研究開発税制に「3年間の繰越控除」が新設|控除しきれない分を捨てずに済む令和8年度改正を税理士が解説

研究開発税制は、試験研究費を使った会社が、その一定割合を法人税額から直接差し引ける制度です。所得から引く「経費」ではなく、税額そのものから引く「税額控除」なので、効きが大きい。中小企業の場合、試験研究費の額の12%を法人税額から控除できます(中小企業技術基盤強化税制)。 ただ、この制度には昔から一つ、経営者にとって理不尽に感じられる弱点がありました。控除には上限があり、上限を超えた分はその場で消えてしまうという点です。研究開発に力を入れた年ほど控除枠を使い切れず、せっかくの権利を捨てていた会社が少なくありません。 令和8年度税制改正で、ここに手が入りました。控除しきれなかった金額を3年間繰り越せる制度が新設されたのです。 「うちの開発費は試験研究費に当たるのか」「赤字の年は使えないと言われたが本当か」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも、研究開発税制をめぐるご相談は実際に寄せられます。本記事では、令和8年度改正で何が変わったのかを、「自社は結局いくら取り戻せるのか」という経営者の目線で、税理士が解説します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 何が変わったのか(3行サマリー)
  2. 2. 前提:研究開発税制の「上限」がどこで効くのか
  3. 3. 令和8年度改正の中身(繰越税額控除制度の創設)
  4. 4. 専門家の視点:もう一つ創設された「重点産業技術試験研究」の制度
  5. 5. 見落とされがちな改正:国外に委託した試験研究は「半分」になる
  6. 6. 実務で押さえるべきこと
  7. 7. まとめ
  8. よくある質問(FAQ)

1. 何が変わったのか(3行サマリー)

  • 繰越税額控除制度が新設。中小企業技術基盤強化税制で控除しきれなかった金額を、繰越税額控除限度超過額として3年間繰り越せるようになりました(租税特別措置法42条の4第7項)
  • 適用期限が令和11年(2029年)3月31日まで3年延長。中小企業者等税額控除限度額の特例と、税額控除額の上限の特例が対象です
  • 適用は法人の令和8年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税から(改正法附則51条1項)。3月決算の会社なら、令和9年3月期がすでに対象です
⚠️ 国税庁のタックスアンサーは、まだ改正前の内容です … No.5441「研究開発税制について(概要)」、No.5442「一般試験研究費の額に係る税額控除制度」、No.5444「中小企業技術基盤強化税制」は、いずれも本記事の執筆時点で「令和7年4月1日現在法令等」の表記のままで、適用期限も令和9年3月31日と記載されています。令和8年度改正による3年延長(令和11年3月31日まで)と繰越税額控除制度の創設は反映されていません。制度の骨格を知るには有用ですが、改正後の取扱いを確認する目的では、財務省の解説や条文に当たる必要があります

2. 前提:研究開発税制の「上限」がどこで効くのか

研究開発税制は、大きく次の3つで構成されています。中小企業が主に使うのは2つ目です。

制度対象控除の基本
一般試験研究費法人一般増減試験研究費割合に応じた率
中小企業技術基盤強化税制中小企業者等試験研究費の額の12%
特別試験研究費大学等との共同研究オープンイノベーション型

表の正式名称は、それぞれ一般試験研究費の額に係る税額控除制度中小企業技術基盤強化税制特別試験研究費の額に係る税額控除制度です。特別試験研究費の対象には、大学・特別研究機関等との共同研究や委託研究などが含まれます。

中小企業技術基盤強化税制で計算した控除額を、条文上は中小企業者等税額控除限度額といいます。ここで重要なのが、この金額をそのまま全額引けるわけではないという点です。

控除額には上限があり、調整前法人税額の25%(税額控除額の上限の特例の適用により最大で45%)とされています。これを中小企業者等控除上限額といいます。

つまり計算は二段構えです。

  • ①まず控除額を計算する … 試験研究費の額 × 12% = 中小企業者等税額控除限度額
  • ②次に上限で頭を打つ … 調整前法人税額 × 25%(特例で最大45%)= 中小企業者等控除上限額
  • ③小さいほうしか引けない … ①が②を超えた分は、改正前はその事業年度で消滅していた

ここが経営者にとって納得しづらい部分でした。研究開発に踏み込んだ年ほど①は大きくなりますが、その年の利益が薄ければ②が小さくなり、頑張った年ほど権利を捨てるという逆転が起きていたのです。

💡 「調整前法人税額の25%」の意味 … 上限は「利益」ではなく法人税額に対する割合です。ですから、赤字で法人税額がゼロなら上限もゼロになり、控除は使えません。研究開発税制が「黒字の会社の制度」と言われるのはこのためです。繰越制度が新設された意味は、まさにこの点にあります。

3. 令和8年度改正の中身(繰越税額控除制度の創設)

令和8年度税制改正で、上記③の「消えてしまう部分」に手当てがされました。

控除をしてもなお控除しきれない金額は、繰越税額控除限度超過額として、3年間繰り越して控除することができることとされました(租税特別措置法42条の4第7項)。

制度の要点は次のとおりです。

  • 対象となる法人青色申告書を提出する法人であること(同項)
  • 対象となる事業年度 … その事業年度の試験研究費の額が、比較試験研究費の額を超える事業年度であること(同項)
  • 繰越せる金額 … 控除しきれなかった金額。ただし、すでにこの繰越税額控除制度により各事業年度において調整前法人税額から控除された金額があるときは、その金額を控除した残額とされます(同条19項10号)

ポイントは2つ目の条件です。繰り越した控除を使える年は、「試験研究費が前より増えている年」に限られます。繰越制度ができたからといって、研究開発をやめた年に過去の枠を消化できるわけではありません。研究開発を続けている会社を後押しするという制度の趣旨が、ここに表れています。

あわせて、次の期限延長も行われました。

  • 中小企業者等税額控除限度額の特例税額控除額の上限の特例の適用期限が、令和11年3月31日まで3年延長(租税特別措置法42条の4第5項・第6項)
  • 増減試験研究費割合に応じた税額控除額の上限の変動特例などについても、適用期限が令和11年3月31日まで3年延長(同条3項)。あわせて、令和9年4月1日以後に開始する事業年度における変動特例の割合が見直され、増減試験研究費割合が7%を超える事業年度については「(増減試験研究費割合-7%)×0.625(上限5%)」とされました

適用開始時期は、法人の令和8年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税からです(改正法附則51条1項)。同日前に開始した事業年度は従前どおりとされています。

⚠️ 「3年延長」と「繰越3年」は別の話です … 適用期限の令和11年3月31日までの3年延長は、制度そのものがいつまで使えるかの話です。一方、繰越税額控除の3年間は、控除しきれなかった枠を何年持ち越せるかの話です。同じ「3年」でも意味がまったく違うため、混同しないようご注意ください。

4. 専門家の視点:もう一つ創設された「重点産業技術試験研究」の制度

令和8年度改正では、研究開発税制の周辺でもう一つ、新しい税額控除が創設されました。重点産業技術試験研究を行った場合の法人税額の特別控除制度(租税特別措置法42条の5)です。

控除率が大きいのが特徴です。産業技術力強化法22条1項の認定(認定重点研究開発計画)を受けた法人が、その認定に係る計画に従って実施した研究開発について、控除対象重点産業技術試験研究費の額の40%(特別重点産業技術試験研究費の額に該当する場合は50%)相当額の税額控除ができるとされています。

ただし、実務上きわめて重要な注意点があります。この制度は、本記事の執筆時点でまだ施行されていません。

施行日が産業技術力強化法の改正法の施行日に連動しており、その施行日は公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日とされています(産技法改正法附則1条)。財務省の解説も、その政令は今後定められると記載しています。つまり、「制度は創設されたが、いつから使えるかはまだ決まっていない」という状態です。

また、この制度は認定を前提とする仕組みであり、認定を受けずに行った研究開発には適用されません。控除率の数字だけが独り歩きしやすい制度なので、自社が対象になり得るかは、認定の要件から確認する必要があります。

💬 実務の現場から
弊社にも、「開発にお金をかけたのに、研究開発税制をまったく使っていなかった」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、取りこぼしの原因は制度の存在を知らないことよりも、試験研究費の集計が決算間際まで始まっていないことにあります。試験研究費は、人件費・原材料費・外注費などに散らばって計上されており、期末になってから「どれが試験研究費か」を遡って拾い直すのは相当な手間です。私たちが関与する場面では、期首の段階で対象になりそうなプロジェクトに区分を振っておき、月次で積み上げる形をおすすめしています。繰越制度ができたことで、「今年は上限で引ききれないから集計しなくてよい」という判断が成り立たなくなった点は、実務上とても大きな変化です。

5. 見落とされがちな改正:国外に委託した試験研究は「半分」になる

令和8年度改正には、繰越制度の創設とは逆方向の見直しも入っています。控除対象となる試験研究費の額の範囲の見直しです。

他の者に委託する試験研究のうち、その委託に基づき行われる試験研究が国外において行われるものは、国外委託試験研究とされ(租税特別措置法第42条の4第19項第14号)、税額控除の対象となるのは、その試験研究費の額の50%相当額とされました。委託先が外国法人である場合には、その外国法人の本店等に委託するものも含まれます。

ただし、医薬品等(医薬品、医療機器および再生医療等製品)に係る試験研究のうち、その有効性および安全性の確認のために行う臨床試験(科学的な質および成績の信頼性が確保されていると認められる一定のものに限ります)の委託に係る試験研究費の額は、全額が対象のままです。

そして、50%への引下げは段階的に行われます。

  • 令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度……70%相当額
  • 令和9年4月1日から令和10年3月31日までの間に開始する事業年度……60%相当額
  • 令和10年4月1日以後に開始する事業年度……50%相当額

💡 押さえておきたいポイント 判定の基準は「委託先が海外の会社かどうか」ではなく、その試験研究が国外において行われるかどうかです。国税庁は、この判定について法令解釈通達(措置法通達42の4(1)-7)を新設しています。海外の開発拠点や委託先を使っている企業は、契約単位ではなく、実際に研究が行われる場所の単位で切り分けて集計する必要があります。

6. 実務で押さえるべきこと

繰越制度の新設によって、実務の優先順位が変わります。

❌ よくある失敗
  • 上限で引ききれないと分かった時点で、試験研究費の集計をやめてしまう
  • 「赤字だから研究開発税制は関係ない」と決めつけ、試験研究費を集計しないまま決算を締める
  • 試験研究費を独立した区分で管理しておらず、人件費・外注費に埋もれたまま決算を迎える
  • 控除率の大きい重点産業技術の制度を、認定を前提としない一般の制度と混同して見込みに入れる
⭕ 王道の進め方
  • 上限を超えそうな年こそ、超過額を確定させるために試験研究費を正確に集計しきる。繰り越せる金額はここで決まります
  • 青色申告であることを確認する。繰越税額控除制度は青色申告書を提出する法人が対象です
  • 繰越分を使う年は「試験研究費が比較試験研究費を超えている年」に限られるため、研究開発の投資計画と繰越の消化計画を並べて見る
  • 決算期を確認する。令和8年4月1日以後に開始する事業年度からなので、3月決算なら令和9年3月期が最初の対象です
  • 重点産業技術の制度は、施行日が政令待ちであることを前提に、認定の要件から検討する

とくに2つ目と3つ目は、これまでの実務にはなかった視点です。従来は「その年に引けるかどうか」だけを見ていれば足りましたが、これからは引けなかった分が資産として3年間残るため、集計を省略することの機会損失が大きくなりました。

7. まとめ

令和8年度税制改正で、中小企業技術基盤強化税制に繰越税額控除制度が新設され、控除しきれなかった金額を繰越税額控除限度超過額として3年間繰り越すことができるようになりました(租税特別措置法42条の4第7項)。対象は青色申告書を提出する法人で、繰越分を使えるのは試験研究費の額が比較試験研究費の額を超える事業年度に限られます。あわせて、中小企業者等税額控除限度額の特例と税額控除額の上限の特例の適用期限が令和11年3月31日まで3年延長されました。適用は令和8年4月1日以後に開始する事業年度からです。

また、重点産業技術試験研究を行った場合の法人税額の特別控除制度(同法42条の5)が創設され、控除率は40%(一定の場合50%)とされていますが、施行日は政令待ちで、まだ使える状態にはありません

これまで「上限で引ききれないから」と集計を諦めていた会社にとって、今回の改正は取り戻せる金額を増やす直接的な変更です。税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、試験研究費の区分設計から控除額の試算、繰越の消化計画まで、研究開発を続ける経営者のご支援をしています。自社の開発費が対象になるか整理したい方は、お気軽にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

繰越税額控除制度は、いつから使えますか?

法人の令和8年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税から適用されます(改正法附則51条1項)。同日前に開始した事業年度は従前どおりです。3月決算の会社であれば、令和9年3月期が最初の対象事業年度になります。

控除しきれなかった金額は、何年繰り越せますか?

3年間です。中小企業者等税額控除限度額のうち控除をしてもなお控除しきれない金額が、繰越税額控除限度超過額として3年間繰り越されます(租税特別措置法42条の4第7項)。なお、すでにこの制度により控除された金額があるときは、その金額を控除した残額が対象になります。

繰り越した控除は、どの年でも使えますか?

いいえ。繰越税額控除制度の対象となる事業年度は、その事業年度の試験研究費の額が比較試験研究費の額を超える事業年度に限られます(同項)。研究開発を縮小した年に、過去の繰越枠だけを消化することはできません。

赤字でも研究開発税制は使えますか?

控除は法人税額から行うため、法人税額がない事業年度では控除できません。ただし令和8年度改正で繰越税額控除制度が新設されたため、控除しきれなかった金額を3年間繰り越し、試験研究費が増加している後の事業年度で使う余地が生まれました。集計を省略しないことが重要です。

適用期限はいつまでですか?

中小企業者等税額控除限度額の特例および税額控除額の上限の特例の適用期限は、令和8年度改正により令和11年3月31日まで3年延長されました(租税特別措置法42条の4第5項・第6項)。増減試験研究費割合に応じた税額控除額の上限の変動特例などについても、同じく令和11年3月31日まで3年延長されています(同条3項)。

中小企業の控除率は何%ですか?

中小企業技術基盤強化税制では、試験研究費の額の12%相当額が中小企業者等税額控除限度額となります。控除額の上限は調整前法人税額の25%で、税額控除額の上限の特例の適用により最大45%相当額まで引き上げられます。

控除率40%の「重点産業技術試験研究」の制度は、今すぐ使えますか?

使えません。この制度(租税特別措置法42条の5)は令和8年度改正で創設されましたが、施行日が産業技術力強化法の改正法の施行日に連動しており、その施行日は公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日とされています。財務省の解説によれば、その政令は今後定められるとされています。また、産業技術力強化法22条1項の認定(認定重点研究開発計画)を受けていることが前提となる制度です。

国税庁のタックスアンサーを見れば改正内容が分かりますか?

本記事の執筆時点では、No.5441・No.5442・No.5444はいずれも「令和7年4月1日現在法令等」の表記で、適用期限も令和9年3月31日と記載されており、令和8年度改正の内容は反映されていません。制度の骨格を確認する分には有用ですが、改正後の取扱いについては財務省「令和8年度 税制改正の解説」や条文をご確認ください。

出典・参考資料

免責 本記事は、財務省「令和8年度 税制改正の解説」等の公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。重点産業技術試験研究を行った場合の法人税額の特別控除制度は、本記事の執筆時点で施行日を定める政令が未制定です。適用にあたっては、事業年度・試験研究費の範囲・青色申告の有無など個別事情により判断が変わります。実際の判断にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から富裕層・オーナー経営者の資産防衛・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。