厚生年金の保険料が高所得の役員・社員で増える|標準報酬月額の上限引き上げ(2027年9月〜75万円)を税理士が解説
- 1. 何が変わるのか(3行サマリー)
- 2. 前提:「標準報酬月額」と上限の仕組み
- 3. いつ・どう引き上げられるのか(段階スケジュール)
- 4. いくら負担が増えるのか(会社・本人それぞれ)
- 5. 経営者はどう備えるか(役員報酬・人件費の設計)
- 6. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 何が変わるのか(3行サマリー)
- 厚生年金保険料の計算の基礎となる標準報酬月額の上限が、現行の65万円から段階的に75万円へ引き上げられる(最終的な75万円は令和11年〔2029年〕9月施行)
- 対象は報酬月額が高い人(おおむね月給66.5万円以上=年収約798万円以上の役員・従業員)。それより報酬が低い人には影響しない
- 上限まで該当する人は、会社・本人それぞれ年間で約11万円ずつ保険料負担が増える見込み。根拠は年金制度改正法(令和7年法律第74号)
2. 前提:「標準報酬月額」と上限の仕組み
厚生年金や健康保険の保険料は、毎月の給与そのものではなく、給与を一定の幅で区切った「標準報酬月額」という金額に保険料率を掛けて計算します。給与計算を簡単にするための仕組みです。
この標準報酬月額には上限があります。厚生年金保険では、現行の上限は第32等級の65万円で、報酬月額が63.5万円以上の人はすべて「標準報酬月額65万円」として扱われ、それ以上いくら報酬が高くても保険料は頭打ちになっていました。
| 区分 | 現行 | 改正後(最終) |
|---|---|---|
| 厚生年金保険の標準報酬月額の上限 | 65万円(第32等級) | 75万円(段階的に引き上げ) |
| 厚生年金保険料率 | 18.3%(労使折半) | 18.3%(変更なし) |
この「上限65万円」が、負担能力に応じた負担を求めるという考え方から引き上げられることになりました。なお、保険料率(18.3%)そのものは変わりません。あくまで「上限」が上がることで、高い報酬の人の保険料が増える改正です。
3. いつ・どう引き上げられるのか(段階スケジュール)
厚生労働省の公表資料によれば、上限は3段階に分けて引き上げられます。一度に75万円にするのではなく、毎年9月に新しい等級を追加していく形です。
| 時期 | 標準報酬月額の上限 | 内容 |
|---|---|---|
| 現行 | 65万円(第32等級) | 報酬月額63.5万円以上が上限 |
| 2027年(令和9年)9月~ | 68万円 | 新たな等級(第33等級)を追加 |
| 2028年(令和10年)9月~ | 71万円 | 新たな等級(第34等級)を追加 |
| 2029年(令和11年)9月~ | 75万円 | 新たな等級(第35等級)を追加。最終的な上限 |
(出典:厚生労働省「厚生年金保険の標準報酬月額の上限改定について」。最終的な75万円への引き上げは令和11年9月1日施行)
つまり、2027年9月から段階的に、報酬の高い人の厚生年金保険料が増えていきます。報酬月額がもともと65万円の上限に届いていない人には影響はありません。
4. いくら負担が増えるのか(会社・本人それぞれ)
厚生年金保険料率は18.3%で、会社と本人が折半(それぞれ9.15%)します。標準報酬月額の上限が65万円から75万円へ、つまり10万円上がると、保険料は次のように増えます。
- 増える保険料(労使合計):10万円 × 18.3% = 月約18,300円
- 会社の負担増:月約9,150円 = 年間約11万円
- 本人の負担増:月約9,150円 = 年間約11万円
標準報酬月額が最終的に上限75万円に該当する人ひとりにつき、会社も本人も年間で約11万円ずつ負担が増える計算です(段階的に引き上げられるため、2027年・2028年・2029年と少しずつ増えていきます)。役員報酬を高く設定している経営者本人や、高給与の役員・従業員が複数いる会社では、会社全体の法定福利費の増加として無視できない金額になります。
5. 経営者はどう備えるか(役員報酬・人件費の設計)
この改正は、役員報酬を高く設定しているオーナー経営者と、高給与の役員・従業員を抱える会社に効いてきます。失敗例と王道で整理します。
- 役員報酬を「手取り」だけで見て決め、増える社会保険料(会社負担)を人件費計画に織り込まない
- 厚生年金と健康保険の上限を混同し、増加額を過大・過少に見積もる
- 「保険料が増えるから報酬を下げる」と短絡的に判断し、将来の年金や所得税・法人税とのバランスを崩す
- 段階施行(2027年・2028年・2029年)を意識せず、毎年の負担増を予算に反映できていない
- 役員・従業員のうち、標準報酬月額が65万円の上限に該当する人を洗い出し、改正後の増加額を試算する
- 増える会社負担(法定福利費)を年間ベースで見積もり、人件費予算・資金計画に織り込む
- 役員報酬は、法人税・所得税・社会保険料を合わせた“トータルの手取り”で最適化する(社会保険料だけで判断しない)
- 厚生年金保険料は全額が社会保険料控除として所得控除の対象になる点も踏まえ、個人の手取りを設計する
弊社にも、「役員報酬をいくらにすべきか」「社会保険料の負担が重い」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、役員報酬は“手取り”や“節税”だけで決めてしまいがちですが、実際には法人税・所得税・社会保険料の三つを合わせて初めて最適解が見えてきます。今回の上限引き上げのように、社会保険の制度も動いていきます。私たちが関与する場面では、毎期の利益予測から逆算して、税と社会保険の両面で“いちばん手元が残る”役員報酬の水準を一緒に設計しています。
6. まとめ
年金制度改正法(令和7年法律第74号)により、厚生年金保険の標準報酬月額の上限が、現行の65万円から段階的に75万円へ引き上げられます(2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円)。対象は月給66.5万円以上(年収約798万円以上)の高報酬の役員・従業員で、上限に該当する人ひとりにつき会社・本人それぞれ年間約11万円の負担増が見込まれます。
大切なのは、「社会保険料が増える」を早めに数字で把握し、役員報酬・人件費の設計と資金計画に織り込むことです。役員報酬は社会保険料だけでなく、法人税・所得税を合わせたトータルで考える必要があります。税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、利益予測から逆算した役員報酬シミュレーションと、社会保険を含めた人件費・資金計画づくりに伴走しています。「うちはどれくらい負担が増えるのか」を整理したい経営者の方は、お早めにご相談ください。
よくある質問(FAQ)
厚生年金の標準報酬月額の上限は、いつ・いくらに引き上げられますか?
誰の保険料が増えますか?
どれくらい負担が増えますか?
保険料が増えるだけで、もらえる年金は変わらないのですか?
「106万円の壁」の撤廃とは別の改正ですか?
出典・参考資料
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」(令和7年法律第74号)| https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html
- 厚生労働省「厚生年金保険の標準報酬月額の上限改定について」| https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12448.html
- 厚生労働省「国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号)の概要」| https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001523466.pdf
- 国税庁 タックスアンサー No.1130「社会保険料控除」| https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1130.htm
本記事は、年金制度改正法および厚生労働省・国税庁の公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務・社会保険の判断に代わるものではありません。段階的な引き上げの時期・内容など施行前の事項は、今後の政令・通達等により変更される場合があります。実際の判断にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、税理士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月14日
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