国外転出時課税(出国税)とは?1億円以上の有価証券を持つ人が海外移住前に確認すべきことを税理士が解説
- 1. 結論(3行サマリー)
- 2. 国外転出時課税(出国税)とは
- 3. 誰が対象になるのか(2つの要件)
- 4. いくら課税されるのか(みなし譲渡課税)
- 5. 救済措置①:納税猶予(最長10年)
- 6. 救済措置②:帰国した場合の取消し・値下がり時の減額
- 7. 専門家の視点:贈与・相続でも「出国税」がかかる
- 8. 実務で押さえるべきこと
- 9. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 結論(3行サマリー)
- 国外転出(日本に住所・居所を有しないこと)をする一定の居住者が、時価1億円以上の有価証券等を持っている場合、その含み益に所得税(復興特別所得税を含む)が課される
- 実際に売っていなくても、国外転出時に時価で譲渡したものとみなして課税される(みなし譲渡課税)
- ただし、納税猶予(5年・延長で最長10年)や、帰国した場合の取消しといった救済措置があり、出国前の手続きで負担を大きく変えられる
2. 国外転出時課税(出国税)とは
国外転出時課税は、平成27年度税制改正で創設された「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」です。平成27年(2015年)7月1日以後に国外転出をする一定の居住者が、1億円以上の有価証券等(対象資産)を所有等している場合に、その対象資産の含み益に所得税が課税されます。
もともとの趣旨は、含み益を抱えたまま、株式譲渡益が非課税または低課税の国へ移住し、移住先で売却して課税を免れるという富裕層の節税スキームを封じることにあります。日本に住んでいるうちに値上がりした分は日本で課税する、という考え方です。
3. 誰が対象になるのか(2つの要件)
国外転出時において、次の⑴・⑵のいずれにも該当する居住者が対象になります(国税庁資料)。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ⑴ 金額要件 | 所有等している対象資産の価額の合計が1億円以上であること |
| ⑵ 居住期間要件 | 原則として、国外転出をする日前10年以内において、国内に5年を超えて住所又は居所を有していること |
ポイントは、1億円の判定が特定の銘柄ではなく「対象資産の合計額」で行われること、そして長年日本に住んできた人ほど居住期間要件に当てはまりやすいことです。一定の在留資格で滞在していた期間など、居住期間の計算には例外もあるため、外国籍の方・駐在経験者は個別確認が必要です。
対象資産(何が含み益課税の対象か)
対象資産は、次のものです。
- 有価証券(株式、投資信託 等)
- 匿名組合契約の出資の持分
- 未決済の信用取引・発行日取引・デリバティブ取引
不動産や預貯金そのものは対象資産に含まれません。含み益を持つ株式・投資信託を多く保有する人ほど、出国税の影響が大きくなります。
4. いくら課税されるのか(みなし譲渡課税)
課税の仕組みは、国外転出時の価額(時価)で対象資産を譲渡したものとみなし、その含み益(時価−取得費)に所得税(復興特別所得税を含む)を課すというものです。上場株式等の譲渡益と同様、原則として申告分離課税です。
申告のタイミングは、出国前の手続きの有無で変わります。
| 区分 | みなす時点・申告期限 |
|---|---|
| 国外転出までに納税管理人の届出あり | 国外転出時の価額で譲渡等があったものとみなし、翌年の確定申告期限までに申告 |
| 国外転出までに納税管理人の届出なし | 国外転出予定日から起算して3か月前の価額で譲渡等があったものとみなし、国外転出までに申告 |
納税管理人(日本国内で本人に代わって申告・納税の手続きを行う人)を出国前に決めておくかどうかで、評価のタイミングも申告の期限も変わります。出国直前に慌てると不利になりやすいのが、この制度の怖いところです。
5. 救済措置①:納税猶予(最長10年)
「売っていないのに多額の納税」という事態を避けるため、納税猶予制度が用意されています。
国外転出時までに納税管理人の届出をした方が、確定申告期限までに確定申告書を提出し、猶予される所得税・利子税に相当する担保を提供することで、その所得税の納税が国外転出から5年間猶予されます。
- 猶予期間中は、各年の3月15日(土日の場合は翌月曜日)までに継続届出書の提出が必要
- 長期の海外滞在が必要な場合は、延長の届出により、さらに5年間(合計最長10年)猶予期間を延長できる
- ただし、猶予期間中に対象資産を譲渡するなど一定の事由が生じた場合は、その対象資産に係る猶予税額を、事由が生じた日から4か月以内に納付する必要がある
6. 救済措置②:帰国した場合の取消し・値下がり時の減額
出国税は「出ていったきり」を前提にした制度ではありません。状況に応じて、課税を取り消したり減額したりできます。
- 帰国した場合の取消し:納税猶予期間(5年又は10年)の満了日までに帰国した場合(納税猶予を受けず、国外転出から5年以内に帰国した場合も含む)は、国外転出時から帰国時まで引き続き持っている対象資産について、出国税で課された税額を取り消すことができます(更正の請求が必要)
- 値下がり時の減額:出国後に実際に譲渡した際の価額が国外転出時より下落していた場合、その対象資産について課された税額を減額できます(譲渡等の日から4か月を経過する日までに更正の請求)
- 二重課税の調整:移住先の国で外国所得税が課された場合は、外国税額控除の適用を受けられる場合があります
「数年だけ海外で暮らして戻る」ケースでは、帰国による取消しが効くため、手続きを正しく踏めば最終的な負担を大きく抑えられる可能性があります。
7. 専門家の視点:贈与・相続でも「出国税」がかかる
実務家の立場から申し上げると、出国税で最も見落とされやすいのが、本人が海外に移住しなくても課税され得るという点です。
1億円以上の対象資産を持つ人が、国外に居住する親族等へ有価証券等を贈与した場合(国外転出(贈与)時課税)や、相続・遺贈によって非居住者である相続人等に対象資産が移転する場合(国外転出(相続)時課税)にも、贈与者・被相続人の側で同じようにみなし譲渡課税が行われます。
つまり、「子どもが海外に住んでいて、そこへ株式を生前贈与する」「相続人の一人が海外在住」といった、国際相続・国際贈与の場面でも出国税が顔を出すのです。富裕層の資産承継を設計するうえでは、相続税・贈与税だけでなく、この出国税まで一体で見ておく必要があります。海外移住そのものの税務(居住者・非居住者の判定)については別記事「海外移住と非居住者の判定」でも解説しています。資産防衛全体の地図は富裕層の資産防衛 完全ガイドもあわせてご覧ください。
8. 実務で押さえるべきこと
出国税は「気づいたときには出国直前で手遅れ」が最も怖い分野です。1億円以上の有価証券等を持つ方が押さえるべき要点を、失敗例と王道で整理します。
- 「まだ売っていないから課税されない」と思い込み、出国直前まで何もしない
- 納税管理人の届出をしないまま出国し、評価時点が前倒し(3か月前の価額)になる・納税猶予を受けられない
- 担保に充てられる資産を準備しておらず、納税猶予を使えない
- 海外在住の子・相続人への贈与・相続で出国税がかかることを知らない
- 出国を検討し始めた段階で、対象資産の時価合計が1億円以上かを早めに試算する
- 国外転出までに納税管理人の届出を行い、評価時点・申告期限・納税猶予の適用を確保する
- 納税猶予を使う場合は、担保に充てる資産と各年3月15日の継続届出のスケジュールを設計する
- 数年で帰国予定なら、帰国による取消しの手続き(更正の請求)まで見据えて段取りする
- 国際相続・国際贈与の予定がある場合は、出国税・相続税・贈与税を一体で検討する
守秘義務がありますので詳細は控えますが、構図としてお伝えすると、「海外移住を決めてから出国税の存在を知り、出国までの時間が足りない」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、出国税で差がつくのは税額の大小そのものより、納税管理人の届出・担保の準備・帰国予定の段取りといった“出国前の手続き設計”です。私たちが関与する場面でも、まずは対象資産の時価と含み益を一覧化し、納税猶予を使うか・いつ帰国するかまで含めたタイムラインを引くことを最優先にしています。
9. まとめ
国外転出時課税(出国税)は、時価1億円以上の有価証券等を持つ一定の居住者が国外転出をする際、含み益に所得税(復興特別所得税を含む)を課す制度です。実際に売っていなくても、出国の事実をもって譲渡したものとみなされる点が最大の特徴です。
もっとも、納税管理人の届出を前提に、①納税猶予(5年・延長で最長10年)、②帰国した場合の取消し、③値下がり時の減額、④二重課税の調整、といった救済措置が用意されています。さらに、海外在住の親族への贈与・相続でも同様に課税され得るため、国際相続・国際贈与の設計でも欠かせない論点です。税理士法人 小山・ミカタパートナーズは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、出国税の試算から納税猶予・帰国時の取消し、国際相続・国際贈与まで一体で伴走します。海外移住や国際的な資産承継をお考えの方は、出国・移転の前にお早めにご相談ください。
よくある質問(FAQ)
国外転出時課税(出国税)とは何ですか?
いくらから対象になりますか?誰が対象ですか?
株を売っていなくても税金がかかるのですか?
納税猶予はどれくらい使えますか?
数年で日本に帰国する場合も課税されたままですか?
出典・参考資料
- 国税庁「国外転出時課税制度」| https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kokugai/01.htm
- 国税庁 リーフレット「国外転出される方へ(国外転出時課税制度のあらまし)」(PDF)| https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kokugai/pdf/01.pdf
- 制度の根拠:所得税法第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)ほか。具体的な要件・手続きは最新の法令・通達および国税庁公表資料によります。個別の適用は専門家にご確認ください。
本記事は、国税庁の公表資料に基づく一般的な情報提供であり、特定の税務処理の結果を保証するものではありません。国外転出時課税の適用は、対象資産の範囲・評価・居住期間など個別の事実関係により異なります。実際の判断にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月20日
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