令和6年度の脱税告発98件・脱税総額82億円|査察(マルサ)の最新動向を税理士が解説
- 1. 何が公表されたのか(3行サマリー)
- 2. 前提:査察(マルサ)とは何か/税務調査との違い
- 3. 数字で見る令和6年度の査察
- 4. 専門家の視点:いま、どんな脱税が摘発されているのか
- 5. 実務で押さえるべきこと(経営者・個人事業主の論点)
- 6. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 何が公表されたのか(3行サマリー)
- 令和6年度に査察(マルサ)が検察庁に告発したのは98件、脱税総額(告発分)は82億円、1件当たり約8,400万円。告発率は65.3%
- 税目別では法人税48件・消費税29件・所得税16件が中心。消費税では、輸出免税や仕入税額控除を悪用した不正受還付(国庫金の詐取)17件を重点的に告発
- 査察事件の一審判決は99件すべて有罪(有罪率100%)、うち13人に実刑判決。脱税は「ほぼ確実に刑事責任を問われる」領域
2. 前提:査察(マルサ)とは何か/税務調査との違い
「税務調査」と「査察」は、しばしば混同されますが、まったく性質の異なる手続きです。
| 一般の税務調査(任意調査) | 査察調査(強制調査・マルサ) | |
|---|---|---|
| 担当 | 税務署・国税局の調査部門 | 国税局 査察部 |
| 根拠 | 質問検査権(任意) | 国税犯則取締法令に基づく強制調査(裁判官の許可状) |
| 目的 | 適正な申告へ是正(行政上の手続き) | 悪質な脱税者の刑事責任の追及(一罰百戒) |
| 対象 | 広く一般の納税者 | 故意の隠ぺい・仮装を伴う高額・悪質な脱税 |
| 結末 | 修正申告・追徴課税(加算税・延滞税) | 検察庁への告発 → 刑事裁判 → 有罪なら罰金・懲役 |
国税庁は査察制度の目的を、「悪質な脱税者に対して刑事責任を追及し、その一罰百戒の効果を通じて、適正・公平な課税の実現と申告納税制度の維持に資すること」と説明しています。つまり、単なる「払い忘れ」や見解の相違ではなく、意図的に税を免れた悪質なケースが査察の対象です。
3. 数字で見る令和6年度の査察
着手・処理・告発の状況
令和6年度に査察部が着手した事案は151件、前年度からの繰越を含めて処理したのは150件、うち98件を検察庁に告発しました。告発率(処理件数に対する告発件数)は65.3%です。
| 項目 | 令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
|---|---|---|---|
| 着手件数 | 145件 | 154件 | 151件 |
| 処理件数 | 139件 | 151件 | 150件 |
| 告発件数 | 103件 | 101件 | 98件 |
| 告発率 | 74.1% | 66.9% | 65.3% |
脱税総額は、処理分で112億7,000万円、告発分で82億3,000万円。告発分の1件当たり脱税額は約8,400万円にのぼります。
税目別の告発件数・脱税額
| 税目 | 告発件数 | 脱税額 |
|---|---|---|
| 法人税 | 48件 | 42億4,100万円 |
| 消費税 | 29件(うち不正受還付17件) | 13億8,800万円 |
| 所得税 | 16件 | 18億円 |
| 相続税 | 2件 | 6億2,400万円 |
| 源泉所得税 | 3件 | 1億7,700万円 |
| 合計 | 98件 | 82億3,000万円 |
法人税が件数・金額ともに最多ですが、注目すべきは消費税です。国税庁は「消費税に対する国民の関心が極めて高いことを踏まえ」、消費税事案を重点としており、なかでも仕入税額控除制度や輸出免税制度を悪用した不正受還付事案(いわば国庫金の詐取)を17件告発しています。
業種別の告発(令和6年度)
| 順位 | 業種 | 告発者数 |
|---|---|---|
| 1位 | 建設業 | 21者 |
| 2位 | 不動産業 | 11者 |
| 3位 | 人材派遣業 | 5者 |
一審判決の状況
令和6年度中の一審判決は99件、すべてに有罪判決(有罪率100%)が言い渡されました。うち13人に実刑判決が出され、消費税法違反を含むものは7人。実刑判決のうち最も重いものは、査察事件単独で懲役2年6月、他の犯罪と併合されたもので懲役9年でした。「告発されればほぼ確実に有罪になる」——これが査察の現実です。
4. 専門家の視点:いま、どんな脱税が摘発されているのか
令和6年度の特徴は、ネットビジネス・国際取引・専門家が関与した脱税が目立つことです。国税庁が公表した事案の概要から、実務的に示唆の大きいものを整理します。
- 消費税の不正受還付:高級腕時計を海外へ輸出販売したように偽装し、安価な腕時計を高価なものに見せかけた領収証・輸出書類を作成して、架空の課税仕入れと架空の輸出免税売上げを計上。不動産賃貸業7社で架空の金地金取引により課税売上割合を偽装したケースも告発されています。
- ネット販売・無申告:ネットオークションやフリマサイトでのトレーディングカードの売上げを計上しない手口、動画配信サイトの運営会社からの使用料収入やネットショップの販売収入を無申告にしていた事案。
- 国際事案(20件を告発):アフィリエイト収入を売上げから除外し、得た資金の一部を海外の取引所で暗号資産に交換して所得税を免れた事案、海外法人からのコンサルティング報酬を海外預金口座に留保した事案など。租税条約に基づく外国税務当局との情報交換も活用されています。
- 専門家・著名事業者が関与した社会的波及効果の高い事案:税理士が、自ら架空外注費の計上先となる不正加担先を用意して顧客に脱税を指南した事案、人気タレントが所属する芸能事務所が架空の広告宣伝費・外注費を計上した事案、漢方内科の医療法人が理事長の私的な高級腕時計の購入代金を診療材料仕入高に仮装計上した事案、投資セミナーをネットでライブ配信する事業者の脱税事案など。
なお、脱税で得た資金は、現金・預貯金のほか、不動産・高級車・高級時計・有価証券・暗号資産の購入、競馬や海外カジノ、高級クラブでの飲食などに費消され、物置の金庫や室内のスーツケースに現金を隠していた事例まで報告されています。「隠せば見つからない」時代ではないことが、こうした摘発からも見て取れます。
5. 実務で押さえるべきこと(経営者・個人事業主の論点)
査察は「ごく一部の悪質な人の話」と感じるかもしれません。しかし、その手前にある重加算税・追徴課税は、ごく普通の中小企業・個人事業でも起こりえます。境界を踏み越えないために、押さえるべき点を整理します。
- 「少しくらいの売上除外・経費の水増しは大丈夫」と考える。意図的な隠ぺい・仮装は、金額が大きくなれば重加算税、さらに悪質なら査察・刑事告発につながる
- ネット収入・海外収入・暗号資産の利益を「バレないだろう」と無申告にする。決済記録・送金記録・情報交換ですべて追える
- 知人や業者にすすめられた「節税スキーム」の中身(架空外注費・架空の金地金取引など)を確かめずに使う。指南した側だけでなく、使った本人も脱税の当事者になる
- 「税理士に任せているから安心」と丸投げし、自社の数字(売上・経費の実態)を経営者自身が把握していない
- 売上はすべて計上し、経費は実態と証憑(契約書・請求書・納品の事実)が伴うものだけを計上する。これが最大かつ唯一の防御
- ネット収入・海外収入・暗号資産・副業の利益は、少額でも正しく申告する([副業の税金は「20万円」がカギ]も参照)
- 「うますぎる節税」は、根拠条文と実態を必ず確認する。説明できないスキームには手を出さない
- 顧問税理士と数字を共有し、売上・利益の根拠を経営者自身が説明できる状態にしておく。万一の調査でも、正しく記帳していれば恐れることはない
弊社にも、「税務調査が入ったらどうなるのか」「過去の処理にあいまいな点があり不安だ」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、本当に悪質な脱税を意図される方はむしろ稀で、多くは「ネット収入や海外取引の申告方法がわからなかった」「業者にすすめられた処理が適切か判断できなかった」といった、知識や確認の不足から生じる不安です。私たちが関与する場面では、まず事実関係と証憑を丁寧に整理し、正しく申告・記帳できる状態を作ることを最優先にしています。正しく申告していれば、税務調査は恐れる手続きではありません。
6. まとめ
令和6年度の査察(マルサ)は、告発98件・脱税総額82億円・告発率65.3%、一審判決は99件すべて有罪・うち13人が実刑という結果でした。摘発された事案は、アフィリエイトやライブ配信、トレカのネット販売、暗号資産、芸能事務所や医療法人まで、時代を映して多岐にわたりますが、その構造は「架空経費」と「売上除外」という古典的なものです。そして海外送金・暗号資産・ネット決済の記録は、後から必ず追える時代になっています。
大切なのは、売上をすべて計上し、実態の伴う経費だけを計上するという当たり前を徹底することです。税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、日々の記帳・申告から税務調査対応まで、経営者が「数字を堂々と説明できる状態」を作るご支援をしています。税務調査や過去の処理にご不安のある方は、お早めにご相談ください。
よくある質問(FAQ)
査察(マルサ)と税務調査は何が違いますか?
どのくらいの脱税額から査察の対象になりますか?
ネットの副業収入や暗号資産の利益も摘発されますか?
査察で告発されると、必ず有罪になりますか?
業者にすすめられた節税策を使っただけでも責任を問われますか?
出典・参考資料
- 国税庁「令和6年度 査察の概要」令和7年6月| https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/sasatsu/r06_sasatsu.pdf
- 国税庁「査察の状況」(査察制度の概要・各年度の概要)| https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/sasatsu/index.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2026「確定申告を間違えたとき」(修正申告・加算税の概要)| https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2026.htm
本記事は、国税庁の公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。記載の数値は「令和6年度 査察の概要」(令和7年6月公表)の公表値です。事案の概要は同資料に基づく一般的な紹介であり、特定の個人・法人を指すものではありません。実際の判断にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月9日
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