米国が親会社のグループは日本のグローバル・ミニマム課税が免除に|令和8年度改正のSbSセーフ・ハーバーと免除されないQDMTTを税理士が解説
- 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
- 2. 前提:2026年4月から、日本の制度は「3本立て」になった
- 3. SbSセーフ・ハーバーとは何か
- 4. 「共存適格国」と認められるための5つの要件
- 5. 最大の落とし穴:QDMTTは免除されない
- 6. 適用要件:GIRに「適用を受けようとする旨」を書かないと使えない
- 7. いつから使えるのか
- 8. 実務でどう備えるか
- 9. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 何が起きたのか(3行サマリー)
- 令和8年度税制改正により、SbSセーフ・ハーバー(法人税法第82条の3第7項)が創設されました。特定多国籍企業グループ等の最終親会社等の所在地国が、財務大臣が指定する国又は地域である場合には、そのグループに属する構成会社等・共同支配会社等に係るグループ国際最低課税額を零とすることができます。
- 指定されているのはアメリカ合衆国のみです(法人税法第82条の3第16項、令和8年3月31日財務省告示第89号)。適用は令和8年1月1日以後に開始する対象会計年度からです(令和8年改正法附則第15条)。
- ただし、各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税(QDMTT)は、この適用免除制度の対象外です。日本にある子会社の日本国内での上乗せ課税は、SbSセーフ・ハーバーを使っても消えません。
2. 前提:2026年4月から、日本の制度は「3本立て」になった
グローバル・ミニマム課税は、国・地域ごとの実効税率が15%(基準税率)を下回る部分について、不足分を上乗せ課税する仕組みです。対象となるのは特定多国籍企業グループ等——各対象会計年度の直前の4対象会計年度のうち2以上の対象会計年度において、総収入金額が7億5,000万ユーロ以上であるグループです(法人税法第82条第4号)。
日本は、この仕組みを3段階で法制化してきました。
- 各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(IIR=所得合算ルール) 令和5年度税制改正で創設。令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用済み。日本の親会社が、軽課税国にある子会社の不足税額を取り込んで納める仕組みです
- 各対象会計年度の国際最低課税残余額に対する法人税(UTPR=軽課税所得ルール) 令和7年度税制改正で創設。令和8年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用(令和7年改正法附則第13条)。IIRで拾いきれなかった残余額を、日本にある構成会社等が従業員数と有形資産額の割合に応じて負担する仕組みです(法人税法第82条の11第1項)
- 各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税(QDMTT=国内ミニマム課税) 令和7年度税制改正で創設。令和8年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用(同附則第13条)。日本という国の中で生じた不足税額を、日本が自ら取りに行く仕組みです(法人税法第82条の19第1項)
💡 押さえておきたいポイント QDMTTは「他国に持っていかれる前に、日本が自国分を確保する」ための制度です。したがって外から見れば、日本の子会社の税負担が15%に達しているかどうかは、日本のQDMTTで決着することになります。この構造が、後述する「SbSでもQDMTTは免除されない」の理由です。
3. SbSセーフ・ハーバーとは何か
令和8年(2026年)1月、OECD/G20「BEPS包摂的枠組み」において、いわゆる共存システム(Side-by-Side system:SbS)の導入が合意されました。財務省「令和8年度 税制改正の解説」は、この国際合意が大きく3つの内容から構成されると整理しています。
- 共存ルール SbSセーフ・ハーバーと、共存適格要件(国内課税要件、国外課税要件等)を満たす共存適格国に最終親会社等が所在する多国籍企業グループについて、IIRとUTPRを適用免除とすること
- 税額控除等 投資促進のための一定の税額控除等(設備投資・試験研究等)について、実効税率計算における影響を緩和すること
- 簡素化(実効税率計算) 既存の経過措置である移行期間CbCRセーフ・ハーバーの適用期限の1年延長(令和9年(2027年)12月末まで)と、恒久的措置の導入(令和9年(2027年)以降)
このうち第1の「共存ルール」に対応するために日本が措置したのが、SbSセーフ・ハーバーです。
条文の作りはシンプルです。特定多国籍企業グループ等の最終親会社等が、その対象会計年度において「国際的に認められた要件を満たしていると国際的に認められる国又は地域として財務大臣が指定する国又は地域」を所在地国とする場合には、その対象会計年度の構成会社等に係るグループ国際最低課税額は零とされます(法人税法第82条の3第7項)。共同支配会社等についても、同条第14項で同じ取扱いが準用されます。
財務大臣が指定した国又は地域は告示されることとされており(同条第16項)、令和8年3月31日財務省告示第89号でアメリカ合衆国が指定されています。財務省の解説は、「今後も引き続き行われる国際的な議論の動向によっては、指定される国又は地域が増える可能性があります」と付記しています。現時点で米国以外は指定されていませんが、固定された話ではありません。
4. 「共存適格国」と認められるための5つの要件
法人税法第82条の3第7項各号は、指定の前提となる要件を次のように定めています(いずれも、その国又は地域の令和11年1月1日前に制定された租税に関する法令によることが前提です)。
- 第1号(20%課税) 20%以上の税率により、会社等の所得に対する租税を課することとされていること
- 第2号(自国内最低課税) 自国内最低課税額に係る税を課することとされていること、または、会社等の所得に対する租税の額がその会社等の当期純損益金額に照らして過少であると認められる場合において、租税の適正な負担を求めるため、当期純損益金額を基礎として計算した金額に対して15%以上の税率により租税を課することとされていること
- 第3号(実効税率) その国又は地域における構成会社等・共同支配会社等に係る国別実効税率が基準税率(15%)を下回ることとなる可能性が低いこと
- 第4号(CFC類似規定) 子会社等が本店所在地国において事業の管理・支配・運営を自ら行っていない場合等に、その子会社等の所得の金額を親会社等の収益の額とみなして益金の額に算入する規定(原則としてその子会社等の全ての所得の金額を基礎とするもの)が設けられていること
- 第5号(外国税額控除) 会社等の所得に対する租税の額から、他国で課される租税の額を控除することができる規定(自国内最低課税額に係る税の額を控除できるものに限る)が設けられていること
第4号は、日本でいえば外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)に相当する規定を持っているか、という要件です。第5号は外国税額控除です。「その国が自国の企業をきちんと捕まえる仕組みを持っているなら、日本が重ねて取りに行く必要はない」——これがSbSの発想であり、要件の並びはその発想をそのまま条文にしたものです。
5. 最大の落とし穴:QDMTTは免除されない
ここが本記事でいちばんお伝えしたい点です。
財務省「令和8年度 税制改正の解説」は、SbSセーフ・ハーバーの制度概要を示した図の中で、次のように明記しています。
※ なお、各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税(いわゆるQDMTT)については、本適用免除制度の対象外。
国税庁の新しいQ&Aも、同じ点を念押ししています。米国に最終親会社等(B社)があり、日本のA社がその70%を保有され、A社がX国のC社を100%保有している——という設例で、Q&Aは次のように答えています。
SbSセーフ・ハーバーの適用により構成会社等に係るグループ国際最低課税額と共同支配会社等に係るグループ国際最低課税額がいずれも零となるため、グループ国際最低課税額も零となり、結果として国際最低課税額は零となります。また、国内グループ国際最低課税残余額も零となることから、国際最低課税残余額(UTPR)も零となります。
そのうえで、Q&Aはこう結んでいます。
- 米国親会社のグループだから、日本のグローバル・ミニマム課税はもう関係ない
- IIRが零になるのだから、申告・情報提供の手間もなくなる
- 免除されるかどうかは、日本の子会社の実効税率で決まる
- 自社は米国資本ではないので、この改正とは無関係だ
- 免除されるのはIIRとUTPRの2つ。QDMTT(各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税)は対象外であり、日本国内で生じた不足税額は日本で課税されます
- SbSは「グループ国際最低課税額を零とする」措置であって、制度の対象から外れるわけではありません。後述のとおり、報告事項等の提供(GIR)は引き続き必要です
- 判定の基準は日本の子会社ではなく、最終親会社等の所在地国です。米国以外の国が最終親会社等の所在地国であれば、現時点では使えません
- 日本資本のグループでも無関係ではありません。UTPRは、日本にある構成会社等が従業員数と有形資産額の割合に応じて負担する仕組みです。米国親会社のグループの日本子会社が免除される一方で、自社が海外グループの日本側拠点である場合の扱いは、親会社の所在地国によって変わります
6. 適用要件:GIRに「適用を受けようとする旨」を書かないと使えない
SbSセーフ・ハーバーは、黙っていて自動的に適用されるものではありません。
法人税法第82条の3第11項は、第6項から第9項まで(SbSセーフ・ハーバーを含む適用免除基準)について、次の場合に限り適用すると定めています。
- そのグループの当該対象会計年度に係るグループ国際最低課税額等報告事項等(GIR)の提供がある場合で、その内国法人について当該規定の適用を受けようとする旨を含むものに限る
- または、我が国以外の国若しくは地域の租税に関する法令を執行する当局に、GIRに相当する事項の提供がある場合(法人税法第150条の3第3項の提供義務免除規定の適用がある場合に限る)
つまり、GIRという「情報申告」を出したうえで、そこにSbSを使う意思表示を書き込むことが要件です。税額が零になるからといって、情報提供まで不要になるわけではありません。
💡 実務上いちばん事故が起きやすい点 グローバル・ミニマム課税の情報申告(GIR)は、税額が発生しない場合でも提供義務があります。SbSセーフ・ハーバーは「税額を零にする」制度であって「申告を不要にする」制度ではありません。グループの誰がどの当局に何を出すのかは、最終親会社等の所在地国の制度と、日本側の提供義務免除規定の適用の有無によって変わります。初年度は、この分担の確認から始めるのが安全です。
7. いつから使えるのか
適用開始時期は、制度ごとに異なります。ここを取り違えると初年度の判定を丸ごと誤ります。
| 制度 | 適用開始(対象会計年度) | 根拠 |
|---|---|---|
| IIR | 令和6年4月1日以後開始 | 令和5年度改正 |
| UTPR | 令和8年4月1日以後開始 | 令和7年改正法附則13条 |
| QDMTT | 令和8年4月1日以後開始 | 令和7年改正法附則13条 |
| SbS | 令和8年1月1日以後開始 | 令和8年改正法附則15条 |
(出典:財務省「令和8年度 税制改正の解説」国際課税関係の改正、および法人税法の各改正法附則。制度名は略称であり、正式名称は本文2のとおりです)
注目すべきは、SbSだけが令和8年1月1日以後開始とされている点です。これは、令和8年1月の国際合意に沿って遡及適用を行うことが認められたためで、令和8年改正法附則第15条は、令和7年改正法附則第13条(令和8年4月1日以後開始)にかかわらず令和8年1月1日以後開始の対象会計年度について適用する、と定めています。あわせて、令和8年1月1日から同年3月31日までの間に開始した対象会計年度については、改正前の条文に読み替えて適用するための読替規定が置かれています。
決算期別に整理すると、次のようになります。
- 12月決算 2026年1月1日開始の対象会計年度からSbSを使える。ただしUTPR・QDMTTの適用開始は2027年1月1日開始の対象会計年度から
- 3月決算 2026年4月1日開始の対象会計年度から、SbS・UTPR・QDMTTがそろって初年度を迎える
8. 実務でどう備えるか
やることの順番は決まっています。
- そもそも対象グループかを確認する。直前4対象会計年度のうち2以上で総収入金額7億5,000万ユーロ以上か(法人税法第82条第4号)。連結財務諸表ベースの数字であり、日本法人単体の売上とは異なります
- 最終親会社等の所在地国を確定する。中間持株会社ではなく、最終親会社等です。ここが米国であれば、SbSセーフ・ハーバーの検討に進みます
- GIRの提供分担を決める。誰がどの当局に出すのか、日本側で提供義務免除規定の適用があるのかを、初年度のうちに親会社側と握っておきます
- SbSを使う場合は、GIRに「適用を受けようとする旨」を含める。ここが抜けると、要件を満たしていても適用されません
- QDMTTの試算は、SbSの適用可否とは別に行う。免除されないのはこの部分です。日本の子会社の国別実効税率が15%を下回る要因(税額控除、繰延税金、一時差異)を洗い出しておきます
- 移行期間CbCRセーフ・ハーバーの要件も並行して確認する。簡素な実効税率要件のしきい値は年々上がっており、令和6年4月1日から同年12月31日までの間に開始する対象会計年度は15%、令和7年中に開始する対象会計年度は16%、令和8年中に開始する対象会計年度は17%です
海外グループの日本拠点をご支援していると、「本社が全部やってくれているはず」という前提のまま初年度を迎えてしまう例に出会います。グローバル・ミニマム課税は、税額の計算はグループ全体で行い、申告・情報提供の義務は各国の法人が負うという構造です。税額が零で終わるとしても、それは「何もしなくてよい」という意味ではありません。最終親会社等の所在地国と、自社が負う提供義務の範囲。まずはこの2点を書面で確認しておくことをおすすめしています。
9. まとめ
令和8年度税制改正により、グローバル・ミニマム課税にSbSセーフ・ハーバーが創設されました。最終親会社等の所在地国が財務大臣の指定する国又は地域(現時点ではアメリカ合衆国のみ。令和8年3月31日財務省告示第89号)である場合には、構成会社等・共同支配会社等に係るグループ国際最低課税額を零とすることができ(法人税法第82条の3第7項・第14項)、これによりIIRとUTPRの適用が免除されます。適用は令和8年1月1日以後に開始する対象会計年度からです(令和8年改正法附則第15条)。
一方で、各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税(QDMTT)は、この適用免除制度の対象外です。また、適用を受けるにはGIRに「適用を受けようとする旨」を含めて提供することが要件とされています(同条第11項)。
2026年4月1日以後に開始する対象会計年度からは、UTPRとQDMTTも動き出しました(令和7年改正法附則第13条)。国税庁は令和8年8月7日、この改正を織り込んだ令和8年4月1日以後開始対象会計年度対応分のQ&Aを新設しています。初年度の判定は、最終親会社等の所在地国の確認から始めるのが確実です。
よくある質問(FAQ)
SbSセーフ・ハーバーの適用を受けられるのはどの国ですか?
SbSセーフ・ハーバーを使えば、日本での課税は完全になくなりますか?
何もしなくても自動的に適用されますか?
自社がグローバル・ミニマム課税の対象になるかは、どう判定しますか?
UTPRとQDMTTはいつから始まりますか?
なぜSbSだけ令和8年1月1日以後開始なのですか?
国税庁のQ&Aは何が変わったのですか?
移行期間CbCRセーフ・ハーバーの要件は変わりましたか?
日本資本のグループには関係のない話ですか?
出典・参考資料
- 国税庁「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税等に関するQ&A」(令和8年8月)
- 国税庁「『各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に関するQ&A』の改訂等について」(令和8年8月)
- 国税庁「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税等に関するQ&A(令和8年8月)(令和8年4月1日以後開始対象会計年度対応分)」
- 国税庁「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に関するQ&A(令和8年8月改訂)(令和7年4月1日から令和8年3月31日までの間に開始する対象会計年度対応分)」
- 財務省「令和8年度 税制改正の解説」国際課税関係の改正
- 財務省「グローバル・ミニマム課税に係る国際合意を踏まえた措置」(令和8年度税制改正)
- 法人税法(昭和40年法律第34号)第82条の3第7項|e-Gov法令検索
- 法人税法(昭和40年法律第34号)第82条(定義)|e-Gov法令検索
- 法人税法(昭和40年法律第34号)第82条の11(国際最低課税残余額)|e-Gov法令検索
- 法人税法(昭和40年法律第34号)第82条の19(国内最低課税額)|e-Gov法令検索
- 所得税法等の一部を改正する法律(令和7年法律第13号)附則第13条(法人税法の一部改正に伴う経過措置の原則)
- 所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)附則第15条(国際最低課税額の計算に関する経過措置)
- 法人税法第82条の3第7項の規定に基づき財務大臣が指定する国又は地域を定める件(令和8年3月31日財務省告示第89号)
- 国税庁「新着情報」
本記事は、条文原文および財務省・国税庁が公表した資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。特定多国籍企業グループ等に該当するかどうか、SbSセーフ・ハーバーの適用を受けられるかどうか、国内最低課税額の有無および金額は、グループの構成、最終親会社等の所在地国、各国の税制および連結財務諸表の数値により個別に判断されます。実際の対応にあたっては、最新の法令および通達をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年8月17日
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