事業承継税制は「抜本見直し」へ|財務省が令和9年度税制改正要望を公表、減収1,690億円の制度と2027年12月31日の期限を税理士が解説【2026年9月2日時点】
- 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
- 2. 誰が、どの条文を対象に出したのか
- 3. 「免除」という報道と、要望書の書きぶりの違い
- 4. 数字で見る、いまの事業承継税制
- 5. 期限は、1日も動いていません
- 6. 実務でどう備えるか
- 7. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 何が起きたのか(3行サマリー)
- 財務省が「令和9年度税制改正要望」のページを公開しました。内閣府・警察庁・金融庁・こども家庭庁・復興庁・総務省・法務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省・防衛省・内閣官房・個人情報保護委員会の17機関の要望書が、項目ごとのPDFで掲載されています
- 事業承継税制については「事業承継税制の抜本見直し」という項目が提出されています。主管は経済産業省中小企業庁事業環境部財務課で、厚生労働省健康・生活衛生局生活衛生課も同じ項目名で要望書を出しています(生活衛生関係営業=飲食店・理美容・クリーニング・旅館などを所管する立場から)
- 一方、いまの期限は1日も動いていません。特例措置の対象となる贈与・相続は令和9年(2027年)12月31日まで、その入口となる特例承継計画の提出期限は令和9年(2027年)9月30日(個人版は令和10年9月30日)です。要望の行方にかかわらず、この2つの期限は現に走っています
税制改正は、各府省庁が8月末に財務省・総務省へ要望を提出し、政府税制調査会などの議論を経て、年末の与党税制改正大綱で方向が定まり、翌年の通常国会で法律が成立して初めて確定します。要望に入っただけの内容は、削られることも、要件が大きく変わることも、実現しないこともあります。本記事の「抜本見直し」に関する記述は、2026年9月2日時点で財務省サイトに掲載されている要望書の記載に基づくものであり、確定情報ではありません。今後、内容が変更される可能性があります。
2. 誰が、どの条文を対象に出したのか
要望書の冒頭には、対象となる条文が明記されています。ここが報道では読み取れない部分です。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 項目名 | 事業承継税制の抜本見直し |
| 主管 | 経済産業省中小企業庁事業環境部財務課 |
| 共同要望(主管ではない省庁) | 厚生労働省健康・生活衛生局生活衛生課 |
| 税目 | 相続税、贈与税(国税) |
| 対象法令①(法律) | 租税特別措置法 第70条の7 から 第70条の7の8 |
| 対象法令②(政令) | 租税特別措置法施行令 第40条の8 から 第40条の8の8 |
| 対象法令③(省令) | 租税特別措置法施行規則 第23条の9 から 第23条の12の5 |
| 平年度の減収見込額 | 精査中 |
| 制度自体の減収額 | ▲169,000百万円(=1,690億円) |
| 改正増減収額 | ― |
(出典:経済産業省「事業承継税制の抜本見直し」令和9年度税制改正要望事項。財務省サイト掲載PDF)
ここで見落とされやすいのが、対象条文の範囲です。
要望書が挙げている「第70条の7から第70条の7の8」には、平成30年に創設された特例措置だけでなく、平成21年から続く一般措置も含まれます。条文の並びは次のとおりです。
一般措置(平成21年に創設された制度)
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 措置法第70条の7 | 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除 |
| 措置法第70条の7の2 | 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除 |
| 措置法第70条の7の3 | 非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例 |
| 措置法第70条の7の4 | 非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除 |
特例措置(平成30年に創設された時限措置)
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 措置法第70条の7の5 | 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例 |
| 措置法第70条の7の6 | 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例 |
| 措置法第70条の7の7 | 非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例 |
| 措置法第70条の7の8 | 非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除の特例 |
(条文名はe-Gov法令検索・租税特別措置法の現行施行版〔令和8年8月12日施行〕により確認)
つまり、「特例措置が期限を迎えるから、その後継の制度をどうするか」という話にとどまらず、一般措置も含めた8本の条文がまとめて見直しの対象として書かれているということです。日本税理士会連合会が令和9年度の建議で「一般措置に代わる新たな猶予制度の創設」を求めているのも、同じ範囲を見ています。
3. 「免除」という報道と、要望書の書きぶりの違い
2026年8月下旬、経済産業省が事業承継税制について相続税・贈与税の「免除」を検討し、令和9年度の税制改正要望に盛り込むと報じられました。この報道を受けて弊社にも多くのお問い合わせをいただきました。
では、実際に提出された要望書には何と書かれているか。要望の内容欄の全文は次のとおりです。
(経済産業省「事業承継税制の抜本見直し」要望の内容欄)
ここで注意深く読んでいただきたいのが、「免除」という語が出てくる位置です。この一文で「免除」は、現行制度の名称の一部として出てきています。新しい制度を「猶予から免除に変える」と書いているのではありません。
弊社が要望書PDFの全文(9ページ)を確認した範囲では、「猶予を免除に改める」といった制度設計を明示する記載は見当たりませんでした。「免除」の語が現れるのは、①現行制度の名称、②現行制度の効果の説明(「その株式等に係る贈与税・相続税が猶予及び免除されるため」)、③平成27年度改正の経緯(「猶予継続贈与による免除規定の設置」)、④自己点検欄の措置名の4か所で、いずれも現行制度を説明する文脈です。
代わりに要望書が繰り返し使っているのは「稼ぐ力」という言葉です。自己点検欄の結びは次のようになっています。
報道は取材に基づくもので、要望書に書かれていない検討状況が背景にある可能性は十分にあります。一方で、財務省に提出された公式の要望書に書かれているのは「抜本的に見直し・強化」であって、免除への転換ではありません。制度の骨格は、年末の与党税制改正大綱まで確定しません。「免除になるらしいから待つ」という判断は、この段階では根拠が薄いとお考えください。
実務家の立場から申し上げると、要望書の書きぶりから読み取れる方向はむしろ「対象を絞る」です。「事業承継を契機に稼ぐ力強化に取り組む中小企業等を後押しする」という限定が入っており、現行の特例措置のように「特例承継計画を出した中小企業なら広く使える」という形とは、条件のかけ方が異なる可能性があります。
4. 数字で見る、いまの事業承継税制
要望書には、報道されていない実績値がそのまま載っています。順に見ていきます。
特例承継計画の申請件数(年度別)
| 年度 | 特例承継計画の申請件数 |
|---|---|
| 平成30年度 | 2,767件 |
| 令和元年度 | 3,246件 |
| 令和2年度 | 2,793件 |
| 令和3年度 | 2,658件 |
| 令和4年度 | 3,049件 |
| 令和5年度 | 5,546件 |
| 令和6年度 | 1,685件 |
| 令和7年度 | 2,264件 |
| 合計 | 24,008件 |
(出典:経済産業省「事業承継税制の抜本見直し」令和9年度税制改正要望事項・租税特別措置の適用実績欄。令和8年3月末時点。合計は当方計算)
この表には、制度の使われ方がそのまま出ています。令和5年度の5,546件は他の年度の約2倍です。特例承継計画の提出期限が当初は令和6年3月31日とされていたため、その直前に駆け込みが起きました。そして期限が延長されると、令和6年度は1,685件へ落ち込んでいます。期限が動くと、申請の山も動く。制度の使われ方が期限に強く支配されていることが読み取れます。
政策効果として示された数字
- 事業承継率(適用件数÷潜在活用企業数)……平成30年は8.8%で、税制創設時の想定水準を超えています。令和元年から令和6年についても、いずれも10%超です
- 雇用の維持……平成30年・令和元年の税制適用者のうち、96.6%が承継時の80%以上の雇用を維持しています
- 労働生産性(長期アウトカム)……平成30年・令和元年の税制適用者の労働生産性は、事業承継後5年間で6.1%向上しました。中小企業のKPI(令和3年〜令和7年度)である「5年で5%向上」に対して、要望書は目標は未達としています
- 税制を使わなかった会社との比較……同期間の税制非適用者の労働生産性の伸びは0.1%です
(出典:同要望書・要望内容と自己点検の関係欄)
6.1%と0.1%。この2つの数字の対比が、要望書のなかでもっとも雄弁な部分です。中小企業庁は「長期アウトカムは目標未達」と自ら認めたうえで、税制を使った会社と使わなかった会社で労働生産性の伸びに約6ポイントの差があることを示しています。「事業承継を契機に経営改革が起きる」という仮説の裏づけとして、この数字が出されているわけです。
そして冒頭の制度自体の減収額1,690億円。これは、この制度が毎年どれだけの税収を止めているかを示す公式の数字です。1,690億円の減収を伴う制度を、「使った会社の生産性は6.1%伸びた」という根拠で続けるかどうか。年末の大綱に向けた議論は、この土俵の上で行われます。
5. 期限は、1日も動いていません
要望のニュースでもっとも危険なのが、「見直しが来るなら、いま動かなくていい」という受け取り方です。条文を見るかぎり、期限は動いていません。
贈与・相続そのものの期限=令和9年12月31日
租税特別措置法第70条の7の5第1項(贈与)と第70条の7の6第1項(相続)は、特例措置の対象となる取得の期間を次のように定めています。
贈与(第70条の7の5第1項)……「平成三十年一月一日から令和九年十二月三十一日までの間の最初のこの項の規定の適用に係る贈与」
相続(第70条の7の6第1項)……「平成三十年一月一日から令和九年十二月三十一日までの間の最初のこの項の規定の適用に係る相続又は遺贈による取得」
※e-Gov法令検索・租税特別措置法の現行施行版(令和8年8月12日施行)の条文により確認
要望書が「10年間の時限的措置」と書いているのは、この平成30年1月1日から令和9年12月31日までの10年間を指しています。
特例承継計画の提出期限=令和9年9月30日(個人版は令和10年9月30日)
入口となる特例承継計画の提出期限は、租税特別措置法ではなく、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則に定められています。
第2項(法人版)……「令和九年九月三十日までに、様式第二十一による申請書に……都道府県知事に提出するものとする」
第4項(個人版)……「令和十年九月三十日までに、様式第二十一の三による申請書に……」
※e-Gov法令検索・中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の現行施行版(令和8年4月1日施行)の条文により確認
本記事を公開している2026年9月2日から数えると、法人版の特例承継計画の提出期限まで約1年、贈与・相続そのものの期限まで約1年4か月です。年末の大綱で「抜本見直し」の方向が示されるとしても、その新制度が動き出すのは早くて令和9年度の法改正後です。いまの期限と、新制度の開始時期のあいだに、空白が生まれる可能性があります。
過去のご相談の傾向として申し上げると、事業承継税制を「使うか・使わないか」で迷われる期間は、平均して長くかかります。株価の試算、後継者の役員就任、議決権の設計、他のご兄弟への配慮——決めなければならないことが多いためです。そのうえで、期限に押されて駆け込みで計画を出した場合、計画の内容と実際の承継がずれていくことが少なくありません。制度が動きそうなときこそ、「制度に合わせて承継を決める」のではなく、「自社の承継の計画を先に立て、そこに使える制度を当てはめる」という順番が効いてきます。
6. 実務でどう備えるか
要望の段階で、オーナー経営者が現実にできることは3つです。
① 特例承継計画は「出しておく」を基本線に置く
特例承継計画は、提出したからといって、必ず事業承継税制を使わなければならないものではありません。実際に贈与・相続の時点で適用を受けるかどうかは、そのときに判断できます。一方、出していなければ、特例措置の入口には立てません。令和9年9月30日という期限が先に来る以上、「迷っているなら、まず出しておく」という判断には合理性があります。
ただし、計画の作成には認定経営革新等支援機関の所見の記載が必要で、後継者を特定して記載します。形式だけ整えれば済むものではありません。
② 自社株の評価額を、いま一度出しておく
事業承継税制を使う・使わないの判断も、代替手段(持株会社、種類株式、譲渡、M&A)との比較も、出発点は自社株の評価額です。そして評価のルール自体が、いま国税庁の有識者会議で見直しの議論の対象になっています(別記事で詳述しています)。制度が2つ同時に動いている局面なので、いまの評価額という基準点を持っておくことの価値が、通常より高くなっています。
③ 「新制度を待つ」という選択肢のコストを計算しておく
抜本見直しが実現した場合、新制度が現行より有利になるとは限りません。要望書の書きぶりからは、対象が「稼ぐ力の強化に取り組む中小企業等」に絞られる可能性が読み取れます。待った結果、現行の特例措置も使えず、新制度の要件も満たさない——という事態は避けたいところです。「待つ」を選ぶ場合は、待った先で使えなかったときの税負担を数字で出したうえで選ぶ、というのが実務的な進め方です。
税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、自社株の評価、特例承継計画を出す場合と出さない場合の比較、持株会社化やM&Aを含めた出口の設計を、同じ土俵で比較できる資料としてお出ししています。
7. まとめ
- 財務省が令和9年度税制改正要望のページを公開し、17府省庁の要望書の現物が閲覧できるようになりました。弊社の確認では、9月1日時点では未掲載でした
- 事業承継税制については「事業承継税制の抜本見直し」が提出されています。主管は経済産業省中小企業庁事業環境部財務課、共同要望として厚生労働省健康・生活衛生局生活衛生課も同じ項目を出しています
- 対象条文は措置法第70条の7から第70条の7の8で、平成30年創設の特例措置だけでなく、平成21年から続く一般措置も含まれます
- 要望書に書かれているのは「抜本的に見直し・強化」であり、「猶予を免除に改める」という制度設計を明示する記載は、弊社が全文を確認した範囲では見当たりませんでした。報道の「免除」と要望書の記載は、同じものとして扱えません
- 制度自体の減収額は1,690億円、特例承継計画の申請件数は平成30年度から令和7年度までの累計で24,008件(当方計算)、適用者の労働生産性は5年で6.1%向上(非適用者は0.1%)——これらはすべて要望書に記載された数字です
- 期限は1日も動いていません。特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日(個人版は令和10年9月30日)、贈与・相続そのものの期限は令和9年12月31日です
よくある質問(FAQ)
事業承継税制は「免除」になるのですか?
抜本見直しが来るなら、特例承継計画は出さなくてよいですか?
なぜ厚生労働省が事業承継税制の要望を出しているのですか?
一般措置(平成21年からの制度)も見直されるのですか?
個人版事業承継税制はどうなりますか?
この要望は、いつ結論が出ますか?
出典・参考資料
- 財務省「令和9年度税制改正要望」(各府省庁からの要望事項)
- 経済産業省「事業承継税制の抜本見直し」令和9年度税制改正要望事項(PDF)
- 厚生労働省「事業承継税制の抜本見直し」令和9年度税制改正要望事項(PDF)
- 経済産業省「早期事業再生法の施行に伴う事業承継税制の拡充」令和9年度税制改正要望事項(PDF)
- 財務省「要望事項一覧表(全府省庁版)」令和9年度(PDF)
- 国税庁タックスアンサーNo.4148「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)の概要」
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」(昭和32年法律第26号)
- e-Gov法令検索「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則」(平成21年経済産業省令第22号)
- 財務省「税制改正の概要」(各年度の税制改正要望・大綱の掲載ページ)
- 根拠法令:租税特別措置法第70条の7・第70条の7の2・第70条の7の3・第70条の7の4・第70条の7の5・第70条の7の6・第70条の7の7・第70条の7の8、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則第17条第2項・第4項。条文はe-Gov法令検索により確認(租税特別措置法は現行施行版=令和8年8月12日施行、円滑化法施行規則は現行施行版=令和8年4月1日施行)
本記事は、法令および公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案における税務上の取扱いを保証するものではありません。本記事のうち「事業承継税制の抜本見直し」に関する記述は、令和9年度(2027年度)税制改正に向けた各府省庁の要望の内容であり、決まった制度ではありません。見直しの内容、対象となる企業の範囲、適用開始時期を含め、現時点で確定した内容はありません。税制改正要望は、政府税制調査会・与党税制調査会の議論、年末の与党税制改正大綱、翌年の法律の成立を経て初めて確定するものであり、内容が変更されること、実現しないことがあります。また、報道された内容と、財務省に掲載された要望書の記載とが一致しない場合があります。一方、本記事に記載した現行条文(特例措置の対象期間、特例承継計画の提出期限、対象条文の範囲)は、記事作成時点における条文の内容です。本記事は2026年9月2日時点の情報に基づくものであり、その後の制度改正・公表資料の更新により記載内容が現行と異なる場合があります。事業承継の実行にあたっては、最新の法令および国税庁・中小企業庁の公表資料をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年9月2日
事業承継は、制度が決まるのを待たずに現在地を測ります
公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、自社株の評価額の算定、特例承継計画を出す場合と出さない場合の比較、持株会社化やM&Aを含めた出口の設計までを、同じ土俵で比較できる資料としてお出ししています。期限が先に来ますので、方針が固まる前の段階からのご相談がもっとも効果的です。
無料相談はこちらこの記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年9月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。
