。

出発点となる一文

別冊は、金融検査マニュアル本体の次の記述を引用したうえで、その具体的な運用例を示すために作られたものです。

特に、中小・零細企業等については、当該企業の財務状況のみならず、当該企業の技術力、販売力や成長性、代表者等の役員に対する報酬の支払状況、代表者等の収入状況や資産内容、保証状況と保証能力等を総合的に勘案し、当該企業の経営実態を踏まえて判断するものとする。

中小・零細企業の特性として明記されていた3点

別冊「2.検証ポイント」は、中小・零細企業の特性として次の3つを挙げています。

  1. 中小・零細企業は総じて景気の影響を受けやすく、一時的な収益悪化により赤字に陥りやすい面がある。
  2. 自己資本が大企業に比べて小さいため、一時的な要因により債務超過に陥りやすい面がある。また、大企業と比較してリストラの余地等も小さく黒字化や債務超過解消までに時間がかかることが多い。
  3. 中小・零細企業に対する融資形態の特徴の1つとして、設備資金等の長期資金を短期資金の借換えの形で融資しているケースがみられる。

そのうえで、こう結論づけています。

以上のような中小・零細企業の経営・財務面の特性や中小・零細企業に特有の融資形態を踏まえ、赤字や債務超過が生じていることや、貸出条件の変更が行われているといった表面的な現象のみをもって、債務者区分を判断することは適当ではない。

実務でとくに効く3つの取扱い

(1) 代表者等との一体性——役員借入金は自己資本に加味できる

代表者等からの借入金等については、原則として、これらを当該企業の自己資本相当額に加味することができるものとする。

(ただし、代表者等が返済を要求することが明らかとなっている場合はこの限りではない、とされています。また、企業に代表者等への貸付金や未収金等がある場合には、その回収可能性を検討し、回収不能額があるときは自己資本相当額から減額する、とされています。)

これは非常に重要です。社長が会社に貸し付けている「役員借入金」は、会計上は負債ですが、債務者区分の判断上は自己資本と同じように扱えるという考え方が明記されていました。裏を返せば、会社が社長に貸している「役員貸付金」は、逆にマイナス評価につながり得るということでもあります。

(2) 代表者等の収入・資産は返済能力に加味できる

代表者等の預金や有価証券等の流動資産及び不動産(処分可能見込額)等の固定資産については、返済能力として加味することができる。

(その場合、代表者等に係る借入金があるときはその額を控除し、代表者の第三者に対する保証債務の有無についても勘案する、とされています。)

また、赤字の要因についても、「企業が赤字で返済能力がないと認められる場合であっても、代表者等への報酬や家賃等の支払いから赤字となり、金融機関への返済資金を代表者等から調達している場合があるので、赤字の要因や返済状況、返済原資の状況を確認する」とされていました。

(3) 技術力・販売力・経営者の資質を評価する

企業の技術力、販売力、経営者の資質やこれらを踏まえた成長性については、企業の成長発展性を勘案する上で重要な要素であり、中小・零細企業等にも、技術力等に十分な潜在能力、競争力を有している先が多いと考えられ、検査においてもこうした点について着目する必要がある。

具体的な判断材料として、別冊は次を挙げています。

企業の技術力、販売力等

  • 企業や従業員が有する特許権、実用新案権、商標権、著作権等の知的財産権を背景とした新規受注契約の状況や見込み
  • 新商品・サービスの開発や販売状況を踏まえた今後の事業計画書等
  • 取扱い商品・サービスの業界内での評判等を示すマスコミ記事等
  • 取扱い商品・サービスの今後の市場規模や業界内シェアの拡大動向
  • 取扱い商品・サービスの販売先や仕入れ先の状況や評価、同業者との比較に基づく販売条件や仕入条件の優位性

経営者の資質

  • 過去の約定返済履歴等の取引実績
  • 経営者の経営改善に対する取組み姿勢
  • 財務諸表など計算書類の質の向上への取組み状況
  • ISO等の資格取得状況
  • 人材育成への取組み姿勢
  • 後継者の存在

(出典:金融庁「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」1.はじめに、2.検証ポイント。同別冊は令和元年12月18日に廃止)

💬 実務の現場から
「うちは債務超過なので、もう借りられませんよね」——そうおっしゃる社長に、貸借対照表を一緒に開いて、社長からの借入金がいくらあるかを確認していく。この場面に立ち会うことは、実際によくあります。守秘義務がありますので詳細は控えますが、一般論として申し上げると、役員借入金を自己資本相当額に加味すれば実質的に債務超過ではない、という会社は珍しくありません。問題は、その事実が銀行に伝わっていないことです。決算書を渡して終わりにせず、「この借入金は返済を求めるものではない」という事実を、こちらから説明する。それだけで見え方が変わることがあります。逆に、会社から社長への貸付金は、放置するほど評価を下げます。ここは早い段階で整理してください。

6. 決算書のどこを整えるか——経営者が今日からできること

債務者区分は銀行が決めるものですが、その判断材料を作っているのは自社の決算書と説明です。優先順位の高い順に整理します。

ステップ1:実態の貸借対照表を自分で作る

銀行は決算書をそのまま信じるのではなく、実態に引き直した貸借対照表で評価します。同じ作業を先に自分でやっておくのが最短です。

引き直す項目実態評価の考え方
役員貸付金・仮払金回収可能性を検討し、回収不能なら資産から控除(=純資産が減る)
売掛金長期滞留分は回収可能性を検討
棚卸資産不良在庫・滞留在庫は評価減
土地・有価証券時価が簿価と大きく乖離していれば含み損益を反映
保険積立金解約返戻金相当額で評価
役員借入金返済を求めないものは自己資本相当額に加味

ステップ2:返済能力を数字で示す

融資審査で見られるのは、突き詰めれば「本業の稼ぎで借入を返せるか」の一点です。損益計算書からは、営業利益 → 経常利益 → 経常利益+減価償却費(簡易キャッシュフロー)を確認し、そこから債務償還年数(有利子負債 ÷ 簡易キャッシュフロー)を計算します。この数字を自分で把握していない会社は、交渉のテーブルに乗る前に不利です。

ステップ3:数字以外の材料を用意する

別冊が挙げていた項目は、そのまま銀行に出す資料のチェックリストになります。特許・商標、受注残、主要取引先、新商品の販売状況、後継者の状況、そして月次試算表を毎月出せる体制。「計算書類の質の向上への取組み状況」が経営者の資質の評価項目に入っていたことは、月次決算を整える強い理由になります。

7. 2026年5月から始まった新しい選択肢——企業価値担保権

格付けの話をするうえで、直近の制度変更にも触れておきます。

「事業性融資の推進等に関する法律」(令和6年法律第52号)が令和6年6月に成立し、この法律に基づく企業価値担保権の制度が2026年5月25日に始まりました。金融庁の資料によれば、この法律は、事業者が不動産担保や経営者保証等によらず、事業の実態や将来性に着目した融資を受けやすくなるよう、基本理念・国の責務・事業性融資推進本部・企業価値担保権・認定事業性融資推進支援機関等について定めるものです。

制度の要点は次のとおりです(金融庁「事業性融資の推進等に関する法律 説明資料」)。

  • 有形資産に乏しいスタートアップや、経営者保証により事業承継や思い切った事業展開を躊躇している事業者等の資金調達を円滑化するため、無形資産を含む事業全体を担保とする制度を創設する。
  • 企業価値担保権を活用する場合、債務者の粉飾等の例外を除き、経営者保証の利用を制限する
  • 担保権の適切な活用を確保するため、新たに創設する信託業の免許を受けた者を担保権者とする。
  • 担保権実行時には、企業価値を損なうことがないよう、事業継続に不可欠な費用(商取引債権・労働債権等)について優先的に弁済し、事業譲渡の対価を融資の返済に充てる。

(出典:金融庁「金融仲介機能の発揮/事業性融資の推進(企業価値担保権等)」事業性融資の推進等に関する法律 説明資料(PDF)

💡 この制度がすぐに中小企業の主流になるわけではありません。ただ、方向性ははっきりしています。「不動産と社長の連帯保証で貸す」から「事業の中身と将来性で貸す」へという流れです。そしてその流れが進むほど、事業の中身を数字と言葉で説明できる会社が有利になります。格付け対策の本質は、小手先の決算調整ではなく、説明できる経営そのものです。

8. よくある失敗と王道

❌ 銀行の格付け・債務者区分でよくある失敗
  • 決算書を提出して終わりにしている(数字以外の材料を一切出していない)
  • 役員借入金があるのに、「返済を求めるものではない」ことを銀行に伝えていない
  • 会社から社長への役員貸付金・仮払金を放置している(実態純資産のマイナス要因)
  • 節税のために利益を圧縮し続け、債務償還年数が長期化していることに気づいていない
  • 月次試算表を出せる体制がない(決算まで数字が分からない)
  • 赤字が出た年に、その原因と一過性かどうかの説明をしていない
  • 決算後に業績が良くなっても、それを伝えていない(前期の決算書だけで評価され続ける)
  • 金融検査マニュアルが今も生きていると思っている(令和元年12月18日に廃止)
  • 逆に、廃止されたから債務者区分もなくなったと思っている(枠組みは残っている)
  • 条件変更(リスケジュール)を、相談なく延滞という形で先に起こしてしまう
⭕ 銀行の格付け・債務者区分の王道
  • 実態の貸借対照表を自社で作り、銀行から見た自社の姿を先に把握する
  • 役員貸付金・仮払金を計画的に解消する(相続対策の観点でも重要)
  • 役員借入金は、返済を求めない意思を明確にして説明する
  • 債務償還年数(有利子負債 ÷ 簡易キャッシュフロー)を毎期把握する
  • 月次試算表を毎月提出する(「計算書類の質の向上への取組み」そのもの)
  • 赤字・債務超過が生じた年こそ、原因と回復の道筋を文書で説明する
  • 特許・受注残・取引先構成・後継者の存在など、数字以外の材料を資料化する
  • 経営改善が必要な局面では、合理性と実現可能性のある経営改善計画を作る(区分が動き得る)
  • 節税と調達力を天秤にかけて意思決定する
  • 融資の相談は、必要になる3〜6か月前に始める

9. まとめ

  • 債務者区分とは、債務者の財務状況、資金繰り、収益力等により返済の能力を判定して、正常先・要注意先・破綻懸念先・実質破綻先・破綻先に区分すること(金融検査マニュアル別表1)。
  • 経営上の分水嶺は「正常先」と「要注意先」の間。ここを割ると、条件の問題から「貸せるかどうか」の問題に変わる。
  • 金融検査マニュアルおよび別冊〔中小企業融資編〕は、令和元年(2019年)12月18日に廃止された(金融庁ウェブサイトに明記)。
  • ただし金融庁は、「現状の実務を否定せず、現在の債務者区分を出発点に」と述べており、枠組みは残っている。変わったのは、一律・形式重視から個性・特性に即した、将来を見据えた評価へという運用の方向。
  • 中小企業には明確な配慮があった。赤字や債務超過、貸出条件の変更といった表面的な現象のみをもって債務者区分を判断することは適当ではない(別冊〔中小企業融資編〕)。
  • 代表者等からの借入金は、原則として自己資本相当額に加味できる。逆に代表者等への貸付金・未収金は回収可能性を検討し、回収不能額は自己資本相当額から減額される。
  • 代表者等の預金・有価証券・不動産(処分可能見込額)は、返済能力として加味できる(代表者の借入金は控除、保証債務も勘案)。
  • 技術力・販売力・経営者の資質・成長性も評価対象。知的財産権、受注見込み、業界内シェア、約定返済履歴、計算書類の質の向上への取組み、後継者の存在などが具体的な材料として挙げられていた。
  • 経営改善計画が合理的で実現可能性が高いと判断されれば、破綻懸念先ではなく要注意先と判断して差し支えないとされ、基準を機械的・画一的に適用してはならないと明記されていた。
  • 2026年5月25日、企業価値担保権(事業性融資の推進等に関する法律/令和6年法律第52号)が施行。不動産担保・経営者保証への依存を減らし、事業の実態や将来性に着目した融資を後押しする方向にある。

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よくある質問(FAQ)

金融検査マニュアルが廃止されたのに、なぜ今も債務者区分の話が出るのですか?

金融庁が廃止と同時に公表した「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」(令和元年12月)で、「金融検査マニュアル別表に基づいて定着している現状の実務を否定せず、現在の債務者区分を出発点に」見積りの道筋を示すと明記されているためです。廃止されたのは一律の検査基準という運用であり、債務者区分という枠組み自体は各金融機関の自己査定の実務として残っています。変わったのは、実質債務超過かどうかや担保・保証による保全を重視する形式的な評価から、金融機関の個性・特性に即し、将来を見据えて信用リスクを評価する方向へという点です。

赤字だと、すぐに要注意先になってしまうのですか?

必ずしもそうではありません。金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕は、中小・零細企業は総じて景気の影響を受けやすく一時的な収益悪化により赤字に陥りやすい面がある、自己資本が小さいため一時的な要因により債務超過に陥りやすい面がある、といった特性を挙げたうえで、「赤字や債務超過が生じていることや、貸出条件の変更が行われているといった表面的な現象のみをもって、債務者区分を判断することは適当ではない」としていました。重要なのは、赤字の要因が一過性かどうか、返済状況と返済原資はどうか、を説明できることです。

社長が会社にお金を貸しています。これは評価上マイナスですか?

むしろプラスに働き得ます。金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕は、「代表者等からの借入金等については、原則として、これらを当該企業の自己資本相当額に加味することができるものとする」としていました。ただし、代表者等が返済を要求することが明らかとなっている場合はこの限りではないとされています。したがって、決算書を提出するだけでなく、その借入金が返済を求める性質のものではないことを説明することに意味があります。なお、相続の場面では役員借入金は社長側から見れば貸付金であり相続財産になりますので、税務の観点では別途の検討が必要です。

逆に、会社が社長に貸しているお金(役員貸付金)はどう見られますか?

マイナスに働きます。別冊〔中小企業融資編〕は、「当該企業に代表者等への貸付金や未収金等がある場合には、その回収可能性を検討し回収不能額がある場合には当該企業の自己資本相当額から減額する」としていました。つまり、実態の貸借対照表を作る際に資産から差し引かれ、実質的な純資産が減るということです。使途不明の仮払金も同様に見られます。金額が大きい場合は、役員報酬の増額による返済、退職金との相殺、資産の売却など、複数年計画での解消を早めに検討してください。

決算書以外に、銀行へ何を出せばよいですか?

金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕が挙げていた評価材料が、そのままチェックリストになります。技術力・販売力については、特許権・実用新案権・商標権・著作権等の知的財産権を背景とした新規受注契約の状況や見込み、新商品・サービスの開発や販売状況を踏まえた事業計画書、業界内での評判を示す記事、市場規模やシェアの動向、販売先・仕入先の状況や条件面の優位性。経営者の資質については、過去の約定返済履歴、経営改善への取組み姿勢、計算書類の質の向上への取組み状況、資格取得状況、人材育成への取組み、後継者の存在です。まずは月次試算表を毎月提出するところから始めるのが現実的です。

企業価値担保権が始まると、決算書は見られなくなるのですか?

そうはなりません。企業価値担保権は、不動産担保や経営者保証等によらず、無形資産を含む事業全体を担保として、事業の実態や将来性に着目した融資を後押しする制度で、2026年5月25日に始まりました。ただし、これは担保の取り方に関する新しい選択肢であり、返済能力の評価そのものが不要になるわけではありません。むしろ、事業の将来性を評価してもらう以上、事業計画・月次の数字・非財務の情報を、これまで以上に説明できる必要があります。決算書は引き続き土台であり、そのうえに説明が乗る、という構図になると考えるのが現実的です。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、金融機関による債務者区分・信用格付けに関する一般的な情報提供であり、個別の融資判断・金融機関の内部基準を示すものではありません。本文中で引用した金融検査マニュアルおよび同別冊〔中小企業融資編〕は、令和元年12月18日に廃止された文書です。廃止後の検査・監督の考え方は金融庁のディスカッション・ペーパーによっており、実際の債務者区分は各金融機関が自らの基準に基づいて判断します。したがって、本記事の内容が特定の金融機関における取扱いを保証するものではありません。融資の可否・条件は、事業内容、財務内容、取引履歴等により個別に判断されます。個別の判断にあたっては、税理士等の専門家および取引金融機関にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月31日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」を掲げ、税務顧問・改正対応から資産防衛・相続・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。