国際相続・国際贈与で日本の相続税はどこまでかかる?納税義務者の区分と「10年ルール」を税理士が解説

「海外に資産があるから日本の相続税はかからない」「家族が海外に住んでいるので関係ない」――国際相続・国際贈与の場面では、こうした思い込みが大きな申告漏れにつながります。日本の相続税・贈与税は、財産がどこにあるかではなく、亡くなった人(贈与した人)と財産を受け取る人の「住所」と「日本国籍の有無」で課税範囲が決まります。そして、海外に出てからの年数を問う「10年ルール」が、海外移住による相続税対策を難しくしています。本記事では、国際相続・国際贈与の納税義務者の区分と10年ルールを、国際税務を強みとする税理士が整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 結論(3行サマリー)
  2. 2. 国際相続・国際贈与の大原則:「全世界課税」から考える
  3. 3. 相続税の納税義務者の区分(相続税法1条の3)
  4. 4. 「10年ルール」――海外移住で相続税対策が難しい理由
  5. 5. 贈与税の納税義務者(相続税法1条の4)
  6. 6. 二重課税はどう防ぐ?──外国税額控除(相続税法20条の2)
  7. 7. 専門家の視点:海外資産は「もう隠せない」時代
  8. 8. 実務で押さえるべきこと
  9. 9. まとめ
  10. よくある質問(FAQ)

1. 結論(3行サマリー)

  • 日本の相続税・贈与税の課税範囲は、財産の所在地ではなく、被相続人(贈与者)と相続人(受贈者)の住所・日本国籍で決まる。どちらかが日本に住んでいれば、原則として国外財産も含めた全世界の財産が課税対象
  • 海外移住で国外財産を課税対象から外すには、被相続人・相続人の双方が「10年超」日本を離れていることが原則必要(これが「10年ルール」)。短期間の移住では効果が出ない
  • 海外で相続税相当の税を払った場合は外国税額控除(相続税法20条の2)で二重課税を調整できる。CRS・CARF・国外財産調書で海外資産は当局に把握されやすくなっており、「申告しなければわからない」という前提はもう通用しない

2. 国際相続・国際贈与の大原則:「全世界課税」から考える

まず押さえるべき大原則は、日本の相続税・贈与税は、財産が国内にあるか国外にあるかだけでは決まらないということです。「ハワイの不動産」「シンガポールの銀行預金」といった国外財産であっても、当事者の住所と国籍しだいで、日本の相続税・贈与税がかかります。

判定の出発点は、財産を取得した人(相続人・受贈者)が、財産を取得したときに日本国内に住所を有していたかどうかです。

  • 日本国内に住所がある人が取得した財産 … 原則として、国内財産も国外財産もすべて日本の相続税・贈与税の対象(=全世界課税)
  • 日本国内に住所がない人が取得した財産 … 国籍や過去の居住歴などの要件しだいで、全世界課税になる場合と、国内財産だけが対象になる場合に分かれる
💡 「財産の場所」より「人の場所」 … 国際相続・国際贈与でまず確認すべきは、財産がどこの国にあるかではなく、亡くなった人・贈与した人・受け取る人が「いつ・どこに住んでいたか」「日本国籍か」です。ここを取り違えると、課税範囲を丸ごと見誤ります。

3. 相続税の納税義務者の区分(相続税法1条の3)

相続税の納税義務者は、住所・国籍・居住歴によって次の4つに区分されます(相続税法第1条の3)。どの区分かによって、国外財産まで課税されるか・国内財産だけかが変わります。

区分どんな人か(概要)課税される財産の範囲
居住無制限納税義務者財産を取得したときに日本国内に住所がある人(一時居住者で一定の場合を除く)国内財産+国外財産(全世界)
非居住無制限納税義務者国内に住所はないが、日本国籍があり相続開始前10年以内に国内に住所があった人など国内財産+国外財産(全世界)
制限納税義務者国内に住所がなく、上記の無制限納税義務者にも当たらない人国内財産のみ
特定納税義務者相続時精算課税の適用を受けた贈与財産を取得した人(住所・国籍を問わない)相続時精算課税の対象財産

ポイントは、「無制限」=全世界課税、「制限」=国内財産だけという対比です。被相続人・相続人のいずれかが日本に住んでいれば、原則として全世界課税(無制限納税義務者)になると考えておくのが安全です。

💡 無制限か制限かで結論が逆転する … 同じ「ハワイの不動産」でも、相続人が無制限納税義務者なら日本の相続税の対象、制限納税義務者なら対象外、と結論が逆になります。区分の判定が国際相続のすべての出発点です。

外国人被相続人・非居住被相続人とは

判定の中で出てくる用語も押さえておきます(相続税法1条の3、国税庁No.4138)。

  • 外国人被相続人 … 相続開始の時に在留資格を有し、かつ、日本国内に住所を有していた被相続人
  • 非居住被相続人 … 相続開始の時に日本国内に住所を有していなかった被相続人(一定の要件に当たる人)

日本で働く外国人材などが、一時的な滞在中に亡くなった・贈与したケースで、国外財産まで日本の相続税・贈与税の対象にしないための調整として、こうした区分が設けられています。

4. 「10年ルール」――海外移住で相続税対策が難しい理由

国際相続でもっとも誤解が多いのが、いわゆる「10年ルール」です。

「日本を出て海外に住めば、日本の相続税はかからない」と考える方がいますが、日本国籍を持つ人の場合、被相続人・相続人ともに、相続開始前10年以内に日本国内に住所がなかったことが、国外財産を課税対象から外す原則的な条件になります(相続税法1条の3)。

つまり、

  • 海外に移住してから10年以内に相続が起きれば … 国外財産も日本の相続税の対象(非居住無制限納税義務者)
  • 海外に移住して10年を超えてから相続が起きれば … 国外財産は対象外になり得る(制限納税義務者)

しかも、外す効果を得るには被相続人と相続人の双方が10年超日本を離れている必要があり、片方だけが移住しても国外財産は課税対象に残ります。海外移住による相続税対策が「言うほど簡単ではない」と言われるのはこのためです。

💡 片方だけの移住では外れない … 親(被相続人)が海外に出ても、子(相続人)が日本に住んでいれば、子は無制限納税義務者として国外財産まで課税されます。10年ルールは“一族での長期移住”を前提にした厳しい要件です。

5. 贈与税の納税義務者(相続税法1条の4)

贈与税の納税義務者も、相続税とほぼ同じ考え方で区分されます(相続税法第1条の4)。受贈者(もらう人)が贈与時に日本国内に住所があれば原則として全世界課税、住所がなければ国籍・居住歴で全世界課税か国内財産のみかが分かれます。

  • 居住無制限納税義務者(贈与時に国内に住所がある人など)… 国内財産+国外財産(全世界)
  • 非居住無制限納税義務者(国内に住所はないが、日本国籍があり贈与前10年以内に国内に住所があった人など)… 国内財産+国外財産(全世界)
  • 制限納税義務者(上記以外)… 国内財産のみ
💡 「贈与で先に海外へ」も10年ルール … 相続の前に国外財産を子へ贈与して移そうとしても、贈与税側でも同じ10年ルールが働きます。短期の移住中の贈与では、国外財産も日本の贈与税の対象になり得ます。

なお、贈与税には、日本に一時的に滞在する外国人(在留資格を持ち、贈与前15年以内に国内に住所を有していた期間の合計が10年以下である「一時居住者」)について、国外財産を課税対象から外す調整も設けられています(相続税法1条の4、国税庁No.4432)。

6. 二重課税はどう防ぐ?──外国税額控除(相続税法20条の2)

国外財産が日本の相続税の対象になると、同じ財産に対して、財産の所在国でも相続税に相当する税が課されることがあります。これをそのままにすると国際的な二重課税になってしまうため、日本では「在外財産に対する相続税額の控除(外国税額控除)」が設けられています(相続税法第20条の2。贈与税は相続税法第21条の8)。

外国税額控除のしくみは、ざっくり次のとおりです。

  • 適用できるのは、相続・遺贈で国外財産を取得し、その国外財産についてその国の相続税に相当する税を課された人
  • 日本の相続税額から、外国で課された税額を一定の範囲で控除できる(控除額には上限があります)
  • 適用には相続税申告書の第8表の記載と、海外で課された税額を証する書類(現地の申告書など)の添付が必要
💡 二重課税は“申告して取り戻す” … 外国税額控除は自動では適用されません。海外で相続税相当の税を払ったら、日本の相続税申告で第8表を使って自分で控除を計算・申告する必要があります。為替レートの取り方や控除限度額の計算で差が出るため、国際相続に慣れた専門家の関与が安心です。

7. 専門家の視点:海外資産は「もう隠せない」時代

実務家の立場から申し上げると、国際相続・国際贈与で本当に怖いのは、納税義務者の区分を取り違えて国外財産を申告から落としてしまうことです。「海外の財産だから日本では関係ない」と判断して国外財産を相続税申告に含めず、後の税務調査で全世界課税の無制限納税義務者だと判明する――これが典型的な失敗です。

そして近年は、海外資産が当局に把握されやすくなっています。

  • CRS(共通報告基準 … 海外の銀行口座・証券口座の残高や利子等が、各国の税務当局間で自動的に交換される
  • CARF(暗号資産等報告枠組み) … 海外の取引所の暗号資産取引情報も、2027年から自動的に交換が始まる
  • 国外財産調書 … その年の12月31日に5,000万円超の国外財産を持つ居住者は、翌年6月30日までに提出義務がある

海外移住で資産を移そうとする「出口」には、含み益に課税する国外転出時課税(出国税)も待ち構えています。国際相続・国際贈与は、これらの制度と一体で見ないと足元をすくわれます。富裕層の資産防衛全体の地図もあわせてご覧ください。

8. 実務で押さえるべきこと

国際相続・国際贈与を前に、押さえるべき要点を失敗例と王道で整理します。

❌ つまずきがちな失敗
  • 「海外にある財産だから日本では申告しなくてよい」と考え、国外財産を相続税申告に含めない
  • 海外移住すればすぐ相続税対策になると考え、10年ルール(被相続人・相続人の双方が10年超日本を離れる必要)を見落とす
  • 海外で相続税相当の税を払ったのに、外国税額控除(第8表)を申告せず二重課税のままにする
  • 海外の不動産・預金・暗号資産の評価や為替換算を後回しにし、申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)に間に合わない
⭕ これから取るべき王道
  • まず被相続人・相続人それぞれの住所・日本国籍・過去10年の居住歴を整理し、無制限/制限のどの納税義務者かを確定する
  • 国外財産も含めて全世界の財産を漏れなく把握し、現地の評価資料・残高証明を早めに集める
  • 海外で課税された場合は外国税額控除(相続税法20条の2・第8表)で二重課税を調整する
  • 海外移住を相続対策に使うなら、10年ルール・国外転出時課税・国外財産調書まで一体で長期設計する
💬 実務の現場から
守秘義務がありますので詳細は控えますが、構図としてお伝えすると、「親が海外に長く住んでいて、海外の不動産や預金を相続することになった。日本でも相続税がかかるのか分からない」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、こうした場面で最初につまずきやすいのが、国内財産だけ見て国外財産を申告に入れていないケースです。私たちが関与する場面では、まず被相続人・相続人の住所と国籍・居住歴を時系列で整理して納税義務者の区分を確定し、そのうえで全世界の財産を洗い出し、海外で課された税は外国税額控除で調整する――この順番で、申告漏れと二重課税の両方を防ぐことを最優先にしています。

9. まとめ

国際相続・国際贈与で日本の相続税・贈与税がどこまでかかるかは、財産の所在地ではなく、当事者の住所・日本国籍・過去10年の居住歴で決まるのが大原則です。被相続人・相続人のいずれかが日本に住んでいれば、原則として国外財産も含めた全世界課税(無制限納税義務者)。海外移住で国外財産を外すには、被相続人・相続人の双方が10年超日本を離れる「10年ルール」を満たす必要があり、対策は簡単ではありません。

海外で課された相続税相当の税は外国税額控除(相続税法20条の2)で調整できますが、申告して初めて使えます。CRS・CARF・国外財産調書・国外転出時課税により、海外資産は当局に把握されやすくなっており、「申告しなければわからない」という前提はもう成り立ちません。税理士法人 小山・ミカタパートナーズは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、納税義務者の区分の確定から全世界財産の把握、外国税額控除、海外移住の長期設計まで一体で伴走します。国際相続・国際贈与にご不安のある方は、お早めにご相談ください。

よくある質問(FAQ)

海外にある不動産や預金にも、日本の相続税はかかりますか?

かかる場合があります。日本の相続税は財産の所在地ではなく、被相続人・相続人の住所と日本国籍で課税範囲が決まります。相続人が居住無制限納税義務者・非居住無制限納税義務者に当たる場合は、国外財産も含めた全世界の財産が課税対象です(相続税法1条の3)。

「10年ルール」とは何ですか?

日本国籍を持つ人について、海外に移住しても、被相続人・相続人ともに相続開始前10年以内に日本国内に住所があった場合は、国外財産も日本の相続税の対象になる、という考え方です。国外財産を課税対象から外すには、原則として双方が10年を超えて日本を離れている必要があります。

相続人が外国に住んでいれば、相続税はかかりませんか?

そうとは限りません。相続人が外国に住んでいても、日本国籍があり過去10年以内に日本に住所があった場合などは非居住無制限納税義務者となり、国外財産まで課税されます。また被相続人が日本に住んでいた場合も全世界課税が原則です。住所・国籍・居住歴での区分の確認が必要です。

海外でも相続税を払いました。日本でも払うと二重課税になりませんか?

国外財産について日本と外国の両方で相続税相当の税がかかる場合は、外国税額控除(在外財産に対する相続税額の控除・相続税法20条の2)で日本の相続税額から一定額を差し引いて調整できます。適用には相続税申告書第8表の記載と、海外で課された税額を証する書類が必要です。

贈与税にも同じルールがありますか?

はい。贈与税の納税義務者も相続税とほぼ同じ区分(相続税法1条の4)で、受贈者が日本に住所があれば原則全世界課税、住所がなくても日本国籍があり贈与前10年以内に国内に住所があった場合などは国外財産も課税対象です。相続前の国外財産の贈与でも10年ルールが働きます。

出典・参考資料

  • 国税庁 タックスアンサーNo.4138「相続人が外国に居住しているとき」| https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4138.htm
  • 国税庁 タックスアンサーNo.4432「受贈者が外国に居住しているとき」| https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4432.htm
  • 国税庁「外国税額控除の適用を受けられる方へ(相続税申告書第8表の転記)」| https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/tenki.htm
  • 制度の根拠:相続税法第1条の3(相続税の納税義務者)・第1条の4(贈与税の納税義務者)・第20条の2(在外財産に対する相続税額の控除)・第21条の8ほか。具体的な要件・手続きは最新の法令・通達および国税庁公表資料によります。個別の適用は専門家にご確認ください。
ご利用上の留意事項
本記事は、国税庁の公表資料に基づく一般的な情報提供であり、特定の税務処理の結果を保証するものではありません。国際相続・国際贈与における課税範囲は、被相続人・相続人(贈与者・受贈者)の住所、日本国籍の有無、過去の居住歴、財産の種類など個別の事実関係により異なります。実際の判断にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月22日

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公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、納税義務者の区分の確定から全世界財産の把握、海外で課された税の外国税額控除、海外移住を含む長期の資産承継設計まで一体でご支援します。海外に資産がある方・ご家族が海外にお住まいの方は、相続や贈与の前にお早めにご相談ください。

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から富裕層・オーナー経営者の資産防衛・事業承継、国際税務まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp