非居住者・外国法人への支払と源泉徴収の決定版|税率14区分と租税条約の届出書を税理士が解説【2026年版】

「海外のフリーランスに開発を外注したが、報酬を満額で送金してよいのか」「海外の親会社にロイヤリティを払っている。20%ほど引かれると言われたが根拠が分からない」「日本の不動産を外国人オーナーから借りている。家賃はそのまま振り込んでいるが問題ないか」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズには、こうしたご相談が実際に寄せられます。 海外への支払いで最も見落とされやすいのが、源泉徴収の義務を負うのは、受け取る側ではなく「支払った側」だという点です。相手が日本に税務署を持たない以上、日本の課税権は支払者を通じてしか及びません。だから法律は、支払者に「差し引いて納める」義務を課しています。引き忘れれば、追徴されるのは相手ではなく自社です。 本記事では、支払う側(源泉徴収義務者)の立場から、①誰が義務を負うのか、②どの支払いが対象になるのか、③税率はいくらか(14区分すべて)、④租税条約で軽減・免除を受ける手続き、⑤いつまでに納めるのか、⑥消費税のリバースチャージとの違い、⑦間違えたときに何が起きるか——を、順を追って整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. まず結論——義務を負うのは支払った側(3行サマリー)
  2. 2. 判定は3ステップで行う
  3. 3. 税率一覧——源泉徴収の対象となる国内源泉所得と税率(全14区分)
  4. 4. 中小企業でよく出てくる支払類型——実務での当てはめ
  5. 5. 租税条約で軽減・免除を受ける——「支払日の前日まで」が絶対条件
  6. 6. いつ源泉徴収し、いつ納めるのか
  7. 7. 源泉所得税と消費税は別の話——リバースチャージを混同しない
  8. 8. 間違えたときに何が起きるか
  9. 9. よくある失敗と王道
  10. 10. まとめ
  11. よくある質問(FAQ)

1. まず結論——義務を負うのは支払った側(3行サマリー)

  • 非居住者または外国法人(以下「非居住者等」)に対して、国内において源泉徴収の対象となる国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、原則として所得税および復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません(国税庁タックスアンサーNo.2884、No.2885)。
  • 源泉徴収した税額は、原則として徴収した日の属する月の翌月10日までに、「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書(納付書)」を添えて納付します(No.2885)。
  • 国外で支払った場合でも免除されません。支払者が国内に住所もしくは居所または事務所、事業所その他これらに準ずるものを有するときは、その国内源泉所得を国内において支払ったものとみなして源泉徴収をする必要があります(No.2884、No.2885)。この場合の納付期限だけは、翌月10日ではなく翌月末日です。
💡 ここが実務で最も危険な箇所です。「海外の銀行口座から、海外の相手に、海外通貨で払った」という取引であっても、支払者が日本に事務所を持つ日本の会社である限り、源泉徴収義務は生じます。国外送金だから日本は関係ない、という理解は誤りです。

2. 判定は3ステップで行う

海外への支払いに直面したとき、実務では次の順に判定します。順番を入れ替えると必ず迷います。

  1. 【相手】相手は非居住者・外国法人か——居住者・内国法人であれば、通常の源泉徴収ルールで処理します(所得税法第2条第1項第3号〜第5号、法人税法第2条第3号・第4号)。
  2. 【所得】その支払いは国内源泉所得に当たるか——当たらなければ、そもそも源泉徴収は不要です(所得税法第161条、国税庁タックスアンサーNo.2878「国内源泉所得の範囲」)。
  3. 【方式】相手に恒久的施設(PE)があり、その所得がPEに帰せられるか——ここで課税方式そのものが変わります(所得税法第164条、法人税法第141条、国税庁タックスアンサーNo.2873・No.2883)。

ステップ②が最大の関門——「どこで役務が行われたか」

もっとも判断が割れるのが②です。国内源泉所得かどうかは、契約書の言語でも、送金先の国でも、通貨でもなく、その所得の性質と発生地で決まります。たとえば人的役務の提供に対する報酬であれば「その役務が日本国内で行われたかどうか」が分岐点になります。海外在住のエンジニアが自国で作業したのであれば、その報酬は原則として国内源泉所得ではなく、源泉徴収も不要です。逆に、来日して国内で作業したのであれば、国内源泉所得になり得ます。

💡 使用料(ロイヤリティ)は、この点が異なります。工業所有権や著作権の使用料等は、その権利を日本国内で使用しているかどうかという「使用地」の観点で判定されるのが原則です(所得税法第161条第1項第11号)。海外のソフトウェア会社にライセンス料を払っている場合、作業が海外で行われていても、日本国内でそのソフトを使っているのであれば国内源泉所得に当たり得ます。「役務」と「使用料」で判定軸が違うことを、まず押さえてください。

ステップ③——PEがあるかどうかで課税の形が変わる

非居住者等に対する課税は国内源泉所得のみが対象ですが、同じ国内源泉所得でも、恒久的施設(PE)の有無と、その所得がPEに帰せられる所得かどうかで課税方式が変わります。PEがあり帰属所得であれば源泉徴収のうえ申告納税、PEに帰属しない所得やPEがない場合は源泉分離課税が基本です(No.2873)。

3. 税率一覧——源泉徴収の対象となる国内源泉所得と税率(全14区分)

国税庁タックスアンサーNo.2884が定める区分と税率を、省略せずすべて掲載します。税率はいずれも復興特別所得税を含んだ率です。

国内源泉所得税率
(1)民法に規定する組合契約等に基づいて恒久的施設を通じて行う事業から生じる利益でその契約に基づいて配分を受けるもの20.42%
(2)土地等の譲渡対価10.21%
(3)人的役務の提供事業の対価20.42%
(4)不動産の賃貸料等20.42%
(5)利子等15.315%
(6)イ上場株式等の配当15.315%
(6)ロ私募公社債等運用投資信託等の収益の分配15.315%
(6)ハ上記イ・ロ以外の配当等20.42%
(7)貸付金の利子20.42%
(8)工業所有権、著作権等の使用料等20.42%
(9)給与その他人的役務の提供に対する報酬、退職手当等20.42%
(10)公的年金等20.42%
(11)事業の広告宣伝のための賞金20.42%
(12)生命保険契約に基づく年金等20.42%
(13)定期積金の給付補てん金等15.315%
(14)匿名組合契約等に基づく利益の分配20.42%

(出典:国税庁タックスアンサーNo.2884「非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率」

表に収まらない「例外」と「控除」——ここも省略せずに

上の表には、それぞれ重要な但し書きが付いています。

  • (2)土地等の譲渡対価……その譲渡対価が1億円以下で、その土地等を自己またはその親族の居住の用に供するために譲り受けた個人から支払われるものについては、源泉徴収は不要です。
  • (4)不動産の賃貸料等……不動産等の賃貸料で、自己またはその親族の居住の用に供するために借り受けた個人から支払われるものについては、源泉徴収は不要です。裏を返せば、法人が借りる場合や、個人でも事務所・店舗として借りる場合は源泉徴収が必要になります。
  • (6)イ 上場株式等の配当等……発行済株式または出資の総数または総額の3%以上に相当する数または金額の株式または出資を有する非居住者が支払を受ける上場株式等の配当等は、この15.315%の区分から除かれます。なお、ここでいう「上場株式等」には、公募証券投資信託(公社債投資信託および特定株式投資信託を除く)の受益権および特定投資法人の投資口も含まれます。
  • (10)公的年金等……支払われる年金の額から、50,000円(年齢65歳以上の場合は95,000円)に年金の額に係る月数を乗じた金額を控除した金額に税率を乗じます。
  • (11)事業の広告宣伝のための賞金……支払う金額から50万円を控除した金額に税率を乗じます。
  • (12)生命保険契約に基づく年金等……払い込まれた保険料または掛金のうち、支払われる年金の額に対応する部分の金額を控除した金額に税率を乗じます。
💡 外貨建てで支払うときの換算も定めがあります。非居住者等に対する支払が外貨によっている場合には、円に換算した上で源泉徴収を行います。換算は支払期日における電信買相場が原則ですが、その支払が著しく遅延していない場合は、現に支払った日における電信買相場によっても差し支えないとされています(No.2884)。社内規程で「どちらを使うか」を決めておくと、期をまたぐ検証が楽になります。

4. 中小企業でよく出てくる支払類型——実務での当てはめ

抽象的な区分だけでは動けないので、相談の多い順に整理します。

よくある支払い該当区分・税率と実務のポイント
海外のソフト会社へのライセンス料・ロイヤリティ(8)使用料等/20.42%。国内で使用していれば国内源泉所得になり得る。租税条約で0%または10%等に軽減される例が多い
海外の個人・法人への開発、デザイン等の業務委託料(3)または(9)/20.42%役務の提供地が国内か国外かが分岐点。国外で完結していれば対象外のことが多い
海外の親会社・関連会社への配当(6)ハ/20.42%。租税条約で軽減される代表例。届出書の提出が前提
海外の親会社・株主からの借入れの利息(7)貸付金の利子/20.42%。移転価格や過少資本の論点にもつながる
外国人オーナーから借りている事務所・店舗の家賃(4)不動産の賃貸料等/20.42%法人が借りているなら源泉徴収が必要。見落としが最も多い類型
外国人オーナーから購入した土地・建物の代金(2)土地等の譲渡対価/10.21%。1億円以下かつ買主個人の居住用なら不要。それ以外は必要
海外のタレント・スポーツ選手・講師を招いての公演料(3)人的役務の提供事業の対価/20.42%。国内で役務が行われる典型例
💬 実務の現場から
「海外の会社に払っているものは、請求書どおりに満額を送金していました」——このようなお話は、実際によく伺います。守秘義務がありますので詳細は控えますが、一般論として申し上げると、気づくきっかけの多くは税務調査です。源泉徴収漏れが判明した時点で、相手にはすでに満額が渡っており、いまさら返してもらうのは現実問題として難しい。そうなると、本来は相手が負担すべき税金を自社が肩代わりして納めることになり、その肩代わり分がさらに課税対象になる(いわゆるグロスアップ)という二重の負担が生じます。海外への支払いは、契約書に判を押す前が勝負です。契約段階で「税を差し引いて送金する」ことを条項に明記しておくだけで、この事故はほぼ防げます。

5. 租税条約で軽減・免除を受ける——「支払日の前日まで」が絶対条件

日本とその非居住者等の居住地国との間で租税条約が結ばれている場合には、その租税条約に定めるところにより、前記の税率が免除され、または軽減されることがあります(No.2884)。

手続きの原則

  • 非居住者等は「租税条約に関する届出書」を、所得の支払者(源泉徴収義務者)ごとに作成し、最初にその所得の支払を受ける日の前日までに、支払者を経由して支払者の納税地の所轄税務署長に提出します(No.2888)。
  • 届出書は支払内容によって書式が異なります。主なものは、(1)配当に対する軽減・免除=様式1、(2)利子に対する軽減・免除=様式2、(3)使用料に対する軽減・免除=様式3です。
  • 前日までに提出していない場合、支払者は租税条約の限度税率ではなく、国内法に規定する税率で源泉徴収を行います(No.2888)。
  • 提出した届出書の内容に異動(変更)がある場合には、異動等を生じた事項等を記載した届出書を、異動等が生じた日以後最初に支払を受ける日の前日までに提出します。ただし、配当に対する軽減を受ける場合の「元本の数量」の増減など、一定の場合にはこの異動に係る届出書の提出を省略できます
💡 租税条約の適用により、その条約で定められている税率が国内法の税率以下となるものについては、復興特別所得税を併せて源泉徴収する必要はありません(No.2884)。たとえば条約で10%とされている使用料は「10.21%」ではなく10%で徴収します。ここを0.21%ずらしたまま何年も納付している例をお見かけします。

特典条項がある条約の場合——付表と居住者証明書

租税条約のなかには、条約の特典を受けることができる居住者についての条件を定めている規定、いわゆる「特典条項」を有するものがあります(日米租税条約などが代表例です)。特典条項の適用対象となる所得について軽減・免除を受ける場合には、届出書のほかに次の2つが必要です(No.2888)。

  1. 特典条項に関する付表(様式17)……租税条約の適用を受けることができる居住者かどうかを判定する書類。届出書に添付します。
  2. 居住者証明書……相手国において課税を受けるべきものとされる居住者であることを証明する書類。原本を届出書に添付するか、源泉徴収義務者へ提示します。

提示を受ける方式を選んだ場合、支払者側に保存義務が生じます。「確認をした旨」「確認者の氏名(所属)」「確認日」「証明書の作成年月日」を届出書の「その他参考となるべき事項」の欄に記載し、居住者証明書の写しを作成して、提示を受けた日から5年間、国内にある事務所等に保存しておく必要があります。なお、この場合の居住者証明書は、提示の日前1年以内に作成されたものに限られます。

また、日本と相手国の間で課税上の取扱いが異なる事業体(租税条約の規定では団体として課税され、日本ではその構成員に課税している場合等)に該当する場合には、「外国法人の株主等の名簿 兼 相手国団体の構成員の名簿(様式16)」を添付し、租税条約の適用を受けることができる者を明確にする必要があります。

出し忘れたら——還付請求という救済はある

届出書を支払日の前日までに提出していなかった場合でも、救済の道は残されています。後日、届出書とともに「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書(様式11)」を、支払者を通じて支払者の納税地の所轄税務署長へ提出することで、軽減・免除の適用を受けた場合の源泉徴収税額と、国内法の税率により源泉徴収された税額との差額の還付を請求できます(No.2888、No.2889)。

ただし、次の点に注意が必要です(No.2889)。

  • 還付金は原則として申請者である非居住者等に還付されます。代理人によって還付金を受領することを希望する場合には、非居住者等からの委任状とその翻訳文の添付が必要です。
  • 当初の納付が期限後だった場合、本税部分は還付を受けられますが、加算税等の附帯税は還付されません
  • 発行時に源泉徴収される割引債の償還差益、免税芸能法人等の役務提供事業の対価に係る還付請求、利子所得に相手国の租税が賦課されている場合の外国税額の還付については、書式や手続方法が異なります
💡 電子化も進んでいます。非居住者等は、一定の場合には、源泉徴収義務者に対して行う書面による届出書等の提出に代えて、その記載事項を電磁的方法により提供することができます。また源泉徴収義務者は、税務署長への書面提出に代えて、スキャナにより読み取る方法等で作成したイメージデータ(PDF形式等)をe-Taxで送信することができます(No.2888)。この場合、届出書等の提出があったものとみなされます。ただし源泉徴収義務者側には、①適正に提供を受けることができる措置、②提供をした非居住者等を特定するための必要な措置、③電子計算機の映像面への表示および書面への出力をするための必要な措置——の3要件を満たすことが求められます。

6. いつ源泉徴収し、いつ納めるのか

源泉徴収をする時期

源泉徴収をする時期は、原則として現実に源泉徴収の対象となる所得を支払う時です。したがって、これらの所得を支払うことが確定していても、現実に支払われなければ源泉徴収をする必要はありません(No.2885)。ここでいう「支払」とは、現実に金銭を交付する行為のほか、元本に繰り入れ、または預金口座に振り替えるなど、その支払の債務が消滅する一切の行為をいいます。

ただし、次の場合には、それぞれ次の日に支払があったものとみなして源泉徴収をします(No.2885)。

  • 配当等(投資信託・特定受益証券発行信託の収益の分配を除く)について、支払の確定した日から1年を経過した日までにその支払がない場合 → その1年を経過した日
  • 法人の役員に対する賞与について、支払の確定した日から1年を経過した日までにその支払がない場合 → その1年を経過した日
  • 組合契約事業から生じる利益について、組合契約に定める計算期間の末日の翌日から2か月を経過する日までに金銭等の交付がされない場合 → その2か月を経過する日
  • 割引債の償還差益 → その割引債の発行の際
  • 割引債(一定の割引債を除く)の償還金(平成28年1月1日以後に支払われるものに限る)に係る差益金額 → その償還金の支払の際

(注)ここでいう「役員」とは、法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事および清算人ならびにこれら以外の者で法人の経営に従事している者のうち一定の者をいいます。

納付期限

支払の形納付期限
国内において支払った場合徴収した日の属する月の翌月10日まで
国外において支払い、国内で支払われたものとみなして源泉徴収する場合徴収した日の属する月の翌月末日まで

納付は、「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書(納付書)」を添えて、最寄りの金融機関、所轄税務署の窓口またはe-Taxで行います(No.2885)。

💡 給与の源泉所得税で使っている「納期の特例」(年2回まとめ払い)は、非居住者等への支払には使えません。 納期の特例の対象は、給与等・退職手当等・税理士等の報酬など限られた範囲です。非居住者等への支払は、原則どおり毎月(国外払いのみなし源泉なら翌月末日)で納付する、と切り分けて運用してください。

7. 源泉所得税と消費税は別の話——リバースチャージを混同しない

海外への支払いでは、所得税の源泉徴収消費税の取扱いという、まったく別の2本の軸を同時に見る必要があります。ここが混ざると混乱します。

国外事業者が行う「電気通信利用役務の提供」(電子書籍・音楽・広告の配信などインターネット等を介して行われる役務の提供)については、国内、国外いずれから行われるものも国内取引として消費税が課税されます。このうち「事業者向け電気通信利用役務の提供」(役務の性質または取引条件等から、役務の提供を受ける者が通常事業者に限られるもの)については、国外事業者から役務の提供を受けた国内事業者が「特定課税仕入れ」として申告・納税を行います。これがリバースチャージ方式です(国税庁タックスアンサーNo.6118)。

さらに重要な経過措置があります。特定課税仕入れを行った国内事業者は申告・納税義務を負う一方で仕入税額控除の対象にもできますが、一般課税かつ課税売上割合が95%以上である課税期間、または簡易課税制度・2割特例が適用される課税期間については、当分の間、特定課税仕入れはなかったものとされます(No.6118)。したがって、多くの中小企業では、実際にはリバースチャージの申告を要しない結果になります。

  • 源泉所得税の判断の軸……相手が非居住者等か/その支払いが国内源泉所得か/恒久的施設(PE)はあるか(所得税法第161条・第212条、国税庁タックスアンサーNo.2884・No.2885)
  • 消費税の判断の軸……電気通信利用役務の提供か/事業者向けか/課税売上割合95%以上等の経過措置に該当するか(消費税法第2条・第4条・第5条ほか、国税庁タックスアンサーNo.6118)
💡 なお、国外事業者が国内で行う「特定役務の提供」(芸能・スポーツ等の役務の提供)についても、平成28年4月1日以後、リバースチャージ方式による申告・納税義務が課されています。海外アーティストを招へいするケースでは、源泉所得税(20.42%)とリバースチャージの両方を検討することになります。

8. 間違えたときに何が起きるか

源泉徴収を怠った場合、税務署は受取人ではなく支払者(源泉徴収義務者)に対して納税を求めます。ここが、この論点を「他人事にできない」理由です。

  • 本税……本来徴収すべきだった税額を、支払者が納付します。
  • 不納付加算税……源泉所得税を法定納期限までに納付しなかった場合に課されます(国税通則法第67条)。
  • 延滞税……法定納期限の翌日から納付日まで課されます(国税通則法第60条)。
  • 相手への求償が難しい……すでに満額を送金しているため、実務上は回収できないことが多く、自社が最終負担者になります。しかも、本来相手が負担すべき税を支払者が負担した場合、その負担額自体がさらに課税対象に取り込まれる(グロスアップ計算)という問題が生じます。
⭕ 事故を防ぐ王道
  • 海外への支払いが発生し得る契約は、締結前に税務の確認を通す
  • 契約書に「源泉徴収税額を控除して支払う」旨と、租税条約の適用手続きに協力する義務を明記する
  • 租税条約を使うなら、最初の支払日の前日までに届出書(+特典条項付表・居住者証明書)を出し切る
  • 送金の稟議書に「国内源泉所得に該当するか/条約適用の有無/適用税率」の3行を必ず書かせる

9. よくある失敗と王道

❌ 非居住者等への支払いでよくある失敗
  • 請求書のとおり満額を送金し、源泉徴収をしていない
  • 国外の口座から国外へ払ったから日本は無関係だと考えている(支払者が国内に事務所等を有すればみなし源泉の対象)
  • 外国人オーナーから借りている事務所・店舗の家賃を源泉徴収していない(源泉徴収が不要なのは、自己または親族の居住用に借り受けた個人が払う場合)
  • 租税条約の届出書を支払った後に出している(前日までに出していなければ、まず国内法の税率で徴収するのが原則)
  • 条約の限度税率に復興特別所得税を上乗せして徴収している(条約税率が国内法の税率以下なら上乗せ不要)
  • 特典条項に関する付表(様式17)と居住者証明書を失念している(日米租税条約など特典条項付きの条約で必須)
  • 居住者証明書の提示を受けたのに写しを保存していない(提示日から5年間の保存が必要)
  • 納期の特例(年2回納付)で納めている(非居住者等への支払は対象外)
  • 国外払いのみなし源泉なのに翌月10日で納付している(正しくは翌月末日)
  • 源泉所得税と消費税のリバースチャージを混同している(別の制度)
  • 外貨建ての支払いで、換算レートの基準を決めていない
⭕ 非居住者等への支払いの王道
  • 海外への支払いは、契約締結前に「国内源泉所得に当たるか」を判定する
  • 判定は①相手 → ②所得の区分 → ③PEの有無の順に固定する
  • 支払類型ごとに適用税率をマスター表にして、経理が毎回同じ判断をできるようにする
  • 継続取引の相手には、最初の支払日の前日までに届出書一式を提出させる運用を作る
  • 契約書に源泉徴収の控除条項と条約手続きへの協力義務を入れる
  • 居住者証明書は原本添付か提示かを決め、提示なら写しを5年保存する
  • 納付は翌月10日(国外払いは翌月末日)をカレンダー登録する
  • 送金の都度、源泉所得税と消費税を別々に確認する
  • 出し忘れたときは、還付請求書(様式11)で救済できることを知っておく

10. まとめ

  • 非居住者等に国内源泉所得を支払う者は、その支払の際、所得税および復興特別所得税を源泉徴収する義務を負います(No.2884・No.2885)。義務者は受け取る側ではなく支払う側です。
  • 国外で支払っても、支払者が国内に住所・居所または事務所等を有すれば、国内で支払ったものとみなして源泉徴収が必要です。この場合の納付期限は翌月末日(国内払いは翌月10日)。
  • 判定は①相手が非居住者等か → ②国内源泉所得か(所得税法第161条・No.2878)→ ③PEの有無と帰属(No.2873)の3ステップ。
  • 税率は14区分。主力は20.42%、利子・上場株式等の配当等・定期積金の給付補てん金等は15.315%、土地等の譲渡対価は10.21%
  • 例外を落とさない。土地等の譲渡対価は1億円以下かつ買主個人の居住用なら不要不動産の賃貸料等は自己・親族の居住用に借り受けた個人からの支払なら不要(=法人が借りるなら必要)。
  • 租税条約の軽減・免除は「最初の支払を受ける日の前日まで」に届出書(様式1・2・3等)を支払者経由で提出することが条件。特典条項付き条約は付表(様式17)+居住者証明書が必要で、提示方式なら写しを5年保存
  • 条約税率が国内法の税率以下なら、復興特別所得税の上乗せは不要
  • 出し忘れても、還付請求書(様式11)で差額の還付を請求できる。ただし附帯税は還付されない
  • 源泉所得税と消費税は別の軸。国外事業者からの事業者向け電気通信利用役務の提供はリバースチャージ方式だが、課税売上割合95%以上・簡易課税・2割特例の課税期間は当分の間なかったものとされる(No.6118)。
  • 徴収漏れは支払者が負担することになり、実務上は相手から回収できない。契約書に控除条項を入れるのが最大の予防策。

海外への支払いは、金額が大きくなるほど、また継続取引になるほど、源泉徴収漏れの累積額が大きくなります。税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、海外送金の事前判定、租税条約の適用可否の検討と届出書の作成支援、契約書の税務レビュー、税務調査で指摘を受けた場合の対応まで、一体でご支援しています。契約書に判を押す前のご相談が、もっとも打ち手の多いタイミングです。

よくある質問(FAQ)

海外のフリーランスに開発を外注しました。報酬から源泉徴収は必要ですか?

そのエンジニアが非居住者で、作業をすべて国外で行っている場合、その報酬は原則として国内源泉所得に当たらず、源泉徴収は不要となることが多いです。人的役務の提供に対する報酬は「その役務が国内で行われたかどうか」が判定の軸になるためです。一方、来日して国内で作業を行った部分がある場合や、契約の実質が使用料(工業所有権・著作権等の使用料)に当たる場合は、国内源泉所得として20.42%の源泉徴収が必要になり得ます。契約書の名称ではなく、実際に何をどこで行っているかで判定してください。判断に迷う場合は、支払前にご相談ください。

海外の親会社に払うロイヤリティは、いつも20.42%で源泉徴収するのですか?

国内法の原則は20.42%ですが、日本と相手国との間に租税条約があり、使用料の限度税率が定められている場合は、その税率まで軽減または免除されます。適用を受けるには、非居住者等が「租税条約に関する届出書(使用料は様式3)」を、最初にその所得の支払を受ける日の前日までに、支払者を経由して支払者の納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。届出がない場合、支払者は国内法の税率で源泉徴収します。なお、条約で定められた税率が国内法の税率以下となる場合、復興特別所得税を併せて源泉徴収する必要はありません。

外国人オーナーから借りている事務所の家賃も源泉徴収が必要ですか?

必要です。不動産の賃貸料等は国内源泉所得に当たり、税率は20.42%です。源泉徴収が不要とされているのは、その不動産を「自己またはその親族の居住の用に供するために借り受けた個人」が支払う場合に限られます。したがって、法人が事務所・店舗・倉庫として借りている場合や、個人であっても事業用に借りている場合は、源泉徴収が必要です。実務でもっとも見落とされやすい類型のひとつですので、賃貸人が非居住者かどうかを契約時に必ず確認してください。

租税条約の届出書を出し忘れて、国内法の税率で納付してしまいました。取り戻せますか?

取り戻せます。後日、「租税条約に関する届出書」とともに「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書(様式11)」を、支払者を通じて支払者の納税地の所轄税務署長へ提出することで、軽減または免除の適用を受けた場合の源泉徴収税額と、国内法の税率により源泉徴収された税額との差額について還付を請求できます。ただし還付金は原則として非居住者等本人に還付されるため、代理人が受領するには非居住者等からの委任状とその翻訳文が必要です。また、当初の納付が期限後だった場合、本税部分は還付されますが、加算税等の附帯税は還付されません。

海外の銀行口座から海外の相手に支払いました。日本の源泉徴収は関係ないのでは?

関係します。国内源泉所得の支払が国外において行われる場合であっても、その支払者が国内に住所もしくは居所を有し、または国内に事務所、事業所その他これらに準ずるものを有するときは、その国内源泉所得を国内において支払ったものとみなして源泉徴収をする必要があります。日本に本店や事務所を持つ法人であれば、この「みなし国内払い」に該当します。なお、この場合の納付期限は事務手続等を考慮して翌月10日ではなく翌月末日とされていますので、期限管理を分けて行ってください。

源泉徴収を忘れていたことが後から分かりました。相手に請求できますか?

法律上は本来の負担者である受取人に求償する余地がありますが、実務上は困難なことが多いのが実情です。すでに満額を送金しており、海外の相手に返金を求めても応じてもらえないケースが少なくないためです。その場合、支払者が本税に加えて不納付加算税(国税通則法第67条)と延滞税(同法第60条)を負担することになり、さらに本来相手が負担すべき税を支払者が負担した部分について、その負担額自体を課税対象に取り込む計算(グロスアップ)が必要になることがあります。防止策は単純で、契約書に「源泉徴収税額を控除して支払う」旨をあらかじめ明記しておくことです。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、非居住者・外国法人に対する支払いに係る源泉徴収についての一般的な情報提供であり、個別の取引に関する税務判断に代わるものではありません。国内源泉所得に該当するかどうか、租税条約の適用を受けられるかどうかは、契約内容、役務の提供地、権利の使用地、相手国との条約の定め、恒久的施設の有無などにより結論が変わります。租税条約の限度税率および特典条項の有無は国ごとに異なりますので、必ず該当する条約の条文をご確認ください。個別の判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月31日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」を掲げ、税務顧問・改正対応から資産防衛・相続・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。