上場株式等の配当の課税方式の決定版|総合課税・申告分離・申告不要の選び方を税理士が解説【2026年版】

配当をもらったとき、確定申告をするかどうかは自由に選べます。しかも「総合課税」「申告分離課税」「申告不要」の3つから選べます。税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも、「配当は申告したほうが得ですか」というご相談が実際に寄せられます。 ここで多くの解説が今も書いている「課税所得900万円以下なら総合課税が有利」という目安は、制度が変わった今、そのまま使うと判断を誤ります。令和6年度分の個人住民税から、所得税と住民税で別々の課税方式を選ぶことができなくなったからです。かつての「所得税は総合課税、住民税は申告不要」という組み合わせは、もう使えません。 本記事では、3つの選択肢の違い、住民税と一致させられた条文上の根拠、配当控除率を全区分掲載したうえでの有利・不利の分岐点、オーナー経営者を直撃する「大口株主等」の判定、そして申告することの副作用まで、上場株式等の配当の課税方式を体系的に整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 3行サマリー
  2. 2. 前提——配当所得と源泉徴収の2つの税率
  3. 3. 3つの選択肢——違いを全項目で比較する
  4. 4. 【2026年の最重要論点】住民税だけ別の方式を選ぶことは、もうできない
  5. 5. どれが得か——配当控除を全区分掲載して実効税率で比べる
  6. 6. オーナー経営者を直撃する「大口株主等」——3%と、同族会社の合算
  7. 7. 非上場株式の配当——オーナーの自社配当はここに入る
  8. 8. 特定口座と、譲渡損失との損益通算・繰越控除
  9. 9. 申告することの副作用——税率だけで決めてはいけない理由
  10. 10. 失敗vs王道
  11. 11. まとめ
  12. よくある質問(FAQ)

1. 3行サマリー

  • 上場株式等の配当等は、①総合課税で申告する ②申告分離課税で申告する ③申告不要とするの3つから選べます(国税庁タックスアンサーNo.1330、No.1331)。ただし大口株主等が受けるものは総合課税しか選べません
  • 令和6年度分の個人住民税から、所得税と住民税で異なる課税方式を選ぶことはできません。住民税の申告不要は「所得税の確定申告書に明細の記載がないこと」が条件(地方税法第32条第13項)、住民税の申告分離課税は「所得税で租税特別措置法第8条の4第1項の適用を受けたこと」が条件(同法附則第33条の2第2項・第6項)と、条文が所得税の選択に紐づけて書かれています
  • 配当控除を織り込んだ実効税率で比べると、総合課税が有利なのは課税所得695万円までの区分です。695万円超の区分では申告分離課税(20.315%)とほぼ同じか、それより不利になります。「900万円まで総合課税が有利」は、住民税だけ申告不要にできた時代の目安です。

2. 前提——配当所得と源泉徴収の2つの税率

配当所得とは、株主や出資者が法人から受ける剰余金や利益の配当、剰余金の分配、基金利息、投資法人からの金銭の分配、投資信託(公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託以外のもの)および特定受益証券発行信託の収益の分配などに係る所得をいいます(国税庁タックスアンサーNo.1330)。

配当所得の金額は、次のように計算します。

収入金額(源泉徴収税額を差し引く前の金額)− 株式などを取得するための借入金の利子 = 配当所得の金額

差し引ける借入金の利子は、配当所得を生ずべき元本のその年における保有期間に対応する部分に限られます。譲渡した株式に係るものや、確定申告をしないことを選択した配当に係るものは差し引けません。

源泉徴収の税率は2つある

配当等が支払われる際の源泉徴収は、次の2区分です。

区分源泉徴収の税率
上場株式等の配当等(大口株主等が受けるものを除く)所得税および復興特別所得税 15.315% / 地方税 5%
上場株式等以外の配当等(=非上場株式の配当。大口株主等が受ける上場株式等の配当等を含む)所得税および復興特別所得税 20.42% / 地方税なし

(出典:国税庁タックスアンサーNo.1330「配当金を受け取ったとき(配当所得)」

💡 非上場株式の配当は地方税が源泉徴収されません。所得税だけ20.42%が引かれた状態で手元に来て、住民税は後から所得割として課されます。オーナー経営者が自社から配当を受け取ったとき、「手取りの2割強しか引かれていないから軽い」と感じるのはこのためです。実際は総合課税の対象なので、翌年の住民税でまとめて追いかけてきます。

3. 3つの選択肢——違いを全項目で比較する

上場株式等の配当等に関する課税関係を、国税庁が整理している全項目で掲げます。

項目総合課税申告分離申告不要
借入金利子の控除ありありなし
税率累進20.315%源泉で完結
配当控除あり(※1)なしなし
譲渡損失との損益通算なしありなし
合計所得金額含まれる含まれる(※2)含まれない

「申告分離」の20.315%は、所得税および復興特別所得税15.315%と地方税5%の合計です。「合計所得金額」の行は、扶養控除等の判定に用いる合計所得金額に配当所得が含まれるかどうかを示しています。

※1 外国法人から受ける配当等、特定目的信託に係る配当等、特定目的会社から支払を受ける配当等、投資法人から支払を受ける配当等、特定受益証券発行信託の収益の分配に係る配当等などは、配当控除の対象となりません。 ※2 上場株式等に係る譲渡損失と申告分離課税を選択した上場株式等に係る配当所得との損益通算の特例の適用を受けている場合はその適用後の金額、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用を受けている場合はその適用前の金額になります。

(出典:国税庁タックスアンサーNo.1331「上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」

選択の単位と、やり直しの可否

ここを取り違えると申告そのものをやり直すことになります。

  • 総合課税と申告分離課税は、申告する上場株式等の配当所得の全額について、どちらか一方を選ぶことになります。銘柄ごとに使い分けることはできません(No.1331)。
  • 申告不要制度は、1回に支払を受けるべき配当等の額ごとに選べます(源泉徴収選択口座内の配当等については口座ごと)。つまり「A社の配当は申告して、B社の配当は申告しない」はできます(No.1330)。
  • 🔴確定申告でいずれかを選択した場合、その後、修正申告や更正の請求でその選択を変更することはできません(No.1331 注1)。「あとで有利なほうに直せばいい」は通用しません。

申告不要にできる配当・できない配当

確定申告不要制度の対象となる配当等は、主に次のとおりです(No.1330)。

  • 上場株式等の配当等(大口株主等が受ける場合を除く)……金額にかかわらず申告不要にできます。
  • 少額配当……1回に支払を受けるべき配当等の金額が「10万円 × 配当計算期間の月数 ÷ 12」以下である場合。配当計算期間が1年を超える場合は12月として計算し、1月に満たない端数は1月として計算します。非上場株式の配当はこの少額配当の枠でしか申告不要にできません
  • なお、確定申告不要制度を選択した配当所得に係る源泉徴収税額は、その年分の所得税額から差し引くことはできません

4. 【2026年の最重要論点】住民税だけ別の方式を選ぶことは、もうできない

かつては、所得税で総合課税を選び、住民税では申告不要を選ぶ、という組み合わせができました。配当控除(所得税10%)を取りつつ、住民税は源泉徴収の5%で完結させる——これが「課税所得900万円以下なら総合課税が有利」という目安の前提でした。

この組み合わせは、令和6年度分の個人住民税から使えません。 令和4年度税制改正により、上場株式等の配当所得等・譲渡所得等に係る個人住民税の課税方式は、所得税と一致させることとされたためです。

条文はこう書かれている

一般の解説では「一致させることになった」で終わりますが、実際の条文は住民税側の取扱いを、所得税でどう申告したかに紐づける書き方をしています。ここを見ておくと、判断の理由がはっきりします。

  • 住民税の申告不要……地方税法第32条第12項は、特定配当等に係る所得を総所得金額から除外すると定めています。そのうえで同条第13項が、「前項の規定は、前年分の所得税に係る確定申告書に特定配当等に係る所得の明細に関する事項その他総務省令で定める事項の記載があるときは、当該特定配当等に係る所得の金額については、適用しない」と定めています。つまり、所得税の確定申告書に書いた瞬間、住民税でも除外されなくなります
  • 源泉徴収口座の譲渡益も同じ……同条第14項・第15項が、特定株式等譲渡所得金額について同じ構造の規定を置いています。
  • 住民税の申告分離課税……地方税法附則第33条の2第1項(道府県民税)・第5項(市町村民税)が申告分離課税を定めたうえで、同条第2項・第6項が「その部分は、納税義務者が前年分の所得税について当該特定上場株式等の配当等に係る配当所得につき租税特別措置法第8条の4第1項の規定の適用を受けた場合に限り適用する」と定めています。所得税で申告分離課税を選んで初めて、住民税でも申告分離課税になるという構造です。
💡 住民税の所得割の税率も、条文で分けて書かれています。上場株式等に係る課税配当所得等の金額に対しては、道府県民税が2%(指定都市の区域内に住所を有する場合は1%)、市町村民税が3%(指定都市の場合は4%)(地方税法附則第33条の2第1項・第5項)。合計は5%で同じですが、内訳は住んでいる市によって違います。

実務上の意味

この改正で、上場株式等の配当は「所得税と住民税をワンセットで判断するもの」に変わりました。総合課税を選ぶと、住民税でも配当所得が総所得金額に入り、所得割10%が課される(配当控除は後述のとおり2.8%または1.4%)ことになります。国民健康保険料や後期高齢者医療保険料は住民税の課税情報をもとに算定されますから、保険料への影響も、住民税を切り離せなくなった分だけ大きくなりました

5. どれが得か——配当控除を全区分掲載して実効税率で比べる

有利・不利は、配当控除を織り込んだ実効税率で比べるのが正確です。まず控除率を、所得税・住民税とも省略せず掲げます。

所得税の配当控除率(国税庁タックスアンサーNo.1250)

配当控除を受けられるのは、日本国内に本店のある法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、金銭の分配、証券投資信託の収益の分配などで、確定申告において総合課税の適用を受けた配当所得に限られます。したがって外国法人から受ける配当等は対象外です。

配当控除の対象にならない配当は、次のとおりです(No.1250。全11項目を掲載)。

  1. 基金利息
  2. 私募公社債等運用投資信託等の収益の分配に係る配当等
  3. 国外私募公社債等運用投資信託等の配当等
  4. 外国株価指数連動型特定株式投資信託の収益の分配に係る配当等
  5. 特定外貨建等証券投資信託の収益の分配に係る配当等
  6. 適格機関投資家私募による投資信託から支払を受けるべき配当等
  7. 特定目的信託から支払を受けるべき配当等
  8. 特定目的会社から支払を受けるべき配当等
  9. 投資法人から支払を受けるべき配当等
  10. 確定申告不要制度を選択したもの
  11. 申告分離課税制度を選択したもの

控除率は、その年分の課税総所得金額等が1,000万円以下か超かで変わります。

  • 剰余金の配当・利益の配当・剰余金の分配・金銭の分配・特定株式投資信託の収益の分配……課税総所得金額等1,000万円以下の部分は10%、1,000万円を超える部分は5%
  • 証券投資信託の収益の分配(特定株式投資信託を除く)……1,000万円以下の部分は5%、超える部分は2.5%
  • うち特定外貨建等証券投資信託以外の外貨建等証券投資信託の収益の分配……1,000万円以下の部分は2.5%、超える部分は1.25%

「課税総所得金額等」とは、課税総所得金額、土地等に係る課税事業所得等の金額(平成10年1月1日から令和8年3月31日までの間は適用なし)、課税長期(短期)譲渡所得の金額、上場株式等に係る課税配当所得等の金額、株式等に係る課税譲渡所得等の金額および先物取引に係る課税雑所得等の金額の合計額をいいます。配当控除の金額は算出税額を限度とします

住民税の配当控除率(地方税法附則第5条)

住民税側の控除率は地方税法附則第5条に定められており、道府県民税と市町村民税に分かれています。合計すると指定都市でも同じ率になります。

  • 剰余金の配当等……課税総所得金額1,000万円以下は合計2.8%(道府県民税1.2%+市町村民税1.6%。指定都市は0.56%+2.24%)、1,000万円超の部分は合計1.4%(0.6%+0.8%。指定都市は0.28%+1.12%)
  • 証券投資信託の収益の分配……1,000万円以下は合計1.4%(0.6%+0.8%。指定都市は0.28%+1.12%)、超える部分は合計0.7%(0.3%+0.4%。指定都市は0.14%+0.56%)
  • 一般外貨建等証券投資信託の収益の分配……1,000万円以下は合計0.7%(0.3%+0.4%。指定都市は0.14%+0.56%)、超える部分は合計0.35%(0.15%+0.2%。指定都市は0.07%+0.28%)

実効税率の比較(剰余金の配当の場合)

所得税の速算表(国税庁タックスアンサーNo.2260)の7段階すべてについて、剰余金の配当を総合課税で申告した場合の実効税率を計算します。所得税には復興特別所得税が2.1%上乗せされます。復興特別所得税の課税標準である基準所得税額は、配当控除を差し引いたあとの所得税額です(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第10条は、除外する規定として所得税法第93条および第95条のみを挙げており、配当控除の第92条は除外されていません)。したがって計算式は次のとおりです。

実効税率 =(所得税率 − 所得税の配当控除率)× 1.021 +(住民税率10% − 住民税の配当控除率)

所得税の速算表の税率と、課税される所得金額の区分の対応は次のとおりです(No.2260。7段階すべて)。

  • 5%……1,000円から194万9,000円まで
  • 10%……195万円から329万9,000円まで
  • 20%……330万円から694万9,000円まで
  • 23%……695万円から899万9,000円まで
  • 33%……900万円から1,799万9,000円まで
  • 40%……1,800万円から3,999万9,000円まで
  • 45%……4,000万円以上

これを算式に当てはめた結果が次のとおりです。左端は所得税の税率区分です。

税率区分所得税+復興分住民税合計
5%0%7.2%約7.2%
10%0%7.2%約7.2%
20%10.21%7.2%約17.41%
23%13.273%7.2%約20.47%
33%(1,000万円以下の部分)23.483%7.2%約30.68%
33%(1,000万円超の部分)28.588%8.6%約37.19%
40%35.735%8.6%約44.34%
45%40.84%8.6%約49.44%

税率5%・10%の区分で所得税が0%になるのは、配当控除率10%が所得税率を上回るためです(配当控除の額は算出税額を限度とします)。住民税が7.2%から8.6%に上がるのは、課税総所得金額等が1,000万円を超えると住民税の配当控除率が2.8%から1.4%に下がるためです。

申告分離課税・申告不要の税率は、いずれも20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%+住民税5%)です。 上表と突き合わせると、有利・不利は次のように分かれます。

  • 課税所得 694万9,000円まで(税率5%・10%・20%の区分)……総合課税が有利
  • 課税所得 695万円〜899万9,000円(税率23%の区分)……ほぼ互角。わずかに申告分離課税が有利
  • 課税所得 900万円以上(税率33%以上の区分)……申告分離課税が有利
💡 分岐点は課税所得695万円です。695万円未満の区分(税率20%まで)なら総合課税の約17.41%が20.315%を下回り、総合課税が有利になります。695万円以上(税率23%)の区分では約20.47%となり、申告分離課税とほぼ同じか、わずかに不利です。「900万円まで総合課税が有利」という目安は、住民税だけ申告不要にできた時代(住民税5%で完結できた時代)のものです。

⚠️ 上表は税率だけの比較です。実際の判断では、次章で述べる「合計所得金額に入ることの副作用」を必ず併せて検討してください。表の数値は、剰余金の配当(証券投資信託の収益の分配を除く)について、条文および国税庁公表の率を算式に当てはめて計算した値です。

6. オーナー経営者を直撃する「大口株主等」——3%と、同族会社の合算

ここは、上場企業の創業家・大株主にとって最も重要な論点です。

発行済株式の総数等の3%以上に相当する数または金額の株式等を有する個人(大口株主等)が支払を受ける上場株式等の配当等は、次の扱いになります(No.1330、No.1331)。

  • 源泉徴収は20.42%(軽減税率15.315%の対象外)。
  • 総合課税の対象であり、申告分離課税も確定申告不要制度も選べません(少額配当である場合を除く)。

そして、令和4年度税制改正により判定が広がりました。

🔴 令和5年10月1日以後に支払われる上場株式等の配当等については、その支払いを受ける方およびその支払いを受ける方を判定の基礎となる株主として選定した場合に同族会社に該当する法人が保有する株式等の発行済株式等の総数等に占める割合(株式等保有割合)が3%以上となる場合、その配当等は大口株主等と同様、総合課税の対象となります(No.1330 注、No.1331 注2)。

つまり、個人で3%未満に抑えていても、自分の資産管理会社の保有分と合算して3%以上になれば、総合課税です。上表のとおり課税所得1,800万円超の区分なら実効税率は約44〜49%になり、20.315%で済むと思っていた前提が崩れます。

💬 実務の現場から
資産管理会社を設けて上場株式を移した結果、個人分と合算して3%を超えていた、というご相談は実際に寄せられます。ご相談の傾向として申し上げると、株式を移した時点では持株比率が3%未満で、その後の自己株式取得や他の株主の売却によって分母が減り、意図せず3%に達していたという形が目立ちます。持株比率は「動かしていないから変わらない」ものではありません。発行済株式総数の変動があった年は、必ず再判定してください。

7. 非上場株式の配当——オーナーの自社配当はここに入る

自社(非上場)から配当を受け取る場合の取扱いを整理します。

  • 源泉徴収は20.42%(地方税なし)。
  • 総合課税の対象であり、申告分離課税は選べません(No.1330)。
  • 申告不要にできるのは少額配当(1回の支払につき「10万円×配当計算期間の月数÷12」以下)に限られます。年1回配当なら10万円が目安です。
  • 総合課税なので、配当控除(10%または5%)の対象にはなります。

役員報酬と配当のどちらで取るかという検討では、この総合課税の実効税率(上表)に加えて、法人側で配当は損金にならない(役員報酬は要件を満たせば損金になる)こと、社会保険料の算定対象が役員報酬であること、配当は株主全員に持株数に応じて出ることを併せて比較する必要があります。詳しくは役員報酬の記事で扱います。

8. 特定口座と、譲渡損失との損益通算・繰越控除

申告分離課税を選ぶ最大の実益は、上場株式等の譲渡損失と損益通算できることです。

損益通算と繰越控除の仕組み

上場株式等を金融商品取引業者等を通じて譲渡したことにより生じた譲渡損失の金額は、確定申告により、その年分の上場株式等の配当等に係る利子所得の金額および配当所得の金額(配当所得については申告分離課税を選択したものに限る)と損益通算できます。控除しきれない損失は、翌年以後3年間にわたり、確定申告により繰越控除できます(国税庁タックスアンサーNo.1474)。

注意点を省略せず挙げます。

  • 繰り越された上場株式等に係る譲渡損失の金額は、一般株式等(非上場株式等)に係る譲渡所得等の金額から控除することはできません
  • 上場株式等の譲渡であっても、いわゆる相対取引などにより生じた譲渡損失については、損益通算および繰越控除はできません。
  • NISA(非課税口座)および旧ジュニアNISA(未成年者口座)内の上場株式等を譲渡したことにより生じた譲渡損失については、損益通算および繰越控除はできません。
  • 繰越控除を受けるには、損失が生じた年分について「確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」と「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を添付した確定申告書を提出し、その後の年において連続して付表を添付した確定申告書を提出する必要があります。🔴上場株式等の譲渡がなかった年も、譲渡損失を翌年へ繰り越すための申告が必要です。

特定口座(源泉徴収口座)を使うときの落とし穴

特定口座は、1金融商品取引業者等につき1口座に限り開設できます。源泉徴収を選択する場合は、その年の最初の譲渡の時までに「特定口座源泉徴収選択届出書」を提出する必要があり、その選択は年単位なので、年の途中で源泉徴収を行わないように変更することはできません(No.1476)。

源泉徴収口座に配当等を受け入れると、口座内の譲渡損失と配当等が自動で相殺されて源泉徴収税額が計算されます。ここまでは申告不要のままで完結します。ただし、次の点に注意が必要です。

  • 源泉徴収口座内の上場株式等の譲渡による所得は、口座ごとに、申告するか申告不要とするかを選べます
  • 源泉徴収口座に受け入れた利子等・配当等も口座ごとに選択できます(1回に支払を受ける配当等ごとの選択はできません)。
  • 🔴源泉徴収口座内で生じた譲渡損失の金額を申告する場合には、その口座に受け入れた利子等・配当等を申告不要とすることはできず、これらも併せて申告しなければなりません(No.1476)。「損失だけ申告して、配当は申告不要のままにする」はできません。
  • 他の口座の譲渡損益と相殺する場合や、繰越控除の適用を受ける場合は、確定申告が必要です。

9. 申告することの副作用——税率だけで決めてはいけない理由

申告分離課税でも総合課税でも、申告した瞬間に合計所得金額に含まれます(前掲の比較表)。申告不要なら合計所得金額に含まれません。ここが、税率の比較だけでは見えない部分です。

合計所得金額・総所得金額が増えると、次のような影響が及びます。

  • 配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除の判定(扶養に入っている方が配当を申告すると、扶養から外れることがあります)
  • 基礎控除の逓減・消失(合計所得金額に応じて金額が変わります)
  • 国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・介護保険料(住民税の課税情報をもとに算定されるため、住民税の課税方式を切り離せなくなった影響がここに出ます)
  • 医療費の窓口負担割合、各種の所得制限のある給付・助成

一方、申告することで有利になる場面もあります。

  • 配当割額・株式等譲渡所得割額の控除……特定配当等について特別徴収された住民税(配当割)は、確定申告書に記載して申告すれば、道府県民税で5分の2、市町村民税で5分の3が所得割の額から控除されます(地方税法第37条の4、第314条の9)。控除しきれなかった金額は還付されます(同法第314条の9第2項)。
  • 所得税の源泉徴収税額の精算……総合課税・申告分離課税のいずれでも、源泉徴収された所得税額は納付すべき税額から差し引かれ、引ききれない分は還付されます。所得が少ない年は、申告したほうが戻ってくることがあります。
💡 令和7年分からは、基準所得金額が3億3,000万円を超える場合、その超える部分の金額の22.5%相当額が通常の所得税および復興特別所得税を上回るときは、その上回る部分の所得税額が加算されます(No.2260 ※1)。この基準所得金額には確定申告を要しない配当所得等を含めるとされています。つまり超富裕層においては、申告不要を選んでも計算には取り込まれます。いわゆる「1億円の壁」への対応として導入されたこの仕組みは、別記事で詳しく扱っています。

10. 失敗vs王道

❌ よくある失敗
  • ネット記事の「課税所得900万円以下なら総合課税が有利」をそのまま使う。住民税を切り離せた時代の目安で、令和6年度分以後は分岐点が695万円に下がっている。
  • 有利・不利を税率だけで比べ、国民健康保険料や扶養の判定への影響を見ずに総合課税を選ぶ。
  • 個人の持株比率だけを見て3%未満と判断し、資産管理会社の保有分との合算(令和5年10月1日以後)を確認しない。
  • 「損失が出た年だけ申告して、配当は申告不要のままにする」つもりで、源泉徴収口座の譲渡損失を申告したら配当も併せて申告しなければならないことを後から知る。
  • 譲渡がなかった年に申告を飛ばし、繰越控除の連続申告要件を落として繰越損失を失う。
  • 申告してから「やはり不利だった」と気づき、更正の請求で直そうとする。選択の変更はできない
⭕ 王道の進め方
  • 判断の順番を固定する。①大口株主等に当たらないか(3%・同族会社合算)→ ②譲渡損失があるか → ③課税所得はどの区分か → ④合計所得金額が増えると影響する制度はあるか。①に当たれば選択の余地はなく、②があれば申告分離課税がほぼ有利になる。
  • 特定口座年間取引報告書と源泉徴収票を並べ、申告した場合・しない場合の両方で税額と保険料を試算してから決める。所得税だけでなく住民税と保険料まで並べる。
  • 上場株式等の譲渡損失は、譲渡がなかった年も含めて連続して申告し、3年の繰越枠を維持する。
  • 持株比率は毎年再判定する。自己株式の取得や他の株主の異動で分母が動くため、保有株数が変わっていなくても比率は変わる。
  • 選択は申告書を出した時点で確定する。提出前に一度、第三者の目で確認する。

11. まとめ

  • 上場株式等の配当等は、総合課税・申告分離課税・申告不要の3つから選べます。総合課税と申告分離課税は申告する配当所得の全額についてどちらかを選ぶ必要があり、選択後の変更はできません
  • 令和6年度分の個人住民税から、所得税と住民税で別々の課税方式を選ぶことはできません。住民税側の条文(地方税法第32条第13項・第15項、附則第33条の2第2項・第6項)が、所得税でどう申告したかに紐づける形で書かれています。
  • 配当控除を織り込んだ実効税率の分岐点は、課税所得695万円です。695万円未満の区分なら総合課税が有利、それ以上の区分では申告分離課税(20.315%)とほぼ同じか不利になります。
  • 大口株主等(3%以上)は総合課税しか選べません。令和5年10月1日以後は、同族会社の保有分と合算して3%以上になる場合も同様です。オーナー経営者・創業家は、資産管理会社の保有分を含めて毎年判定してください。
  • 申告分離課税の実益は譲渡損失との損益通算と3年の繰越控除にあります。ただし源泉徴収口座の損失を申告するなら、その口座の配当等も併せて申告しなければなりません。
  • 税率だけで決めず、合計所得金額が増えることの副作用(扶養・保険料・各種所得制限)まで並べて判断してください。

税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、上場株式等の配当・譲渡の課税方式の選択について、所得税・住民税・社会保険料を一体で試算したうえでご提案しています。資産管理会社をお持ちの方、上場企業の株式を一定割合お持ちの方は、確定申告の直前ではなく、年内のうちにご相談ください。選択できる余地は、年が明けてからでは狭くなります。

よくある質問(FAQ)

配当は申告したほうが得ですか、しないほうが得ですか?

課税される所得金額が695万円未満の区分であれば、剰余金の配当を総合課税で申告したときの実効税率は約17.41%となり、申告分離課税・申告不要の20.315%より低くなります。695万円以上の区分では約20.47%以上となり、申告しないほうが有利になる方向です。ただしこれは税率だけの比較です。申告すると合計所得金額に含まれるため、扶養の判定や国民健康保険料などに影響します。上場株式等の譲渡損失がある年は、損益通算できる申告分離課税が有利になることが多く、判断の順番としては損失の有無を先に見てください。

所得税は総合課税、住民税は申告不要という選び方はもうできませんか?

できません。令和4年度税制改正により、令和6年度分の個人住民税から課税方式は所得税と一致させることとされました。地方税法第32条第13項は、住民税で特定配当等を総所得金額から除外する規定について、前年分の所得税の確定申告書に明細の記載があるときは適用しないと定めています。また同法附則第33条の2第2項・第6項は、住民税の申告分離課税を、所得税で租税特別措置法第8条の4第1項の適用を受けた場合に限り適用すると定めています。所得税での選択が、そのまま住民税に及びます。

「大口株主等」に当たるかどうかは、どう判定しますか?

発行済株式の総数等の3%以上に相当する数または金額の株式等を有する個人が大口株主等です。さらに令和5年10月1日以後に支払われる上場株式等の配当等については、支払を受ける方本人の保有分に加え、その方を判定の基礎となる株主として選定した場合に同族会社に該当する法人の保有分を合算した割合(株式等保有割合)が3%以上となる場合も、大口株主等と同様に総合課税の対象となります。資産管理会社をお持ちの方は、個人分だけで判断しないでください。なお発行済株式総数は自己株式の取得などで減るため、保有株数が同じでも比率は上がることがあります。

非上場株式(自社株)の配当も申告不要にできますか?

少額配当に該当する場合に限り申告不要にできます。1回に支払を受けるべき配当等の金額が「10万円×配当計算期間の月数÷12」以下であることが要件です。年1回の配当なら10万円が目安になります。これを超える場合は総合課税で申告することになり、申告分離課税は選べません。なお非上場株式の配当は所得税および復興特別所得税20.42%のみが源泉徴収され、住民税は源泉徴収されないため、翌年の住民税で負担が生じます。

配当所得を申告すると、住民税で特別徴収された5%はどうなりますか?

確定申告書に記載して申告した特定配当等について特別徴収された配当割額は、道府県民税で5分の2、市町村民税で5分の3が、それぞれの所得割の額から控除されます(地方税法第37条の4、第314条の9)。控除しきれなかった金額は還付されます。したがって二重に取られることはありません。ただし総合課税を選ぶと配当所得が総所得金額に入り、住民税の所得割10%の対象になるため、配当割額控除を差し引いた後の負担がどうなるかは、上表の実効税率で確認してください。

NISA口座で損が出たら、他の口座の利益と相殺できますか?

できません。非課税口座(NISA)内の上場株式等を譲渡したことにより生じた譲渡損失は、そもそも所得税法上ないものとされるため、損益通算も繰越控除もできません(国税庁タックスアンサーNo.1474 注3)。旧ジュニアNISA(未成年者口座)も同様です。NISAは利益が非課税になる代わりに、損失も税務上は存在しない扱いになる、と理解してください。

配当の申告方法を間違えました。あとから直せますか?

確定申告で総合課税・申告分離課税・申告不要のいずれかを選択した場合、その後、修正申告や更正の請求において、その選択を変更することはできません(国税庁タックスアンサーNo.1331 注1)。期限内であれば訂正申告により提出し直せる場面はありますが、いずれにせよ「出してから考える」ことができない項目です。提出前に、所得税・住民税・社会保険料まで含めて試算しておくことをおすすめします。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、上場株式等および非上場株式の配当に係る課税方式についての一般的な情報提供であり、個別の申告における税務判断に代わるものではありません。本文中の実効税率は、国税庁が公表する税率および配当控除率、ならびに地方税法附則第5条に定める住民税の配当控除率を算式に当てはめて計算した値であり、国税庁が表として公表したものではありません。また税率のみの比較であり、社会保険料、各種所得控除の判定、所得制限のある給付・助成への影響は含んでいません。大口株主等の判定、同族会社の判定、配当控除の対象となる配当かどうかの判定は、個別の事実関係により結論が異なります。課税方式の選択は確定申告書の提出により確定し、その後の変更ができません。個別の判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年8月3日

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公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、上場株式等の配当・譲渡について、所得税・住民税・社会保険料を一体で試算したうえで課税方式をご提案しています。資産管理会社をお持ちの方、上場企業の株式を一定割合お持ちの方は、確定申告の直前ではなく年内のうちにご相談ください。

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」を掲げ、税務顧問・改正対応から資産防衛・相続・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。