事業を売った利益の課税を先送りできる新税制?経産省が令和9年度税制改正要望へ|いまの課税との違いを税理士が解説【2026年8月27日時点】

2026年8月25日、経済産業省が「事業ポートフォリオ転換・強化促進税制」の創設を、令和9年度(2027年度)の税制改正要望に盛り込むと報じられました。報道によれば、企業が事業を売却して得た利益への課税を繰り延べる仕組みで、売却から原則5年以内に別の事業を買収し、設備投資または研究開発を行うことが条件になるとされています。売却で得た資金を成長分野へ振り向けやすくすることがねらいだと報じられています。 これは大企業向けのニュースに見えるかもしれません。ですが、実務の観点から言えば、「稼げていない事業を切って、次の柱を買う」という判断は、中堅・中小のオーナー企業でこそ日常的に起きています。そして、その判断を止めているものの一つが、まさに「売った瞬間に課税される」という現在の仕組みです。 税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも、「不採算の部門を譲渡したいが、譲渡益に税金がかかると次の投資に回す資金が減る」というご相談は実際に寄せられます。一般論として重要なのは、同じ「事業を手放す」でも、株式を売るのか、事業そのものを売るのかで、課税の相手も時期もまったく違うという点です。 本記事では、①報じられている要望の中身 ②いま事業を売るとどう課税されるのか ③現行制度にある「繰延べ」の仕組みとの違い ④2026年時点で経営者が押さえるべきこと、を順に整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
  2. 2. 前提:いま「事業を売る」と、どう課税されるのか
  3. 3. 何が論点なのか:「売った資金を次に回す」ときの壁
  4. 4. 専門家の視点:現行にもある「繰延べ」の仕組み
  5. 5. 実務でどう備えるか
  6. 6. まとめ
  7. よくある質問(FAQ)

1. 何が起きたのか(3行サマリー)

  • 報道によれば、経済産業省が令和9年度(2027年度)税制改正要望に「事業ポートフォリオ転換・強化促進税制」の創設を盛り込む方向です。事業の売却益への課税を繰り延べる仕組みとされています
  • 報道が伝える条件は、売却から原則5年以内に別の事業を買収し、設備投資または研究開発を実施することです。売却益に対する現在の負担は、報道では大企業で法人税等が実質約30%とされています
  • 同じ令和9年度要望では、事業承継税制の相続税・贈与税の「免除」も検討されていると報じられています(2026年8月22日報道)。「売る」と「渡す」の両方の出口に税制が向いた要望シーズンです
📌 【2026年8月27日時点】これは「要望」であって、決まった制度ではありません
税制改正は、各省庁が8月末に財務省・総務省へ要望を提出し、政府税制調査会などの議論を経て、年末の与党税制改正大綱で方向が定まり、翌年の通常国会で法律が成立して初めて確定します。要望に入っただけの内容は、削られることも、要件が大きく変わることも、実現しないこともあります。本記事の新税制に関する記述は、2026年8月27日時点の報道に基づく見込みであり、確定情報ではありません。なお、経済産業省の令和9年度税制改正要望そのものは、本記事の執筆時点で同省ウェブサイトに掲載されていません。

2. 前提:いま「事業を売る」と、どう課税されるのか

手放し方が2つあり、課税がまったく違う

事業を手放す方法は、大きく2つに分かれます。

方法何を売るか誰に課税されるか
株式譲渡会社の株式株主(オーナー個人など)
事業譲渡事業に属する資産・負債会社(法人)

株式譲渡は、オーナーが持っている株式を買い手に売る方法です。売却代金はオーナー個人に入り、個人には譲渡所得として所得税・住民税(申告分離課税)が課されます。会社そのものは器ごと移るので、会社に譲渡益は生じません。

事業譲渡は、会社が持っている事業(工場、店舗、取引先との契約、従業員など)を、会社が売る方法です。売却代金は会社に入り、会社の益金になります。今回報じられている要望が扱っているのは、この後者、法人に生じる事業売却益のほうです。

事業売却益は、その事業年度の益金になる

法人税法第22条第2項は、益金の額について次のように定めています。

💡 法人税法第22条第2項(原文)
「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」

事業譲渡は「有償による資産の譲渡」に当たりますから、譲渡益はその事業年度の益金になります。「別段の定め」に当たる特例がない限り、課税は先送りできません。

税率は次のとおりです。

区分税率
普通法人の法人税率23.2%
中小法人の年800万円以下の部分15%(軽減税率の特例)
国・地方を通じた法人実効税率29.74%

(出典:財務省「法人課税に関する基本的な資料」。中小法人の15%は令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度に適用され、令和7年4月1日以後に開始する事業年度のうち所得金額が年10億円を超える事業年度については、年800万円以下の部分に適用される税率は17%です。法人実効税率29.74%は平成30年度以降の水準です)

報道が「大企業では法人税などで実質約30%の負担が生じる」と伝えているのは、この法人実効税率29.74%と整合する説明です。

3. 何が論点なのか:「売った資金を次に回す」ときの壁

手元に残るのは、売却代金の7割前後

仮に、簿価1億円の事業を6億円で譲渡したとします。譲渡益は5億円です。法人実効税率29.74%で計算すると、税負担はおよそ1億4,870万円になります。

項目金額
譲渡価額6億円
譲渡益5億円
税負担(29.74%で試算)約1億4,870万円

(※本表は法人実効税率29.74%を用いた単純計算による試算です。実際の税額は、繰越欠損金の有無、他の損益、事業年度、地方税の超過税率、法人住民税均等割などにより変動します)

つまり、次の投資に使えるのは6億円ではなく4億5,000万円前後ということです。ここに、実務上の意思決定の歪みが生まれます。「事業を売って別の柱を買う」という組み替えは、売った瞬間に3割が税で抜けるため、そもそも実行のハードルが高いのです。

結果として何が起きるか。稼げていない事業を、切らずに持ち続けるほうが合理的に見えてしまう、という現象です。報道が伝える要望のねらい——売却益への課税を繰り延べて、資金を成長分野のM&Aや設備投資へ振り向けやすくする——は、まさにここに向けられていると読めます。

「繰延べ」は「免除」ではない

ここは誤解が生じやすいところなので、はっきり書いておきます。課税の繰延べは、税がなくなることではありません。

繰延べは、通常、買い替えた資産の取得価額を引き下げる(圧縮する)ことで実現します。取得価額が下がれば、その後の減価償却費は小さくなり、将来その資産を売ったときの譲渡益は大きくなります。つまり、いま払わずに済んだ税は、将来の税として姿を変えて残ります。効果は「資金繰りの改善」と「投資判断の自由度の確保」であって、「減税」ではありません。

実務でよくお見かけするのは、繰延べを減税だと理解したまま資金計画を立ててしまい、数年後の申告で想定外の税額に驚かれるケースです。繰延べを使うときは、繰り延べた税がいつ、いくらで戻ってくるのかを最初から計算に入れておく必要があります。

4. 専門家の視点:現行にもある「繰延べ」の仕組み

課税の繰延べは、日本の税制にとって目新しい考え方ではありません。現行制度にも、目的を絞った繰延べの仕組みがいくつかあります。今回の要望を理解するには、これらとの距離を測るのが近道です。

①特定の資産の買換えの場合の課税の特例(措置法第65条の7)

一定の資産を譲渡して、一定の期間内に別の一定の資産を取得し、事業の用に供した場合に、譲渡益の一部について課税を繰り延べる制度です。長く使われてきた代表的な繰延べで、圧縮限度額の計算に用いる割合は原則80%、譲渡資産と買換資産の組み合わせによっては60%となります(措置法第65条の7第1項)。本社機能の移転に関する区分では、90%・75%・70%となる場合もあります。適用期間は令和11年3月31日まで(一部の資産は令和10年3月31日まで)とされています。

ただし、対象になるのは土地・建物・機械装置などの特定の資産です。「事業を売って事業を買う」という今回の要望の構図とは、対象がずれています。

②中小企業事業再編投資損失準備金(措置法第56条)

M&Aで他の法人の株式を取得した中小企業者等が、その取得価額の一定割合を準備金として積み立て、損金に算入できる制度です。中堅・中小グループ化税制として拡充された部分を含み、経営力向上計画の認定期限は令和9年3月31日とされています。

こちらは「買う側」を支援する制度です。今回報じられている要望は「売る側」の課税に手を入れるもので、向いている方向が逆です。両方が揃うと、事業の組み替えは前後で支援されることになります。

③適格組織再編(法人税法)

合併・分割・現物出資などのうち、税制上の適格要件を満たすものは、資産を帳簿価額で引き継ぐことで課税が生じません。ただし、これは組織再編の形式を取ることが前提です。事業譲渡(売買)は原則として適格の枠組みに乗らず、譲渡益が実現します。

今回の要望は、どこが新しいのか

報道が伝える内容を前提にすると、新しさは次の点にあります。

  • 対象が特定の資産ではなく、事業の売却益であること
  • 要件が「同種の資産に買い替える」ではなく、「別の事業を買収し、設備投資または研究開発を行う」であること
  • 期間が原則5年以内とされていること

つまり、「資産の入れ替え」ではなく「事業ポートフォリオの入れ替え」を単位にした繰延べ、という設計思想です。これが実現すれば、オーナー企業の出口戦略の考え方は変わります。ただし繰り返しになりますが、現時点では要望の段階であり、要件も繰延べの割合も期間も、公表された制度としては存在しません

💬 実務の現場から
過去のご相談の傾向として申し上げると、事業の売却で最初につまずくのは、税率ではなく「どちらの形で売るか」です。株式譲渡なら課税されるのはオーナー個人、事業譲渡なら課税されるのは会社。買い手の希望と、売り手の税負担と、簿外債務の引き継ぎリスクが、それぞれ違う方向を向きます。ここを整理せずに価格交渉を先に始めてしまうと、後から形を変えられず、手取りが大きく変わります。形の選択は、価格の交渉より前です。

5. 実務でどう備えるか

新しい税制の創設を待つことはできません。いまの制度でできることを整理します。

❌ よくある失敗
  • 報道を見て「事業を売っても課税が繰り延べられるようになる」と考え、制度が創設されるのを前提に売却を先送りする
  • 株式譲渡と事業譲渡の課税の違いを整理しないまま、買い手の希望する形で契約を進めてしまう
  • 課税の繰延べを減税だと理解し、将来戻ってくる税を資金計画に入れていない
  • 譲渡益が出る事業年度に、繰越欠損金や他の損失をぶつける検討をしていない
⭕ 王道の進め方
  • 売る形(株式譲渡か事業譲渡か)を先に決める。誰に、いつ、いくら課税されるかは、形で決まる
  • 譲渡益が出る事業年度を特定し、繰越欠損金の残高と期限(法人税法第57条)を確認して、ぶつけられる損失があるかを見る
  • 買い替える資産が土地・建物・機械装置であれば、措置法第65条の7の買換え特例が使えないかを、譲渡の前に検討する
  • M&Aで株式を取得する側に回るなら、措置法第56条の準備金(経営力向上計画の認定期限は令和9年3月31日)の適用余地を確認する
  • 令和9年度税制改正の行方は、年末の与党税制改正大綱で確認する。要望の段階で意思決定を変えない

6. まとめ

報道によれば、経済産業省は令和9年度(2027年度)税制改正要望に「事業ポートフォリオ転換・強化促進税制」の創設を盛り込む方向です。事業の売却益への課税を繰り延べる仕組みで、売却から原則5年以内に別の事業を買収し、設備投資または研究開発を行うことが条件とされています。ただし、これは要望の段階であり、決まった制度ではありません

現行制度では、事業譲渡による譲渡益は、法人税法第22条第2項によりその事業年度の益金となり、繰り延べる仕組みは原則としてありません。国・地方を通じた法人実効税率は29.74%です(財務省)。売却代金の3割前後が税で先に抜ける構造が、事業の組み替えを止めている——これが今回の要望の背景にある問題意識だと読めます。

そして、課税の繰延べは減税ではありません。いま払わずに済んだ税は、将来の減価償却費の減少や譲渡益の増加という形で戻ってきます。制度が創設されたとしても、この性格は変わらないはずです。

税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、事業の売却・買収にあたって、株式譲渡と事業譲渡のどちらで組むか、譲渡益をどの事業年度に落とすか、買換え特例や準備金が使えるかまでを一体でご支援しています。

よくある質問(FAQ)

この新しい税制は、いつから使えますか?

現時点では分かりません。税制改正要望は、年末の与党税制改正大綱で方向が定まり、翌年の通常国会で法律が成立して初めて確定します。要望に入った内容が削られることも、要件が大きく変わることもあります。本記事は2026年8月27日時点の報道に基づくもので、確定情報ではありません。

中小企業も対象になりますか?

報道からは判別できません。報道は現行の負担について「大企業では実質約30%」と説明していますが、対象法人の範囲は公表されていません。要件が明らかになるのは、要望の公表と、その後の与党税制改正大綱の段階です。

株式を売った場合も、この繰延べの対象になりますか?

報道が伝えているのは「事業の売却益」への課税の繰延べです。株式譲渡でオーナー個人に生じる譲渡所得は法人税ではなく所得税の世界であり、同じ枠組みで扱われるかは公表されていません。

課税の繰延べを使えば、税金は減りますか?

減りません。繰延べは、通常、買い替えた資産の取得価額を引き下げることで実現します。取得価額が下がれば、その後の減価償却費は小さくなり、将来の譲渡益は大きくなります。効果は資金繰りの改善と投資判断の自由度であって、税額の減少ではありません。

いま事業を売る予定があります。制度の創設を待つべきですか?

待つことはお勧めしません。創設されるかどうか、どのような要件になるかが不明であるうえ、買い手の事情は税制の議論とは無関係に動きます。いまの制度で使える買換え特例や繰越欠損金の検討を先に済ませ、大綱が出た段階で改めて設計を見直すのが現実的です。

事業承継税制の「免除」の話と、どう関係しますか?

同じ令和9年度税制改正要望で、経済産業省が事業承継税制の相続税・贈与税の免除も検討していると報じられています。オーナー企業の出口は「渡す」と「売る」の2つですが、その両方に税制が向いた要望シーズンだという点が、今回のニュースの本質です。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、法令および公表資料・報道に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案における税務上の取扱いを保証するものではありません。本記事のうち「事業ポートフォリオ転換・強化促進税制」に関する記述は、報道されている令和9年度(2027年度)税制改正要望の内容であり、創設が決まった制度ではありません。税制改正要望は、年末の与党税制改正大綱および翌年の法律の成立によって初めて確定するものであり、内容が変更されること、実現しないことがあります。本記事は2026年8月27日時点の情報に基づくものであり、その後の制度改正・公表資料の更新により記載内容が現行と異なる場合があります。本文中の試算は法人実効税率29.74%を用いた単純計算であり、実際の税額とは異なります。事業の売却・買収の実行にあたっては、最新の法令および財務省・国税庁の公表資料をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年8月27日

事業の売却・買収の税務設計は KMP へ

公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、株式譲渡と事業譲渡のどちらで組むか、譲渡益をどの事業年度に落とすか、買換え特例や準備金が使えるかまでを一体でご支援しています。売る形の選択は、価格の交渉より前に決めるべきものです。相手方との交渉を始める前にご相談ください。

無料相談はこちら
小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から、M&A・組織再編・事業承継、国際税務・資産防衛まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月27日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。