貸付用不動産の相続税評価が変わる|「第二のタワマン封じ」令和8年度大綱を税理士が解説
- 1. 何が変わるのか(3行サマリー)
- 2. 前提:なぜ「不動産」で相続税が下がるのか
- 3. タワマン節税封じからの流れ:当局はどこを見ているか
- 4. 専門家の視点:「賃貸はもうダメ」ではなく「駆け込みがダメ」
- 5. これから賃貸不動産で相続対策を考える人へ
- 6. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 何が変わるのか(3行サマリー)
- 令和8年度税制改正の大綱で、貸付用不動産の評価方法の見直しが示された
- ポイントは、相続開始前の一定期間内(相続開始前5年以内)に取得した貸付用不動産を対象に、「課税時期における通常の取引価額に相当する金額」(≒時価)で評価する方向であること
- 適用は令和9年(2027年)以後の見込み。市場価格と通達評価額の乖離を使った相続税・贈与税の圧縮に、制度的な歯止めをかけるねらい
2. 前提:なぜ「不動産」で相続税が下がるのか
そもそも不動産が相続対策に使われてきたのは、「市場価格(時価)」と「相続税評価額」のあいだに差(乖離)があるからです。
相続税では、不動産は時価そのものではなく、原則として土地は路線価、建物は固定資産税評価額をベースに評価します。さらに、人に貸している貸付用不動産は、借地権・借家権相当が控除され、評価額がいっそう下がります。
| 区分 | 評価の考え方 | 効果 |
|---|---|---|
| 現金1億円 | そのまま1億円 | 圧縮なし |
| 自宅用不動産 | 路線価・固定資産税評価額ベース | 一定の圧縮 |
| 貸付用不動産(賃貸) | 上記+貸家・貸家建付地としての減額 | さらに大きく圧縮 |
この「貸せば下がる」仕組み自体は適正な範囲では今後も残ります。問題視されたのは、相続の直前に取得し、時価と評価額の大きな乖離だけを狙う極端なケースでした。
3. タワマン節税封じからの流れ:当局はどこを見ているか
今回の見直しは、突然出てきたものではありません。富裕層の不動産節税に対する当局の一連の流れの延長線上にあります。
- 最高裁判所 令和4年4月19日 第三小法廷判決(令和2年(行ヒ)第283号):相続直前に借入で購入した不動産を通達評価額で申告し相続税をほぼゼロにした事案について、財産評価基本通達 総則6項(評価が著しく不適当な場合に時価評価へ切り替える例外規定)の適用を認め、時価課税を適法とした
- 令和6年(2024年)1月以降の新マンション評価ルール:居住用区分所有財産について、評価額が市場価格のおおむね6割以上になるよう補正率をかける仕組みを導入(タワマン節税封じ)
- 令和8年度大綱の貸付用不動産見直し:今回。タワマン(居住用)に続き、貸付用不動産にもメスが入った
4. 専門家の視点:「賃貸はもうダメ」ではなく「駆け込みがダメ」
では、賃貸不動産による相続対策はもう使えないのでしょうか。実務家の立場から申し上げると、答えは「相続直前の駆け込み取得は封じられる方向だが、正攻法の賃貸経営による評価減そのものが消えるわけではない」です。
今回の見直しが狙い撃ちにするのは、「相続開始前5年以内に取得した」貸付用不動産です。裏を返せば、早い段階から保有し、実態のある賃貸経営を続けている物件まで否定するものではありません。ここを誤解される方がとても多いのですが、ポイントは「時間軸」です。
- 相続が近づいてから、節税目的で賃貸物件を駆け込み購入する
- 借入とセットで時価と評価額の乖離だけを狙う
- 賃貸の実態が乏しく「節税のためだけ」と見える取得
- 早い段階から保有し、実際に賃貸経営を続けている
- 収益・出口(売却・分割)まで含めて事業として成立している
- 評価減はあくまで結果であり、節税が唯一の目的になっていない
——弊社にも、「相続対策にと勧められて賃貸物件を買ったが、今後の評価はどうなるのか」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、注意が必要なのは“節税ありき”で物件を選び、いざ相続や売却の段になって流動性・価格・家族での分けにくさに苦労するケースです。私たちが関与する場面では、節税効果だけでなく保有コスト・出口・承継のしやすさまで含めて総合的に検討することをおすすめしています。
5. これから賃貸不動産で相続対策を考える人へ
- 「相続直前の駆け込み」を避ける:取得時期(相続開始前5年以内かどうか)が評価方法を分ける見込み
- 実態のある賃貸経営にする:節税だけが目的の取得は否認・是正リスクが高い
- 出口とコストを織り込む:流動性・価格変動・管理費・修繕・家族での分けやすさ
- 既に保有する物件は影響を試算する:取得時期・取得経緯を確認し、今後の評価方針を点検
- 大綱段階であることを踏まえる:要件・適用時期は成立する法令で確定するため、最新情報を追う
6. まとめ
令和8年度税制改正の大綱で示された貸付用不動産の評価方法の見直しは、タワマン節税封じ(最高裁 令和4年4月19日判決・総則6項・令和6年の新マンション評価ルール)に続く、富裕層の不動産節税への当局の次の一手です。狙いは、相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産を時価に近い金額で評価し、極端な乖離を使った圧縮を抑えることにあります。
ただし、これは「賃貸不動産による相続対策の終わり」を意味するものではありません。大切なのは、時間軸(早めの保有)・実態(本物の賃貸経営)・出口(売却や分割のしやすさ)まで含めて設計することです。税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、新しいルールを踏まえた不動産・相続対策のご相談に対応しています。お持ちの物件が今後どう評価されるか知りたい方は、お早めにご相談ください。
よくある質問(FAQ)
貸付用不動産の相続税評価は何が変わりますか?
なぜ「第二のタワマン封じ」と呼ばれるのですか?
賃貸不動産での相続対策はもうできませんか?
出典・参考資料
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」令和7年12月 | https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/index.html
- 最高裁判所 令和4年4月19日 第三小法廷判決(令和2年(行ヒ)第283号)|裁判所ウェブサイト 裁判例結果詳細
- 国税庁「財産評価基本通達」第1章 総則6項
- 国税庁「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」令和6年1月1日以後適用
- 国税庁 タックスアンサー No.4602「土地家屋の評価」| https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4602.htm
本記事は、令和8年度税制改正の大綱および公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。大綱は改正法の成立前の段階であり、最終的な要件・対象・適用時期は成立する法令によって異なる場合があります。実際の判断にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月4日
