家族信託(民事信託)の税金とは?かかる税・損益通算の落とし穴・節税との関係を税理士が解説【2026年版】
- 1. 家族信託と税金の関係(3行サマリー)
- 2. 家族信託の基本——3人の登場人物
- 3. 【時系列】どの場面でどんな税金がかかるか
- 4. 設定時の税金——自益信託なら贈与税はかからない
- 5. 【最大の落とし穴】信託した不動産の赤字は損益通算できない
- 6. 「家族信託=相続税の節税」という誤解
- 7. 受託者に課される税務手続き
- 9. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 家族信託と税金の関係(3行サマリー)
- 家族信託の税金は、「受益者(利益を受ける人)が信託財産を持っているものとみなして課税する」のが大原則です(受益者等課税信託/所得税法第13条第1項)。
- そのため、委託者(財産を託す人)=受益者とする「自益信託」で設定すれば、実質の所有者が変わらないため、設定の時点では贈与税も譲渡所得税もかかりません。
- 一方で、信託した賃貸不動産が赤字でも他の所得と損益通算できない(租税特別措置法第41条の4の2)、信託自体に相続税の節税効果はない、という点が実務上の大きな注意点です。
2. 家族信託の基本——3人の登場人物
家族信託(民事信託)は、信託法にもとづき、自分の財産の管理・処分・承継を、信頼できる家族に託す仕組みです。次の3者が登場します。
| 登場人物 | 役割 | 具体例 |
|---|---|---|
| 委託者(いたくしゃ) | 財産を託す人(もとの所有者) | 高齢の父 |
| 受託者(じゅたくしゃ) | 財産を預かり、管理・運用・処分する人 | 長男 |
| 受益者(じゅえきしゃ) | 信託財産から生じる利益を受け取る人 | 高齢の父(自益信託の場合) |
典型的には、父(委託者)が、自分自身を受益者としたまま(=自益信託)、長男(受託者)に賃貸不動産や自宅の管理を託します。こうしておけば、父が認知症になっても長男が信託契約にもとづいて不動産の修繕・建替え・売却などを行え、資産の凍結を防げます。父の生活のための家賃収入は、引き続き受益者である父が受け取ります。
3. 【時系列】どの場面でどんな税金がかかるか
家族信託の税金は、①設定するとき、②信託が続いている間、③信託が終わる(承継する)とき、の3つの場面で考えると整理できます。全体像は次のとおりです。
| 場面 | かかりうる税金 | ポイント |
|---|---|---|
| ① 設定時(自益信託・委託者=受益者) | 登録免許税(信託の登記) | 贈与税・不動産取得税・譲渡所得税はかからない |
| ① 設定時(他益信託・委託者≠受益者) | 贈与税(または相続税)+登録免許税 | 受益者が委託者から贈与を受けたとみなす |
| ② 信託期間中 | 所得税・住民税(受益者に課税) | 家賃等の収益は受益者の所得。損益通算に制限あり |
| ③ 受益者の変更・終了時 | 相続税・贈与税・登録免許税 | 受益権を承継した人・残余財産を取得した人に課税 |
以下、それぞれの場面を詳しく見ていきます。
4. 設定時の税金——自益信託なら贈与税はかからない
家族信託を組成するとき、多くは委託者と受益者を同じ人(自益信託)にします。この場合の課税は次のとおりです。
- 贈与税・譲渡所得税:かかりません。 受益者(=委託者本人)が実質的に財産を持ち続けているため、財産の移転がないものとして扱われます。名義は受託者(子)に移りますが、あくまで管理を任せる「形式的な移転」です。
- 不動産取得税:かかりません。 信託による形式的な所有権の移転は非課税です(地方税法第73条の7第3号)。
- 登録免許税:かかります。 信託財産に不動産が含まれる場合、「信託の登記」が必要で、登録免許税が課税されます。税率は次のとおりです。
- 建物:固定資産税評価額 × 0.4%
- 土地:固定資産税評価額 × 0.3%(租税特別措置法第72条による軽減。令和8年〔2026年〕時点の軽減税率)
一方、委託者と受益者が異なる「他益信託」(例:父が委託者、子が受益者)で設定すると、受益者である子が、委託者である父から信託財産(の経済的価値)を贈与されたとみなされ、贈与税が課税されます(相続税法第9条の2第1項)。父の死亡を始期とする信託であれば、遺贈として相続税の対象になります。
5. 【最大の落とし穴】信託した不動産の赤字は損益通算できない
家族信託で最も注意すべき論点が、信託した賃貸不動産の「損益通算の禁止」です。
信託契約にもとづいて賃貸不動産を保有し、その不動産所得が赤字(損失)になった場合、その損失は「なかったもの」とみなされます(租税特別措置法第41条の4の2第1項)。その結果、次のいずれとも損益通算(黒字と相殺)できません。
- 給与所得・事業所得など、信託以外の所得
- 信託していない、直接所有する別の不動産から生じた不動産所得
- 別の信託契約から生じた不動産所得
さらに、この損失は翌年以降への純損失の繰越しもできません(切り捨てられます)。
具体例: 信託した賃貸マンションで大規模修繕を行い、その年の不動産所得が▲300万円の赤字になったとします。信託していなければ、この▲300万円を給与所得や他の黒字物件の家賃収入とぶつけて税負担を軽くできますが、信託財産だとこの赤字はなかったものとされ、まるごと切り捨てられます。大規模修繕・空室・借入金利子で赤字になりやすい賃貸物件を安易に信託すると、この不利益が生じます。
なお、同じ信託契約の中であれば、黒字の物件と赤字の物件を相殺できます。複数の収益物件を信託する場合は、契約の組み方(1つの信託にまとめるか、分けるか)で税負担が変わるため、設計段階での検討が欠かせません。
収益不動産を家族信託に組み入れる際、この損益通算の禁止を知らずに設計されているケースを、実務でお見かけすることがあります。守秘義務がありますので詳細は控えますが、一般論として、信託に入れる財産は「収益で赤字が出やすい物件かどうか」で慎重に選ぶこと、そして複数物件は契約の単位を含めて設計することが重要だとお伝えしています。
6. 「家族信託=相続税の節税」という誤解
家族信託について最も多い誤解が、「家族信託を組めば相続税が安くなる」というものです。結論から言えば、家族信託そのものに、相続税の節税効果はありません。
理由は、これまで見てきた受益者課税の原則にあります。信託財産は受益者が持っているものとみなされるため、受益者が亡くなって次の人が受益権や残余財産を取得すれば、通常の相続と同じように相続税が課税されます。信託にしたからといって、財産の評価額が下がったり、課税が免除されたりするわけではありません。
家族信託の本当の価値は、節税ではなく、①認知症による資産凍結の防止(本人が判断能力を失っても受託者が管理・処分できる)、②二次相続以降まで承継先を指定できる柔軟な承継設計(受益者連続型信託)にあります。節税は、暦年贈与・生命保険の非課税枠・不動産評価の活用といった別の手法と組み合わせて設計するものであり、家族信託はそれらを実行するための「器」と考えるのが正確です。
- 「家族信託を組めば相続税が下がる」と誤解して導入する
- 収益で赤字が出やすい賃貸物件を、損益通算の禁止を知らずに信託に入れる
- 節税目的で安易に「子を受益者」にして、多額の贈与税を発生させる
- 受託者の税務手続き(信託の計算書の提出など)を失念する
- 家族信託は「認知症対策・柔軟な承継の器」と位置づけ、節税は別手法と組み合わせる
- 認知症対策は原則、委託者=受益者の自益信託で設定する
- 信託に入れる財産は、損益通算の制限も踏まえて慎重に選ぶ
- 相続・贈与・所得の各税目に精通した専門家と、法務(司法書士・弁護士)と税務(税理士)の両面で設計する
7. 受託者に課される税務手続き
家族信託では、財産を預かる受託者(子など)にも税務上の義務が生じます。見落としやすいので押さえておきましょう。
- 信託の計算書・合計表の提出——受託者は、原則として毎年1月31日までに、信託財産の収益・費用などを記載した「信託の計算書」を税務署に提出します。ただし、信託財産に係る収益の額の合計額が年3万円以下(計算期間が1年未満のときは1万5,000円以下)の場合は、提出が不要です(所得税法第227条)。
- 信託に関する受益者別調書の提出——信託を設定したとき、受益者が変わったとき、信託が終了したときなど、権利の移動があった場合に、受託者が税務署へ提出します(相続税法第59条第3項)。
- 受益者の確定申告——信託財産から家賃などの所得が生じる場合、その所得を申告するのは受託者ではなく受益者です。受益者は自分の他の所得と合わせて確定申告します。
よくある質問(FAQ)
家族信託と成年後見制度はどう違いますか?
自益信託(委託者=受益者)なら本当に贈与税はかからないのですか?
信託した不動産の赤字が損益通算できないのはなぜですか?
家族信託にすると固定資産税は誰が払いますか?
家族信託の契約書作成費用や専門家報酬は経費になりますか?
9. まとめ
家族信託(民事信託)は、認知症による資産凍結を防ぎ、柔軟な承継を実現する強力な仕組みですが、税務の面では独特の注意点があります。要点は次のとおりです。
- 家族信託の税金は、受益者が財産を持っているものとみなす「受益者課税」が大原則(所得税法第13条)。
- 自益信託(委託者=受益者)で設定すれば、設定時に贈与税・不動産取得税・譲渡所得税はかからない。ただし信託の登記に登録免許税(建物0.4%・土地0.3%)はかかる。
- 他益信託(委託者≠受益者)は、受益者に贈与税(または相続税)が課される。
- 最大の落とし穴が損益通算の禁止(租税特別措置法第41条の4の2)。信託した不動産の赤字は、他の所得と相殺できず、繰越しもできない。
- 家族信託そのものに相続税の節税効果はない。節税は別手法と組み合わせ、家族信託は「認知症対策・承継の器」と位置づけるのが正しい。
「親が元気なうちに認知症対策と承継の設計をしたい」「収益不動産を家族信託に入れてよいか判断したい」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、家族信託の税務から相続・事業承継まで、法務の専門家とも連携して一体でご支援します。ご自身とご家族の資産の守り方に迷われたら、お気軽にご相談ください。
出典・参考資料
- 所得税法 第13条(信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)|e-Gov法令検索(受益者等課税信託)
- 相続税法 第9条の2(贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利)/第59条第3項(信託に関する受益者別調書)
- 租税特別措置法 第41条の4の2 関係(特定組合員等の不動産所得に係る損益通算等の特例)|国税庁
- No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算|国税庁
- 地方税法 第73条の7第3号(形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税)
- 租税特別措置法 第72条(土地の所有権の信託の登記に係る登録免許税の軽減)
- 信託と税金|一般社団法人 信託協会
本記事は、家族信託(民事信託)の税務に関する一般的な情報提供であり、個別の税務判断・法務判断に代わるものではありません。信託の設計・課税関係は、財産の内容・受益者の設定・契約条項により大きく異なります。実際の組成にあたっては、税理士・司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月22日
家族信託・相続・事業承継のご相談は KMP へ
公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、家族信託の税務から相続・事業承継まで、法務の専門家とも連携して一体でご支援します。認知症対策と資産の承継設計に迷われたら、お気軽にご相談ください。
無料相談はこちらこの記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。
