配偶者の税額軽減とは?1億6,000万円まで相続税ゼロ・要件・二次相続の落とし穴を税理士が解説【2026年版】

「配偶者が相続すれば1億6,000万円まで相続税がかからないと聞いた。では配偶者に全部相続させれば、相続税はゼロにできるのか」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズには、相続のご相談の場面で、こうしたお話が数多く寄せられます。たしかに配偶者の税額軽減は、相続税を大きく圧縮できる非常に強力な制度です。しかし、目先の相続税をゼロにすることだけを考えて配偶者にすべてを寄せると、次に配偶者が亡くなったときの二次相続で、かえって家族全体の税負担が重くなることがあります。 本記事では、配偶者の税額軽減とは何か、1億6,000万円か法定相続分相当額のいずれか多い金額までという軽減の仕組み、適用を受けるための要件(申告と遺産分割)、未分割のときの取扱い、そして最大の落とし穴である二次相続まで見据えた使い方を、国税庁の取扱いと相続税法の条文に基づいて網羅的に解説します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 配偶者の税額軽減とは何か(3行サマリー)
  2. 2. 軽減額の仕組み――「1億6,000万円」か「法定相続分」か
  3. 3. 適用を受けるための要件――「申告」と「遺産分割」
  4. 4. 申告期限までに分割が決まらないとき(3年以内の分割見込書)
  5. 5. 最大の落とし穴――二次相続まで考える
  6. 6. 使うときに押さえるべきこと(まとめの視点)
  7. 8. まとめ
  8. よくある質問(FAQ)

1. 配偶者の税額軽減とは何か(3行サマリー)

  • 配偶者の税額軽減とは、被相続人の配偶者が相続で取得した財産のうち、①1億6,000万円②配偶者の法定相続分相当額――のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税がかからないという制度です(相続税法第19条の2・国税庁No.4158)。
  • つまり、配偶者が取得した遺産が1億6,000万円以下であれば、法定相続分を超えていても配偶者の相続税はゼロ。1億6,000万円を超えても、配偶者の法定相続分(子がいる場合は2分の1)までなら相続税はかかりません。
  • 制度の趣旨は、①配偶者の老後の生活保障②同一世代間の財産移転であり近い将来にまた相続が起きること③夫婦で財産を築いた貢献への配慮です。強力な制度ですが、適用には相続税の申告が必須で、後述の二次相続まで考えて使うことが肝心です。
💡 相続税の速算表(超過累進・全8段階)は、課税遺産総額を法定相続分で分けた各人の取得金額に応じて次のとおりです。1,000万円以下10%(控除0円)/3,000万円以下15%(50万円)/5,000万円以下20%(200万円)/1億円以下30%(700万円)/2億円以下40%(1,700万円)/3億円以下45%(2,700万円)/6億円以下50%(4,200万円)/6億円超55%(7,200万円)(国税庁No.4152「相続税の計算」)。配偶者の税額軽減は、この計算で出した配偶者の相続税を、一定額までゼロにする仕組みです。

2. 軽減額の仕組み――「1億6,000万円」か「法定相続分」か

配偶者の税額軽減で相続税がかからないのは、配偶者が実際に取得した財産の課税価格が、次のいずれか多い金額までの部分です。

軽減の上限(いずれか多い方)内容
① 1億6,000万円配偶者が取得した遺産がこの金額以下なら、法定相続分を超えていても相続税はかからない
② 配偶者の法定相続分相当額遺産が1億6,000万円を超える場合でも、配偶者の法定相続分までなら相続税はかからない

配偶者の法定相続分は、誰と一緒に相続するかで変わります(民法第900条)。

配偶者と一緒に相続する人配偶者の法定相続分
子(第1順位)2分の1
直系尊属(父母など・第2順位)3分の2
兄弟姉妹(第3順位)4分の3

たとえば、遺産が3億円で相続人が配偶者と子の場合、配偶者の法定相続分は2分の1=1億5,000万円です。これは1億6,000万円より小さいので、多い方=1億6,000万円までが非課税になります。一方、遺産が10億円で相続人が配偶者と子なら、法定相続分2分の1=5億円の方が1億6,000万円より大きいため、5億円まで配偶者の相続税がゼロになります。財産規模が大きいほど、法定相続分の枠が効いてくるのが、富裕層のご家庭で押さえておくべきポイントです。

💡 対象になるのは戸籍上の配偶者だけで、婚姻期間の長短は問いません(1年でも適用できます)。逆に、内縁関係・事実婚のパートナーは戸籍上の配偶者ではないため、この軽減は使えません。

3. 適用を受けるための要件――「申告」と「遺産分割」

配偶者の税額軽減は、黙っていても適用されるものではありません。次の2つの要件を満たす必要があります。

要件①:相続税の申告書を提出すること(税額ゼロでも必須)

配偶者の税額軽減を使った結果、納める相続税がゼロになる場合でも、この制度を使うには相続税の申告書の提出が必要です(No.4158)。具体的には、税額軽減の明細を記載した相続税の申告書に、戸籍謄本等のほか、遺言書の写しや遺産分割協議書の写しなど、配偶者が取得した財産が分かる書類(遺産分割協議書の写しには相続人全員の印鑑証明書)を添えて提出します。「軽減でゼロになるから申告しなくてよい」という誤解が最も危険で、申告を忘れると軽減を受けられません。

要件②:遺産分割が確定していること

配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されます(No.4158)。したがって、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)までに分割が確定していない財産は、原則として軽減の対象になりません(No.4205「相続税の申告と納税」)。誰がいくら取得したかが決まっていなければ、軽減額も計算できないからです。

💡 相続税の申告・納税の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内で、納付は金銭一括が原則です(国税庁No.4205)。配偶者の税額軽減を確実に使うには、この10か月の間に遺産分割協議をまとめ、申告書を提出する段取りが重要になります。

4. 申告期限までに分割が決まらないとき(3年以内の分割見込書)

「相続人の間で話がまとまらず、10か月では遺産分割が終わりそうにない」——このようなケースの救済措置があります。

申告期限までに未分割の場合は、いったん法定相続分で分けたものとして相続税を計算し、配偶者の税額軽減を適用しないまま申告・納税します。このとき申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、申告期限から3年以内に遺産分割が成立したときに、配偶者の税額軽減を適用できます(No.4158)。

分割が成立したら、分割が成立した日の翌日から4か月以内に「更正の請求」という手続きをすることで、いったん納めすぎた相続税の還付を受けられます(No.4158)。この分割見込書の添付を忘れると、後から分割しても軽減を受けられなくなるため、未分割で申告するときの最重要ポイントです。

❌ 配偶者の税額軽減でやってしまいがちな失敗
  • 「軽減でゼロになるから」と相続税の申告書を提出せず、制度自体を使えなくなる
  • 目先の相続税をゼロにしたいあまり、配偶者に財産を寄せすぎて二次相続で大増税になる(→第5章)
  • 申告期限までに分割がまとまらないのに「分割見込書」を付け忘れ、後から分割しても軽減を受けられない
  • 隠していた財産(仮装・隠蔽)を後から認定され、その部分には軽減を使わせてもらえない
⭕ 配偶者の税額軽減を活かす王道
  • 税額がゼロでも必ず相続税の申告書を提出する(軽減の明細・必要書類を添付)
  • 一次相続だけでなく二次相続まで通算して、配偶者の取得割合を決める
  • 10か月で分割がまとまらないときは、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を必ず添付する
  • 財産は隠さず正しく申告し、軽減を安全に使い切る

5. 最大の落とし穴――二次相続まで考える

配偶者の税額軽減で最も注意すべきなのが、二次相続です。二次相続とは、たとえば父(一次相続)→母(二次相続)と、続けて起こる相続のこと。一次相続で配偶者に財産を寄せて相続税をゼロにしても、その財産は結局、次に配偶者が亡くなったときに子へ移り、相続税がかかります。しかも二次相続では、次の3つの理由で税負担が重くなりがちです。

二次相続で不利になる理由内容
① 配偶者の税額軽減が使えない二次相続では配偶者がいない(すでに死亡)ため、この強力な軽減が丸ごと使えない
② 基礎控除が減る相続人が1人減るため、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数・No.4152)がその分小さくなる
③ 累進税率が上がりやすい一次で寄せた財産と配偶者自身の財産が合算され、より高い税率区分にかかりやすい

具体例で見てみましょう。遺産1億6,000万円・相続人は配偶者と子2人(配偶者自身の固有財産はないと仮定)というケースで、一次相続の分け方を変えると、一次・二次を通算した相続税の合計は次のように変わります。

分け方一次相続の相続税二次相続の相続税一次+二次の合計
A:配偶者が全額(1.6億円)取得0円(全額を軽減)約2,074万円約2,074万円
B:法定相続分どおり(配偶者1/2・子1/2)子の負担 約903万円約470万円約1,373万円

※ 基礎控除は4,200万円(3,000万円+600万円×3人)、相続税の速算表(No.4152)で試算した概算です。実際の金額は財産構成・特例の適用等で変わります。

同じ財産でも、目先の相続税がゼロになるA案の方が、一次・二次を通算すると約700万円も高くつくという逆転が起こります。A案では一次相続で全額を軽減できても、二次相続で配偶者の税額軽減が使えず、基礎控除も1人分(600万円)減り、1.6億円がまとめて子2人に課税されるためです。一方B案は、一次相続で子が相続税を負担する代わりに、二次相続に持ち越す財産が配偶者取得分の8,000万円に抑えられ、通算では軽くなります。

💬 実務の現場から
——「とにかく今回の相続税をゼロにしたいので、母に全部相続させたい」というご相談を、弊社でも実際によく頂きます。お気持ちはよく分かるのですが、一般論として申し上げると、配偶者の税額軽減は“先送り”の側面があり、二次相続まで通算するとかえって高くつくケースが少なくありません。私たちが関与する場面では、一次相続の分割案を決める前に、必ず二次相続まで含めたシミュレーションを行い、配偶者・子それぞれの固有財産、配偶者の年齢や今後の生活資金、小規模宅地等の特例の使い方まで見たうえで、家族全体で最も有利になる取得割合をご提案しています。目先のゼロにとらわれない設計が、結果的にご家族の手取りを最大にします。

6. 使うときに押さえるべきこと(まとめの視点)

  • 配偶者にどこまで寄せるかは、二次相続とセットで決める。目安として、配偶者自身にも相応の財産がある場合は、一次で寄せすぎない方が有利になりやすい。
  • 配偶者の年齢・健康・生活資金を考慮する。二次相続が近いと見込まれるほど、一次で寄せすぎるデメリットは大きくなる。
  • 小規模宅地等の特例(自宅の土地を最大80%減額・租税特別措置法第69条の4)と組み合わせると、誰がどの財産を取得するかで結果が大きく変わる。特例と軽減はセットで最適化する。
  • 配偶者居住権(配偶者が自宅に住み続けられる権利)を使うと、自宅の価値を配偶者と子で分け合え、二次相続で消滅するため節税につながる場合がある。
  • いずれも一次相続の遺産分割を確定する前に検討することが重要。分けてしまってからでは、やり直しが難しい。

よくある質問(FAQ)

配偶者が相続すれば、いくらまで相続税はかからないのですか?

配偶者が実際に取得した財産のうち、①1億6,000万円②配偶者の法定相続分相当額――のいずれか多い金額までは相続税がかかりません(相続税法第19条の2・No.4158)。遺産が1億6,000万円以下なら、配偶者がすべて取得しても配偶者の相続税はゼロにできます。

軽減で相続税がゼロになるなら、申告はしなくてよいですか?

いいえ、必要です。配偶者の税額軽減は、相続税の申告書を提出してはじめて適用されます。税額がゼロでも、軽減の明細と必要書類を添えて申告してください。申告を忘れると軽減を受けられず、本来ゼロだった税額に加算税・延滞税がかかるおそれがあります。

内縁の妻(夫)でも配偶者の税額軽減は使えますか?

使えません。この制度の対象は戸籍上の配偶者に限られます。婚姻期間の長さは問われませんが、婚姻届を出していない内縁・事実婚のパートナーは対象外です。

申告期限(10か月)までに遺産分割がまとまりません。軽減は使えなくなりますか?

すぐに諦める必要はありません。いったん未分割のまま(軽減を使わずに)申告・納税し、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、申告期限から3年以内に分割が成立したときに軽減を適用できます。分割成立後、その翌日から4か月以内に更正の請求をすれば、納めすぎた税額の還付を受けられます。

配偶者に全部相続させれば、相続税はゼロで一番おトクではないですか?

一次相続だけを見ればそうですが、二次相続まで通算すると逆に高くつくことが多くあります。二次相続では配偶者の税額軽減が使えず、基礎控除も相続人が1人減って小さくなり、財産がまとめて子に課税されるためです。配偶者にどこまで寄せるかは、必ず二次相続まで含めて試算して決めてください。

8. まとめ

配偶者の税額軽減は、相続税を大きく減らせる強力な制度である一方、使い方を誤ると二次相続で家族全体の負担を増やしかねない、奥の深い論点です。要点は次のとおりです。

  • 配偶者が取得した財産のうち、①1億6,000万円②配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までは配偶者に相続税がかからない(相続税法第19条の2・No.4158)。
  • 対象は戸籍上の配偶者のみ(内縁は不可)。婚姻期間の長短は問わない。
  • 適用には相続税の申告書の提出が必須(税額ゼロでも申告する)。
  • 軽減は実際に取得した財産が基準。申告期限までに未分割なら「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、3年以内の分割+分割成立から4か月以内の更正の請求で救済される。
  • 最大の落とし穴は二次相続。配偶者に寄せすぎると、配偶者の税額軽減が使えず・基礎控除が減り・累進税率が上がり、通算で高くつくことがある。一次・二次を通算して分割割合を決めるのが王道。

「配偶者にどこまで相続させれば、家族全体で相続税が一番少なくなるのか」「二次相続まで見据えた分け方を知りたい」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、一次・二次相続を通算した相続税のシミュレーションから、配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例を織り込んだ最適な遺産分割の設計、納税資金の手当てまで一体でご支援しています。お気軽にご相談ください。

出典・参考資料

  • 相続税法第19条の2(配偶者に対する相続税額の軽減)/民法第900条(法定相続分)
  • 国税庁タックスアンサー No.4158(配偶者の税額の軽減)
  • 国税庁タックスアンサー No.4152(相続税の計算)/No.4157(相続税額の2割加算)/No.4170(相続税の計算における法定相続人の数)
  • 国税庁タックスアンサー No.4205(相続税の申告と納税)
ご利用上の留意事項
本記事は、配偶者の税額軽減と相続税に関する一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。相続税額は財産構成・特例の適用・分割内容により異なり、関係する制度の金額・要件等は改正により変わることがあります。実際の相続・申告・遺産分割の判断にあたっては、税理士等の専門家にご確認ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月1日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」を掲げ、税務顧問・改正対応から資産防衛・相続・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp