欠損金の繰越控除・繰戻し還付とは?赤字を10年使える仕組みを税理士が解説【2026年版】

「今期は赤字だが、来期黒字になったら税金はどうなるのか」「創業初年度の赤字を、翌年以降の黒字とぶつけられると聞いた」——赤字(欠損金)が出た会社や個人事業主から、税理士法人 小山・ミカタパートナーズには、こうした欠損金の使い方に関するご相談が数多く寄せられます。法人税・所得税には、ある年の赤字を将来の黒字と相殺したり、逆にすでに納めた税金を取り戻したりできる、赤字を「資産」に変える2つの制度があります。欠損金の繰越控除欠損金の繰戻し還付です。 この2つは、青色申告をしているかどうかで使えるかが決まり、法人と個人でも中身が違います。「赤字だから何もしなくていい」と申告を怠ると、せっかくの繰越控除が使えなくなることもあります。本記事では、法人の繰越控除(10年)・繰戻し還付から、個人事業主の純損失の扱いまでを、国税庁の一次情報にもとづいて網羅的に解説します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 欠損金とは何か(3行サマリー)
  2. 2. 法人の欠損金の繰越控除(法人税法57条)
  3. 3. 法人の欠損金の繰戻し還付(法人税法80条)
  4. 4. 個人事業主(所得税)の純損失の扱い
  5. 5. 繰越欠損金でやりがちな失敗と王道
  6. 7. まとめ
  7. よくある質問(FAQ)

1. 欠損金とは何か(3行サマリー)

  • 欠損金=税務上の赤字——会計上の赤字とは別に、税法のルールで計算した所得がマイナスになった金額を「欠損金」といいます。この欠損金は捨てるのではなく、一定のルールで将来または過去の黒字と相殺できます。
  • 繰越控除=将来の黒字と相殺——今期の赤字を、翌期以降の黒字(所得)から差し引いて、将来の法人税・所得税を減らす仕組みです。法人は最長10年、個人(青色)は3年繰り越せます。
  • 繰戻し還付=過去の黒字と相殺——今期の赤字を、前期(前年)の黒字に繰り戻して、すでに納めた税金の還付を受ける仕組みです。法人は中小企業者等のみ、個人は青色申告者が使えます。
💡 どちらも青色申告が大前提です。白色申告では、法人の繰越控除・繰戻し還付は使えず、個人でも純損失の繰越しは災害等の例外を除いて使えません。赤字の年こそ、期限内に青色申告書を提出しておくことが、将来の節税枠を守る第一歩になります。

2. 法人の欠損金の繰越控除(法人税法57条)

法人が青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金は、その後の各事業年度の所得から差し引くことができます。これが欠損金の繰越控除です(法人税法第57条、国税庁タックスアンサーNo.5762)。ポイントは3つです。

① 繰越期間は10年 平成30年(2018年)4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金は、翌期以降10年間繰り越せます。それより前に開始した事業年度の欠損金の繰越期間は9年です。10年を過ぎると、使い切れなかった欠損金は切り捨てられます。

② 控除できる限度(中小法人は所得の100%) 繰り越した欠損金を、その年の所得からどこまで引けるかは、法人の規模で変わります。

法人の区分繰越欠損金の控除限度
中小法人等(資本金1億円以下等)その年の所得金額の 100%(全額)
中小法人等以外(大法人)その年の所得金額の 50%

中小法人等は、繰り越した欠損金を所得の全額まで使えるため、黒字が出てもその範囲で法人税をゼロにできます。一方、資本金1億円超などの大法人は、黒字が出た年でも所得の半分(50%)までしか繰越欠損金を使えず、残り半分には課税されます(平成30年4月1日以後開始事業年度)。

③ 適用の要件 欠損金が生じた事業年度に青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出していることが必要です(帳簿書類の保存も要件)。なお、欠損が出た年さえ青色で申告していれば、その後の黒字の年の申告が白色になっても、繰越控除自体は適用できます。

3. 法人の欠損金の繰戻し還付(法人税法80条)

繰越控除が「将来の黒字」と相殺するのに対し、欠損金の繰戻し還付は「過去の黒字」と相殺して、すでに納めた法人税を取り戻す制度です(法人税法第80条、国税庁タックスアンサーNo.5763)。急に赤字に転じた会社が、手元資金を確保する手段になります。

  • 使えるのは中小企業者等——資本金1億円以下の普通法人等(大法人との完全支配関係がある場合などを除く)が対象です。大法人は原則としてこの制度の適用が停止されており、中小企業者等の特典と考えてよいでしょう。
  • 前1年に繰り戻せる——今期(欠損事業年度)の欠損金を、その開始日前1年以内に開始した事業年度(=前期)の所得に繰り戻します。前期に納めた法人税が還付の原資になります。
  • 青色申告が要件——還付の対象となる前期から欠損事業年度まで、連続して青色申告書を提出していること、欠損事業年度の確定申告書と同時に還付請求書を提出することが必要です。
  • 還付される金額——次の式で計算します。
還付される法人税額 = 前期(還付所得事業年度)の法人税額 × ( 今期の欠損金額 ÷ 前期の所得金額 )
※今期の欠損金額は、前期の所得金額が上限です。前期に納めた法人税を、赤字の割合に応じて取り戻すイメージです。
💡 繰越控除と繰戻し還付、どちらを選ぶか
前期に法人税を納めていて、今すぐ資金が欲しいなら繰戻し還付(現金が戻る)。前期の税額が小さい、あるいは翌期以降の黒字が見込め、税率の高い将来に備えたいなら繰越控除(将来の税を減らす)。両者は繰り戻す金額と繰り越す金額を調整して併用もできます。資金繰りと将来の利益計画をあわせて判断するのが実務です。

4. 個人事業主(所得税)の純損失の扱い

法人だけでなく、個人事業主にも同じ発想の制度があります。事業所得などが赤字になり、他の所得と損益通算してもなお残る損失を純損失といい、青色申告をしていれば次の2つが使えます(国税庁タックスアンサーNo.2070)。

  • 純損失の繰越控除(3年)——青色申告者は、その年の純損失を翌年以後3年間繰り越して、各年の所得金額から控除できます(所得税法第70条)。法人の10年より短い点に注意してください。
  • 純損失の繰戻し還付——前年も青色申告をしている場合、その年の純損失を前年分の所得に繰り戻して、前年に納めた所得税の還付を受けられます(所得税法第140条)。

白色申告の場合は、変動所得の損失や被災事業用資産の損失など限られた損失しか繰り越せません。個人事業主も、赤字の年ほど青色申告のメリットが大きくなります。

5. 繰越欠損金でやりがちな失敗と王道

❌ 欠損金でやってしまいがちな失敗
  • 赤字だからと申告そのものを怠り、青色申告書を出さず繰越しの権利を失う
  • 期限後申告や2期連続無申告で青色申告の承認が取り消され、繰越控除が使えなくなる
  • 前期に法人税を納めていたのに、繰戻し還付を検討せず現金を取り戻す機会を逃す
  • M&Aや組織再編で赤字会社を取り込めば欠損金も使えると考えるが、繰越欠損金の引継ぎには「みなし共同事業要件」などの厳しい制限があり、そのまま使えないことが多い
  • 個人の純損失を3年で使い切れず切り捨てる
⭕ 欠損金を活かす王道
  • 赤字の年こそ期限内に青色申告書を提出し、10年(個人は3年)の繰越枠を確保する
  • 前期に納税があるなら、繰戻し還付と繰越控除を資金繰りと利益計画で比較して選ぶ
  • 繰越欠損金の残高と使用期限を管理し、黒字化のタイミングで計画的に消化する
  • 決算書に繰越欠損金があると銀行融資の審査で説明を求められるため、赤字の理由と黒字化計画をあわせて示す
  • M&A・再編で欠損金の活用を狙うなら、実行前に引継ぎ要件を必ず検証する

よくある質問(FAQ)

赤字の年に申告しなくても、後から繰越控除は使えますか?

使えません。法人の繰越控除は、欠損が生じた事業年度に青色申告書である確定申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出していることが要件です(国税庁No.5762)。個人の純損失の繰越しも青色申告が前提です。赤字で納税がなくても、繰越枠を確保するために期限内の申告が必要です。

繰越欠損金は何年使えますか?

法人は、平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金を最長10年繰り越せます(それ以前開始分は9年)。個人事業主の純損失は青色申告で3年です。期間を過ぎると使い切れなかった分は切り捨てられます。

資本金1億円以下なら黒字が出ても全額を繰越欠損金で消せますか?

中小法人等(資本金1億円以下等)は、繰り越した欠損金をその年の所得の100%まで控除できます。したがって黒字がその範囲内なら法人税をゼロにできます。資本金1億円超などの大法人は所得の50%までしか使えず、残りには課税されます。

前期は黒字で税金を納めました。今期赤字なら取り戻せますか?

中小企業者等(資本金1億円以下等)であれば、欠損金の繰戻し還付(法人税法80条)で、今期の欠損金を前期の所得に繰り戻し、前期に納めた法人税の一部を還付請求できます。連続した青色申告と、確定申告書と同時の還付請求書の提出が必要です。

赤字の会社を買えば、その繰越欠損金を自社の節税に使えますか?

原則としてそのままは使えません。合併や完全支配関係下での欠損金の引継ぎには、みなし共同事業要件などの制限があり、租税回避目的の欠損金の利用は封じられています。M&A・組織再編で欠損金の活用を見込む場合は、実行前に引継ぎ要件を必ず確認してください。

7. まとめ

欠損金(税務上の赤字)は、正しく扱えば将来または過去の黒字と相殺できる「資産」になります。要点は次のとおりです。

  • 繰越控除は将来の黒字と相殺。法人は最長10年、個人(青色)は3年。中小法人等は所得の100%、大法人は50%まで控除できる。
  • 繰戻し還付は過去の黒字と相殺し、納めた税金を取り戻す。法人は中小企業者等のみ、個人は青色申告者が使える。
  • どちらも青色申告が大前提。赤字の年こそ期限内に青色申告書を提出し、繰越枠を守ることが最優先。
  • M&A・組織再編での欠損金の引継ぎには厳しい制限があり、実行前の検証が不可欠。

「今期の赤字を繰り越すべきか、前期に繰り戻して還付を受けるべきか」「繰越欠損金を計画的に消化して黒字化後の税負担を抑えたい」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、欠損金の繰越控除・繰戻し還付の選択から、資金繰りと利益計画をふまえた出口設計、銀行融資への説明までを一体で伴走します。赤字の期こそ、申告期限の前にお早めにご相談ください。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、欠損金の繰越控除・繰戻し還付に関する一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。控除限度・適用要件・組織再編に伴う欠損金の引継ぎ制限などは、法人の区分・資本関係・申告状況等の事実関係により異なり、制度の要件は改正により変わることがあります。実際の適用にあたっては、税理士等の専門家にご確認ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月14日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」を掲げ、税務顧問・改正対応から資産防衛・相続・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。