日本税理士会連合会が令和9年度税制改正建議書を関係省庁に提出|筆頭は「自社株評価の適正化」、事業承継税制は新制度の創設を求める【2026年8月時点】

2026年8月28日、日本税理士会連合会(日税連)が、「令和9年度税制改正に関する建議書」を8月27日に関係省庁へ提出したことを公表しました。提出先は、財務大臣・財務省主税局長・国税庁長官・総務大臣・総務省自治税務局長・経済産業大臣・中小企業庁長官です。 この建議書で最初に置かれている項目が「取引相場のない株式の評価の適正化」です。つまり、全国の税理士の総意として、いま最優先で直すべきだとされたのが自社株の評価でした。2番目が事業承継税制、3番目が相続した非上場株式を発行会社へ売ったときの課税です。上位3つがすべて、非上場会社のオーナーの手元に直結する論点です。 税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも、「自社株の評価はこれから上がるのか、下がるのか」「事業承継税制はいま使うべきか、制度が変わるのを待つべきか」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、この判断でつまずきやすいのは、いま動いている話が「評価の見直し」と「税制の見直し」の2本立てで、しかも進み方が違うことです。片方だけを見ていると、判断を1年単位で誤ります。 本記事では、①何が起きたのか ②そもそも「建議」とは何で、業界団体の要望と何が違うのか ③重要建議項目9項目の全体像 ④自社株評価をめぐる会計検査院の指摘と建議のつながり ⑤事業承継税制について経済産業省と日税連が求めている方向の違い ⑥いま現に走っている期限、を順に整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
  2. 2. そもそも「建議」とは何か――業界団体の要望とは法律上の位置づけが違う
  3. 3. 重要建議項目9項目――全項目
  4. 4. 重要建議項目1――自社株評価はなぜ「適正化」を求められているのか
  5. 5. 重要建議項目2――事業承継税制について、経済産業省と日税連は「逆方向」を向いている
  6. 6. 重要建議項目3――相続した非上場株式を発行会社に売ったときの税金
  7. 7. 実務でどう備えるか――建議の行方に関係なく、いま走っている期限
  8. 8. まとめ
  9. よくある質問(FAQ)

1. 何が起きたのか(3行サマリー)

  • 2026年8月27日、日本税理士会連合会が「令和9年度税制改正に関する建議書」を財務省・国税庁・総務省・経済産業省・中小企業庁に提出しました(公表は8月28日)。建議書自体は令和8年6月25日付でまとめられたものです
  • 建議書は、重要建議項目9項目と、10分野・合計42項目の税制改正建議項目で構成されています。重要建議項目の第1が「取引相場のない株式の評価の適正化」、第2が「法人版事業承継税制(一般措置)に代わる新たな猶予制度の創設」、第3が「相続等で取得した非上場株式を発行会社へ譲渡した場合の所得税の非課税措置の創設」です
  • 建議書は、自社株評価の見直しの根拠として、会計検査院の令和5年度決算検査報告類似業種比準方式などに厳しい指摘を行ったことを挙げています。国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」で進んでいる議論と、同じ方向を向いた動きです
📌 【2026年8月31日時点】これは「建議」であって、決まった制度ではありません
税制改正は、業界団体や各省庁の要望・建議を出発点として、政府税制調査会・与党税制調査会の議論を経て、年末の与党税制改正大綱で方向が定まり、翌年の通常国会で法律が成立して初めて確定します。日税連の建議は法律に根拠を持つものですが、建議された内容がそのまま制度になることを意味しません。削られることも、要件が大きく変わることも、実現しないこともあります。本記事の建議に関する記述は、2026年8月31日時点の公表資料に基づく内容であり、確定情報ではありません。

2. そもそも「建議」とは何か――業界団体の要望とは法律上の位置づけが違う

毎年8月末になると、各業界団体から税制改正の要望が一斉に出ます。その中で日税連の建議書だけが少し性質が違うのですが、この点はあまり知られていません。

建議は税理士法に根拠がある

建議書の「はじめに」は、税理士法第49条の15の規定に基づき建議書を取りまとめている、と書いています。この条文をe-Gov法令検索の現行条文で引くと、次のとおりです。

💡 税理士法第49条の15(税理士会に関する規定の準用)
「第四十九条の二第一項、第四十九条の四、第四十九条の五、第四十九条の七から第四十九条の九まで及び第四十九条の十一の規定は、日本税理士会連合会について準用する。」

つまり第49条の15そのものは準用規定で、建議の中身を定めているのは、そこで準用されている第49条の11です。

💡 税理士法第49条の11(建議等)
「税理士会は、税務行政その他租税又は税理士に関する制度について、権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができる。」

この条文は税理士会について定めたもので、第49条の15によって日本税理士会連合会にも準用されます。「建議し、又はその諮問に答申することができる」という権限が、法律に書かれているわけです。ここが、法律上の根拠を持たない一般の業界団体の要望との違いです。

なぜ法律で建議が認められているのか

建議書自身が、その理由をこう説明しています。「様々な組織や団体から提出されている税制改正に関する要望と異なり、この建議は、税理士法第1条に規定される独立した公正な立場からの、申告納税制度の理念にそった内容となっている点で特徴的であり、このことが法律により建議が認められている理由でもある」

その税理士法第1条は次のとおりです。

💡 税理士法第1条(税理士の使命)
「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」

ここが実務家として大事なところです。業界団体の要望は「自分たちの業界の負担を軽くしてほしい」という利益の主張であるのが通常ですが、建議は「独立した公正な立場」から出すことが前提とされています。今回の建議書で、税理士の顧客であるオーナー経営者にとって必ずしも有利ではない方向――たとえば後で述べる「事業承継税制の対象資産を絞るべき」という提案――が入っているのは、この建て付けの表れと読めます。

読み手としては、「業界のポジショントークではない可能性が高い分、税制当局に届きやすい」という前提で読むのが実務的です。

3. 重要建議項目9項目――全項目

建議書のⅡ「本建議書における重要建議項目」に並ぶ9項目は、次のとおりです。省略せず全項目を掲げます。

  • 1.取引相場のない株式の評価の適正化を図るため、所要の見直しを行うこと。(主に関係するのは非上場会社のオーナーと後継者)
  • 2.法人版事業承継税制(一般措置)に代えて、新たな贈与税及び相続税の猶予制度を創設すること。(同上)
  • 3.相続等により取得した非上場株式を、その発行会社に譲渡した場合には、当該譲渡に係る所得税を非課税とする措置を創設すること。(相続人と発行会社)
  • 4.消費税の複数税率制度を廃止し、直接給付による方法とすること。(全事業者と消費者)
  • 5.給付付き税額控除制度について、所得に応じたきめ細やかな給付に一本化する方法を検討すること。(個人と自治体)
  • 6.給与支払報告書や所得税確定申告書の書式を見直し、個人住民税賦課計算時の資料合算事務の生産性向上を実現すること。(給与支払者と自治体)
  • 7.中小企業者等の法人税率の特例の適用期限について延長すること。(中小法人)
  • 8.雑損控除の適用につき「特定非常災害により生じた損失」については、控除の順番を見直すとともに、繰戻還付制度を創設すること。被災した個人)
  • 9.少子化対策について、税制面での検討を行うこと。(子育て世帯)

(出典:日本税理士会連合会「令和9年度税制改正に関する建議書」Ⅱ)

上位3項目が、すべて非上場株式(自社株)に関するものです。これが今年の建議書の性格をよく表しています。

建議項目42項目の分野別内訳

Ⅱの重要建議項目とは別に、Ⅳ「税制改正建議項目」に42項目が並びます。分野別の内訳は次のとおりです。

分野項目番号件数
所得税・法人税等 共通項目1〜44
所得税5〜128
中小法人税制131
法人税14〜218
消費税22〜265
相続税・贈与税27〜326
地方税33〜364
納税環境整備・その他371
国際税制38〜403
災害対応税制41〜422
合計1〜4242

(出典:同建議書Ⅳ)

国際税制の3項目は、非居住者等から国内の土地等を買い受ける場合の源泉徴収義務者の負担軽減(38)、相続税に係る租税条約の締結を進めること(39)、外国税額控除の控除限度超過額・控除余裕額の繰越期間の延長(40)です。39は、海外に資産や親族を持つ方の相続で二重課税が起きる問題への対応で、日本が相続税の租税条約を結んでいる相手国が極めて限られている現状を踏まえたものです。

4. 重要建議項目1――自社株評価はなぜ「適正化」を求められているのか

ここが今年の建議書の中心です。そして、いま国税庁で進んでいる議論と直結します。

出発点は会計検査院の指摘

建議書は、見直しを求める根拠として、会計検査院による令和5年度決算検査報告を挙げています。この報告の該当箇所は「第4 相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について」で、会計検査院のウェブサイトで全文が公開されています。

指摘の要点は、評価方式ごとに次のとおりです。

類似業種比準方式・併用方式について 「類似業種比準方式及び併用方式による評価額が純資産価額方式による評価額に比べて相当程度低く算定される傾向」があると指摘されています。

純資産価額方式について 「純資産価額の計算式等については、昭和53年の改正以降は、その評価額に大きく影響を与える改正は行われていない」と指摘されています。

配当還元方式について 「配当還元方式の還元率は、社会経済の変化に応じたものとはなっておらず」と指摘されています。国税庁は還元率を10%に設定していることについて「昭和39年の評価通達制定当時の金利等を参考とし」たと説明した、と報告に記載されています。

(出典:会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4)

配当還元方式の還元率10%が昭和39年当時の金利水準を参考に決められ、その後見直されていない――これが検査院の指摘です。昭和39年は1964年ですから、60年以上前の金利環境を前提にした数字が、いまも少数株主の株式評価に使われていることになります。

会計検査院の所見は、「国税庁において、……評価制度の在り方について様々な視点からより適切なものとなるよう検討を行っていくことが肝要である」と結ばれています。

建議書が求めている「4つの見直し」

これを受けて、建議書は次の4点を求めています。

  • (1) 類似業種比準方式について――株式交換等で会社の属性を変えることで評価を大きく下げられる点、意図的に赤字を計上して僅かな配当を行うことで株価を下げられる点を挙げ、「当該株式の時価の計算方法として適正とは言えない部分がある」と指摘。大中小という会社の区分とは無関係に評価が可能な方法を検討すべきとしています
  • (2) 純資産価額方式について――継続企業を前提とすれば、事業で今後も使う不動産を清算価値である時価で評価することの妥当性は検討が必要であり、税務上の簿価純資産価額を基礎として評価することも検討すべきとしています。あわせて退職給付債務・資産除去債務の考慮も求めています
  • (3) 配当還元方式について――還元率がより適正なものとなるよう、株式投資を含めた投資に対する回収率等を参考とすべきとしています
  • (4) 見直しによる負担増への配慮――見直しにあたっては継続企業を前提とした評価と評価の安全性に十分配慮する必要があるとし、大幅な負担増となる場合には、一定の評価減制度など新たな事業承継の支援措置が必要としています

ここが実務家として一番重要な一文

(4)には、建議書の中でもとりわけ踏み込んだ記述があります。

「現行評価は、類似業種比準方式を中心に評価額の引き下げが行われてきたが、事業承継の支援措置がない中、その代替として、しんしゃく率の導入及び拡大が行われてきた。」

つまり、「しんしゃく率(斟酌率)は、本来あるべき事業承継支援の代わりとして使われてきた」と、税理士の側から明言しているわけです。実務家の立場から申し上げると、ここは非常に重い記述です。しんしゃく率が事業承継支援の代替物だったのなら、評価が適正化される(=評価が上がる方向に動く)なら、その代替物を外す前に、本体の支援措置を用意しなければ筋が通らないという主張になるからです。

ここを誤解される経営者がとても多いのですが、「評価が見直される=必ず評価が上がる」でも「必ず下がる」でもありません。会計検査院の指摘は、類似業種比準方式が純資産価額方式より相当程度低く出る傾向と、配当還元方式の還元率が古いことの両方に向いています。どの方式を使う立場かによって、影響の向きが逆になり得ます

なお、取引相場のない株式の評価の見直しは、国税庁の有識者会議で現在進行形で議論されています。また、評価通達によらない評価が問題となる総則6項の適用件数が多いことも、建議書が改善の必要性を挙げる理由の一つとされています。

5. 重要建議項目2――事業承継税制について、経済産業省と日税連は「逆方向」を向いている

ここが今年いちばん読み解きにくく、そして実務に効くところです。

2026年8月、事業承継税制について2つの異なる見直し案が相次いで表に出ました。どちらも「令和9年度税制改正」に向けたものですが、設計の方向が逆です。

2つの案の対比

論点経産省の要望日税連の建議
対象企業成長投資・賃上げ企業全ての中小企業
猶予対象資産報道では言及なし事業用資産に限定
免除まで報道では不明例えば5〜7年
現行制度報道では言及なし一般措置を置き換え
問題意識承継の促進・成長支援富裕層優遇の懸念

(出典:日税連建議書Ⅱ-2/経済産業省の要望は2026年8月時点の報道によるもので、同省ウェブサイトには本記事作成時点で掲載されていません)

もう少し補って書くと、次のような対比になります。

  • 対象企業――経済産業省の要望は、報道によれば成長投資や賃上げに取り組む企業を対象とし、「前向きな企業かどうか」で絞り込む方向です。日税連の建議は、全ての中小企業にとって予測可能な制度とすることを重視しています
  • 猶予の対象資産――日税連は、猶予適用対象資産を事業用資産に限定すべきとしています。金融資産や遊休不動産などの特定資産を多額に保有する企業まで対象になっている現状に対する是正です
  • 免除までの期間――日税連は、贈与または相続の後、例えば5年から7年について一定の要件を満たした場合に猶予適用額を免除する、という具体的な期間観を示しています
  • 現行制度の扱い――日税連の建議は、一般措置に「代えて」新制度を創設するという書き方で、現行の一般措置の置き換えを想定しています
  • 問題意識――日税連は、本税制の適用企業が限定的であることに加え、特定資産を多額に保有する企業が対象となるなど富裕層優遇の懸念も指摘されていたと建議書に明記しています

日税連は「富裕層優遇の懸念」を自ら指摘し、対象資産を絞れと言っています。 一方、経済産業省の要望は成長投資・賃上げという「前向きな企業」を対象に免除を広げる方向と報じられています。絞る方向と、広げる方向です。

実務家の立場から申し上げると、この2案が同じ年の税制改正の議論に乗ること自体が、いまの事業承継税制が「使いにくいのに、使えると不公平になる」という難しい位置にあることを示しています。

日税連案が挙げている「使われない理由」

建議書は、特例措置の適用企業が限定的である理由として、次を挙げています。

  • 将来の不確実性がある中での要件管理の負担
  • 猶予取消しリスク
  • 手続負担
  • 農地等の納税猶予と違い、会社は内外の経営環境等により中身が変容するため、農地等と非上場株式等の性質は大きく異なる

そのうえで、親族外承継では相続切替時に後継者が被相続人の遺産の全体像を把握することが困難であるとして、相続税申告を受贈者単独で可能とする制度設計と、都道府県と税務署で重複している手続の簡素化も求めています。

💬 実務の現場から
弊社にも、事業承継税制について「使えるなら使いたいが、途中で取り消されるのが怖い」というご相談は実際に寄せられます。一般論として申し上げると、この制度で最も重いのは税額そのものではなく、猶予が続く限り毎年・5年間の継続届出等の管理が終わらないという点です。オーナーの代で完結せず、後継者、さらにその次の代まで論点が残ります。日税連の建議が「予測可能な制度」「5年から7年で免除」を求めているのは、この実務感覚と一致しています。

6. 重要建議項目3――相続した非上場株式を発行会社に売ったときの税金

3番目の項目は、地味に見えて相続実務では頻出の論点です。

何が問題なのか

非上場株式を相続すると、多額の相続税がかかる一方で、その株式は売ろうにも買い手がいないという状況が起きます。そこで、納税資金を作るために発行会社そのものに株式を買い取ってもらう(自己株式の取得)ことがあります。

ところが、法人が自己株式を取得すると、原則として株主側ではみなし配当が生じ、総合課税(累進税率)の対象になります。そこで現行法には特例があります。

💡 租税特別措置法第9条の7(相続財産に係る株式をその発行した非上場会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例)
相続または遺贈により財産を取得し、納付すべき相続税額がある個人が、相続開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、相続税の課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式を、その発行会社に譲渡した場合には、交付を受けた金銭のうち資本金等の額に対応する部分を超える金額について、所得税法第25条第1項(みなし配当)の規定を適用しない

相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月ですから、この期間は実務上「相続開始から3年10か月」と呼ばれます。同じ期間制限は、相続税対策としてよく使われる取得費加算の特例(措置法第39条)にもかかっています。

建議書が「非課税に」と言っている理由

ここで押さえておくべきなのは、措置法第9条の7は「非課税」ではないという点です。この特例が外すのはみなし配当課税であって、譲渡した以上は株式の譲渡所得としての課税は残ります。一般株式等の譲渡所得等は、租税特別措置法第37条の10により所得税15%(このほか住民税5%・復興特別所得税がかかります)の申告分離課税です。

建議書は、これを物納と比較しています。物納の場合は、次の条文により譲渡所得等が非課税とされているからです。

💡 租税特別措置法第40条の3(物納による譲渡所得等の非課税)
個人がその財産を相続税法第42条第2項等の規定による許可を受けて物納した場合には、所得税法第32条または第33条の規定の適用について、その財産の譲渡がなかったものとみなされます(=譲渡所得等が課税されません)。

つまり、同じ「相続税を払うために財産を手放す」行為でも、国に物納すれば非課税、発行会社に売れば分離課税という非対称があります。建議書は「分離課税制度であっても事業承継を躊躇する原因になっている」として、事業の継続等の一定要件のもとで所得税を非課税とする措置の創設を求めています。

💡 押さえておきたい条文の対応関係
– みなし配当を外す特例=措置法第9条の7(現行・分離課税は残る)
– 取得費加算の特例=措置法第39条(現行・同じく3年10か月)
– 物納の譲渡所得非課税=措置法第40条の3(現行)
– 建議=上記の発行会社への譲渡についても非課税とする措置を創設(未実現)

7. 実務でどう備えるか――建議の行方に関係なく、いま走っている期限

建議はまだ制度ではありません。一方で、現行制度の期限は、建議の行方に関係なく現に進んでいます。ここを混同しないことが実務上いちばん重要です。

以下は、e-Gov法令検索の現行施行条文から確認した期限を、期限の早い順に並べたものです。

  • 令和9年3月31日までに開始する事業年度まで ── 中小企業者等の法人税率の特例(年800万円以下15%。所得が年10億円を超える事業年度は17%)。根拠=租税特別措置法第42条の3の2第1項。重要建議項目7が延長を求めているのは、この期限です
  • 令和9年(2027年)9月30日まで ── 法人版事業承継税制(特例措置)の特例承継計画の提出。根拠=中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則第17条第2項(様式第21)
  • 令和9年(2027年)12月31日まで ── 法人版事業承継税制(特例措置)の贈与の実行、および相続・遺贈による取得。根拠=租税特別措置法第70条の7の5第1項(贈与)・第70条の7の6第1項(相続)
  • 令和10年(2028年)9月30日まで ── 個人版事業承継税制の個人事業承継計画の提出。根拠=同施行規則第17条第4項(様式第21の3)
  • 令和10年(2028年)12月31日まで ── 個人版事業承継税制の贈与の実行、および相続・遺贈による取得。根拠=租税特別措置法第70条の6の8第1項(贈与)・第70条の6の10第1項(相続)

(出典:e-Gov法令検索の現行施行条文。租税特別措置法は令和8年8月12日施行版、同施行規則は令和8年4月1日施行版)

この表から読み取っていただきたいのは、次の2点です。

第一に、計画の提出期限と、実行の期限は別物です。 特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日まで延長されましたが、贈与・相続を実際に行う期限は令和9年12月31日のままで、1日も延びていません。計画を出しただけでは制度は使えません。

第二に、重要建議項目7(中小企業者等の法人税率の特例の延長)は、期限が最も近い項目です。 措置法第42条の3の2の適用対象は「令和9年3月31日までに開始する各事業年度」ですから、3月決算法人であれば令和8年4月1日開始の事業年度が、現行条文で15%が確実に使える最後の事業年度にあたります。延長されるかどうかは年末の大綱を待つことになります。

いま経営者がやっておくとよいこと

  • 自社株の評価方式が、いま何で決まっているかを確認する――類似業種比準方式が主なのか、純資産価額方式が主なのか、併用なのかによって、評価見直しの影響の向きが変わります。会社規模区分(大・中・小)と、株式保有特定会社・土地保有特定会社などに該当しないかを、直近の決算で確認しておく
  • 特例措置を使う可能性が少しでもあるなら、計画提出の要否を先に判断する――計画の提出自体は、後で制度を使わなくても罰則があるものではありません。使わない判断はいつでもできますが、令和9年9月30日を過ぎると、選択肢そのものがなくなります
  • 相続で非上場株式を取得する見込みがあるなら、3年10か月の期間を承継の設計に織り込む――措置法第9条の7も第39条も、期間を過ぎると使えません。相続が起きてから考え始めると、遺産分割の協議に時間を取られて期間を消化しがちです
  • 建議・要望の段階の情報で、実行のタイミングを遅らせない――「免除になるかもしれないから待とう」という判断は、令和9年12月31日という現行の期限を踏み外すリスクがあります。制度が変わったときに乗り換えられるかどうかは、その時点の経過措置次第です

弊社にも、こうした「待つべきか、動くべきか」のご相談は実際に寄せられます。一般論として重要になるのは、待つ判断をするなら、待った結果として何が失われるのかを先に数字にしておくことです。

8. まとめ

  • 2026年8月27日、日本税理士会連合会が令和9年度税制改正に関する建議書を財務省・国税庁・総務省・経済産業省・中小企業庁に提出しました。建議書は令和8年6月25日付です
  • 建議は税理士法第49条の15(第49条の11の準用)に根拠を持つ法定の制度で、同法第1条の「独立した公正な立場」を前提とする点が、一般の業界団体の要望と異なります
  • 重要建議項目9項目のうち上位3項目が、すべて非上場株式(自社株)に関するものです。第1が取引相場のない株式の評価の適正化、第2が事業承継税制の新制度創設、第3が相続した非上場株式を発行会社へ譲渡した場合の所得税の非課税措置です
  • 評価の見直しは、会計検査院の令和5年度決算検査報告の指摘が出発点です。配当還元方式の還元率10%が昭和39年当時の金利水準を参考にしたまま見直されていないことなどが指摘されています
  • 事業承継税制について、経済産業省の要望(成長投資・賃上げ企業を対象に免除)と、日税連の建議(対象資産を事業用資産に絞り、全ての中小企業に予測可能な制度を)は方向が逆です。どちらに寄るかで、使える会社の顔ぶれが変わります
  • 一方、現行制度の期限は建議の行方と無関係に進行中です。特例承継計画は令和9年9月30日、特例措置による贈与・相続は令和9年12月31日。計画の期限と実行の期限は別物です
  • いずれも建議・要望の段階であり、決定した制度ではありません。 年末の与党税制改正大綱と翌年の法改正を経て初めて確定します

よくある質問(FAQ)

日税連の建議書は、そのまま税制改正になるのですか?

なりません。建議は税理士法に根拠を持つ制度ですが、内容が採用されることを保証するものではありません。各省庁の要望や政府税制調査会・与党税制調査会の議論を経て、年末の与党税制改正大綱で方向が定まり、翌年の通常国会で法律が成立して初めて確定します。建議書に載っただけの内容を「決まった」と扱うことはできません。

自社株の評価は、これから上がるのですか、下がるのですか?

一律に上がるとも下がるとも申し上げられません。 会計検査院の指摘は、類似業種比準方式が純資産価額方式に比べて相当程度低く算定される傾向と、配当還元方式の還元率が古いことの両方に向いています。どの評価方式が主に適用される会社なのか、原則的評価方式で評価される立場か特例的評価方式で評価される立場かによって、影響の向きが変わり得ます。まず自社の現在の評価方式を確認することをおすすめします。

事業承継税制は、免除になるまで待ったほうがよいですか?

待つ判断にはリスクがあります。現行の特例措置は、特例承継計画の提出が令和9年9月30日、贈与・相続の実行が令和9年12月31日で期限を迎えます(租税特別措置法第70条の7の5第1項・第70条の7の6第1項、円滑化法施行規則第17条第2項)。新制度が創設されるとしても、その内容・要件・施行時期はいずれも未定で、現行制度からの乗り換えができるかどうかも未定です。個別の事情によって判断が変わりますので、期限までの残り時間と自社の状況を踏まえたご検討が必要です。

「特例承継計画を出す」と、必ず事業承継税制を使わなければならないのですか?

いいえ。計画を提出したうえで、実際には制度を使わないという判断は可能です。一方で、提出期限を過ぎると特例措置を選ぶ余地がなくなります。詳しい手続と要件は、都道府県の担当窓口および中小企業庁の公表資料をご確認ください。

相続した非上場株式を発行会社に売ると、いま税金はどうなりますか?

現行では、租税特別措置法第9条の7によりみなし配当課税が外れ、株式の譲渡所得として申告分離課税になります。一般株式等の譲渡所得等の所得税率は同法第37条の10により15%です(このほか住民税5%・復興特別所得税がかかります)。適用できるのは、相続開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡に限られます。日税連が建議しているのは、これを非課税にする措置の創設であり、現時点では実現していません。

建議書の全文はどこで読めますか?

日本税理士会連合会のウェブサイトでPDFが公開されています。本記事末尾の「出典・参考資料」にURLを掲載しています。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、法令および公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案における税務上の取扱いを保証するものではありません。本記事のうち日本税理士会連合会の建議および経済産業省の要望に関する記述は、令和9年度(2027年度)税制改正に向けた建議・要望の内容であり、決まった制度ではありません。税制改正は、各団体の建議・各省庁の要望、政府税制調査会・与党税制調査会の議論、年末の与党税制改正大綱、翌年の法律の成立を経て初めて確定するものであり、内容が変更されること、実現しないことがあります。建議された内容が税制改正大綱に採用されるとは限りません。なお、経済産業省の要望に関する記述は2026年8月時点の報道に基づくものであり、同省ウェブサイトには本記事作成時点で掲載されていません。一方、本記事に記載した現行条文および期限(特例承継計画の提出期限、事業承継税制の適用期限、中小企業者等の法人税率の特例の適用期限、みなし配当課税の特例の適用期間、一般株式等に係る譲渡所得等の税率)は、記事作成時点における条文の内容です。本記事は2026年8月31日時点の情報に基づくものであり、その後の制度改正・公表資料の更新により記載内容が現行と異なる場合があります。自社株評価・事業承継の判断にあたっては、最新の法令および国税庁・中小企業庁の公表資料をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年8月31日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から、M&A・組織再編・事業承継、国際税務・資産防衛まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月31日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。