競馬・競艇の払戻金に税金はかかるのか|「外れ券は経費にならない」の理由と、雑所得になる例外を税理士が解説
- 1. 何が問題なのか(3行サマリー)
- 2. 前提:払戻金は原則「一時所得」、雑所得は例外
- 3. 一時所得と雑所得で、税額はここまで変わる
- 4. 専門家の視点——最高裁が「雑所得」と認めた事件と、認めなかった事件
- 5. 実務で押さえるべきこと
- 6. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 何が問題なのか(3行サマリー)
- 競馬の馬券・競輪の車券などの払戻金は、原則として一時所得です(所得税基本通達34−1(2))。競艇(ボートレース)の払戻金も、同通達の注3により競馬の馬券に準じて取り扱うこととされています
- 一時所得の計算で引けるのは「その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る」(所得税法第34条第2項)。外れ券の購入代金は、当たり券の払戻金を得るために直接要した金額ではないため、原則として引けません
- 例外として雑所得になる場合があり、そのときは外れ券の代金も必要経費になります。ただし条件は極めて厳しく、最高裁が認めたのは「年間を通じてほぼ全レースを網羅的に買い続け、回収率が100%を超えるように買い続けたことが客観的に明らかな場合」です
本記事で触れる告発事案は、報道によれば刑事告発がされた段階です。告発は起訴でも有罪判決でもありません。 本記事は個別の事実認定には立ち入らず、「公営競技の払戻金は税務上どう扱われるのか」という制度の説明に徹します。
2. 前提:払戻金は原則「一時所得」、雑所得は例外
条文と通達の位置づけ
所得税法は、一時所得を「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」と定義しています(所得税法第34条第1項)。
これを受けて、所得税基本通達34−1は一時所得の例示を掲げており、その(2)が該当箇所です。
「競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。)」
つまり、原則は一時所得で、括弧書きの「営利を目的とする継続的行為から生じたもの」に当たれば一時所得から外れて雑所得になる、という構造です。
同通達の注では、さらに踏み込んだ整理がされています(平成30課個2−17、課審5−1改正)。
- 注1:馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して定めた独自の条件設定と計算式に基づき、又は予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するなど、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら多数の馬券を購入し続けることにより、年間を通じての収支で多額の利益を上げ、これらの事実により、回収率が馬券の当該購入行為の期間総体として100%を超えるように馬券を購入し続けてきたことが客観的に明らかな場合の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する
- 注2:上記の注1以外の場合の払戻金に係る所得は、一時所得に該当することに留意する
- 注3:競輪の車券の払戻金等に係る所得についても、競馬の馬券の払戻金に準じて取り扱うことに留意する
対象になる公営競技
注3の「等」により、公営競技の払戻金は同じ考え方で扱われます。具体的には次のものが該当します。
- 中央競馬・地方競馬の馬券(勝馬投票券)の払戻金
- 競輪の車券の払戻金
- 競艇(ボートレース)の舟券の払戻金
- オートレースの車券の払戻金
なお、宝くじ(当せん金付証票)の当せん金は非課税であり、ここでの話とは別の扱いです(当せん金付証票法第13条)。公営競技の払戻金には、この非課税規定がありません。
3. 一時所得と雑所得で、税額はここまで変わる
計算式の違い
一時所得と雑所得では、引ける金額の範囲がまったく違います。ここが本記事の核心です。
- 一時所得:総収入金額 − 直接要した金額 − 特別控除50万円
- 雑所得:総収入金額 − 必要経費
一時所得の「直接要した金額」は、所得税法第34条第2項が「その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る」と括弧書きで限定しています。当たった券の購入代金は、その払戻金を生じさせた直接の支出なので引けます。しかし外れた券の代金は、その払戻金を生じさせていないため、この限定に引っかかって引けません。
さらに、一時所得は特別控除50万円を引いたあとの金額の2分の1が総所得金額に算入されます(所得税法第22条第2項第2号、第34条第3項)。この「2分の1」があるので一見有利に見えるのですが、外れ券を引けない影響のほうがはるかに大きいのが実情です。
同じ収支でも税額が逆転する
年間で舟券・馬券を950万円分購入し、払戻金が1,000万円だった場合(当たった券の購入代金は50万円、外れた券の代金は900万円)を考えます。手元に残った利益は50万円です。
一時所得として扱われた場合
- 所得金額:1,000万円 − 50万円(当たり券のみ)− 50万円(特別控除)= 900万円
- 総所得金額への算入額:900万円 × 1/2 = 450万円
雑所得として認められた場合
- 所得金額:1,000万円 − 950万円(外れ券を含む全額)= 50万円
- 総所得金額への算入額:50万円
(注)上記の金額は、条文の計算式に当てはめた説明用の設例です。
一時所得として扱われると、手元に50万円しか残っていないのに450万円が課税対象に上乗せされます。仮に所得税と住民税を合わせた限界税率を30%とすると、税額は約135万円。手元の利益50万円をはるかに超えます。これが「勝ったのに払えない」という事態の正体です。
4. 専門家の視点——最高裁が「雑所得」と認めた事件と、認めなかった事件
通達の注1が非常に細かい条件を並べているのは、これが最高裁判決をそのまま条文化したものだからです。国税庁は平成30年7月に「競馬の馬券の払戻金に係る課税について」を公表し、判決を受けた取扱いを明らかにしています。
雑所得と認められた2つの事件
大阪事件(最高裁平成27年3月10日 第三小法廷判決/事件番号 平成26年(あ)第948号)
給与所得者が、パソコンで競馬レースを予想し自動的に馬券を購入するソフトウエアを使用して、インターネットで長期間にわたり大量の馬券を購入し、多額の払戻金を得ていた事案です。この払戻金を申告していなかったとして、所得税約5億7,000万円の脱税(所得税法違反)に問われた刑事事件でした。最高裁は払戻金に係る所得を雑所得と判断し、外れ馬券の購入代金は必要経費に当たるとしました。
札幌事件(最高裁平成29年12月15日 第二小法廷判決/事件番号 平成28年(行ヒ)第303号)
こちらは更正処分の取消しを求めた行政事件です。原告は競馬予想ソフトウエアを使用していませんでしたが、最高裁は馬券購入の態様や利益発生の状況等から雑所得に該当し、外れ馬券の購入代金は必要経費に当たると判断しました。税大ジャーナル30号によれば、この事案では6年間にわたり1年当たり合計3億円から21億円程度の馬券を購入し続け、いずれの年も年間収支で利益を得ていて、その金額は少ない年で約1,800万円、多い年では約2億円に及んでいました。平成21年分だけを見ると、その年に開催された中央競馬の全3,453レースのうち2,445レース(全レースの71%)で馬券を購入していたことが判明しています。
一時所得とされた事件
横浜事件(東京高裁平成29年9月28日判決/事件番号 平成28年(行コ)第428号)
同じ時期に争われながら、こちらは一時所得と判断されました。国税庁の公表資料は、東京高裁平成28年9月29日判決(最高裁平成29年12月20日上告棄却)についても、馬券購入の態様や利益発生の状況等から一時所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費に該当しないと判断されたことを明記しています。さらに、国税不服審判所の平成30年3月22日裁決も一時所得と判断しています。
国税庁が明示した「一般の愛好家」の扱い
国税庁の公表資料は、注1に該当しない場合について、次のように明記しています。
「なお、上記に該当しないいわゆる一般の競馬愛好家の方につきましては、従来どおり一時所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費として控除できませんのでご注意ください。」
つまり、雑所得は「勝ち続けている人だけが到達できる、極めて狭い例外」です。「自分は研究しているから雑所得だ」という自己申告では通りません。
5. 実務で押さえるべきこと
申告が必要になる金額のライン
給与所得者の場合、給与の年間収入金額が2,000万円以下で、1か所から給与を受けて年末調整を受けているときは、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下であれば確定申告は不要です(所得税法第121条第1項第1号)。
ここでいう「給与所得及び退職所得以外の所得金額」は、総所得金額から給与所得の金額等を控除した金額とされています(所得税基本通達121−6)。一時所得は2分の1が総所得金額に算入されますので、判定も2分の1後の金額で行います。逆算すると次のようになります。
- 一時所得の金額(特別控除後)が40万円を超えると、2分の1後が20万円を超える
- 一時所得の金額が40万円になるのは、払戻金から当たり券の代金を引いた額が90万円のとき(90万円 − 特別控除50万円 = 40万円)
ただし、この20万円の規定は所得税についてのものです。住民税には同様の規定がないため、所得税の確定申告が不要な場合でも、原則として住民税の申告が必要になります。ここは見落としが多いところです。
申告しなかった場合に何が加算されるか
無申告が判明した場合、本税に加えて次の負担が生じます。
- 無申告加算税:納付すべき税額のうち50万円以下の部分に15%、50万円超300万円以下の部分に20%、300万円を超える部分に30%(国税通則法第66条第1項〜第3項)。調査があったことにより更正・決定を予知してされたものでない場合は、それぞれ5%軽減されます
- 重加算税:事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかったときは、無申告加算税に代えて40%(同法第68条第2項)
- 重加算税の加重:過去5年内に同じ税目について無申告加算税等を課されたことがある場合等は、さらに10%が加算されます(同法第68条第4項)
- 延滞税:令和8年1月1日から令和8年12月31日までの期間は、納期限の翌日から2か月を経過する日まで年2.8%、2か月を経過した日以後は年9.1%です
冒頭の報道事案で「所得税約1億3,500万円」という数字が出ていますが、これは本税の話です。仮に隠蔽・仮装が認定されれば、ここに重加算税と延滞税が積み上がります。
記録がなければ、有利なほうを選べない
雑所得として外れ券の代金を引くには、購入と払戻の記録が必要です。最高裁が雑所得を認めた事件では、インターネット投票の口座(PAT口座)の履歴という客観的な記録が判断の基礎になりました。一方、一時所得とされた事案では、購入履歴や収支の記録が保存されておらず、購入した券の種類・金額も不明でした。
現在のインターネット投票では、購入・的中の履歴が電子的に残ります。これは納税者にとって有利にも不利にも働きます。残っている記録は、税務調査で確認され得るものでもあるからです。
守秘義務がありますので詳細は控えますが、構図としてお伝えすると、この論点でご相談をいただくのは「勝った直後」ではなく、たいてい銀行口座に大きな入金が続いたあとです。過去のご相談の傾向として申し上げると、多くの方が「年間では負けているから関係ない」と考えておられて、一時所得の計算式をご説明したところで初めて事の重大さに気づかれます。私たちが関与する場面でまず行うのは、投票口座の履歴を年単位で出していただき、当たった取引と外れた取引を分けて集計することです。所得区分の判断は、その数字が揃ってからでなければできません。
過去に一時所得で申告していた場合
国税庁の公表資料は、平成30年の取扱いが過去に遡って適用されることを明記しています。これにより過去の申告内容に異動が生じ、所得税が納めすぎになる場合は、所轄の税務署に更正の請求をすることで還付を受けられます。ただし、法定申告期限等から既に5年を経過している所得税については、法令上、減額できないとされています。心当たりのある方は、期限を意識して早めに確認してください。
6. まとめ
競馬・競艇・競輪などの公営競技の払戻金は、原則として一時所得です(所得税基本通達34−1(2)、注3)。一時所得の計算で引けるのは「直接要した金額」に限られるため(所得税法第34条第2項)、外れた券の購入代金は引けません。年間収支がマイナスでも課税所得が発生し得るのは、この仕組みによるものです。
例外として雑所得になり、外れ券の代金が必要経費として引けるのは、最高裁平成27年3月10日第三小法廷判決(事件番号 平成26年(あ)第948号)および最高裁平成29年12月15日第二小法廷判決(事件番号 平成28年(行ヒ)第303号)が示した条件を満たす場合、すなわち回収率が期間総体として100%を超えるように買い続けたことが客観的に明らかな場合に限られます。国税庁は、これに該当しない一般の愛好家は従来どおり一時所得であり、外れ馬券の購入費用は控除できないと明記しています。
給与所得者は、一時所得の2分の1後の金額を含む給与所得・退職所得以外の所得金額の合計が20万円を超えると確定申告が必要になります(所得税法第121条第1項第1号、所得税基本通達121−6)。所得税の申告が不要でも、住民税の申告は原則として必要です。無申告のまま調査を受ければ、無申告加算税は最大30%、隠蔽・仮装があれば重加算税40%、再犯加重でさらに10%、加えて延滞税が発生します。
税理士法人 小山・ミカタパートナーズは、所得区分の判断が難しい所得の申告、過年度分の更正の請求、税務調査への対応まで一体でご支援しています。投票口座に多額の入出金があり扱いにご不安のある方は、記録が残っているうちにご相談ください。
よくある質問(FAQ)
年間トータルで負けていても税金がかかることがあるのですか?
競艇(ボートレース)も競馬と同じ扱いですか?
予想ソフトを使えば雑所得になりますか?
宝くじの当せん金にも同じ税金がかかりますか?
会社に知られずに申告する方法はありますか?
過去に一時所得として申告してしまいましたが、雑所得だったかもしれません。
銀行口座に入るだけで税務署に分かるものですか?
無申告に気づいたら、調査を待たずに申告したほうがよいですか?
出典・参考資料
- 国税庁「競馬の馬券の払戻金に係る課税について」(平成30年7月)
- 国税庁「法第34条《一時所得》関係」(所得税基本通達34−1)
- 国税庁「法第120条《確定所得申告》関係」(所得税基本通達121−6)
- 国税庁タックスアンサー No.1490 一時所得(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁タックスアンサー No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁タックスアンサー No.9205 延滞税について(令和7年11月28日現在法令等)
- 税務大学校「税大ジャーナル」30号 原正子「競馬の払戻金の所得区分に係る考察」(令和元年5月10日掲載)
- 根拠法令:所得税法第22条第2項第2号、第34条、第35条、第121条第1項第1号、国税通則法第66条、第68条、当せん金付証票法第13条
- 参照判例:最高裁平成27年3月10日第三小法廷判決(事件番号 平成26年(あ)第948号)/最高裁平成29年12月15日第二小法廷判決(事件番号 平成28年(行ヒ)第303号)/東京高裁平成29年9月28日判決(事件番号 平成28年(行コ)第428号)/東京高裁平成28年9月29日判決(最高裁平成29年12月20日上告棄却)/国税不服審判所平成30年3月22日裁決
本記事は、国税庁の公表資料および法令・通達に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に関する税務上の取扱いを保証するものではありません。所得区分の判断は個々の事実関係の総合考慮によります。本文で触れた告発事案については報道されている範囲の事実のみを記載しており、有罪・無罪その他の事実認定を述べるものではありません。実際の税務処理にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年8月22日
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無料相談はこちらこの記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。
