配当還元方式とは?従業員持株会・少数株主の自社株評価と還元率10%の見直し議論を税理士が解説【2026年7月時点】

自社株(取引相場のない株式)の評価には、同じ会社の同じ1株でも、誰が取得するかで評価額が何十分の一にもなるという仕組みがあります。それが配当還元方式(特例的評価方式)です。 そしていま、この配当還元方式そのものが、国税庁の会議で見直しの対象として議論されています。令和8年7月3日に開催された「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第4回で、国税庁は委員に対して次の項目について意見を求めました。 税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも、「従業員持株会をつくれば自社株の評価を下げられると聞いた」「少数株主に渡す株はいくらで評価すればよいのか」というご相談は実際に寄せられます。結論を先に申し上げると、ここは誤解が非常に多い論点です。 本記事では、配当還元方式の仕組みと、なぜ評価額が下がるのかを計算式から整理し、会計検査院が公表した実態データ、そして「オーナーが従業員持株会に売るとき、配当還元価額は使えるのか」という実務で最も間違いやすい点を解説します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
  2. 2. 前提知識:原則的評価方式と特例的評価方式
  3. 3. 配当還元方式の計算——なぜ評価額が下がるのか
  4. 4. 専門家の視点——従業員持株会と配当還元方式
  5. 5. 実務でどう備えるか
  6. 6. まとめ
  7. よくある質問(FAQ)

1. 何が起きたのか(3行サマリー)

  • 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第4回(令和8年7月3日開催)配付資料で、国税庁は配当還元方式の見直しを検討事項として提示。「還元率や計算方法だけではなく、その趣旨が貫徹できるよう対象株主の範囲や派生する従業員持株会の関係も整理すること」について委員に意見を求めた
  • 議論の出発点は会計検査院「令和5年度決算検査報告」。同報告は、配当還元方式の還元率10%は昭和39年の評価通達制定当時の金利等を参考に設定されたもので、その後見直されていないと指摘し、「近年の金利の水準と比べて相対的に高い率となっているおそれ」があるとした
  • ただし確定した変更は何もありません。財産評価基本通達の改正案も、意見公募(パブリックコメント)も、適用時期も公表されていません。現時点では議論の途中です
💡 「見直しの議論が出ている」と聞くと、駆け込みで動きたくなるものです。しかし現時点で公表されているのは当局が委員に意見を求めた項目と、委員の賛否両論だけです。制度がどう変わるか、いつから変わるかは何も決まっていません。今の制度を正確に理解しておくことが、変更が公表されたときに最も早く動ける準備になります。

2. 前提知識:原則的評価方式と特例的評価方式

同じ株でも「誰が取得するか」で評価方法が変わる

取引相場のない株式の評価は、財産評価基本通達178(評価上の区分)を出発点に、同179(原則)で会社規模ごとの評価方式を定めています。

会社規模原則の評価方式選択できる評価方式
大会社類似業種比準方式純資産価額方式
中会社併用方式純資産価額方式
小会社純資産価額方式併用方式

(出典:会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4/財産評価基本通達178・179)

これが原則的評価方式です。一方、同族株主以外の株主等が取得した株式については、この原則に代えて特例的評価方式である配当還元方式で評価します(財産評価基本通達188・188-2)。

会計検査院の報告は、この制度趣旨を国税庁の説明として次のように記しています。「事業経営への影響の少ない従業員株主等の少数株主は会社への支配力が小さく、単に配当を期待するにとどまることや、評価手続の簡便性も考慮したため」。

「同族株主以外の株主等」とは——通達188の4区分(全件)

配当還元方式が使えるのは、財産評価基本通達188が定める次の4つのいずれかに該当する株式です。省略せず全件掲載します。

(1) 同族株主以外の株主(=支配グループに属さない株主) 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主が取得した株式。ここでいう「同族株主」とは、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては50%超)である場合における、その株主及びその同族関係者をいいます。

(2) 中心的な同族株主以外の同族株主(=同族だが影響力の小さい株主) 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(課税時期において評価会社の役員である者、及び課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除く)が取得した株式。

(3) 同族株主のいない会社の15%未満グループ(=分散会社の小規模グループ) 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合における、その株主が取得した株式。

(4) 中心的な株主がいる分散会社の非役員少数株主 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの((2)の役員である者及び役員となる者を除く)が取得した株式。

(出典:財産評価基本通達188)

用語の定義も通達に置かれています。

  • 中心的な同族株主:同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む)の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主
  • 中心的な株主:議決権の合計数が議決権総数の15%以上である株主グループのうち、いずれかのグループに単独で議決権総数の10%以上の議決権を有している株主がいる場合におけるその株主
  • 同族関係者:法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人
💡 (2)と(4)には「役員を除く」という括弧書きがあります。ここが実務で最も見落とされます。議決権が5%未満でも、課税時期において役員(社長、理事長、法人税法施行令第71条第1項第1号・第2号・第4号に掲げる者)である人、さらに課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる人は、この区分から外れます。つまり配当還元方式は使えません。「株数を減らしておけば大丈夫」ではないのです。

3. 配当還元方式の計算——なぜ評価額が下がるのか

計算式

配当還元方式による評価額は、次の式で計算します(財産評価基本通達188-2)。

配当還元方式による評価額 =(その株式に係る年配当金額 ÷ 10%)×(その株式の1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)

(出典:会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4/財産評価基本通達188-2)

ポイントは3つあります。

① 還元率は10% 年配当金額を10%で割り戻す(=10倍する)ことで、元本たる株式の価額を求めます。会計検査院の報告によれば、国税庁は還元率10%を「昭和39年の評価通達制定当時の金利等を参考とし、評価の安全性を図ることも考慮して設定した」と説明しています。

② 年配当金額の下限は2円50銭 財産評価基本通達188-2は、年配当金額が「2円50銭未満のもの及び無配のものにあっては2円50銭とする」と定めています。つまり無配でも評価額はゼロにならず、最低ラインが引かれています

③ 上限は原則的評価額 「その金額がその株式を179の定めにより評価するものとして計算した金額を超える場合には、179の定めにより計算した金額によって評価する」(同188-2ただし書)。配当還元価額が原則的評価額を上回るときは、原則的評価額を使います。配当還元方式は「安いほうを選べる制度」ではなく、「上限つきの別計算」です。

なお、算式の「その株式に係る年配当金額」は1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額として計算するため、式の後半で「1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円」を乗じて調整します(同188-2の注)。

評価額はどれくらい下がるのか——会計検査院の実態データ

会計検査院は、令和2年分・3年分の相続税・贈与税の申告を層化抽出法により無作為抽出して検査しています。配当還元方式については、相続税・贈与税に係る申告各400件・計800件を対象とし、次の実態を公表しました。

項目数値
配当還元方式で評価されていた評価会社数延べ889社
うち評価明細書で所要の項目を確認できた評価会社数延べ857社
上記857社に係る評価額の合計27億0754万余円
うち配当を分配していた評価会社数延べ533社(62.1%)
857社の1株当たりの評価額の中央値500円

(出典:会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4 相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について)

1株当たりの評価額の中央値が500円です。そして配当を分配していたのは62.1%にとどまります。裏を返せば約4割は無配であり、その場合は前述の「2円50銭」の下限で計算されていることになります。

還元率が見直されたら、評価額はどうなるか

ここが経営者にとって最も重要な数字です。会計検査院は、還元率を仮に引き下げた場合の評価額の試算まで公表しています。

前記857社のうち、評価明細書に原則的評価方式による評価額も記載されていた延べ246社について、配当金額が一定という条件で仮の還元率を当てはめ、配当還元方式による評価額が原則的評価方式による評価額を超えない評価会社数を試算した結果です。

仮の還元率原則的評価額を超えない評価会社数246社に占める割合
9%242社98.3%
8%239社97.1%
7%234社95.1%
6%231社93.9%
5%225社91.4%
4%213社86.5%
3%190社77.2%
2%140社56.9%
1%78社31.7%

(出典:会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4。割合は小数点第2位以下を切り捨て)

つまり還元率を5%まで下げても、9割超の会社では「上限=原則的評価額」に当たらない——言い換えれば、還元率を下げた分がそのまま評価額の上昇になるということです。

そこで会計検査院は、9%から5%までの範囲で評価額そのものを試算しています。

仮の還元率857社の評価額の合計還元率10%の場合との差額
10%(申告評価額)27億0754万余円
9%30億0838万余円+3億0083万余円
8%33億8443万余円+6億7688万余円
7%38億6792万余円+11億6037万余円
6%45億1258万余円+18億0503万余円
5%54億1509万余円+27億0754万余円

(出典:会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4)

還元率が5%になれば、評価額の合計は27億円から54億円へ——ちょうど2倍になります。還元率は分母ですから、半分にすれば評価額は2倍。当然の算数ですが、この「当然の算数」が数十億円単位で効くということです。

会計検査院が還元率10%を問題視した根拠は金利水準です。同報告によれば、評価通達が制定された昭和39年以降の長期国債の流通利回り及び応募者利回りは、昭和40年代・50年代は約6%から約10%の間で推移し、その後長期的に低下して平成10年以降はほぼ2%以下で推移してきました。それにもかかわらず還元率は評価通達の制定以降、見直されていません

会計検査院の所見は次のとおりです。還元率10%は「社会経済の変化に応じたものとはなっておらず、評価の安全性を考慮しているものであるとしても、近年の金利の水準と比べて相対的に高い率となっているおそれがある。このため、これに基づいて算定される配当還元方式による評価額は評価通達の制定当時と比べて相対的に低くなっているおそれがある」。

4. 専門家の視点——従業員持株会と配当還元方式

制度の趣旨:平成17年1月19日 東京高裁判決

配当還元方式が「なぜ例外として認められているのか」は、有識者会議の資料でも裁判例を引いて説明されています。平成17年1月19日 東京高裁判決(税資255順号9900)です。同判決は通達188-2の趣旨を次のように述べています。

一般的に、非上場のいわゆる同族会社においては会社経営等について同族株主以外の株主の意向が反映されることはなく、同族株主以外の株主が当該会社の株式を保有する目的は、会社経営に関わりを持ったり株価の上昇によるキャピタルゲイン等の投機的あるいは投資的動機によるものではなく、当該会社との安定的な取引関係の維持・継続を図ること等数値的に表すことのできない無形の利益を期待して、いわば取引上のつきあいで株式保有をする場合が多く、その株式を保有する株主にとっては、当面、配当を受領するということ以外に直接の経済的利益を享受することがないという実態を考慮した特別の例外的措置とみるのが相当である——。

そして同判決は、こう続けます。配当還元方式は「評価会社の経営に関して実効支配力のない同族株主以外の株主の保有する株式に限って例外的に適用されるものであって、評価会社の経営に対して実効支配力を有する同族株主の保有する株式について適用されるべきものではない」。

💡 ここが本質です。配当還元方式は「安く評価するための制度」ではなく、「配当しか期待できない立場の人の株は、支配株主の株と同じ価値ではない」という実態を反映した制度です。国税庁が第4回資料で「その趣旨が貫徹できるよう対象株主の範囲や派生する従業員持株会の関係も整理する」と書いたのは、この趣旨から外れた使い方が広がっているという問題意識の表明と読めます。

従業員持株会が論点に挙がった理由

第4回資料には、配当還元方式の見直しについて委員から出された意見が整理されています。従業員持株会に関係するものを含め、掲載されている4件を全件示します。

委員の意見
還元率(10%)を引き下げるとしても、従業員持株会が事実上設立できなくなったり、少数株主の整理がより難しくなりかねない
無配当の場合の1株当たりの配当額を2円50銭(資本金等の額を50円として計算)とする取扱いについても問題があるのではないか(資本金が巨額でも低い株価が算出される
固定価格制の従業員持株会の株式を譲渡する際に配当還元価額との差が問題となる
株主の議決権割合のみではなく持株割合も用いて対象株主を判定してはどうか

(出典:国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第4回配付資料。これらは委員個人の意見であり、会議の結論ではありません)

意見Aは、還元率の引き下げが従業員持株会の実務を成り立たなくするという懸念です。従業員持株会は、従業員が少額の拠出で自社株を持つ仕組みですから、1株の価額が上がりすぎると成立しません。意見Cは逆方向で、持株会の内部では簿価などの固定価格で売買しているのに、税務上の評価額(配当還元価額)と差があるという論点です。

つまり従業員持株会は、この議論において「守るべき実務」と「整理すべき論点」の両面で名前が挙がっています。

議決権の数え方——technical だが金額に直結する

通達188の判定は議決権で行います。その数え方には専用の定めがあり、ここを外すと判定そのものが崩れます。

通達188-3(自己株式) 評価会社が自己株式を有する場合、その自己株式に係る議決権の数は0として計算した議決権の数をもって、評価会社の議決権総数となります。

通達188-4(議決権を有しないこととされる株式) 株主のうちに、会社法第308条第1項の規定により評価会社の株式につき議決権を有しないこととされる会社があるときは、その会社の有する評価会社の議決権の数は0として計算した議決権の数をもって、議決権総数となります。

通達188-5(種類株式 会社法第108条第1項に掲げる事項について内容の異なる種類株式を発行している場合、議決権の数又は議決権総数の判定に当たっては、株主総会の一部の事項について議決権を行使できない株式に係る議決権の数を含めるものとされています。

通達188-6(投資育成会社) 株主のうちに投資育成会社(中小企業投資育成株式会社法に基づいて設立された中小企業投資育成株式会社)があるときは、当該投資育成会社が同族株主に該当し、かつ当該投資育成会社以外に同族株主に該当する株主がいない場合には、当該投資育成会社は同族株主に該当しないものとして適用する等の調整を行います。

(出典:財産評価基本通達188-3・188-4・188-5・188-6)

188-5に注意が必要です。「無議決権株式を発行して議決権割合を下げる」という設計をしても、株主総会の一部の事項について議決権を行使できる株式であれば、その議決権は判定上カウントされます。完全無議決権かどうかで結論が変わります。

当局が問題視しているスキーム

第4回資料の別添2には、国税庁が問題視する具体的なスキーム事例が金額つきで掲載されています。配当還元方式に関係する2件を紹介します。

事例②【配当還元方式を利用できる株主の作出】── 評価額 ▲19億円/税額 ▲10億円

  1. 創業者一族が、資産管理会社となる持株会社を設立し、株式交換により事業会社を子会社化する際に無議決権株式を大量発行(収益性の高い事業会社を間接保有化し、創業者の議決権割合を事実上引き下げ)
  2. 持株会社の普通株式の贈与・売買により、後継者(長男)へ議決権を集約(創業者の議決権をゼロに)
  3. 長女の子・二男の子を「中心的な同族株主以外の同族株主」として作出し、世代飛ばしで配当還元価額により株式を贈与

事例⑥【株主構成の操作により配当還元方式により評価】── 評価額 約98%減

  1. 資産管理会社X社が、直接・間接保有により多数のZ社株式のほか、多額の資産を保有
  2. X社の株主構成を、創業家一族及びZ社の元役員等の関係者で、どのグループも15%以上の議決権を保有しないようにすることで、「同族株主のいない会社」(議決権総数の30%以上を有する株主グループがいない会社)かつ、すべての株主が「議決権割合の合計が15%未満のグループに属する株主」に該当させる
  3. その結果、すべての株式が配当還元方式により評価され、原則的評価方式(純資産価額方式)の2%程度の評価額に圧縮

(出典:国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第4回配付資料 別添2「具体的なスキーム事例(事例を簡略化したもの)」。事例は簡略化されたものです)

❌ 誤解してはいけないこと
  • これらの事例は、「今ならこう使える」という手引きではありません。当局が名指しで問題視している類型として公表されたものです
  • 議決権を人工的に分散させて配当還元方式に持ち込む設計は、財産評価基本通達6項(総則6項)による個別否認のリスクを負います。第4回資料には「評価通達6項の適用ではなく評価通達改正による納税者の予測可能性の確保の必要性」という記述もあり、当局は通達改正でルールごと変える方向も検討していることが読み取れます
  • 事業の実態と切り離した株主構成の操作は、税務以外のリスク(経営権の不安定化、少数株主との紛争、M&Aや融資の場面での説明困難)も同時に抱えます

5. 実務でどう備えるか

① 最大の誤解——オーナーが売る側のときは「譲渡直前の議決権」で判定する

実務で最も多い間違いがここです。「従業員持株会(=少数株主)に売るのだから、配当還元価額でよい」という理解は誤りです。

オーナー(個人)が法人に対して株式を譲渡・贈与した場合の「その時における価額」は、所得税基本通達59-6が定めています。同通達は、財産評価基本通達178から189-7まで(取引相場のない株式の評価)の例により算定することを認めつつ、次の読み替えを条件としています。

財産評価基本通達188中「株式取得後」とあるのは「株式の譲渡又は贈与直前」と読み替えるほか、(中略)同通達188の(1)から(4)までに定める株式に該当するかどうかは、株式の譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること

(出典:所得税基本通達59-6(1))

つまり判定するのは買う人の議決権ではなく、売る人(オーナー)の譲渡直前の議決権です。オーナーが支配株主であれば、通達188の(1)〜(4)には該当せず、原則的評価方式で評価することになります。持株会に売るからといって配当還元価額になるわけではありません。

さらに同通達は次の3点も条件としています。

(2) 中心的な同族株主なら、常に「小会社」として計算する 譲渡又は贈与の直前に、譲渡した個人が発行会社にとって財産評価基本通達188(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によります。

(3) 土地・上場有価証券は「時価」に置き換える 発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、1株当たりの純資産価額の計算に当たり、これらの資産については譲渡又は贈与の時における価額(時価)によります。

(4) 法人税額等相当額は控除しない 1株当たりの純資産価額の計算に当たり、財産評価基本通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しません(同通達186-2の現行の率は38%です)。

(出典:所得税基本通達59-6(2)(3)(4))

(2)〜(4)はいずれも評価額を上げる方向に働く条件です。「中心的な同族株主なら常に小会社扱い」=純資産価額のウエイトが上がり、土地・上場有価証券は時価に置き換え、法人税額等相当額(現行38%)の控除もできません。相続税評価と譲渡所得課税では、同じ通達を使っても答えが違うということです。

なお、所得税法第59条第1項は法人に対する贈与・低額譲渡(時価の2分の1未満)を対象とする規定です。従業員持株会は実務上、民法上の組合として組成されることが多く、その場合の課税関係は法人に対する譲渡とは異なる整理になり得ます。持株会の組成形態(規約の内容)によって取扱いが変わりますので、必ず個別に確認してください。

② 個人が安く買った側にも課税がある——みなし贈与

売る側の話だけでは終わりません。個人が個人から著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、時価と支払った対価の差額に相当する金額を贈与によって取得したものとみなされ、贈与税の課税対象となります(相続税法第7条)。

(参考:国税庁 タックスアンサー No.4423「個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」

つまり自社株の移動は、売る側(譲渡所得・所得税法第59条)と買う側(みなし贈与・相続税法第7条)の両方を同時に見て価額を決める必要があります。片側だけ検討して価額を決めると、もう一方で課税を受けます。

③ 持株会の内部価格と税務上の評価額のズレを把握しておく

有識者会議の委員意見Cが指摘した「固定価格制の従業員持株会の株式を譲渡する際に配当還元価額との差が問題となる」は、実務でそのまま起きます。持株会の規約で「取得価額は1株○円」と固定していると、時間の経過とともに税務上の評価額と乖離していきます。

実務でよくお見かけするのは、規約を作ったときの価額をそのまま10年以上使っているケースです。退職者から買い戻す、あるいは新規加入者に売り渡すという場面で、この乖離が課税問題として顔を出します。

⭕ 王道の進め方
  • まず現状を数字にする。自社株について、①原則的評価方式による評価額、②配当還元方式による評価額、③持株会の内部価格の3つを並べて把握する
  • 株主名簿と議決権を突き合わせる。通達188の判定は議決権で行い、自己株式(188-3)・議決権制限株式(188-5)で数え方が変わります。名簿上の株数と議決権総数は一致しません
  • 役員の在任状況を確認する。通達188(2)(4)は役員を除きます。課税時期の翌日から法定申告期限までに役員になる人も対象外です
  • 売る側・買う側の両方で価額を検証する。売る側は所得税基本通達59-6(譲渡直前の議決権で判定・小会社扱い・土地等は時価・法人税額等相当額は控除しない)、買う側は相続税法第7条のみなし贈与
  • 持株会の規約を定期的に見直す。固定価格制なら、税務上の評価額との乖離を定点観測する
  • 有識者会議の進行を追う。令和6年のマンション(居住用の区分所有財産)の評価と同じく、「有識者会議 → 意見公募 → 通達改正」の順で示される見込みです。通達案が公表された段階で、影響試算をやり直す
💬 実務の現場から
弊社にも、「従業員持株会を作れば自社株の評価が下がると聞いたので進めたい」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、評価額の話と支配権の話が混ざったまま設計に入ってしまうことが少なくありません。配当還元方式は「経営に実効支配力のない株主の株」に限って認められる例外であり、平成17年1月19日の東京高裁判決もその点を明確に述べています。したがって評価額を下げる方向に振り切ると、その分だけ本当に支配権を手放していることになりがちです。実務でよくお見かけするのは、株価対策として設計した株主構成が、数年後のM&Aや金融機関との交渉、あるいは相続の場面で足かせになるケースです。私たちが関与する場面で最初にお願いしているのは、「この会社を10年後に誰がどう意思決定する状態にしたいか」を先に決めていただくことです。順番が逆になると、評価額は下がっても会社が動かなくなります。

6. まとめ

配当還元方式は、同族株主以外の株主等が取得した株式に限って適用される特例的評価方式です(財産評価基本通達188・188-2)。年配当金額を還元率10%で割り戻して評価するため原則的評価方式より低い評価額になりますが、無配でも年配当金額は2円50銭が下限となり、原則的評価額を上限とする仕組みです。

いま議論されているのは、この制度そのものです。国税庁は有識者会議 第4回(令和8年7月3日開催)の配付資料で、配当還元方式は「特別の例外的措置」であり「還元率や計算方法だけではなく、その趣旨が貫徹できるよう対象株主の範囲や派生する従業員持株会の関係も整理する」ことについて委員に意見を求めました。会計検査院は、還元率10%が昭和39年の通達制定当時の金利等を参考としたもので以後見直されていないことを指摘し、還元率が5%になれば評価額は約2倍になるという試算まで公表しています。

ただし、財産評価基本通達の改正案も意見公募も適用時期も公表されておらず、確定した変更は何もありません。委員の意見も賛否両論であり、還元率の引き下げが従業員持株会の実務を成り立たなくするという懸念も同じ資料に記録されています。

オーナー経営者が今すべきことは3つです。

  1. 原則的評価額・配当還元価額・持株会の内部価格の3つを数字で把握する
  2. 議決権と役員の在任状況を株主名簿と突き合わせる(自己株式・議決権制限株式で数え方が変わります)
  3. 株式を動かすときは売る側と買う側の両方で価額を検証する(売る側=所得税基本通達59-6で譲渡直前の議決権により判定、買う側=相続税法第7条のみなし贈与)

とくに3番目は誤解が最も多い論点です。「少数株主に売るから配当還元価額でよい」ではありません。

税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、自社株の評価額の算定から、株主構成・議決権設計を含む事業承継の設計、制度変更が公表された際の影響試算までを一体でご支援しています。自社株の現在地を数字で確かめておきたい方は、お早めにご相談ください。

よくある質問(FAQ)

配当還元方式とは何ですか?

取引相場のない株式のうち、財産評価基本通達188が定める「同族株主以外の株主等」が取得した株式について、原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式・併用方式)に代えて適用される特例的評価方式です。評価額は「(その株式に係る年配当金額 ÷ 10%)×(その株式の1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)」で計算します(同188-2)。事業経営への影響の少ない従業員株主等の少数株主は会社への支配力が小さく単に配当を期待するにとどまることや、評価手続の簡便性を考慮した制度と説明されています。

従業員持株会をつくれば自社株の評価は下がりますか?

持株会が取得した株式が財産評価基本通達188の(1)から(4)のいずれかに該当すれば、その株式は配当還元方式で評価されます。しかし、オーナー(支配株主)が保有する株式の評価が下がるわけではありません。また、オーナーが株式を譲渡・贈与する場面では、所得税基本通達59-6により「譲渡又は贈与直前の議決権の数」で判定するため、オーナーが同族株主であれば原則的評価方式で評価します。「持株会に売れば配当還元価額でよい」という理解は誤りです。

無配の会社でも配当還元方式で評価額が出るのですか?

はい。財産評価基本通達188-2は、年配当金額が2円50銭未満のもの及び無配のものにあっては2円50銭とすると定めています。会計検査院の検査では、配当還元方式で評価されていた延べ857社のうち配当を分配していたのは延べ533社(62.1%)でした。1株当たりの評価額の中央値は500円です。

配当還元方式のほうが高くなることはありますか?

あります。その場合は原則的評価方式による評価額を使います。財産評価基本通達188-2のただし書は、配当還元方式で計算した金額が同通達179の定めにより評価するものとして計算した金額を超える場合には、179の定めにより計算した金額によって評価するとしています。配当還元方式は「安いほうを選べる制度」ではなく、原則的評価額を上限とする別計算です。

還元率10%は本当に見直されるのですか?

現時点では決まっていません。国税庁は有識者会議 第4回(令和8年7月3日開催)の配付資料で配当還元方式の見直しを検討事項として提示し、委員に意見を求めていますが、財産評価基本通達の改正案も意見公募も適用時期も公表されていません。委員からは、還元率を引き下げると従業員持株会が事実上設立できなくなったり少数株主の整理がより難しくなりかねないという意見も出ています。確定した変更は何もない段階です。

還元率が下がると評価額はどれくらい上がりますか?

会計検査院「令和5年度決算検査報告」は、配当還元方式で評価されていた延べ857社の評価額の合計27億0754万余円について、仮の還元率別の試算を公表しています。還元率9%で30億0838万余円、8%で33億8443万余円、7%で38億6792万余円、6%で45億1258万余円、5%で54億1509万余円です。5%では還元率10%の場合の約2倍になります。あくまで会計検査院による試算であり、改正が決まったものではありません。

議決権が5%未満なら必ず配当還元方式が使えますか?

いいえ。財産評価基本通達188の(2)と(4)は、議決権の数が5%未満であっても、課税時期において評価会社の役員である者、及び課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除くと定めています。役員であれば、これらの区分には該当しません。また議決権の数え方も、自己株式(同188-3)、議決権を有しないこととされる株式(同188-4)、種類株式(同188-5)でそれぞれ調整があります。

無議決権株式を発行して議決権割合を下げれば配当還元方式が使えますか?

議決権の判定にあたっては、財産評価基本通達188-5により、株主総会の一部の事項について議決権を行使できない株式に係る議決権の数を含めて判定します。したがって「一部の事項については議決権がある」種類株式では、その議決権はカウントされます。また、国税庁は有識者会議 第4回の配付資料で、無議決権株式の大量発行を含む株主構成の操作により配当還元方式を利用できる株主を作出した事例を、問題視する類型として金額つきで公表しています。株主構成の人工的な操作は、財産評価基本通達6項による個別否認のリスクも伴います。

従業員持株会の内部の売買価格はどう決めればよいですか?

持株会の規約で定めた価格(固定価格制など)と、税務上の評価額が乖離することがあります。有識者会議の第4回配付資料にも、委員意見として「固定価格制の従業員持株会の株式を譲渡する際に配当還元価額との差が問題となる」旨が記録されています。持株会の組成形態(民法上の組合か否か等)によって課税関係の整理も変わりますので、規約の内容とあわせて個別にご確認ください。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、国税庁及び会計検査院の公表資料並びに法令解釈通達に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。本記事で紹介した配当還元方式の見直しは議論の途中であり、財産評価基本通達の改正案・意見公募・適用時期はいずれも公表されていません。確定した変更は何もありません。有識者会議の資料に記載された委員の意見は委員個人の意見であり、会議の結論ではありません。また、国税庁が公表したスキーム事例は当局が問題視している類型として示されたものであり、その利用を推奨するものではありません。従業員持株会の課税関係は組成形態(規約の内容)によって異なります。実際の判断にあたっては最新の法令・通達をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月30日

自社株の評価と株主構成・議決権設計のご相談は KMP へ

公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、原則的評価方式と配当還元方式の両建てでの自社株評価、株主構成・議決権設計を含む事業承継の設計、制度変更が公表された際の影響試算までご支援しています。自社株の現在地を数字で確かめておきたい方は、お早めにご相談ください。

無料相談はこちら
小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から富裕層・オーナー経営者の資産防衛・国際税務・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。