法人税の税務調査で追徴3,407億円・10年で最高|令和6事務年度の調査事績を税理士が解説

国税庁が公表した「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」によると、法人税の税務調査(実地調査)による追徴税額(法人税・消費税)の総額は3,407億円となり、直近10年で最高値を記録しました。実地調査の件数自体は減っているのに、追徴税額は過去最高——つまり国税当局は「件数を絞り、調査必要度の高い法人を狙い撃ちして、1件あたりの追徴を増やす」方向に明確に舵を切っています。その背景には、AI(人工知能)を活用した調査先の抽出があります。 「最近、税務調査の連絡が来た」「うちのような中小企業も対象になるのか」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも、こうしたご相談は実際に寄せられます。本記事では、公表された数字からいま税務調査で何が起きているのか、そして経営者が日頃から備えるべきことを、税理士が実務目線で解説します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
  2. 2. 数字で見る令和6事務年度の法人税調査
  3. 3. 国税はAIで調査先を選んでいる
  4. 4. 重点課題は「消費税の不正還付・海外取引・無申告」
  5. 5. 査察(マルサ)と税務調査はどう違うのか
  6. 6. 実務でどう備えるか(指摘を受けない経理体制)
  7. 7. まとめ
  8. よくある質問(FAQ)

1. 何が起きたのか(3行サマリー)

  • 令和6事務年度の実地調査による追徴税額(法人税・消費税)は3,407億円で、直近10年で最高(対前年比+6.6%)
  • 一方で実地調査の件数は5万4千件と前年から▲7.4%減少。調査1件あたりの追徴税額は634万円(6,342千円)に上昇し、直近10年で2番目の高水準
  • 国税庁はAIを活用した予測モデルで「調査必要度の高い法人」を抽出。消費税の不正還付・海外取引・無申告を重点課題に、厳正な調査を進めている

2. 数字で見る令和6事務年度の法人税調査

まず、公表資料の中心となる「法人税・消費税の実地調査」の数字を、前年(令和5事務年度)と並べて見てみます。

項目令和5事務年度令和6事務年度対前年比
実地調査件数5万9千件5万4千件92.6%(▲7.4%)
申告漏れ所得金額9,741億円8,198億円84.2%(▲15.8%)
追徴税額(法人税・消費税)3,197億円3,407億円106.6%(+6.6%)
調査1件あたりの追徴税額5,497千円6,342千円115.4%(+15.4%)

(出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」令和7年12月。追徴税額には加算税、地方法人税および地方消費税を含む)

注目すべきは、調査件数も申告漏れ所得金額も減っているのに、追徴税額だけが増えている点です。これは「数を撃つ」調査から「当たりを引く」調査へと、国税のスタイルが変わってきていることを示しています。その立役者がAIです。

💡 「申告漏れ所得金額」と「追徴税額」は別物 … 「申告漏れ所得金額」は本来申告すべきだったのに漏れていた“所得(もうけ)”の金額、「追徴税額」はその結果として追加で納めることになる“税金”の金額です。後者には本税に加えて加算税(過少申告加算税・重加算税など)や延滞税が上乗せされるため、調査で指摘を受けると、本来の税額より重い負担になります。

3. 国税はAIで調査先を選んでいる

令和6事務年度の調査事績で当局が前面に押し出したのが、AI・データ分析の活用です。公表資料によれば、国税庁は次のような流れで調査先を決めています。

  1. AIを活用した予測モデルで、不正の可能性(リスク)が高い法人と、想定される不正パターン(売上・原価・経費のどこが怪しいか)を抽出・判定する
  2. AIの判定結果に加え、申告書や国税組織が保有するさまざまな資料情報(取引先からの資料、銀行口座の情報、海外当局との情報交換など)を調査官が分析・検討する
  3. 最終的に調査官が実地調査の要否を判断する

公表資料では、AIが「原価(外注費)」のリスクが高いと判定した法人を調査した結果、取引実態のない架空外注費を把握し、約3億6千万円を追徴した事例も紹介されています。「規模が小さいから」「これまで調査が来なかったから」という理由は、もはや安全の保証になりません。数字の異常はデータで見抜かれる時代になっています。

4. 重点課題は「消費税の不正還付・海外取引・無申告」

国税庁は、次の3つを重点課題と位置づけ、特に厳正な調査を実施したと公表しています。中小企業・オーナー経営者にも関わる論点なので、内容を押さえておきましょう。

重点課題追徴・把握額(令和6事務年度)
消費税還付申告法人(消費税制度を悪用した不正還付)総額299億円の消費税を追徴。うち不正計算に係る追徴税額は51億円
海外取引法人等(海外取引・各国の税制差を利用した租税回避等)海外取引に係る申告漏れ所得2,096億円を把握。海外取引等に係る源泉徴収漏れ72億円を追徴
無申告法人(申告義務を果たさず税負担を意図的に回避)総額355億円の法人税・消費税を追徴。うち不正計算に係る追徴税額は228億円

(出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」令和7年12月)

特に海外取引については、外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制・CFC税制)の適用による合算(約11億円)、国外関連者への高すぎる仕入価格による利益移転(移転価格・約21億2千万円)など、国際税務の論点で多額の申告漏れが把握されています。海外当局との情報交換制度を使って国内の売上除外を突き止めた事例も紹介されており、「海外を経由すれば見えない」という発想はもはや通用しません。

⚠️ 源泉所得税の調査も強化されている … 法人税だけでなく、源泉所得税の実地調査でも追徴税額404億円(前年比+7.8%)、調査1件あたり633千円(直近10年で最高値)と高水準でした。役員報酬賞与の源泉徴収、非居住者・外国法人への支払い(海外への外注費・使用料など)の源泉徴収漏れは、見落とされやすい論点です。

5. 査察(マルサ)と税務調査はどう違うのか

「税務調査」と聞くと、いわゆる査察(マルサ)を思い浮かべる方が多いのですが、この2つは別物です。

  • 任意調査(一般の税務調査):税務署・国税局が、申告内容を確認するために行う調査。今回の「調査事績」の5万4千件はこちらです。あくまで適正な申告かを確認するもので、悪質な仮装・隠蔽があれば重加算税が課されます。
  • 強制調査(査察=マルサ):裁判官の許可状に基づき、悪質・大口の脱税を刑事事件として摘発するための調査。検察庁への告発を前提とします。件数は年間100件前後で、一般の税務調査とは規模も性質も異なります。

つまり、ほとんどの会社が遭遇する可能性があるのは任意の税務調査です。査察の動向については別記事「令和6年度の脱税告発98件・脱税総額82億円|査察(マルサ)の最新動向」で解説していますが、まずは日々の申告で、任意調査で指摘を受けない経理体制を整えることが王道です。

6. 実務でどう備えるか(指摘を受けない経理体制)

調査事績の数字が示すのは、「売上・原価・経費の不自然さ」が、AIと調査官の目で重点的に見られているという事実です。経営者が日頃から備えるべきポイントを、失敗例と王道で整理します。

❌ 税務調査でつまずきがちな失敗
  • 売上の計上時期をずらす・一部の現金売上を計上しない(売上除外)。AIが最も重点的に見るパターン
  • 実体のない外注費・人件費を計上する(架空経費)。請求書があっても、取引実態・資金の流れ・反面調査で必ず確認される
  • 代表者の個人口座と会社のお金が混ざっている(公私混同)。売上代金を個人口座に入金していると、売上除外を疑われる
  • 「少額だから」「現金だから」分からないだろうと考える。銀行調査・SNS・取引先資料から実態は把握される
  • 領収書・請求書・契約書などの証ひょうが整理されていない。説明できない経費は否認されやすい
⭕ これから取るべき王道の段取り
  • 売上は発生主義で正しい時期に計上し、現金売上も含めて漏れなく記帳する
  • 外注費・人件費は、契約書・請求書・業務実態・支払いの記録をそろえ、「実体がある」と説明できる状態にしておく
  • 会社のお金と個人のお金を明確に分ける(役員報酬・役員貸付の整理)
  • 交際費・旅費・福利厚生費など、判断が分かれる経費は社内ルールと根拠資料を整え、線引きを一貫させる
  • 不安な論点は、調査が来てからではなく日頃から税理士に相談し、グレーを残さない
💬 実務の現場から
弊社にも、「税務調査の連絡が来たがどう対応すればよいか」「過去の処理に不安がある」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、調査で問題になりやすいのは“難しい税法の解釈”よりも、売上の計上漏れ・経費の実体・証ひょうの不備といった基本的な部分です。私たちが関与する場面では、日々の記帳の段階から「これは調査で説明できるか」という視点で整え、いざ調査となっても社長が数字を堂々と説明できる状態をつくることを大切にしています。

7. まとめ

令和6事務年度の法人税調査は、追徴税額3,407億円と直近10年で最高を記録しました。件数を絞りながら追徴は過去最高——これは、国税がAIで調査先を厳選し、1件あたりの“当たり”を増やしていることの表れです。重点は消費税の不正還付・海外取引・無申告に置かれ、海外を経由した取引も情報交換制度で把握されています。

大切なのは、「うちは大丈夫」と考えず、売上・原価・経費を正しく、説明できる形で記帳しておくことです。税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、日々の記帳・申告から税務調査の立ち会い・対応まで、経営者が「数字を堂々と説明できる状態」づくりに伴走しています。過去の処理や税務調査にご不安のある方は、お早めにご相談ください。

よくある質問(FAQ)

税務調査はどのくらいの確率で来ますか?

令和6事務年度の法人税の実地調査は5万4千件でした。日本の法人数(約300万社)から単純計算すると、1年に実地調査を受ける法人は数%程度ですが、調査周期は会社の規模・業種・申告内容によって大きく異なります。近年はAIによる抽出が進んでおり、売上や経費に不自然さがある法人は調査対象に選ばれやすくなっています。

調査件数が減っているのに追徴税額が増えているのはなぜですか?

国税庁がAIを活用した予測モデルで「調査必要度の高い法人」を絞り込み、調査の精度を高めているためです。令和6事務年度は調査1件あたりの追徴税額が634万円(前年比+15.4%)に上昇し、直近10年で2番目の高水準となりました。

税務調査で追徴されると、本来の税金以外に何がかかりますか?

本税に加えて、加算税(過少申告加算税・無申告加算税・重加算税など)と延滞税が上乗せされます。特に売上除外や架空経費など、仮装・隠蔽があったと判断されると重加算税(原則35%、無申告は40%)が課され、負担が大きく重くなります。

海外取引が少しでもあると調査対象になりますか?

海外取引があるだけで直ちに対象になるわけではありませんが、国税庁は海外取引法人等を重点課題に位置づけ、海外当局との情報交換制度も活用しています。令和6事務年度は海外取引に係る申告漏れ所得2,096億円が把握されました。CFC税制や移転価格など、海外取引には専門的な論点が多いため、事前の整理をおすすめします。

税務調査の連絡が来たら、まず何をすればよいですか?

まずは顧問税理士に連絡し、対応方針を相談してください。調査前に申告内容・帳簿・証ひょうを確認し、説明できるよう準備することが重要です。あわてて書類を作り直す・廃棄するといった対応はかえってリスクを高めます。

出典・参考資料

  • 国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和7年12月)| https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/hojin_chosa/index.htm
  • 国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要(本文・報道発表資料PDF)」| https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/hojin_chosa/pdf/01.pdf
  • 国税庁「令和6事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要」(令和7年10月)| https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/hojin_shinkoku/index.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.9205「延滞税について」| https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/osirase/9205.htm
ご利用上の留意事項
本記事は、国税庁の公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。実際の調査対応・税務判断にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月14日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から富裕層・オーナー経営者の資産防衛まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp