「株特外し」は否認される?総則6項で国が逆転勝訴した東京高裁令和7年6月19日判決を税理士が解説【2026年版】

自社株の相続税評価を引き下げる手法として知られる、いわゆる「株特外し(株式等保有特定会社外し)」。この手法をめぐり、注目の判決が出ました。東京高等裁判所は令和7年6月19日、相続直前の増資・配当によって株式の評価方式を有利に切り替えた事案について、財産評価基本通達の総則6項を適用し、通達どおりの評価を認めた一審判決を破棄。国側が逆転勝訴しました。 一審の東京地方裁判所(令和7年1月17日判決)は納税者の主張を認めていただけに、高裁での逆転は、非上場株式を使った相続対策を検討するオーナー経営者にとって見過ごせない内容です。税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも「うちの自社株対策は大丈夫なのか」というご相談が寄せられています。本記事では、この判決の構図と、株特外しの「否認される境界線」を整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
  2. 2. 前提知識:なぜ「株特外し」で評価が下がるのか
  3. 3. 何が論点だったのか——通達どおりで約半分になる評価
  4. 4. 専門家の視点——タワマン最高裁(令和4年4月19日)との関係
  5. 5. 判決の実務への影響——株特外しの「否認される境界線」
  6. 6. 自社株対策をめぐる失敗と王道
  7. 7. まとめ
  8. よくある質問(FAQ)

1. 何が起きたのか(3行サマリー)

  • 被相続人が相続の直前に約36億円の増資と配当を行い、自社株を「株式等保有特定会社」「比準要素数1の会社」の判定から外して、評価方式を有利に切り替えました(いわゆる株特外し)。
  • 一審(東京地裁 令和7年1月17日)は通達どおりの評価による申告を適法とし、納税者が勝訴。しかし高裁(東京高裁 令和7年6月19日)は、財産評価基本通達の総則6項を適用し、通達と異なる評価を認めて課税処分を適法と判断、国側が逆転勝訴しました。
  • 高裁は、一連の増資・配当が税負担の軽減を意図したものと認定し、通達評価を画一的に適用することが「特段の事情」により平等原則に反する、との枠組み(最高裁令和4年4月19日判決)を当てはめました。
💡 「株特外し」は通達のルールに沿った合法的な評価の切り替えですが、それだけで安全とはいえません。相続直前に、税負担の軽減だけを目的として不自然な増資・配当を行うと、総則6項で通達評価そのものが否認されることがある——それを高裁が示した事例です。

2. 前提知識:なぜ「株特外し」で評価が下がるのか

非上場株式(取引相場のない株式)の相続税評価には、複数の方式があります(国税庁タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」)。

評価方式中身株価が下がりやすいか
類似業種比準方式同業種の上場会社の株価等に比準して評価一般に低くなりやすい
純資産価額方式会社の純資産(資産−負債−法人税等相当額)で評価資産が多いと高くなりやすい
併用方式上記2つを会社規模に応じて組み合わせる中間

ここで問題になるのが「特定の評価会社」です。会社の資産構成などが偏っている会社は、原則として純資産価額方式で評価しなければならず、株価が下がりにくくなります。代表的なのが次の2類型です(いずれも財産評価基本通達189)。

  • 株式等保有特定会社……総資産に占める株式等の割合が一定以上の会社
  • 比準要素数1の会社……配当・利益・純資産の3要素のうち、直前期末で2つがゼロなど、比準要素が1つしかない会社

これらに該当すると純資産価額方式に縛られて評価が高止まりします。逆に、増資や配当で資産構成・比準要素を変え、該当しないように外すと、類似業種比準方式を使える併用方式に持ち込め、評価額を引き下げられる——これが「株特外し」の基本的な発想です。

💡 株特外し自体は、通達の判定ルールに沿って評価方式を変える行為であり、それ自体が直ちに違法・脱税になるわけではありません。問題は「やり方」と「動機」です。

3. 何が論点だったのか——通達どおりで約半分になる評価

公表されている判決の解説によれば、事案の構図は次のとおりです。

  • 被相続人は平成25年8月9日に、約36億円(36億0,002万円)の増資を払い込みました(普通株式90万5,440株・1株3,976円)。
  • 続いて同年9月30日に配当を実施。この一連の操作で、会社を「株式等保有特定会社」「比準要素数1の会社」の判定から外しました。
  • その約2か月後の平成25年10月に相続が発生しています。

専門家の解説によれば、増資直前は現預金として約36億円あったにもかかわらず、増資後の株式を財産評価基本通達どおりに評価すると、株式の評価額は約17億円まで下がる、という結果が生じていました。手元にあった36億円が、株式に姿を変えた瞬間に相続税の世界では約半分に評価される——この落差が争点の核心です。

一審(東京地裁 令和7年1月17日)は「通達の定める方法による評価を行うべき」として納税者の主張を認めました。これに対し高裁は、財産評価基本通達の総則6項を持ち出しました。総則6項は、通達の定めによって評価することが「著しく不適当」と認められる場合に、国税庁長官の指示を受けて通達と異なる評価ができる、という「伝家の宝刀」と呼ばれる規定です。

4. 専門家の視点——タワマン最高裁(令和4年4月19日)との関係

この判決を理解する鍵は、総則6項の適用基準を示した最高裁令和4年4月19日判決(いわゆるタワーマンション節税事件)です。

最高裁は、通達評価が実際の時価より大きく乖離しているだけでは総則6項は発動できず、「特段の事情」があるときに限り、通達と異なる評価(=平等原則の例外)が許されるとしました。そして、その「特段の事情」の中心に、租税負担の軽減を意図した行為があったかを置きました。

今回の高裁は、この枠組みを株特外しの事案に当てはめたと解されます。ポイントは次の点です。

  • 増資・配当が相続の直前に集中して行われ、証券会社との相談内容が相続税対策に終始していたと認定された。
  • したがって一連の行為は税負担の軽減を意図したものであり、これを通達どおりに評価して他の納税者と同じ扱いにすると、かえって平等原則に反する「特段の事情」にあたる、と判断された。
  • その結果、増資がなかったものと同視できる状態(=現預金相当の価値)で評価することが適法とされた。

見落とされやすいのは、「通達のルールどおりに評価方式を切り替えただけ」という形式的な適法性が、総則6項の前では決め手にならない、という点です。タワマン判決と同じく、動機と不自然さが問われています。

💬 実務の現場から
自社株の評価を下げるご相談をいただく場面で、一般論として最初にお伝えしているのは、「相続が視野に入ってから、税金対策だけを目的に、直前で大きく動かす」形は最もリスクが高い、ということです。守秘義務がありますので詳細は控えますが、構図としては、事業上の合理的な必要性(設備投資・資本増強・後継者への段階的な移転など)に裏づけられた対策と、そうでない対策とでは、税務調査での見られ方が大きく変わります。早い時期から、事業の実態に沿って計画的に進めることが、結果的に一番の防御になります。

5. 判決の実務への影響——株特外しの「否認される境界線」

この判決は、株特外しや自社株対策そのものを一律に否定したものではありません。実務でおさえるべきは、どこからが危ないのかという境界線です。

  • タイミングが相続直前に偏っていないか——相続が現実に視野に入った段階での駆け込み的な増資・配当は、税負担軽減の意図を推認されやすくなります。
  • 事業上の合理的な理由があるか——資本増強・設備投資・組織再編など、税務メリット以外の目的(事業上の必要性)が説明できるかどうかが分かれ目です。
  • 不自然な数字の動きになっていないか——増資直後に配当で払い戻すなど、資金が一巡して実質的な変化がない操作は、形だけの外しと見られやすくなります。
  • 助言の記録が対策一色になっていないか——今回、証券会社との相談内容が重視されました。専門家とのやり取りが「節税のためだけ」と読める記録に偏っていないか、という視点も無視できません。

裏を返せば、時間をかけて、事業の実態に即して進めた自社株対策まで否認されるわけではありません。総則6項はあくまで例外規定であり、通達評価が原則であることは変わりません。

6. 自社株対策をめぐる失敗と王道

❌ やってしまいがちな失敗
  • 相続が視野に入ってから、税負担の軽減だけを目的に、直前で大きな増資・配当を行う
  • 「通達のルールどおりに評価方式を切り替えたのだから問題ない」と、形式的な適法性だけで安心する
  • 増資したお金をすぐ配当で払い戻すなど、実態の伴わない資金の一巡で「外し」を作る
  • 専門家とのやり取りが「節税のため」だけの記録になっている
⭕ 実務の王道
  • 相続の直前ではなく、早い時期から時間をかけて計画的に進める
  • 増資・組織再編には、事業上の合理的な理由(資本増強・設備投資・後継者への段階移転など)を用意し、説明できるようにする
  • 「通達どおり=安全」ではなく、総則6項という例外の存在を前提に、極端な評価の落差が生じていないかを点検する
  • 自社株の評価と事業承継は、税務だけでなく事業の実態と一体で設計する

7. まとめ

株特外しと総則6項をめぐる東京高裁令和7年6月19日判決は、自社株を使った相続対策の「境界線」を示す重要な事例です。要点は次のとおりです。

  • 相続直前の増資・配当で自社株を「株式等保有特定会社」「比準要素数1の会社」から外し、評価方式を有利に切り替えた事案で、高裁は財産評価基本通達の総則6項を適用し、通達どおりの評価を認めた一審を破棄して国側が逆転勝訴した。
  • 判断の枠組みは、最高裁令和4年4月19日判決(総則6項・タワマン事件)の「特段の事情」=税負担の軽減を意図した行為の有無を当てはめたもの。
  • 株特外しや自社株対策そのものが否定されたわけではなく、相続直前・税負担軽減目的・事業上の合理性の欠如が重なると否認されやすい、という境界線が示された。
  • 実務の王道は、早い時期から、事業の実態に即して、合理的な理由を伴って計画的に進めること。

「自社株の評価を下げたいが、否認されないか不安」「事業承継を見据えて、どこまでが安全な対策か知りたい」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、自社株評価・相続対策・事業承継を、税務と事業の実態の両面から一体で設計し、伴走します。相続が視野に入る前の、お早めの段階でのご相談をおすすめします。

よくある質問(FAQ)

株特外し(株式等保有特定会社外し)は違法なのですか?

外しという手法自体が直ちに違法・脱税になるわけではありません。財産評価基本通達189の判定ルールに沿って評価方式が変わること自体は制度上あり得ます。問題になるのは、相続直前に税負担の軽減だけを目的として不自然な増資・配当を行うようなケースで、この場合は総則6項によって通達と異なる評価がされることがあります。

総則6項とは何ですか?

財産評価基本通達の総則6項は、通達の定めによって評価することが「著しく不適当」と認められる財産について、国税庁長官の指示を受けて通達と異なる方法で評価できるとする規定です。原則はあくまで通達評価で、総則6項は例外的に発動される「伝家の宝刀」と呼ばれます。

今回の判決は確定しているのですか?

東京高裁が令和7年6月19日に国側逆転勝訴の判断を示しましたが、本稿執筆時点で、上告の有無を含む確定状況は公表情報から確認できていません。今後の展開により結論が変わる可能性がある点にご留意ください。

どのくらい前から自社株対策を始めれば安全ですか?

一律の「何年前ならセーフ」という基準はありません。重要なのは期間の長短だけでなく、増資や組織再編に事業上の合理的な理由があり、税負担の軽減だけが目的でないと説明できることです。一般的には、相続が現実味を帯びる前の、余裕のある時期から計画的に進めるほどリスクは下がります。

すでに株特外しを行っています。見直すべきですか?

行った時期・目的・資金の動きによってリスクの度合いは変わります。相続直前に税負担軽減だけを目的として行ったものは、総則6項のリスクが相対的に高くなります。事業上の理由や実態を整理し、必要に応じて専門家に評価の妥当性を点検してもらうことをおすすめします。

出典・参考資料

  • 東京高等裁判所 令和7年6月19日判決(いわゆる株式等保有特定会社外し・総則6項/一審 東京地方裁判所 令和7年1月17日判決を破棄・国側逆転勝訴)※上告の有無を含む確定状況は本稿執筆時点で未確認
  • 最高裁判所第三小法廷 令和4年4月19日判決(総則6項・いわゆるタワーマンション節税事件)
  • 財産評価基本通達 総則6項(この通達の定めにより難い場合の評価)
  • 財産評価基本通達189(特定の評価会社/株式等保有特定会社・比準要素数1の会社の判定)
  • 国税庁タックスアンサー No.4638(取引相場のない株式の評価)
  • PwC Legal Japan/森・濱田松本法律事務所/税理士法人チェスター 各解説(東京高裁令和7年6月19日判決)報道・専門家解説
ご利用上の留意事項
本記事は、非上場株式の評価と総則6項に関する一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。自社株の評価方法・相続対策の当否は、会社の資産構成・規模・行為の目的・時期等により異なり、制度や解釈は今後の改正・裁判例により変わることがあります。実際の対策・申告にあたっては、税理士等の専門家にご確認ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月23日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」を掲げ、税務顧問・改正対応から資産防衛・相続・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。