名義預金とは?相続税の税務調査で最も狙われる財産――判定基準と対策を税理士が解説【2026年版】
- 1. 名義預金とは何か(3行サマリー)
- 2. なぜ今これを知るべきか――税務調査データが示す現実
- 3. 名義預金かどうかの判定基準(5つの要素)
- 4. なぜ「名義を子や孫にしただけ」では贈与にならないのか
- 5. 名義預金になりやすい典型3パターン
- 6. 名義預金を申告から漏らすとどうなるか
- 7. 名義預金を作らないための生前対策(王道)
- 9. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 名義預金とは何か(3行サマリー)
- 名義預金とは、口座の名義は家族(配偶者・子・孫など)になっているものの、実質的には被相続人がお金を出し、管理していた預金のことです。税務上は名義ではなく「本当は誰の財産か(実質)」で判断するため、こうした預金は被相続人の相続財産として相続税の課税対象になります。
- 典型例は、①専業主婦が夫の収入から貯めた“へそくり”②親や祖父母が子・孫の名義で作り、通帳も印鑑も親が持っている口座③「贈与したつもり」だが、もらう側が存在を知らない口座、などです。
- ポイントは、名義を変えてもお金の出どころ(出捐者)と管理の実態が被相続人なら、それは被相続人の財産だということ。相続財産として正しく申告する必要があります(国税庁No.4105)。
2. なぜ今これを知るべきか――税務調査データが示す現実
名義預金は「うっかり」では済まされません。相続税の税務調査で、申告漏れが見つかる財産の種類で最も多いのが現金・預貯金等だからです。国税庁が公表した「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」(令和7年12月公表)の数字を見てみましょう。
| 項目(令和6事務年度・実地調査) | 数値 |
|---|---|
| 実地調査の件数 | 9,512件 |
| 申告漏れ等の非違があった件数 | 7,826件 |
| 非違割合(調査して何か見つかった割合) | 82.3% |
| 追徴税額の合計 | 824億円 |
| 実地調査1件当たりの追徴税額 | 867万円 |
| 重加算税の賦課件数 | 1,065件 |
調査に入られると8割超で申告漏れ等が見つかり、1件あたり平均で867万円もの追徴を受けています(出典:国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」)。そして、申告漏れが見つかった財産を種類別に見ると、構成は次のとおりです。
| 申告漏れが見つかった財産の種類(財産別非違件数・延件数) | 構成比 |
|---|---|
| 現金・預貯金等 | 62.9% |
| その他 | 19.1% |
| 有価証券 | 14.2% |
| 土地 | 2.8% |
| 家屋 | 1.0% |
申告漏れが指摘された財産の実に6割超が現金・預貯金等で、ダントツの1位です(出典:同上)。この「現金・預貯金等」の中心にあるのが、まさに名義預金です。税務署は、被相続人だけでなく家族名義の口座の動きまで金融機関から照会して調べます。家族名義だから見つからない、ということはありません。
3. 名義預金かどうかの判定基準(5つの要素)
では、家族名義の預金が「被相続人のもの(=名義預金)」か「本当に名義人自身のもの」かは、どう判断されるのでしょうか。課税の実務や裁判例では、名義だけで形式的に決めるのではなく、次の5つの要素を総合的に考慮して、その預金が誰に帰属するかを判断します。
| 判定の要素 | 何を見るか |
|---|---|
| ① 出捐者(しゅつえんしゃ) | その預金のおおもとの資金を、実際に出したのは誰か(最重要) |
| ② 管理・運用の状況 | 通帳・印鑑・キャッシュカードを誰が保管し、入出金や運用を誰がしていたか |
| ③ 利益(果実)の帰属 | 利息や運用益を実際に受け取り、使っていたのは誰か |
| ④ 被相続人と名義人の関係 | 名義人は被相続人とどういう関係か、名義人に自分で蓄える資力があったか |
| ⑤ 名義になった経緯 | なぜその名義になったのか、もらう側はその預金の存在を知っていたか |
このうち最も重視されるのが①の出捐者です。たとえば、収入のない専業主婦やまだ幼い子・孫の名義に多額の預金があれば、「その人自身が稼いで貯めたとは考えにくい=原資は被相続人」と見られやすくなります。そのうえで、②通帳と印鑑を被相続人が握っていた、③利息も被相続人が使っていた、となれば、名義は家族でも実質は被相続人の財産=名義預金と判断されます。
4. なぜ「名義を子や孫にしただけ」では贈与にならないのか
「子や孫の名義で口座を作って入金していたのだから、贈与しているはずだ」——これが、名義預金で最もよくある誤解です。ここで効いてくるのが、贈与は契約であり、双方の合意がなければ成立しないという民法のルールです。
つまり、「あげます」「もらいます」という両者の意思の合致があって、はじめて贈与は成立します。親が一方的に子・孫の名義の口座を作って入金していても、もらう側(名義人)がその存在すら知らないのであれば、贈与は成立していません。贈与が成立していない以上、そのお金は渡した側=被相続人の財産のまま、ということになります。これが「名義は家族でも相続財産になる」理由の核心です。
なお、贈与税は個人から贈与を受けたときにかかる税金で、暦年課税では年間110万円まで非課税です(国税庁No.4402「贈与税がかかる場合」・No.4408「贈与税の計算と税率」)。「毎年110万円ずつ子の名義に入れているから非課税」と考える方は多いのですが、そもそも贈与が成立していなければ、非課税の話以前に贈与ではない——ここが最大の落とし穴です。
5. 名義預金になりやすい典型3パターン
パターンA:専業主婦の“へそくり”
夫の給与や事業の収入を、妻が生活費の管理の中から少しずつ貯めて、自分(妻)名義の口座に積み立てているケースです。夫婦の協力で築いた財産という感覚があり、悪気はまったくありません。しかし税務上は、原資が夫の収入で、夫の相続の時点で妻に明確な贈与の事実がなければ、その預金は夫の名義預金と判断されやすくなります。
パターンB:子・孫名義の口座を親が管理
子や孫の将来のためにと、親・祖父母がその名義で口座を作り、通帳・印鑑・キャッシュカードは親が保管しているケース。名義人である子・孫は口座の存在を知らず、自由に使えません。これは典型的な名義預金で、5要素のうち①出捐者・②管理・③利益のすべてが被相続人側にあるため、ほぼ確実に相続財産と見られます。
パターンC:「贈与したつもり」だが記録も合意もない
毎年いくらかを子の口座に移していたが、贈与契約書もなく、子も知らず、贈与税の申告もしていないケース。本人は贈与のつもりでも、外形的に贈与の成立を示すものがなく、名義預金と扱われるリスクが高い状態です。
- 子・孫の名義で口座を作り、通帳も印鑑も親が持ったまま、本人には知らせていない
- 専業主婦が夫の収入から貯めた預金を、贈与の事実がないまま「自分のもの」と考えている
- 「毎年110万円なら非課税」とだけ理解し、贈与契約書も作らず、もらう側の同意も確認していない
- 名義人本人が一度も使ったことのない口座に、長年お金だけを入れ続けている
- 贈与は「あげる・もらう」の双方の合意で成立させる(もらう側が必ず認識している状態にする)
- 通帳・印鑑・キャッシュカードはもらった本人が管理し、本人が自由に使える状態にする
- 振込で記録を残し、必要に応じて贈与契約書を作成する
- 年110万円を超える贈与は贈与税の申告をして、贈与の事実を客観的に残す
6. 名義預金を申告から漏らすとどうなるか
名義預金を相続財産に含めずに申告すると、税務調査で指摘され、本来の相続税(本税)に加えて次のペナルティが上乗せされます。
| ペナルティ | 内容 |
|---|---|
| 延滞税 | 法定納期限の翌日から納付までの日数に応じてかかる利息的な税。期限から日が経つほど膨らむ |
| 過少申告加算税 | 申告額が少なかった場合の加算税。原則として追加で納める税額の10%(一定額超の部分は15%) |
| 無申告加算税 | そもそも申告していなかった場合の加算税。納める税額に応じて15〜30% |
| 重加算税 | 意図的に隠した・偽った(仮装隠蔽)と認定された場合の最も重い加算税。過少申告型で35%、無申告型で40% |
特に怖いのが重加算税です。家族名義の口座をことさらに使って財産を隠したと判断されれば、本税に加えて最大40%もの上乗せになります。前述のとおり、令和6事務年度には1,065件で重加算税が課されています(出典:国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」)。「名義が家族だから分からないだろう」という発想は、最も重いペナルティを招きかねない危険な考え方です。
——「亡くなった父が、よかれと思って子や孫の名義で貯めてくれていた預金がある。これは自分たちのもの、ということでよいか」というご相談を、弊社でも実際によく頂きます。一般論として申し上げると、名義が家族でも、原資と管理が被相続人であれば名義預金として相続財産に含めるのが原則です。私たちが関与する場面では、過去の入出金や資金の出どころまで遡って実態を確認し、相続財産に含めるべきものは正しく申告したうえで、生前の段階であれば、これからの贈与をきちんと「成立」させて名義預金を作らない設計をご提案しています。隠すのではなく、正しく整えることが、結果として一番ご家族を守ります。
7. 名義預金を作らないための生前対策(王道)
名義預金の問題は、生きているうちに、贈与を正しく成立させておくことで防げます。ポイントは「あげた・もらった」を客観的に証明できる状態にしておくことです。
- 双方の合意を残す … 「あげます・もらいます」の意思を、できれば贈与契約書の形で残す。もらう側(未成年なら親権者)が必ず認識・受諾している状態にする。
- もらった人が管理する … 通帳・印鑑・キャッシュカードはもらった本人が保管し、本人が自由に使える口座にする。親が握ったままにしない。
- 振込で記録を残す … 手渡しではなく、贈与者の口座から受贈者の口座へ振込で移し、お金の流れを通帳に残す。
- 必要なら贈与税の申告をする … 年110万円を超える贈与は贈与税を申告・納税し、贈与の事実を税務署にも残す(あえて110万円を少し超える贈与をして申告実績を作る考え方もあります)。
- 毎年の贈与は「定期贈与」と見られない工夫を … 同額を機械的に贈り続けると、最初にまとまった額を贈る約束だったと見られることがあります。金額・時期に幅を持たせる、その都度合意するなどの配慮をします。
よくある質問(FAQ)
専業主婦の私名義の預金は、夫の相続のときに必ず名義預金になりますか?
毎年110万円ずつ子の名義口座に入れていれば、贈与だから相続財産になりませんか?
名義預金に時効はありますか?
孫の名義で学資保険や預金を準備しています。これも名義預金ですか?
すでに親が亡くなり、家族名義の預金が見つかりました。どうすればよいですか?
9. まとめ
名義預金は、悪気のない「家族のための貯金」が、相続のときに思わぬ追徴を招く、相続税の最重要論点です。要点は次のとおりです。
- 名義預金とは、名義は家族でも、原資と管理の実態が被相続人にある預金。税務上は被相続人の相続財産になる(国税庁No.4105)。
- 税務調査で申告漏れが見つかる財産の62.9%が現金・預貯金等で最多(令和6事務年度)。家族名義の口座も金融機関照会で調べられる。
- 帰属の判断は①出捐者②管理・運用③利益の帰属④関係⑤経緯の5要素の総合判断。最重要は①お金の出どころ。
- 名義を作っただけでは贈与は成立しない。贈与は「あげる・もらう」双方の合意が必要(民法第549条)。
- 漏らすと延滞税・加算税、悪質なら重加算税(最大40%)。隠すより正しく申告する方が安い。
- 防ぐ王道は、生前に贈与を正しく成立させること(合意・本人管理・記録・必要なら贈与税申告)。
「家族名義の預金があるが、相続でどう扱えばよいか分からない」「生前贈与を、名義預金と言われないように正しくやりたい」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、名義預金を含む相続財産の洗い出しから、税務署に説明できる形での生前贈与の設計、相続税のシミュレーション、資産承継まで一体でご支援しています。お気軽にご相談ください。
出典・参考資料
- 民法第549条(贈与の成立)/相続税法(相続税がかかる財産・非課税財産)
- 国税庁タックスアンサー No.4105(相続税がかかる財産)/No.4108(相続税がかからない財産)/No.4152(相続税の計算)
- 国税庁タックスアンサー No.4402(贈与税がかかる場合)/No.4408(贈与税の計算と税率)
- 国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」(令和7年12月公表・実地調査件数・非違割合・追徴税額・財産別非違件数の構成比)
本記事は、名義預金と相続税に関する一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。財産の帰属の判断は個々の事実関係により異なり、関係する制度や非課税枠の要件等は改正により変わることがあります。実際の相続・申告・生前対策の判断にあたっては、税理士等の専門家にご確認ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月29日
