会社を売る(M&A)とたたむ(解散・清算)で税金はどう違う?出口の決定版を税理士が解説【2026年版】
- 1. 結論(3行サマリー)
- 2. 3つの出口の全体像
- 3. 会社ごと売る(M&A・株式譲渡)の税金
- 4. 会社をたたむ(解散・清算)の税金――なぜ二段階になるのか
- 5. 手取りはどれだけ変わるか(単純化した試算例)
- 6. 専門家の視点:出口は「決める前」に設計する
- 7. 実務で押さえるべきこと
- 8. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 結論(3行サマリー)
- 会社ごと売る(M&A・株式譲渡)なら、オーナー個人の株式譲渡益は申告分離課税20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)で完結する(租税特別措置法第37条の10・37条の11、国税庁No.1463・No.1476)
- 会社をたたむ(解散・清算)と、まず法人段階で法人税等がかかり、さらに株主が残余財産の分配を受けるときに、資本金等の額を超える部分は「みなし配当」として総合課税(累進最高45%+住民税10%)になる(所得税法第25条、国税庁No.1536)。二段階課税で手取りが減りやすい
- どちらが有利かは会社の中身(含み益・利益剰余金・繰越欠損金・資本金等の額)で変わる。出口は「売る・たたむ」を決める前の設計がすべて
2. 3つの出口の全体像
まず、会社の出口を大きく3つに分けて、税金のかかり方の骨格を整理します。
| 出口 | 何をするか | 主に誰にどう課税されるか |
|---|---|---|
| 株式譲渡(M&A) | 会社の株式を第三者に売る(会社はそのまま存続) | オーナー個人の株式譲渡益に申告分離課税20.315%で完結 |
| 事業譲渡 | 会社が事業(資産・のれん等)を売り、代金は会社に入る | まず会社に法人税等、その後オーナーが受け取るには配当・清算で再度課税 |
| 解散・清算 | 会社をたたみ、残った財産をオーナーに分配する | まず会社に法人税等、次にオーナーのみなし配当に総合課税(二段階) |
ポイントは、株式譲渡だけがオーナー個人の一段階課税で完結するのに対し、事業譲渡と解散・清算は「会社に法人税」+「個人に課税」の二段階になりやすいことです。同じ価値の会社でも、この違いが手取りに直結します。
3. 会社ごと売る(M&A・株式譲渡)の税金
第三者に会社の株式を売るM&A(株式譲渡)では、株式を売ったオーナー個人に株式等に係る譲渡所得が生じます。これは給与や事業所得とは合算しない申告分離課税で、税率は20.315%です(国税庁No.1463・No.1476)。
| 内訳 | 税率 |
|---|---|
| 所得税 | 15% |
| 復興特別所得税 | 0.315%(所得税額の2.1%相当) |
| 住民税 | 5% |
| 合計 | 20.315% |
譲渡所得は「譲渡収入金額 −(取得費 + 譲渡費用)」で計算します。取得費は、その株式を取得するのに払った金額(創業オーナーなら設立時などの出資額)です。非上場のオーナー株式は「一般株式等」に区分され、租税特別措置法第37条の10により、上場株式等(同37条の11)と同じ20.315%の分離課税が適用されます。
株式譲渡がオーナーにとって手取りの面で有利になりやすいのは、課税がこの一段階(20.315%)で完結するからです。会社に法人税がかかったうえで個人に配当課税、という二段階を経ないため、税負担が読みやすく、シンプルです。M&Aで「事業譲渡」より「株式譲渡」が選ばれやすい税務上の理由がここにあります。
4. 会社をたたむ(解散・清算)の税金――なぜ二段階になるのか
一方、後継者もおらず買い手も見つからないなどの理由で会社をたたむ(解散・清算)場合、税金は二段階でかかります。
【第一段階】法人段階の法人税等 解散すると、会社は保有する資産を換価(売却・回収)して負債を返済し、残った財産(残余財産)を確定させます。この過程で、含み益のある資産(不動産・有価証券など)を売れば、その譲渡益に法人税等がかかります。長年含み益を抱えた社屋や土地を持つ会社ほど、この段階の負担が大きくなります(繰越欠損金や、清算中に限って認められる期限切れ欠損金の損金算入といった論点はありますが、含み益が大きければ法人税は生じ得ます)。
【第二段階】株主のみなし配当 法人税等を払った後に残った財産を、オーナー(株主)が分配として受け取ります。このとき、受け取った金銭等のうち、その株式に対応する「資本金等の額」を超える部分は、配当とみなされます(みなし配当)(所得税法第25条第1項、国税庁No.1536)。みなし配当は配当所得として原則総合課税され、給与など他の所得と合算して超過累進税率(所得税は最高45%)+住民税10%が適用されます(配当控除の適用はあります)。なお、みなし配当には支払時に20.42%の源泉徴収が行われます。残余財産のうち資本金等の額に対応する部分は、株式の譲渡収入として譲渡損益の計算対象になります。
つまり、解散・清算は「会社の法人税」と「オーナーのみなし配当(累進・総合課税)」の二段階でかかります。長年の利益をため込んで利益剰余金が厚い会社ほど、みなし配当が大きくなり、累進で高い税率が当たりやすくなります。
5. 手取りはどれだけ変わるか(単純化した試算例)
出口による違いを、前提を置いた単純化した例でイメージします。実際は資本金等の額・含み益・繰越欠損金・各種控除で大きく変わるため、あくまで方向性をつかむための例です。
- 株式譲渡(M&A)で売る場合:オーナーの譲渡益に 20.315% がかかって完結します。仮に譲渡益が1億円なら、税額は約2,031万円です。
- 解散・清算でたたむ場合:まず会社の資産の含み益に法人税等がかかり、そのうえで残余財産の分配のうち資本金等の額を超える部分がみなし配当として累進課税されます。分配額が大きいほど所得税の税率が上がり(最高45%+住民税10%)、株式譲渡の20.315%より高い税率が当たりやすくなります。
このように、同じ価値の会社でも「売る」か「たたむ」かで手取りは大きく変わり得ます。一般に、買い手が見つかるなら株式譲渡(M&A)のほうがオーナーの手取りは多くなりやすい、というのが実務上の傾向です。ただし、これは会社の中身次第で逆転もあり得ます。事業承継の出口として自社株の売り時・売り方をどう設計するかは、事業承継 完全ガイドもあわせてご覧ください。
6. 専門家の視点:出口は「決める前」に設計する
実務家の立場から申し上げると、出口で最も差がつくのは、「売る・たたむ」を決めてから税理士に相談するか、決める前に相談するかです。決めてしまった後では、選べる選択肢がほとんど残っていません。
出口の設計で実務上よく論点になるのが、次のような点です。
- 買い手を探せば株式譲渡できないか:たたむ前提で来られた相談でも、M&A(株式譲渡)で買い手が見つかれば、オーナーの手取りが変わることがあります
- 資本金等の額・利益剰余金の状況:清算した場合のみなし配当がどれくらいになるかは、資本金等の額と利益剰余金の構成で決まります
- 含み益・繰越欠損金:清算時の法人段階の税負担は、含み益のある資産や繰越欠損金の有無で大きく変わります
- 役員退職金との組み合わせ:出口の前に適正額の役員退職金を支給すれば、会社の利益と自社株評価を下げつつ、退職所得として優遇された課税(退職所得控除+2分の1課税)を受けられる場面があります
守秘義務がありますので詳細は控えますが、構図としてお伝えすると、「もう後継者もいないので会社をたたもうと思う」「M&Aの話が来たが、売るのとたたむのでどちらが得か分からない」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、ここで差がつくのは、出口を一つに決めてしまう前に、株式譲渡・事業譲渡・解散清算を並べて手取りを試算してあるかです。私たちが関与する場面では、まず会社の中身(資本金等の額・利益剰余金・含み益・繰越欠損金)を棚卸しし、それぞれの出口でオーナーの手取りがどう変わるかを数字で並べたうえで、役員退職金や譲渡の時期まで含めて設計します。たたむと決めてからでは打てる手が限られますが、決める前なら選択肢はずっと多く残っています。
7. 実務で押さえるべきこと
会社の出口を検討するオーナーが押さえるべき要点を、失敗例と王道で整理します。
- 「後継者がいないから」とすぐ解散・清算を選び、みなし配当の累進課税で手取りを大きく減らす
- 買い手を探せば株式譲渡(M&A)できたのに、検討せずにたたんでしまう
- 出口を決めてから税理士に相談し、選択肢がほとんど残っていない状態になる
- 株式の取得費(元手)を証明する資料が残っておらず、譲渡益の計算で不利になる
- 出口は「売る・たたむ」を決める前に、株式譲渡・事業譲渡・解散清算を並べて手取りを試算する
- 会社の中身(資本金等の額・利益剰余金・含み益・繰越欠損金)を棚卸しし、清算した場合のみなし配当の見込みを把握する
- M&A(株式譲渡)の可能性がある場合は、買い手探しと並行して税務の設計を進める
- 役員退職金・自社株評価・譲渡の時期まで含め、出口全体を一体で設計する(必要に応じて専門家に相談)
8. まとめ
会社の出口は、会社ごと売る(株式譲渡・M&A)なら、オーナー個人の譲渡益に20.315%の分離課税がかかって一段階で完結します(措置法37条の10・37条の11)。一方、会社をたたむ(解散・清算)と、まず法人段階で法人税等がかかり、さらに残余財産の分配のうち資本金等の額を超える部分がみなし配当として総合課税(累進最高45%+住民税10%)される二段階課税になります(所得税法第25条)。事業譲渡も「会社に法人税+個人に再度課税」となりやすく、この二段階が、たたむ出口の手取りを重くしやすい理由です。
どの出口が有利かは、会社の含み益・利益剰余金・繰越欠損金・資本金等の額によって変わり、時に逆転もします。だからこそ、出口は「売る・たたむ」を決める前の設計がすべてです。税理士法人 小山・ミカタパートナーズは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、自社株の評価から、株式譲渡・事業譲渡・解散清算それぞれの手取り試算、役員退職金との組み合わせ、M&Aという出口の実行まで一体で伴走します。引退・承継・廃業をお考えの経営者の方は、出口を一つに決める前のお早めの段階でご相談ください。
よくある質問(FAQ)
会社を売るのとたたむのでは、どちらが税金は少ないのですか?
みなし配当とは何ですか?なぜ清算だと税金が重くなりやすいのですか?
事業譲渡は株式譲渡と何が違うのですか?
出口の相談は、いつ税理士に相談すべきですか?
廃業する前に役員退職金を出すと有利になりますか?
出典・参考資料
- 国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
- 国税庁「No.1476 特定口座制度」
- 国税庁「No.1536 株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる場合-法人の合併等、自己株式の取得等の場合-」
- 根拠法令:所得税法第25条(配当等とみなす金額)、租税特別措置法第37条の10・第37条の11(株式等に係る譲渡所得等の分離課税)ほか。清算所得に係る法人税は法人税法によります。税率20.315%は所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%の合計です。具体的な要件・計算は最新の法令・通達および国税庁公表資料によります。個別の適用は専門家にご確認ください。
本記事は、国税庁の公表資料・法令に基づく一般的な情報提供であり、特定の税務処理の結果を保証するものではありません。会社の出口(株式譲渡・事業譲渡・解散清算)の税負担は、資本金等の額・利益剰余金・含み益・繰越欠損金・取得費など個別の事実関係により大きく異なり、有利不利は逆転し得ます。本文中の試算例は前提を置いた単純化したイメージであり、実際の税額を示すものではありません。実際の判断にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月9日
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公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、自社株の評価から、株式譲渡・事業譲渡・解散清算それぞれの手取り試算、役員退職金との組み合わせ、M&Aという出口の実行まで一体でご支援します。引退・承継・廃業をお考えの経営者の方は、出口を一つに決める前のお早めの段階でご相談ください。
無料相談はこちらこの記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。
