おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)とは?2,000万円の要件と使う前に知るべき損得を税理士が解説【2026年版】

「結婚して20年以上経つので、自宅を妻の名義にしておけば2,000万円まで贈与税がかからないと聞いた」——相続対策をお考えのご家族から、税理士法人 小山・ミカタパートナーズには、いわゆるおしどり贈与についてのご相談が実際に寄せられます。 おしどり贈与は、正式には贈与税の配偶者控除(相続税法第21条の6)といい、婚姻期間20年以上の夫婦間で自宅(居住用不動産)またはその取得資金を贈与した場合に、基礎控除110万円とは別に最高2,000万円まで贈与税の課税価格から控除できる特例です。名前も響きもよく、相続対策の定番として語られます。 しかし実務家として率直に申し上げると、この特例は「使えば得」とは限りません。むしろ、登録免許税・不動産取得税という現金コストを払ったうえに、相続税は1円も減らなかった——という結果になるご家庭のほうが多いのが実態です。本記事では、要件と手続きを正確に押さえたうえで、「どういう家庭なら効き、どういう家庭なら使わないほうがよいのか」の判断軸まで、国税庁の一次資料にもとづいて解説します。
📋 この記事の目次
  1. 1. おしどり贈与とは(3行サマリー)
  2. 2. 適用要件——3つすべてを満たすこと
  3. 3. 手続き——税額がゼロでも申告しなければ適用されない
  4. 4. 最大のメリット——生前贈与加算(7年ルール)の対象外になる
  5. 5. 見落とされるコスト——登録免許税と不動産取得税
  6. 6. 多くのご家庭で「使わないほうが有利」になる理由
  7. 7. それでも「効く」ケース——3つの判断軸
  8. 8. 税金以外のメリット——民法上の「持戻し免除の推定」
  9. 9. よくある失敗と王道
  10. 10. まとめ
  11. よくある質問(FAQ)

1. おしどり贈与とは(3行サマリー)

  • おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)とは、婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭を贈与した場合に、贈与税の基礎控除110万円のほかに最高2,000万円を控除できる特例です(相続税法第21条の5・第21条の6)。
  • 基礎控除と合わせて、1年で最大2,110万円まで贈与税がかからない計算になります。
  • ただし、適用には贈与税の申告が必須で、同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか使えません

(出典:国税庁タックスアンサーNo.4452「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」

2. 適用要件——3つすべてを満たすこと

国税庁は、適用要件を次の3つとしています。

#要件実務上のポイント
1夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと「20年目」ではなく「20年を過ぎた後」。婚姻期間は入籍日から数え、内縁関係の期間は含まれない
2贈与された財産が、居住用不動産であること、または居住用不動産を取得するための金銭であること「居住用不動産」とは、専ら居住の用に供する土地もしくは土地の上に存する権利、または家屋で国内にあるものをいう
3贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その居住用不動産に贈与を受けた人が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること「住む見込み」まで求められる。贈与後すぐ売却する前提の贈与は要件を満たさない

さらに、配偶者控除は同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができません(国税庁タックスアンサーNo.4452)。

💡 対象は国内の居住用不動産に限られます。海外に保有する住宅は、たとえ夫婦が居住していても対象外です。国際的に資産を持つご家庭では、この点で前提が崩れることがあります。

3. 手続き——税額がゼロでも申告しなければ適用されない

この特例は、贈与税の申告をして初めて適用されます。控除の結果として納税額がゼロになる場合でも、申告書の提出は必須です。ここを知らずに申告しないまま放置し、後から特例が使えないと分かるケースが実務では起こります。

贈与税の申告書に添付する書類は次のとおりです。

添付書類注意点
戸籍の謄本または抄本財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成されたもの
戸籍の附票の写し同上(贈与日から10日経過後に作成されたもの)
居住用不動産の登記事項証明書その他、贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証する書類申告書に不動産番号を記載することなどにより、添付を省略できる

金銭ではなく居住用不動産そのものの贈与を受けた場合は、上記のほかに、その居住用不動産を評価した評価明細書などの提出が求められます。

なお、贈与税の申告期限は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。

4. 最大のメリット——生前贈与加算(7年ルール)の対象外になる

おしどり贈与の本当の強みは、控除額2,000万円そのものよりも、相続開始前の生前贈与加算の対象にならないという点にあります。

相続や遺贈で財産を取得した人が、被相続人から加算対象期間内に暦年課税で贈与を受けていた場合、その財産の贈与時の価額は相続税の課税価格に加算されます。加算対象期間は令和6年1月1日以後の贈与から順次延長され、次のとおり推移します。

被相続人の相続開始日加算対象期間
〜令和8年12月31日相続開始前3年以内
令和9年1月1日〜令和12年12月31日令和6年1月1日から死亡の日までの間
令和13年1月1日〜相続開始前7年以内

この加算のルールに対して国税庁は、「贈与税の配偶者控除の適用を受けているまたは受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額」は加算しないと明記しています(国税庁タックスアンサーNo.4161「加算しない贈与財産の範囲」)。

つまり、暦年贈与のように「亡くなる直前の贈与は相続財産に戻される」という制約を受けず、贈与した翌日に相続が起きても、2,000万円分は相続財産から確実に外れるということです。これがおしどり贈与の最大の機能です。

💡 ここは誤解が多いところです。よく「おしどり贈与は生前贈与加算の対象外」と一言で説明されますが、正確には配偶者控除額に相当する金額(最大2,000万円)の部分が加算されないという意味です。同じ年に基礎控除110万円の枠でも贈与していれば、その110万円部分は通常どおり加算対象になります。

5. 見落とされるコスト——登録免許税と不動産取得税

おしどり贈与の説明で語られないことが多いのが、贈与で不動産の名義を移すと現金の支出が発生するという事実です。相続で移す場合と比べると、負担の差は明確です。

税目贈与で取得した場合相続で取得した場合
登録免許税(所有権移転登記)不動産の価額の1,000分の20(2%)不動産の価額の1,000分の4(0.4%)
不動産取得税課税される(土地・住宅は令和9年3月31日まで3%。宅地等は課税標準が価格の1/2)課税されない

(出典:国税庁タックスアンサーNo.7191「登録免許税の税額表」東京都主税局「不動産取得税」

とくに重要なのは、東京都主税局が明示しているとおり、贈与税において夫婦間の居住用不動産の贈与の特例(=おしどり贈与)の適用を受けた場合でも、不動産取得税は課税の対象になるという点です。贈与税がゼロでも、不動産取得税と登録免許税は現金で出ていきます。

具体的なイメージ(固定資産税評価額2,000万円の自宅を贈与した場合)

  • 登録免許税:2,000万円 × 2% = 40万円(相続なら8万円)
  • 不動産取得税:建物・土地の内訳や軽減措置により変動しますが、数十万円規模になることがあります

同じ自宅を「相続で渡す」なら登録免許税8万円・不動産取得税ゼロで済んだところに、贈与にしたことで数十万円の追加コストが確定する——これがおしどり贈与の「隠れた費用」です。

6. 多くのご家庭で「使わないほうが有利」になる理由

コストを払ってでも節税効果が上回るなら合理的です。しかし現実には、次の2つの理由で効果が出ないケースが多くあります。

理由① 配偶者の税額軽減(1億6,000万円)があるため、そもそも相続税がかからない

配偶者が相続で財産を取得する場合、1億6,000万円配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税がかかりません(相続税法第19条の2)。

(出典:国税庁タックスアンサーNo.4158「配偶者の税額の軽減」

つまり、自宅2,000万円分を生前に配偶者へ移しても、その2,000万円は相続時に配偶者が取得していれば、どのみち配偶者の税額軽減の枠内で相続税がかからなかった可能性が高いのです。この場合、節税効果はゼロで、登録免許税と不動産取得税だけが純粋な損失になります。

理由② 二次相続で、結局同じ財産に相続税がかかる

配偶者へ移した自宅は、その配偶者が亡くなったとき(二次相続)に、子の相続財産として課税されます。一次相続で配偶者の税額軽減を使い切れず、かえって二次相続の負担が増えることもあります。夫婦2代を通した総額で考えないと、判断を誤ります。

💬 実務の現場から
「20年経ったので、そろそろ自宅を妻に贈与しておくべきでしょうか」というご相談は、非常によくいただきます。過去のご相談の傾向として申し上げると、まず財産全体の額と、配偶者の税額軽減でどこまでカバーされるかを試算すると、多くのご家庭では「今回は使わない」という結論になります。一般論として、この特例が効いてくるのは、相続財産が配偶者の税額軽減の枠を明らかに超える規模であるか、その自宅の値上がりが強く見込まれる場合です。制度の名前と印象で判断せず、必ず数字で比べることをおすすめします。

7. それでも「効く」ケース——3つの判断軸

おしどり贈与が合理的になるのは、次のような場合です。

#効くケース理由
1相続財産が大きく、配偶者の税額軽減の枠(1億6,000万円または法定相続分)を超えるご家庭自宅2,000万円分を確実に相続財産から外せるため、実際の税負担が減る
2贈与する自宅が将来値上がりする見込みが強い場合贈与時の価額で相続財産から外れるため、値上がり分がまるごと課税を免れる
3相続開始が近く、暦年贈与では生前贈与加算に取り込まれてしまう局面配偶者控除額相当額(最大2,000万円)は加算対象外のため、直前でも効果が確定する

逆に、相続税がかからない見込みのご家庭、財産が自宅に偏っているご家庭では、コストだけがかかる結果になりやすいと言えます。

8. 税金以外のメリット——民法上の「持戻し免除の推定」

見落とされがちですが、おしどり贈与には遺産分割の場面での効果があります。

民法第903条第4項は、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他方に対して居住用の建物またはその敷地を遺贈または贈与したときは、その遺贈・贈与について特別受益の持戻し免除の意思表示があったものと推定すると定めています(令和元年7月1日施行)。

通常、生前に贈与を受けた財産は「特別受益」として遺産分割の計算上、相続財産に持ち戻されます。しかしこの規定により、配偶者が贈与を受けた自宅は持ち戻されないと推定されるため、配偶者は自宅に加えて、他の遺産からも法定相続分に応じた取得ができることになります。

つまり、税金の話とは別に、残された配偶者の生活資金を確保しやすくなるという民法上の実益があります。おしどり贈与を検討する際は、「相続税が減るか」だけでなく、「配偶者の生活保障として意味があるか」という視点も入れて判断してください。

(出典:民法(明治29年法律第89号)第903条第4項|e-Gov法令検索

9. よくある失敗と王道

❌ おしどり贈与でつまずくパターン
  • 「2,000万円まで非課税」という言葉だけで判断し、登録免許税2%・不動産取得税という現金コストを織り込まない
  • 配偶者の税額軽減(1億6,000万円)で元々相続税がかからない家庭なのに使い、コストだけが出ていく
  • 一次相続だけを見て、二次相続で子にかかる相続税を計算していない
  • 税額がゼロになるからと贈与税の申告をせず、特例の適用を受けられない
  • 婚姻期間が「20年目」の年に贈与し、20年を過ぎた後という要件を満たさない
  • 贈与を受けた翌年3月15日までに居住していない(住む見込みがない)
  • 同じ配偶者から一生に一度しか使えないことを知らず、少額で枠を使ってしまう
⭕ おしどり贈与を正しく使う王道
  • まず財産全体の相続税を試算し、配偶者の税額軽減でどこまでカバーされるかを確認する
  • 一次相続と二次相続の合計税額で比較し、夫婦2代を通した有利不利を判断する
  • 実行するなら、登録免許税・不動産取得税を含めた総コストと節税額を並べて比べる
  • 相続財産が大きい/自宅の値上がりが見込まれる/相続開始が近い——このいずれかに当てはまるかで判断する
  • 贈与したら、税額ゼロでも必ず期限内(翌年3月15日まで)に贈与税の申告をする
  • 添付書類の戸籍謄本・戸籍の附票は、贈与日から10日を経過した日以後に取得する
  • 税務だけでなく、民法第903条第4項の持戻し免除の推定による配偶者の生活保障効果も踏まえて総合判断する

10. まとめ

おしどり贈与は、「知っている人が得をする制度」ではなく、「試算した人だけが正しく判断できる制度」です。要点は次のとおりです。

  • おしどり贈与=贈与税の配偶者控除。婚姻期間20年超の夫婦間の居住用不動産等の贈与について、基礎控除110万円と別に最高2,000万円を控除できる(相続税法第21条の6)。
  • 要件は①婚姻20年超②国内の居住用不動産または取得資金③翌年3月15日までに居住し住み続ける見込みの3つ。同じ配偶者からは一生に一度
  • 最大の機能は、控除額相当額が生前贈与加算(7年ルール)の対象外になること。
  • 見落とされるコストは、登録免許税2%(相続は0.4%)と不動産取得税(相続は非課税)。贈与税がゼロでも現金は出ていく。
  • 配偶者の税額軽減(1億6,000万円)があるため、多くのご家庭では節税効果が出ず、コストだけが残る。
  • 効くのは、相続財産が大きい/自宅の値上がりが見込まれる/相続開始が近い場合。
  • 税務とは別に、民法第903条第4項の持戻し免除の推定により、残された配偶者の生活資金を確保しやすくなる効果がある。

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よくある質問(FAQ)

おしどり贈与を使えば、必ず相続税は減りますか?

減るとは限りません。配偶者が相続で財産を取得する場合には、1億6,000万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額まで相続税がかからない「配偶者の税額の軽減」があります(相続税法第19条の2)。そのため、相続財産がこの枠に収まるご家庭では、生前に自宅を移しても相続税は変わらず、登録免許税(2%)と不動産取得税だけが純粋なコストとして残ります。使う前に、必ず財産全体で相続税を試算してください。

婚姻期間20年はどう数えますか。同じ相手と再婚した場合はどうなりますか?

婚姻期間は、婚姻の届出があった日から贈与の日までの期間で数え、内縁関係の期間は含まれません。要件は「婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと」なので、20年に達した後の贈与である必要があります。同じ相手と離婚・再婚した場合は、婚姻していた期間を通算して判定するのが原則的な取扱いです。ただし、配偶者控除は同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用できません。

現金で2,000万円を贈与して、それで自宅を買っても使えますか?

使えます。この特例の対象は「居住用不動産」または「居住用不動産を取得するための金銭」だからです。ただし、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その金銭で取得した居住用不動産に現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであることが必要です。取得・入居が翌年3月15日に間に合わないと要件を満たさないため、住宅の引渡し時期には十分な余裕を見てください。

贈与税がゼロになるなら、申告は不要ですか?

必要です。この特例は、一定の書類を添付して贈与税の申告をすることによって適用を受けられる制度で、申告がなければ適用されません。控除の結果として納税額がゼロになる場合も、翌年2月1日から3月15日までの申告期限内に贈与税の申告書を提出してください。添付する戸籍謄本・戸籍の附票の写しは、贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成されたものである必要があります。

おしどり贈与で移した自宅は、相続開始前7年以内でも相続財産に加算されませんか?

贈与税の配偶者控除の適用を受けている(または受けようとする)財産のうち、配偶者控除額に相当する金額は、生前贈与加算の対象になりません(国税庁タックスアンサーNo.4161)。したがって、贈与の直後に相続が発生しても、その部分は相続財産に戻されません。ただし、加算されないのは配偶者控除額に相当する金額の部分であり、同じ年に基礎控除110万円の枠で別途贈与していれば、その部分は通常どおり加算対象期間の判定に従います。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)に関する一般的な情報提供であり、個別のご家庭の相続対策の判断に代わるものではありません。有利不利は財産構成・家族構成・不動産の評価額により大きく異なるため、実行の前に必ず税理士等の専門家にご相談ください。不動産取得税の税率・軽減措置は地方税であり、都道府県により取扱いが異なる場合があります。制度の内容は令和7年4月1日現在の法令等にもとづきます。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月25日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」を掲げ、税務顧問・改正対応から資産防衛・相続・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。