国税の犯則調査(マルサ)がデジタル化へ|電磁的記録提供命令とは?令和8年度改正を税理士が解説

令和8年度税制改正で、国税の「犯則調査」の手続がデジタル化されることになりました。聞き慣れない言葉かもしれませんが、犯則調査とは、いわゆる「マルサ」=脱税の疑いがある事案に対する強制調査のことです。今回の改正で、調査官が裁判官の許可状にもとづいて、電磁的記録(メール・クラウド上のデータ・サーバー内の電子帳簿など)の提供を命じることができる手続が整備されます。 「自分には関係ない世界の話」と感じる方も多いと思います。しかしこの改正は、税務行政全体が「紙からデータへ」と証拠の重心を移していることの象徴でもあります。日々の取引記録・メール・チャットのやり取りまでが、いざというときに税務の証拠になりうる時代です。本記事では、改正の中身と、経営者・個人事業主がいまから押さえておくべき備えを、税理士が整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
  2. 2. 前提:「税務調査」と「犯則調査(マルサ)」は別物
  3. 3. 改正の中身:データを「直接」押さえられるようにする
  4. 4. 専門家の視点:これは「マルサだけの話」では終わらない
  5. 5. 実務でどう備えるか
  6. 6. まとめ
  7. よくある質問(FAQ)

1. 何が起きたのか(3行サマリー)

  • 令和8年度税制改正大綱(令和7年12月26日 閣議決定)の納税環境整備に、国税犯則調査手続等のデジタル化が盛り込まれた
  • 財務省「大綱の概要」は、電磁的記録の提供を命ずる手続(電磁的記録提供命令)の整備と、許可状の発付等を書面のほか電磁的記録によることができるようにすることを明記している
  • 施行は令和9年(2027年)10月1日が予定されている。刑事訴訟法のデジタル証拠への対応に歩調を合わせた整備で、税務当局の「データを直接押さえる力」が強化される

2. 前提:「税務調査」と「犯則調査(マルサ)」は別物

まず混同しやすい2つの調査を整理します。普段、経営者の方が「税務調査が入った」というときの多くは、前者の任意調査です。

区分任意調査(一般の税務調査)犯則調査(査察・マルサ)
根拠国税通則法の質問検査権国税通則法 第11章(犯則事件の調査)
性格任意(協力を求める調査)。ただし正当な理由なき拒否には罰則強制調査。裁判官の許可状にもとづく臨検・捜索・差押え
目的適正な申告かを確認し、誤りがあれば是正・追徴故意の脱税(ほ脱)を立件し、検察官への告発(刑事事件化)を視野に入れる
担当税務署・国税局の調査部門国税局の査察部(いわゆる「マルサ」)

今回デジタル化されるのは、後者の犯則調査(強制調査)の証拠収集手続です。脱税の疑いが濃い事案で、調査官がデータをどう押さえるか、というルールが新しくなります。

💡 犯則調査の規模感 … 国税庁「令和6年度 査察の概要」によれば、令和6年度に査察で告発された事件は82件、脱税額は約82億円にのぼります。件数こそ多くありませんが、悪質と判断された事案に対しては、刑事罰を見据えた強制調査が現に行われています。

3. 改正の中身:データを「直接」押さえられるようにする

今回の改正の柱は、大きく3つです。

(1) 電磁的記録提供命令の整備 財務省「大綱の概要」は、「国税犯則調査等における証拠収集手続について、電気通信回線を通じて電磁的記録の提供を命ずる手続(電磁的記録提供命令)を整備する」としています。これまで物理的な書類やパソコン本体を差し押さえていたところ、クラウドやサーバー上にあるデータそのものを、回線を通じて提供させることができるようになる、というイメージです。

(2) 許可状の電子化 同じく「大綱の概要」は、「許可状の発付等について、書面によるほか、電磁的記録によることができることとする」としています。裁判官が発付する臨検・捜索・差押えの許可状を、紙だけでなくデータでもやり取りできるようになり、手続のスピードが上がります。

(3) 守秘命令(漏らしてはならない命令)と罰則 データの提供を命じられた事業者などに対し、その命令を受けたことをみだりに他人に漏らしてはならない旨を命じることができるようになります(守秘命令)。大綱にもとづけば、この命令に違反した場合は1年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金に処せられるとされています。捜査の密行性(調査を察知されない状態)を保つための仕組みです。

これらの改正は、令和9年(2027年)10月1日から施行することが予定されています。

4. 専門家の視点:これは「マルサだけの話」では終わらない

犯則調査のデジタル化と聞くと、「悪質な脱税者の話で、まじめに申告している自分には無縁」と感じるのが自然です。実際、犯則調査の対象になるのは、故意の脱税が強く疑われるごく一部の事案です。

しかし、実務家の立場から申し上げると、この改正は氷山の一角です。税務行政は数年来、一貫して「証拠の重心を、紙からデータへ」移してきました。

  • 電子帳簿保存法の改正で、電子取引データの電子保存が義務化された
  • 一般の税務調査でも、調査官が会計データ・メール・スマートフォンの記録に着目する場面が増えている
  • 国外財産・海外送金は、CRS(共通報告基準)による各国税務当局間の自動的情報交換で把握されている

つまり、犯則調査のデジタル化は、こうした大きな流れの中の一つの到達点にすぎません。「紙の帳簿さえきれいにしておけば大丈夫」という時代は終わりつつある、というメッセージとして受け止めるのが、経営者にとって実務的に正しい読み方です。

⚠️ 「消したから大丈夫」は通用しにくくなる … データは紙と違い、削除してもサーバーや通信記録、取引相手側に痕跡が残ることが少なくありません。クラウド会計やビジネスチャットの普及で、やり取りの記録はむしろ増えています。「都合の悪いデータを消す」という発想自体が、これからの税務環境では極めてリスクの高い行動になります。

5. 実務でどう備えるか

犯則調査の対象になるような事態は、もちろん起こさないことが大前提です。そのうえで、データ重視の税務環境に経営者・個人事業主がどう備えるかを整理します。

❌ つまずきがちな失敗
  • 「自分はまじめにやっているから無関係」と、データ管理を完全に後回しにする
  • 売上の一部を意図的に簿外にする、架空の外注費・経費を計上するなど、故意の所得圧縮に手を出す
  • 会計データ・請求書・メールがばらばらに散在し、いざ調査となったときに正しい記録を自分で示せない
  • 「不利なデータは消せばよい」という発想を持ってしまう
⭕ これから取るべき王道
  • 電子帳簿保存法に沿って、電子取引データ・会計データを正しく保存できる体制を整える
  • 売上・経費の計上は事実どおりに。判断に迷う論点(交際費・役員給与・外注費の区分など)は、消すのではなく税理士に相談して根拠を残す
  • 取引の経緯がわかる証憑(契約書・メール・見積書)を、取引ごとに紐づけて保存しておく
  • 万一の税務調査でも「聞かれたらすぐ正しい記録を示せる」状態を、平時から維持する

適正な申告と、説明できる記録の保存。突き詰めれば、デジタル時代の税務リスク対策はこの2点に集約されます。

💬 実務の現場から
守秘義務がありますので詳細は控えますが、構図としてお伝えすると、「データ管理まで気が回っていなかった」というご相談は実際に少なくありません。過去のご相談の傾向として申し上げると、問題になりやすいのは故意の脱税というより、判断に迷う論点を自己流で処理し、その根拠を残していなかったケースです。私たちが関与する場面でも、まずは取引の事実をそのとおりに記録し、グレーに見える論点こそ「消す」のではなく根拠を文書で残しておくことを最優先にしています。後ろめたいデータを隠すのではなく、正しい記録を堂々と示せる状態をつくることが、結局はいちばんの防御になります。

6. まとめ

令和8年度税制改正で、国税の犯則調査(マルサ)の手続がデジタル化され、電磁的記録提供命令の整備・許可状の電子化・守秘命令(違反は1年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)が導入されます。施行は令和9年(2027年)10月1日が予定されています。

直接の対象は悪質な脱税事案に限られますが、本質は税務行政全体が「データを直接押さえる」方向に進んでいることです。電子帳簿保存法、CRSによる国際的な情報交換とあわせて、経営者・個人事業主に求められるのは、適正な申告と、いつでも示せる正しい記録の保存です。税理士法人 小山・ミカタパートナーズは、日々の記帳・電子帳簿の体制づくりから、判断に迷う論点の整理、税務調査の対応まで伴走します。記録の整え方や税務調査が不安な経営者の方は、お気軽にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

犯則調査(マルサ)と税務調査は何が違いますか?

一般に「税務調査」と呼ばれるものの多くは、国税通則法の質問検査権にもとづく任意調査で、適正な申告かを確認し誤りを是正するものです。一方、犯則調査は国税通則法第11章にもとづく強制調査で、裁判官の許可状により臨検・捜索・差押えを行い、故意の脱税(ほ脱)を立件して検察官への告発を視野に入れます。担当も国税局の査察部(マルサ)です。

今回のデジタル化はいつから始まりますか?

令和8年度税制改正で整備され、令和9年(2027年)10月1日からの施行が予定されています。刑事訴訟法のデジタル証拠への対応に歩調を合わせた整備です。

電磁的記録提供命令とは何ですか?

財務省「大綱の概要」によれば、国税犯則調査等における証拠収集手続として、電気通信回線を通じて電磁的記録の提供を命ずる手続です。物理的な書類やパソコン本体だけでなく、クラウドやサーバー上のデータそのものを回線を通じて提供させることができるようになります。

データの提供を命じられたら、そのことを誰にも言えなくなるのですか?

提供を命じられた者に対し、その命令を受けたことをみだりに他人に漏らしてはならない旨の命令(守秘命令)が出される場合があります。大綱にもとづけば、この命令に違反した場合は1年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金に処せられるとされています。

まじめに申告していれば、特に備えは要りませんか?

犯則調査の対象になるのは悪質な脱税事案に限られますが、税務行政全体がデータ重視に移っています。電子帳簿保存法に沿った保存体制を整え、判断に迷う論点は根拠を残し、取引の経緯がわかる証憑を紐づけて保存しておくことが、一般の税務調査も含めた実務上の備えになります。

出典・参考資料

  • 財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」(令和7年12月26日 閣議決定)| https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_gaiyou.htm
  • 財務省「税制改正の概要」| https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/index.html
  • 国税庁「令和6年度 査察の概要」(令和7年6月公表)| https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/sasatsu/r06_sasatsu.pdf
  • 根拠法令:国税通則法 第11章(犯則事件の調査)ほか
  • 守秘命令違反の罰則(1年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)・施行日(令和9年10月1日予定)は、令和8年度税制改正大綱(納税環境整備)にもとづく
ご利用上の留意事項
本記事は、財務省・国税庁の公表資料および国税通則法等に基づく一般的な情報提供であり、個別の判断に代わるものではありません。改正の細目・施行時期は今後の政省令等で具体化される場合があります。実際の対応にあたっては、最新の公表資料をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月18日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から富裕層・オーナー経営者の資産防衛・事業承継、国際税務まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp