自社株の評価見直しに経済産業省が「慎重な検討を」|令和9年度税制改正要望を財務省が公表、減収額ゼロの異例の要望を税理士が解説【2026年9月2日時点】

財務省が令和9年度(2027年度)税制改正要望のページを公開し、17の府省庁が提出した要望書の現物が読めるようになりました。そのなかに、税制改正要望としてはかなり異例の1本が入っています。 経済産業省が出した「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」です。異例なのは中身です。減税を求めていません。平年度の減収見込額も、制度自体の減収額も、改正増減収額も、すべて「―」。求めているのは、いま国税庁で進んでいる自社株の評価方式の見直しについて、「企業の成長や事業承継を阻害することがないよう、慎重な検討が必要である」ということ——つまりブレーキです。 税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも、「自社株の評価が上がると聞いたが、いま贈与を進めるべきか」というご相談は実際に寄せられています。本記事では、この要望書に何が書かれているか、そしてその出発点になった会計検査院の指摘は原文で何と書かれているかを、条文と原資料にさかのぼって整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
  2. 2. 要望書に何が書かれているか
  3. 3. 出発点になった会計検査院の指摘――原文で読む
  4. 4. なぜ経済産業省がブレーキを踏むのか
  5. 5. 実務でどう備えるか
  6. 6. まとめ
  7. よくある質問(FAQ)

1. 何が起きたのか(3行サマリー)

  • 経済産業省が令和9年度税制改正要望として「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」を提出しました。財務省のサイトに要望書のPDFが掲載されています
  • 内容は減税の要望ではありません。「今般の評価方式の見直しにあたっては、企業の成長や事業承継を阻害することがないよう、慎重な検討が必要である」として、見直しの進め方そのものに注文を付ける要望です。減収見込額はすべて「―」です
  • 背景として、会計検査院の指摘が名指しで挙げられています。要望書は「令和6年11月に会計検査院の検査報告において……指摘を受けたことを踏まえ、見直しの議論が行われている」と記載しています
📌 【2026年9月2日時点】評価の見直しは、まだ何も決まっていません
国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は令和8年4月20日から開催され、令和8年8月20日の第5回で国税庁の考える見直しの方向性(たたき台)が示された段階です。財産評価基本通達の改正案も、意見公募(パブリックコメント)も、適用開始時期も、本記事の作成時点では公表されていません。本記事で紹介する経済産業省の要望も、年末の与党税制改正大綱・翌年の法改正を経て初めて結論が出るものであり、確定情報ではありません。今後、内容が変わる可能性があります。

2. 要望書に何が書かれているか

要望書の記載事項を、原文どおりに整理します。

項目記載内容
項目名取引相場のない株式の評価方式に関する見直し
提出府省庁経済産業省
税目相続税・贈与税(財産評価基本通達
平年度の減収見込額
制度自体の減収額
改正増減収額
適用又は延長期間期限の定めなし

要望書の冒頭に記載された担当課は、次の5課の連名です。

  • 中小企業庁事業環境部財務課
  • 経済産業政策局地域経済産業政策課
  • 経済産業政策局産業創造課
  • 経済産業政策局産業組織課
  • イノベーション・環境局イノベーション創出新事業推進課

(出典:経済産業省「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」令和9年度税制改正要望事項。財務省サイト掲載PDF)

要望の内容欄は、次の一文です。

取引相場のない株式の評価は、株主の区分及び会社の規模等に応じて実態に即した評価をすることとされているが、今般の評価方式の見直しにあたっては、企業の成長や事業承継を阻害することがないよう、慎重な検討が必要である。見直しによる影響や事業者の懸念を踏まえ適切な措置となるように検討する。
(経済産業省「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」要望の内容欄)

見落としてはいけないのが「税目」の欄です

この要望書でもっとも珍しいのは、税目の欄に「財産評価基本通達」と書かれていることです。

財産評価基本通達は、法律でも政令でも省令でもありません。国税庁長官が国税局長あてに発した通達で、法令の解釈と取扱いを示すものです。本来、税制改正要望が対象とするのは法律・政令・省令であり、通達の改正は国税庁の判断で行えます。それを、あえて税制改正要望の「税目」欄に書いて財務省に提出したということになります。

これは、国税庁側の説明と符合しています。有識者会議の第4回(令和8年7月3日開催)の議事要旨で、事務局は「今回の見直しは税制改正プロセスを経て行うことになる」と述べています。通達の改正でありながら、年末の税制改正の議論の土俵に乗る——その前提に立って、経済産業省が正面から意見を出した、という構図です。

⚠️ 「減税要望ではない」ということの意味
税制改正要望は通常、「この特例を延長してほしい」「この控除を拡充してほしい」という形で提出され、要望書には減収見込額が記載されます。今回の要望は減収見込額がすべて「―」で、求めているのは金額の増減ではなく進め方です。要望が通ったとしても、減税が実現するわけではありません。逆に言えば、「見直しの結果として増税になることを警戒している」という立場表明として読むのが自然です。

3. 出発点になった会計検査院の指摘――原文で読む

要望書は、見直しの議論が始まった経緯を次のように書いています。

取引相場のない株式の相続税評価は、令和6年11月に会計検査院の検査報告において、「異なる規模の会社間での公平性や社会経済の変化を考慮し、より適切なものとなるよう検討を行っていくことが肝要」との指摘を受けたことを踏まえ、見直しの議論が行われている。
(同要望書・要望の措置の妥当性欄)

ここでいう検査報告は、会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4章 第4「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について」です。弊社で原文にあたったところ、要望書の引用は原文を短くまとめたもので、原文はもう少し踏み込んだ書き方をしていました。原文の該当箇所は次のとおりです。

ついては、国税庁において、相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について、異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間での株式の評価の公平性や社会経済の変化を考慮するなどして、評価制度の在り方について様々な視点からより適切なものとなるよう検討を行っていくことが肝要である。
(会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4章 第4「4 本院の所見」。太字は当方)

要望書が「異なる規模の会社間での公平性」と要約している部分は、原文では「異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間での株式の評価の公平性」です。会計検査院が問題にしているのは会社の間の公平ではなく、株式を取得した人(相続人・受贈者)の間の公平——つまり納税者間の公平です。ここは意味が変わる部分ですので、原文で押さえておく価値があります。

会計検査院が併せて指摘しているのは、配当還元方式の還元率です。原文は「配当還元方式の計算式についてはその評価額に大きく影響を与える改正は行われておらず、その還元率についても見直されていない」「その還元率は、社会経済の変化に応じたものとはなっておらず、評価の安全性を考慮しているものであるとしても、近年の金利の水準と比べて相対的に高い率となっているおそれがある」としています。還元率が高いままだと、そこから算定される評価額は相対的に低くなります。

4. なぜ経済産業省がブレーキを踏むのか

要望書の「施策の必要性」欄には、理由が2段構えで書かれています。

企業の経営者は、事業承継が必要な70代以上の事業者や今後事業承継が必要となる60代の事業者も多く、事業承継は喫緊の課題である。
一方、今般検討が行われている評価方法の見直しでは、現行の評価方式と大きく変わることによって、多くの企業に影響を及ぼす可能性がある。企業の成長や事業承継を阻害することがないよう、慎重な検討が必要である。
(同要望書・施策の必要性欄。太字は当方)

「現行の評価方式と大きく変わる」というのは、たしかに国税庁が第5回会議で示した方向性の中身と一致します。示されているのは、①会社規模別の区分(大会社・中会社・小会社)の廃止、②類似業種比準方式は存置が困難ではないか、③純資産価額を「時価」ではなく「簿価」で見る、④インカムアプローチの「残余利益方式」を主軸に据える、という内容です。いずれも実現すれば、いまの評価実務は前提から組み直しになります

10年越しの論点であることも、要望書に書かれています

要望書の「これまでの要望経緯」欄には、次の2行だけが記載されています。

年度経緯
平成28年度改正要望。「適切なあり方について早急に総合的な検討を行う」とされた
平成29年度改正類似業種比準方式の算定式の見直し等

(出典:同要望書・これまでの要望経緯欄)

平成28年度から10年越しの論点である、ということです。このときは経済産業省が「見直してほしい」と要望する側でした。平成29年度改正では、類似業種比準方式の算定式の見直し(配当・利益・簿価純資産の比重を1:1:1にする等)が実際に行われています。同じテーマで、今回は慎重にという側から要望を出している。立ち位置が入れ替わっているところが、この10年の重みです。

💬 実務の現場から
過去のご相談の傾向として申し上げると、自社株の評価の話は「上がるのか、下がるのか」だけで受け止められがちです。ですが実務では、同じ会社でも評価方式が変わるだけで結論が反転することがあります。たとえば、含み益のある不動産を持つ会社は純資産価額のウエイトが上がると評価が跳ね、逆に利益が出ている会社は類似業種比準のウエイトが下がると評価が上がる。自社がどちら向きに効くかは、いまの評価方式で一度きちんと計算してみないと分かりません。制度が動くかもしれない局面では、この「現在地」を持っているかどうかが、判断の速さをそのまま決めます。

5. 実務でどう備えるか

見直しの内容が決まっていない以上、確実なことは限られています。それでも、いまできることが3つあります。

① 現行方式での評価額を、いま出しておく

見直しが自社にとって有利に働くか不利に働くかを判断するには、比較対象としての「いまの評価額」が要ります。会社規模区分の判定(従業員数・総資産価額・取引金額)、類似業種比準価額と純資産価額の内訳、L割合——このあたりを一度きちんと出しておくと、方向性が示されたときにすぐ試算し直せます。

② 「見直しを待つ」のコストを数字にしておく

自社株の贈与を検討しているオーナーにとって、「評価が下がるかもしれないから待つ」も「上がるかもしれないから急ぐ」も、どちらも賭けです。どちらの賭けにも金額がついているので、それを出しておくことをおすすめします。たとえば「いま贈与した場合の贈与税額」と「評価額が2割上がった場合の贈与税額」の差額です。差額が小さければ待てますし、大きければ待つ理由を別に用意する必要があります。

③ 事業承継税制の期限とセットで考える

自社株評価の見直しと同時に、事業承継税制の抜本見直しも令和9年度の要望に入っています。そして事業承継税制の特例措置には、特例承継計画の提出期限(令和9年9月30日)と、贈与・相続そのものの期限(令和9年12月31日)という動いていない期限があります。評価の見直しを待っているうちに、こちらの期限が先に来る可能性があります。2つの制度は同じスケジュール上で見る必要があります。

税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、現行方式での評価額の算定、評価方式が変わった場合の感応度の試算、事業承継税制を使う場合と使わない場合の比較を、同じ土俵で並べた資料としてお出ししています。

6. まとめ

  • 経済産業省が令和9年度税制改正要望として「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」を提出し、財務省のサイトに要望書のPDFが掲載されました
  • これは減税要望ではありません。減収見込額はすべて「―」で、求めているのは「企業の成長や事業承継を阻害することがないよう、慎重な検討が必要である」という進め方への注文です
  • 税目の欄に「財産評価基本通達」と書かれています。通達の改正でありながら税制改正の土俵に乗るという前提は、国税庁が有識者会議の第4回議事要旨で「今回の見直しは税制改正プロセスを経て行うことになる」と述べている点と符合します
  • 出発点は会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4章 第4です。要望書の引用は要約で、原文は「異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間での株式の評価の公平性」——つまり納税者間の公平を問題にしています
  • 担当課は5課の連名で、平成28年度から続く10年越しの論点です。当時は経済産業省が「見直してほしい」と求める側でした
  • 決まったことは何もありません。財産評価基本通達の改正案も、意見公募も、適用開始時期も未公表です

よくある質問(FAQ)

自社株の評価は上がるのですか、下がるのですか?

決まっていません。国税庁が第5回の有識者会議で示したのは方向性(たたき台)で、財産評価基本通達の改正案は本記事の作成時点では公表されていません。なお、有識者会議の第4回議事要旨で事務局は「今般の評価方法の見直しは……あくまで評価の適正化を目的としており、全体として相続税の増税を目的で行うものではない」と述べています。ただし、個々の会社にとって評価額が上がるか下がるかは、会社の中身によって異なります。

経済産業省が反対しているということですか?

要望書に「反対」という言葉はありません。書かれているのは「慎重な検討が必要である」「見直しによる影響や事業者の懸念を踏まえ適切な措置となるように検討する」です。見直し自体を止めるのではなく、進め方と影響への配慮を求める内容と読むのが素直です。

財産評価基本通達は法律ではないのに、税制改正の対象になるのですか?

財産評価基本通達は国税庁長官の通達で、法律・政令・省令ではありません。通達の改正は国税庁の判断で行えます。ただし今回は、国税庁自身が有識者会議で「税制改正プロセスを経て行う」と述べており、経済産業省も税制改正要望の税目欄に「財産評価基本通達」と明記して要望を提出しています。

いま自社株の贈与を進めてよいですか?

一般論として申し上げると、判断の材料は「見直しがどうなるか」ではなく「いまの評価額と、想定される変化幅」です。現行方式での評価額を出したうえで、待つ場合・進める場合の税額を比較するのが実務的な進め方です。あわせて、事業承継税制の特例承継計画の提出期限(令和9年9月30日)が動いていない点も考慮が必要です。

結論はいつ出ますか?

国税庁は有識者会議の第4回議事要旨で「今秋を目途に一定の方向性をお示しできるよう進めてまいりたい」と述べています。税制改正の一般的な流れでは、年末の与党税制改正大綱で方向が示されます。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案における税務上の取扱いを保証するものではありません。本記事が扱う経済産業省の要望は、令和9年度(2027年度)税制改正に向けた要望の内容であり、決まった制度ではありません。また、財産評価基本通達の改正はまだ行われておらず、見直しの内容・適用開始時期はいずれも決まっていません。国税庁の有識者会議で示された内容は方向性(たたき台)であり、改正案・意見公募・適用開始時期はいずれも本記事の作成時点で公表されていません。税制改正要望は、政府税制調査会・与党税制調査会の議論、年末の与党税制改正大綱、翌年の法律の成立を経て初めて確定するものであり、内容が変更されること、実現しないことがあります。本記事は2026年9月2日時点の情報に基づくものであり、その後の制度改正・公表資料の更新により記載内容が現行と異なる場合があります。自社株の評価・贈与・事業承継の実行にあたっては、最新の法令・通達および国税庁の公表資料をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年9月2日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から、M&A・組織再編・事業承継、国際税務・資産防衛まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年9月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。