2027年から自社株・M&Aの売却で増税?ミニマムタックス強化(1.65億円の壁)を税理士が解説
- 1. 何が変わるのか(3行サマリー)
- 2. 前提:ミニマムタックス(1億円の壁の是正)とは
- 3. 2027年からどう強化されるのか(現行と改正後の比較)
- 4. 自社株・M&Aを売る人への影響(概算試算)
- 5. 実務でどう備えるか(オーナー経営者の論点)
- 6. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 何が変わるのか(3行サマリー)
- ミニマムタックスの計算で所得から差し引く特別控除額が、3億3,000万円から1億6,500万円へ半分に引き下げられる
- 上乗せ計算に使う税率が、22.5%から30%へ引き上げられる
- これにより対象となる人の範囲が大きく広がる。とくに自社株・株式の大型売却(M&A・IPO・事業承継)を行うオーナーは、売却の時期(2026年までか/2027年以降か)で税負担が変わりうる
2. 前提:ミニマムタックス(1億円の壁の是正)とは
ミニマムタックスは、正式には「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」といいます。令和7年(2025年)分の所得税からすでに導入されている制度です。
背景にあるのが、いわゆる「1億円の壁」です。給与や事業の所得は最高45%の累進課税ですが、株式の譲渡益や配当は申告分離課税で税率が約20%(所得税15.315%+住民税5%)と一定です。このため、所得の大半が株式譲渡益・配当である富裕層は、所得が増えるほど全体の税負担率がむしろ下がる、という現象が起きます。これを是正し、極めて高い所得には最低限の負担を求めるのがミニマムタックスです。
仕組みは、申告する所得(分離課税の株式譲渡益・配当なども含めて合算した金額。これを基準所得金額といいます)をもとに、次の計算をします。
3. 2027年からどう強化されるのか(現行と改正後の比較)
今回の令和8年度税制改正で、上記の計算式の「特別控除額」と「税率」が見直されます。令和9年(2027年)分の所得税から適用される見込みです。
| 項目 | 現行(令和8年=2026年分まで) | 改正後(令和9年=2027年分から) |
|---|---|---|
| 特別控除額 | 3億3,000万円 | 1億6,500万円(半減) |
| 税率 | 22.5% | 30% |
| 計算式 | 〔(基準所得金額 − 3億3,000万円) × 22.5%〕− 基準所得税額 | 〔(基準所得金額 − 1億6,500万円) × 30%〕− 基準所得税額 |
| 適用開始 | 令和7年(2025年)分から適用中 | 令和9年(2027年)分の所得税から |
控除が半分になり税率が上がるため、追加負担が発生し始める所得水準が大きく下がります。各専門機関の試算では、株式譲渡益が中心の場合、改正前はおおむね株式譲渡所得10億円超が一つの目安だったのに対し、改正後は株式譲渡所得が約3.4億円を超えると追加負担が生じうるとされています(前提により変わります)。
4. 自社株・M&Aを売る人への影響(概算試算)
具体的なイメージをつかむため、自社株の売却で株式譲渡益が5億円生じたオーナー経営者を例に、概算で比べてみます(復興特別所得税・住民税等を捨象した簡易計算です)。
このとき、通常どおり計算した所得税(基準所得税額)は、申告分離課税15.315%でおおむね約7,658万円です。
| 現行(〜2026年分) | 改正後(2027年分〜) | |
|---|---|---|
| 〔(基準所得金額 − 特別控除) × 税率〕 | (5億 − 3.3億) × 22.5% = 3,825万円 | (5億 − 1.65億) × 30% = 1億50万円 |
| 通常の所得税額(基準所得税額) | 約7,658万円 | 約7,658万円 |
| ミニマムタックスによる追加納税 | 0円(通常の税額の方が大きい) | 約2,392万円(差額) |
同じ「株式譲渡益5億円」でも、現行では追加負担ゼロだったものが、2027年からは約2,400万円の追加納税が生じる、という規模感です(あくまで前提を置いた概算です)。売却額が大きいほど差は広がります。
5. 実務でどう備えるか(オーナー経営者の論点)
自社株や保有株式の大型売却を考えるオーナーが、ミニマムタックス強化を踏まえて押さえるべき論点を整理します。
- 「株の売却益は一律20%」とだけ理解し、ミニマムタックスの上乗せを織り込まずに手取りを見誤る
- M&A・IPOの時期を税負担の分岐点(2026年/2027年)を知らないまま決め、後から数千万円単位の差に気づく
- 「2027年から増税」とだけ聞いて、事業や後継者の事情を無視して売却を前倒しし、価格交渉や承継準備が中途半端になる
- 株式譲渡益以外の所得(配当・不動産売却益など)を合算した基準所得金額で判定されることを見落とす
- 想定する株式譲渡益と、その年の他の所得を合算した基準所得金額で、現行・改正後の両方のミニマムタックスを試算する
- M&A・IPO・事業承継の実行時期の選択肢ごとに、手取り(税引後)を数字で比較する
- 税負担はあくまで判断材料の一つと位置づけ、買い手・後継者・従業員・価格の事情を最優先にスケジュールを設計する
- 自社株の評価・退職金の活用・[事業承継税制](納税猶予)など、売却以外の選択肢とあわせて出口戦略を組み立てる
弊社にも、「会社(自社株)を売ると、結局いくら手元に残るのか」「2026年中に動くべきか、2027年以降でもよいのか」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、つまずきやすいのは“税率の数字”そのものよりも、株式譲渡益とその年の他の所得を合算した「基準所得金額」で判定されることを見落とし、想定より追加負担が大きくなるケースです。私たちが関与する場面では、実行時期ごとの税引後の手取りを試算したうえで、事業や後継者の事情を最優先に、退職金や事業承継税制も含めた出口戦略全体の中で整理しています。
6. まとめ
ミニマムタックス(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)は、令和8年度税制改正で特別控除額が3億3,000万円から1億6,500万円へ半減、税率が22.5%から30%へ引き上げられ、令和9年(2027年)分の所得税から強化される見込みです。対象は大きく広がり、各専門機関の試算では株式譲渡所得が約3.4億円を超えると追加負担が生じうるとされています。
とくに自社株・株式の大型売却(M&A・IPO・事業承継)を考えるオーナーは、売却の時期で税負担が変わりうるため、早めの試算が有効です。ただし大切なのは、「税金が安いから急ぐ」ではなく、事業・後継者・買い手の事情を最優先に、その中で税負担を織り込むこと。税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、トリプルホルダーの視点で、実行時期ごとの手取り試算から、退職金・事業承継税制を含めた出口戦略の全体設計までご支援しています。自社株・株式の売却をお考えの方は、動く前に一度ご相談ください。
よくある質問(FAQ)
ミニマムタックスはいつから強化されますか?
株式譲渡益がいくらあると対象になりますか?
M&A・自社株の売却は2026年中に済ませた方が得ですか?
「1億円の壁」とミニマムタックスは同じものですか?
自社株を売る以外に税負担を抑える方法はありますか?
出典・参考資料
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」令和7年12月| https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/index.html
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」| https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_gaiyou.pdf
- 国税庁 タックスアンサー No.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」| https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1465「株式等の譲渡損失(譲渡所得)の繰越控除」| https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1465.htm
本記事は、財務省・国税庁の公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。特別控除額・税率は令和8年度税制改正の大綱で示された改正内容ですが、適用時期や細目は今後の法令・通達等により変更される場合があります。株式譲渡所得が何億円で対象になるか等の試算は各専門機関の概算であり、実際の負担は前提により変わります。実際の判断にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月8日
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