事業承継税制の特例承継計画の提出期限が延長へ|でも“承継の期限”は延びない落とし穴を税理士が解説

「特例承継計画の提出期限が延びた」というニュースを見て、ほっとされた経営者の方は多いと思います。事業承継税制(特例措置)は、後継者が引き継ぐ自社株の贈与税・相続税を全額(100%)猶予・免除できる強力な制度ですが、その入口となる「特例承継計画」の提出期限が令和8年(2026年)3月31日に迫っていたためです。 令和8年度税制改正大綱で、この提出期限が法人版は令和9年(2027年)9月30日まで、個人版は令和10年(2028年)9月30日まで延長される方向が示されました。ただ、ここには見落とすと致命的な落とし穴があります。計画の提出期限は延びても、実際に贈与・相続で株式を引き継ぐ「承継の期限」は1日も延びていないのです。本記事では、何がどう延長されたのか・なぜ油断が危険なのかを、事業承継を強みとする税理士が整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 結論(3行サマリー)
  2. 2. そもそも事業承継税制(特例措置)とは
  3. 3. 何がどう延長されたのか(提出期限 vs 実行期限)
  4. 4. 最大の落とし穴:「計画を出せば安心」ではない
  5. 5. 専門家の視点:特例承継計画は「とりあえず出しておく」価値がある
  6. 6. 実務で押さえるべきこと
  7. 7. まとめ
  8. よくある質問(FAQ)

1. 結論(3行サマリー)

  • 特例承継計画の提出期限が延長される方向:法人版は令和8年3月31日→令和9年(2027年)9月30日(1年6か月)、個人版は→令和10年(2028年)9月30日(2年6か月)
  • 一方で、実際に贈与・相続で資産を引き継ぐ適用期限(承継の実行期限)は延長されない:法人版は令和9年(2027年)12月31日、個人版は令和10年(2028年)12月31日のまま
  • つまり「計画を出す時間」は増えても「承継を終える時間」は増えていない。計画提出と実行のスケジュールは別物として管理する必要がある

2. そもそも事業承継税制(特例措置)とは

事業承継税制は、後継者が先代から自社株や事業用資産を引き継ぐ際にかかる贈与税・相続税について、一定の要件のもとで納税を猶予し、最終的に免除する制度です。平成30年度改正で創設された特例措置は、通常の制度(一般措置)よりも大幅に有利な内容になっています。

項目一般措置特例措置
対象株式発行済議決権株式の3分の2まで全株式(100%)
納税猶予割合贈与100%・相続80%贈与・相続とも100%
雇用確保要件5年平均で8割維持(未達で猶予打切り)実質緩和(未達でも報告等で継続可)
事前の計画不要特例承継計画の提出が必須
適用期限期限の定めなし期限あり(下記で解説)

特例措置は「全株式・100%猶予・雇用要件が実質緩和」と一般措置より格段に有利ですが、その代わり「特例承継計画」を事前に都道府県知事へ提出しておくことが絶対条件です。この計画の提出期限が、今回延長される部分です。

💡 特例措置は“時限”の制度 … 一般措置は期限がありませんが、特例措置は「いつまでに計画を出し、いつまでに承継するか」という2つの期限で区切られた時限措置です。有利な特例措置を使うには、この2つの期限を両方クリアする必要があります。

3. 何がどう延長されたのか(提出期限 vs 実行期限)

今回の改正で延びるのは「特例承継計画の提出期限」だけです。実際に贈与・相続を行う「適用期限(承継の実行期限)」は延びません。ここを一枚の表で整理します。

区分特例承継計画の提出期限承継(贈与・相続)の実行期限
法人版(自社株)令和8年3月31日 → 令和9年9月30日(1年6か月延長)令和9年12月31日(延長なし)
個人版(個人事業の事業用資産)令和8年3月31日 → 令和10年9月30日(2年6か月延長)令和10年12月31日(延長なし)

(出典:令和8年度税制改正大綱/財務省「令和8年度税制改正要望事項(経済産業省中小企業庁)」)

法人版で見ると、計画の提出は令和9年9月末まで待てるようになりましたが、実際に自社株を贈与・相続する期限は令和9年12月31日のまま。計画提出から実行まで、実質3か月しか猶予がないというスケジュールになります。個人版も同様に、計画は令和10年9月末まで、実行は令和10年12月末までです。

なお、この提出期限の延長は令和8年度税制改正大綱で措置され、根拠となる中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の改正手続きが進められている段階です。国税庁タックスアンサーNo.4148は執筆時点で「令和7年4月1日現在法令等」として旧提出期限(令和8年3月31日)を掲載しているため、最終的な確定内容は改正省令の公布をご確認ください。

4. 最大の落とし穴:「計画を出せば安心」ではない

実務家の立場から申し上げると、今回のニュースで最も注意すべきは、「提出期限が延びたから、まだ余裕がある」と受け取ってしまうことです。誤解されやすいのですが、特例承継計画はあくまで「特例措置を使う意思表示」にすぎません。計画を出しただけでは、税金の猶予は1円も始まりません。

税負担の猶予が実際に始まるのは、計画に沿って贈与または相続で株式(事業用資産)を引き継いだときです。そして、その引き継ぎを終える期限(法人版なら令和9年12月31日)は今回延長されていません

  • 計画の提出=入口の予約(令和9年9月末まで)
  • 承継の実行=本番の手続き(令和9年12月末まで・延長なし)

この2つを混同すると、「計画は出したが、後継者や株価の準備が整わないうちに実行期限が来てしまった」という事態になりかねません。特に、後継者への株式の集約、株価(自社株評価)の把握、種類株式や遺留分への配慮などは、数か月では終わらないことが少なくありません。延びたのは準備期間ではなく、あくまで「意思表示の締切」だけ——ここを正しく理解することが出発点です。

5. 専門家の視点:特例承継計画は「とりあえず出しておく」価値がある

では、実行の見通しが完全には立っていない場合、計画を出すべきか。私たちが関与する場面での考え方を申し上げると、特例措置を使う可能性が少しでもあるなら、期限内に特例承継計画を提出しておくのが基本です。

理由は2つあります。第一に、特例承継計画は提出しても「必ず特例措置を使わなければならない」という拘束力はなく、結果的に使わなくても不利益は生じません。第二に、いったん提出期限(令和9年9月末)を過ぎてしまうと、その後どれだけ準備が整っても特例措置(100%猶予)は一切使えず、一般措置(相続は80%猶予・3分の2まで)に落ちてしまうからです。

一方で、事業承継税制は「使えばそれで完結」という制度ではありません。猶予はあくまで猶予であり、後継者が代表を退く、対象株式を売る、会社が資産管理会社に該当するなど一定の事由に当てはまると猶予が打ち切られ、猶予されていた税金と利子税をまとめて納めることになります。制度を使うかどうかは、こうした将来の取消リスクや、次の後継者への「二代目承継」まで見据えて判断する必要があります。事業承継全体の設計は事業承継・M&A 完全ガイドもあわせてご覧ください。

💬 実務の現場から
守秘義務がありますので詳細は控えますが、構図としてお伝えすると、「特例承継計画の提出期限が延びたと聞いて、承継はもう少し先でいいと考えていた」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、ここで差がつくのは、計画の提出期限と、実際に株を渡す実行期限を、別々のスケジュールとして管理できているかです。私たちが関与する場面では、まず「実行期限(法人版なら令和9年12月末)から逆算して、株価の把握・後継者への集約・遺留分対策にいつ着手するか」を先に決め、そのうえで特例承継計画を早めに出しておく——この順番を最優先にしています。延びたのは締切であって、準備にかける時間ではありません。

6. 実務で押さえるべきこと

特例承継計画の提出期限延長を前提に、オーナー経営者・個人事業主が押さえるべき要点を、失敗例と王道で整理します。

❌ つまずきがちな失敗
  • 「提出期限が延びた=承継も先送りできる」と誤解し、実行期限(法人版・令和9年12月31日)を意識していない
  • 特例承継計画を出しただけで「対策が終わった」と思い込み、株価の把握や後継者への集約に着手していない
  • 特例措置を使う可能性があるのに、提出期限を過ぎて一般措置(相続80%・3分の2まで)しか使えなくなる
  • 猶予の取消事由(代表の退任・株式の譲渡・資産管理会社への該当など)を確認せず、猶予開始後に想定外の納税が発生する
⭕ これから取るべき王道
  • 提出期限(意思表示)と実行期限(承継本番)を別々に管理し、実行期限から逆算して準備のスケジュールを引く
  • 特例措置を使う可能性が少しでもあるなら、まず特例承継計画を期限内(法人版・令和9年9月末/個人版・令和10年9月末)に提出しておく
  • 自社株の株価(評価額)を早めに把握し、後継者への集約・種類株式・遺留分対策を並行して進める
  • 事業承継税制を使うか否かは、取消リスク・次世代への再承継・M&Aという出口まで比較したうえで判断する

7. まとめ

事業承継税制(特例措置)の特例承継計画の提出期限は、令和8年度税制改正大綱で、法人版が令和9年(2027年)9月30日まで、個人版が令和10年(2028年)9月30日まで延長される方向が示されました。有利な特例措置(自社株の贈与税・相続税を100%猶予・免除)を使うための入口が、少し先まで開かれたことになります。

ただし、実際に贈与・相続で資産を引き継ぐ適用期限(承継の実行期限)は延長されていません。法人版は令和9年12月31日、個人版は令和10年12月31日のままです。延びたのは「意思表示の締切」であって、「承継を終える締切」ではない——この違いを正しく理解し、実行期限から逆算して準備を進めることが何より重要です。税理士法人 小山・ミカタパートナーズは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、自社株の評価から特例承継計画の作成、事業承継税制の適否判断、M&Aという出口まで一体で伴走します。承継をお考えの経営者の方は、実行期限が来る前に、お早めにご相談ください。

よくある質問(FAQ)

特例承継計画の提出期限は、結局いつまで延びたのですか?

令和8年度税制改正大綱により、法人版事業承継税制(特例措置)の特例承継計画は令和8年3月31日から令和9年(2027年)9月30日へ、個人版事業承継税制の個人事業承継計画は令和10年(2028年)9月30日へ延長される方向が示されました。根拠となる施行規則の改正手続きが進められている段階のため、確定内容は改正省令の公布でご確認ください。

提出期限が延びたなら、承継(贈与・相続)も後回しにして大丈夫ですか?

いいえ。延びたのは「計画の提出期限」だけで、実際に贈与・相続で株式を引き継ぐ適用期限は延長されていません。法人版は令和9年(2027年)12月31日、個人版は令和10年(2028年)12月31日のままです。この期限までに承継を実行しないと、特例措置(100%猶予)は使えません。

特例承継計画を出したら、必ず事業承継税制を使わなければなりませんか?

いいえ。特例承継計画を提出しても、必ず特例措置を使わなければならないという拘束力はありません。結果的に使わなくても不利益は生じません。むしろ、期限を過ぎると特例措置が一切使えなくなるため、使う可能性が少しでもあるなら提出しておくのが基本です。

事業承継税制の「特例措置」と「一般措置」は何が違いますか?

特例措置は全株式・贈与相続とも100%を猶予対象とし、雇用確保要件も実質緩和されています。一方の一般措置は対象が発行済議決権株式の3分の2まで、相続の猶予割合は80%で、雇用確保要件も厳格です。特例措置を使うには特例承継計画の事前提出が必須で、適用期限(承継の実行期限)が定められています。

事業承継税制はいったん使えば安心ですか?

猶予はあくまで「猶予」です。後継者が代表を退く、対象株式を譲渡する、会社が資産管理会社に該当するなど一定の事由に当てはまると猶予が打ち切られ、猶予されていた税額と利子税をまとめて納めることになります。将来の取消リスクや次世代への再承継まで見据えて、制度を使うかどうかを判断する必要があります。

出典・参考資料

  • 財務省「令和8年度税制改正要望事項(経済産業省中小企業庁事業環境部財務課)事業承継税制に係る特例承継計画の期限延長等」(PDF)| https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/request/meti/08y_meti_k_29.pdf
  • 国税庁「No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)」| https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4148.htm
  • 令和8年度税制改正大綱(令和7年12月19日 与党公表)=特例承継計画・個人事業承継計画の提出期限の延長
  • 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」「個人版事業承継税制」(制度の概要・特例承継計画の様式)
  • 根拠法令:租税特別措置法第70条の6の8〜第70条の7の8(事業承継税制)、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則(特例承継計画・個人事業承継計画の提出期限)。具体的な要件・手続きは最新の法令・通達および専門家にご確認ください。
ご利用上の留意事項
本記事は、公表資料に基づく一般的な情報提供であり、特定の税務処理の結果を保証するものではありません。事業承継税制(特例措置)の適用可否や納税猶予・免除の効果は、株式の態様・後継者や先代の要件・会社の状況など個別の事実関係により異なります。提出期限の延長は改正手続きが進行中の項目を含みます。実際の判断にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月6日

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公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、自社株の評価から特例承継計画の作成、事業承継税制の適否判断、M&Aという出口まで一体でご支援します。承継をお考えの経営者の方は、実行期限が来る前にお早めにご相談ください。

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から富裕層・オーナー経営者の資産防衛・事業承継、国際税務まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp