NISAの「売った枠」が当年中に戻る?金融庁が令和9年度税制改正要望を公表|条文の基準日は「前年12月31日」だと税理士が解説【2026年9月1日時点】
- 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
- 2. いまのNISAの数字を確認する
- 3. なぜ「翌年まで」戻らないのか――基準日は「前年12月31日」
- 4. 要望の中身――2つの項目
- 5. 見落とされがちな点――年齢要件の撤廃は「もう決まっているが、まだ使えない」
- 6. なぜ「今年度の改正が必要」なのか――金融庁が示した理由
- 7. 実務でどう備えるか
- 8. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 何が起きたのか(3行サマリー)
- 2026年8月31日、金融庁が令和9年度(2027年度)税制改正要望項目を公表しました。主な要望項目は、NISAの利便性向上、銀行等の投資専門子会社による中小企業への出資の特例、金融所得課税の一体化、生命保険料控除の拡充の恒久化、信託型ステーブルコインに係る措置の5本です
- NISAについては、非課税保有限度額(1,800万円)の「当年中の復活」と、つみたて投資枠における要件の整備(継続要望)の2点が要望されています
- 金融庁は要望資料の注記で、新NISAの年間投資可能額が360万円以下となり得るのは令和11年以降としつつ、投資家の予見可能性と金融機関のシステム対応の期間を確保するため今年度の改正が必要だと明記しています
税制改正は、各省庁の要望を出発点として、政府税制調査会・与党税制調査会の議論を経て、年末の与党税制改正大綱で方向が定まり、翌年の通常国会で法律が成立して初めて確定します。今回公表されたのは金融庁が財務省・総務省に提出する要望であり、要望に入っただけの内容は、削られることも、要件が大きく変わることも、実現しないこともあります。本記事の記述は2026年9月1日時点の公表資料と条文に基づくものであり、確定情報ではありません。今後の議論により内容が変わる可能性があります。
2. いまのNISAの数字を確認する
まず現行制度です。根拠は租税特別措置法第37条の14(非課税口座内の少額上場株式等に係る譲渡所得等の非課税)です。
| 項目 | つみたて投資枠 | 成長投資枠 |
|---|---|---|
| 年間投資枠 | 120万円 | 240万円 |
| 保有限度額の内枠 | 定めなし | 1,200万円 |
年間投資枠は2つ合わせて360万円、非課税保有限度額は全体で1,800万円(うち成長投資枠だけで使えるのは1,200万円まで)です。口座を開けるのは、その年1月1日において18歳以上の居住者等に限られます(同条第5項第1号)。
(出典:租税特別措置法第37条の14、国税庁タックスアンサーNo.1535「NISA制度」)
条文には「つみたて投資枠」「成長投資枠」という言葉は出てきません。条文上は、つみたて投資枠が「特定累積投資勘定」、成長投資枠が「特定非課税管理勘定」です。金融機関の資料や国税庁の解説では通称のほうが使われますので、条文に当たるときは読み替えが必要になります。
3. なぜ「翌年まで」戻らないのか――基準日は「前年12月31日」
ここが本記事の核心です。
NISAの非課税保有限度額は、簿価(買った値段)で管理され、売却するとその分の枠が翌年に再利用できると説明されます。この説明自体は正しいのですが、「なぜ翌年なのか」は、条文を読まないと出てきません。
条文には「枠が復活する」という規定はありません。あるのは、受入れの可否を判定するための基準額の定義です。
「特定累積投資勘定基準額(同年の前年十二月三十一日に……特定累積投資勘定及び特定非課税管理勘定に受け入れている上場株式等の購入の代価の額に相当する金額として政令で定める金額をいう。)の合計額が千八百万円を超えることとなるときにおける当該特定累積投資上場株式等を除く。」
成長投資枠についても同じ構造で、「特定非課税管理勘定基準額(当該属する年の前年十二月三十一日に……受け入れている上場株式等の購入の代価の額に相当する金額……)」の合計額が千二百万円を超える場合、という定めが置かれています。
つまり、その年に新しく買えるかどうかは、前年12月31日時点で自分がいくら分(簿価)を持っていたかで決まります。基準日が前年の大晦日に固定されているため、年の途中で売っても、その年の判定には反映されません。翌年1月1日を迎えて基準日が切り替わって初めて、売った分だけ余裕が生まれる――これが「翌年に復活する」の正体です。
金融庁の要望は、この基準日の仕組みそのものに手を入れて、売却した年のうちに枠が使えるようにするというものです。「制度の運用を柔軟にしてほしい」という話ではなく、条文の設計を変える要望だと理解しておくと、今後の議論の読み方が変わります。
4. 要望の中身――2つの項目
金融庁の要望は、NISAについて次の2点です。
(1) 非課税保有限度額(1,800万円)の当年中の復活
現状は、年間投資枠が年初に確定し、年の途中で売却しても年間投資可能額はその年は増えません。要望は、売却した年のうちに、年間投資枠の範囲(最大360万円)内で再び投資できるようにするというものです。年間投資枠の上限自体(つみたて120万円・成長240万円)を引き上げる要望ではない点は、読み違えやすいので注意してください。
(2) つみたて投資枠における要件の整備(継続要望)
つみたて投資枠の対象商品の要件を整えるという要望です。金融庁の資料では、公募投資信託とETFに分けて現状が整理されています。
- 公募投信・指定指数に連動するもの――マーケット全体を広くカバーし、既に市場関係者に浸透している指数に連動するもの
- 公募投信・指定指数連動以外――現にマーケット(投資家)から継続的に選択・支持されているものとして、①純資産額50億円以上 ②信託開始以降5年経過 ③信託期間の3分の2で資金流入超 ④主に株式または公社債に投資、の4要件を満たすもの
- ETF・国内取引所――「円滑な流通のための措置が講じられている」として取引所が指定するもの
- ETF・海外取引所――資産残高1兆円以上
- ETF・指定指数連動以外――現状、要件が整備されていません。ETF市場の環境整備等が進展したことを踏まえ、対象とすべきETFの要件を整備することが要望されています
(出典:金融庁「令和9(2027)年度 税制改正要望について」)
5. 見落とされがちな点――年齢要件の撤廃は「もう決まっているが、まだ使えない」
金融庁の要望資料は、前提として「令和8年度税制改正において、つみたて投資枠の年齢要件の撤廃など制度の一層の充実が図られたところ」と過去形で書いています。ここを読み流すと誤解します。
条文を確認すると、こうなっています。
- 現行(令和8年8月12日施行)の第37条の14第5項第1号――非課税口座を開設できる者について「(その年一月一日において十八歳以上である者に限る。)」というかっこ書きが置かれています
- 令和9年1月1日施行の同号(令和8年法律第12号による改正後)――この年齢のかっこ書きが削除されています。あわせて「未成年者特定累積投資勘定」(特定累積投資勘定のうち、口座を開設している者がその年1月1日において18歳未満である年および出生した日の属する年の各年において設けられるもの)が新設されています
つまり、改正はすでに成立していますが、施行は令和9年(2027年)1月1日からです。2026年の時点では、まだ18歳以上でなければNISA口座は開けません。国税庁タックスアンサーNo.1535も、出典確認日時点では「18歳以上(口座開設の年の1月1日現在)」という現行の記載のままです。
弊社にも、お子さまやお孫さまの資産形成についてのご相談は実際に寄せられます。実務でよくお見かけするのは、報道や解説記事が「撤廃された」とだけ書いているのを見て、いま口座を作れると思って金融機関に行かれるケースです。使えるようになるのは2027年1月1日以後だ、と時点を押さえておいてください。
6. なぜ「今年度の改正が必要」なのか――金融庁が示した理由
要望資料には、次の趣旨の注記が置かれています。新NISA(令和6年に制度開始)の年間投資可能額が360万円以下となり得るのは令和11年以降だが、投資家の制度の予見可能性を高め、金融機関のシステム対応のために十分な期間を確保するには、今年度の改正が必要である――というものです。
数字で追うと、次のようになります。
- 年間投資枠は最大360万円、非課税保有限度額は1,800万円。1,800万円 ÷ 360万円 = 5年
- 制度開始が令和6年(2024年)なので、最短で満額まで使い切ると令和10年(2028年)末に1,800万円に到達します
- すると令和11年(2029年)の年初には、前年12月31日基準の残り枠が0になり、その年は新規に買えない――という人が最短ケースで出てきます
(上記の年数は、金融庁が示した「令和11年以降」という記載と、非課税保有限度額および年間投資枠の金額から当方が計算したものです。)
売却して枠を空けても翌年まで待つ必要がある、という現在の仕組みは、満額まで使った人が増えてくるこれからの数年で、はじめて実際の不便として表面化します。金融庁が「今年度の改正が必要」と踏み込んで書いたのは、そのタイミングから逆算しているためだと読めます。
7. 実務でどう備えるか
要望の段階ですので、いま何かを急いで動かす必要はありません。そのうえで、押さえておくと判断がぶれない点を挙げます。
- 売却のタイミングを「税制が変わる前提」で決めない。要望が通るかどうかは年末の与党税制改正大綱まで分かりません。当年中に枠が戻る前提で年の前半に売却してしまうと、制度が変わらなかった場合にその年の投資機会を失います
- NISA口座内の損失は、ないものとみなされます。特定口座・一般口座の譲渡益や配当との損益通算も、繰越控除もできません(国税庁タックスアンサーNo.1535)。枠の使い勝手だけを見て売買回数を増やすと、この点が効いてきます
- 配当を非課税で受け取るには、株式数比例配分方式の選択が必要です。発行者から直接交付される配当は課税扱いになります。ここは制度が変わっても変わらない部分です
- お子さま・お孫さまの口座は2027年1月1日以後。前倒しで動かせるものではありません
一般論として、こうしたご相談で最初につまずきやすいのは、「非課税だから有利」と「枠をどう使うか」を切り分けずに考えてしまうことです。NISAは損益通算ができない代わりに利益が非課税になる仕組みですので、同じ銘柄を課税口座で持つ場合と比べて、損が出たときの取り扱いが逆に不利になる場面があります。枠の復活が当年中になれば回転させやすくなりますが、回転させることそのものが有利なわけではありません。ご自身の資産全体のなかでNISAをどう位置づけるかが先で、枠の使い方はその次に来ます。
8. まとめ
- 2026年8月31日、金融庁が令和9年度税制改正要望項目を公表しました。NISAについては、非課税保有限度額1,800万円の「当年中の復活」とつみたて投資枠の要件整備が要望されています
- 現行のNISAは、つみたて投資枠120万円・成長投資枠240万円の年間合計360万円、非課税保有限度額1,800万円(成長投資枠の内枠は1,200万円)です(租税特別措置法第37条の14)
- 枠が翌年まで戻らないのは、条文が基準額の判定日を「同年の前年十二月三十一日」と定めているためです。運用の問題ではなく条文の設計の問題であり、要望はここに手を入れるものです
- つみたて投資枠の年齢要件の撤廃は、令和8年法律第12号ですでに成立していますが、施行は令和9年1月1日からです。2026年中はまだ18歳以上でなければ口座を開けません
- 金融庁は、年間投資可能額が360万円以下となり得るのは令和11年以降としつつ、予見可能性とシステム対応のため今年度の改正が必要だと明記しています
- 現時点では要望です。年末の与党税制改正大綱と翌年の法律の成立まで、確定した制度としては扱えません
よくある質問(FAQ)
いまNISAで売却したら、枠はいつ戻りますか?
要望が通ると、年間の投資上限が増えるのですか?
子どものNISA口座は、もう作れますか?
NISAで損が出た場合、他の口座の利益と相殺できますか?
金融所得課税の一体化という項目もありますが、これは何ですか?
この要望は、いつ結論が出ますか?
出典・参考資料
- 金融庁「金融庁の令和9年度税制改正要望について」(令和8年8月31日)
- 金融庁「令和9(2027)年度 税制改正要望について」(令和8年8月・PDF)
- 国税庁タックスアンサーNo.1535「NISA制度」
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」(昭和32年法律第26号)
- 財務省「税制改正の概要」(各年度の税制改正要望・大綱の掲載ページ)
- 根拠法令:租税特別措置法第37条の14第5項第1号・第6号。条文はe-Gov法令検索により、現行施行版(令和8年8月12日施行)および未施行版(令和9年1月1日施行・令和8年法律第12号による改正後)の双方を確認
- 補足:国税庁タックスアンサーNo.1535は、出典確認日時点で「18歳以上(口座開設の年の1月1日現在)」という現行の記載であり、令和9年1月1日施行の改正内容は反映されていません。施行後の取扱いは条文をご確認ください
本記事は、法令および公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案における税務上の取扱いを保証するものではありません。また、特定の金融商品の取得・保有・売却を勧誘するものではなく、投資判断はご自身の責任で行ってください。本記事のうち金融庁の要望に関する記述は、令和9年度(2027年度)税制改正に向けた要望の内容であり、決まった制度ではありません。税制改正要望は、政府税制調査会・与党税制調査会の議論、年末の与党税制改正大綱、翌年の法律の成立を経て初めて確定するものであり、内容が変更されること、実現しないことがあります。一方、本記事に記載した現行条文(年間投資枠、非課税保有限度額、基準額の判定日、口座開設の年齢要件)は、記事作成時点における条文の内容です。本記事は2026年9月1日時点の情報に基づくものであり、その後の制度改正・公表資料の更新により記載内容が現行と異なる場合があります。NISAの利用にあたっては、最新の法令および金融庁・国税庁の公表資料をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年9月1日
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無料相談はこちらこの記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年9月1日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。
