生前贈与とは?暦年課税と相続時精算課税の違い・110万円の壁・生前贈与加算を税理士が解説【2026年版】

「元気なうちに、子や孫に財産を少しずつ渡しておきたい」「生前贈与で相続税を減らせると聞いたが、何から始めればいいのか分からない」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズには、資産をお持ちの経営者やオーナー家のお客様から、こうしたご相談がよく寄せられます。生前贈与は、相続対策のいちばんの基本でありながら、令和6年(2024年)1月からの大きな改正で「使い方」が変わった分野でもあります。 本記事では、生前贈与の2つの方法(暦年課税相続時精算課税)の違い、年110万円の基礎控除と贈与税の速算表、2024年改正で「3年→7年」に延びた生前贈与加算、そして「結局どちらを選べばよいか」までを、国税庁の取扱いに基づいて図解的に網羅して解説します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 生前贈与とは(3行サマリー)
  2. 2. 贈与税の2つの課税方法:暦年課税と相続時精算課税
  3. 3. 暦年課税の仕組み:年110万円までは贈与税ゼロ
  4. 4. 【2024年改正】生前贈与加算が「3年→7年」に延長
  5. 5. 相続時精算課税の仕組み:2,500万円まで贈与税ゼロ+令和6年から年110万円
  6. 6. 暦年課税と相続時精算課税、どちらを選ぶべきか
  7. 7. 生前贈与でよくある失敗と王道
  8. 9. まとめ
  9. よくある質問(FAQ)

1. 生前贈与とは(3行サマリー)

  • 生前贈与とは、財産を持つ人が生きているうちに、無償で財産を他人(多くは子や孫)に渡すことをいいます。相続が「亡くなってから」財産が移るのに対し、生前贈与は「生きているうちに」前倒しで移す点が違いです。
  • もらった人には贈与税がかかります。贈与税の課税方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあり、贈与を受ける人ごと・贈与する人ごとに選べます。
  • 相続財産を生前に減らせるため相続税対策になりますが、年110万円を超えると贈与税がかかり、相続の直前の贈与は相続財産に加算される(生前贈与加算)など、ルールを誤ると効果が出ません。

ひとことで言えば、生前贈与は「毎年コツコツ、計画的に」行うことで効果が出る相続対策です。思いつきの一括贈与では、かえって高い贈与税がかかることもあります。

2. 贈与税の2つの課税方法:暦年課税と相続時精算課税

贈与税の計算方法は、次の2つから選びます。受贈者(もらう人)が、贈与者(あげる人)ごとに選択します。

暦年課税相続時精算課税
基礎控除(非課税枠)年110万円(毎年使える)年110万円(令和6年〜・毎年使える)+累計2,500万円の特別控除
税率超過累進(10〜55%)2,500万円超の部分に一律20%
誰からの贈与でも使えるか誰からでも可60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に限る
届出不要相続時精算課税選択届出書が必要
いったん選ぶと毎年自由に選べるその贈与者からは暦年課税に戻れない(一生)
相続時の扱い相続開始前一定期間の贈与を加算(後述)贈与財産を相続財産に合算して精算(年110万円分は除く)

※「18歳以上」「60歳以上」は、いずれも贈与を受けた年(贈与した年)の1月1日時点で判定します。

どちらにも「年110万円の基礎控除」がありますが、性格がまったく違います。暦年課税の110万円は「相続前の一定期間は相続財産に持ち戻される」のに対し、相続時精算課税の110万円は「相続財産に加算されない」——この違いが、令和6年改正の最大のポイントです(第4章・第5章で詳しく解説します)。

3. 暦年課税の仕組み:年110万円までは贈与税ゼロ

暦年課税は、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計から、基礎控除110万円を差し引いた残りに贈与税がかかる方法です(国税庁No.4408)。

贈与税額 =(1年間にもらった財産の合計 − 110万円)× 税率 − 控除額

110万円は「もらう人1人あたり」の枠です。父と母からそれぞれ100万円ずつ(合計200万円)もらった場合は、200万円から110万円を引いた90万円が課税対象になります(あげる人ごとではなく、もらう人の合計で判定)。

贈与税の速算表(暦年課税)

税率は、贈与者と受贈者の関係によって「特例税率」と「一般税率」の2種類に分かれます。

① 特例贈与財産用(特例税率) … 18歳以上の人が、直系尊属(父母・祖父母など)から受けた贈与に使う、有利な税率です。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円
1,500万円以下40%190万円
3,000万円以下45%265万円
4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

② 一般贈与財産用(一般税率) … 特例税率に当てはまらない贈与(夫婦間、兄弟間、親から18歳未満の子へ など)に使います。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
300万円以下15%10万円
400万円以下20%25万円
600万円以下30%65万円
1,000万円以下40%125万円
1,500万円以下45%175万円
3,000万円以下50%250万円
3,000万円超55%400万円
💡 たとえば、父から30歳の子へ500万円を贈与した場合(特例税率)。500万円−110万円=390万円。390万円×15%−10万円=48万5,000円が贈与税です。同じ500万円でも、一度に渡すより毎年110万円ずつ計画的に渡すほうが税負担は小さくなります。

4. 【2024年改正】生前贈与加算が「3年→7年」に延長

暦年課税で見落としてはならないのが、生前贈与加算(持ち戻し)です。相続や遺贈で財産をもらった人が、亡くなった人から相続開始前の一定期間内に受けていた贈与は、相続財産に足し戻して相続税を計算します(国税庁No.4161)。「亡くなる直前の駆け込み贈与で相続税を逃れる」ことを防ぐための仕組みです。

令和5年度税制改正で、この加算期間が「相続開始前3年以内」から「相続開始前7年以内」へ延長されました。令和6年(2024年)1月1日以後の贈与から、相続開始日に応じて段階的に適用されます。

相続開始日(亡くなった日)加算される贈与の期間
〜令和8年12月31日相続開始前3年以内
令和9年1月1日〜令和12年12月31日令和6年1月1日から相続開始日まで
令和13年1月1日〜相続開始前7年以内

延長された4年間(死亡前4年〜7年)に受けた贈与については、その合計額から総額100万円までは加算しないという緩和措置があります(直近3年分は全額加算)。

💡 ここに、富裕層の相続対策で見落とされがちな重要ポイントがあります。生前贈与加算の対象になるのは、あくまで「相続や遺贈で財産を取得した人」への贈与だけです。したがって、相続で財産を受け取らない孫(代襲相続人や受遺者でない孫)や、子の配偶者への贈与は、原則として加算の対象になりません。「子へは精算課税、孫へは暦年贈与」といった組み合わせが、世代を飛ばした資産移転として有効に働く場面があります。

5. 相続時精算課税の仕組み:2,500万円まで贈与税ゼロ+令和6年から年110万円

相続時精算課税は、累計2,500万円までの贈与には贈与税をかけず、相続のときにその贈与財産を相続財産に合算して相続税で精算する方法です(国税庁No.4103)。2,500万円を超えた部分には、一律20%の贈与税がかかります。

  • 対象者:贈与した年の1月1日時点で60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫(推定相続人である子や孫)への贈与
  • 特別控除:累計2,500万円(複数年にわたって使える)。超えた部分は一律20%
  • 手続き:最初の贈与の翌年2月1日〜3月15日に「相続時精算課税選択届出書」を提出
  • 注意:いったん選択すると、その贈与者からの贈与は生涯、暦年課税に戻せません

令和6年からの大改正:年110万円の基礎控除が新設

従来の相続時精算課税は「2,500万円を使い切ると、その後は少額の贈与でもすべて申告・課税」という使いにくさがありました。これが令和6年(2024年)1月1日以後の贈与から大きく変わりました。

暦年課税の基礎控除とは別枠で、毎年110万円の基礎控除が新設されたのです。しかも、この年110万円以下の部分は相続財産に加算されません(贈与税の申告も不要)。暦年課税の110万円が相続前7年分は持ち戻されるのに対し、精算課税の110万円は持ち戻し不要——ここが決定的な違いです。

暦年課税の110万円相続時精算課税の110万円(令和6年〜)
毎年使えるか使える使える
相続時の持ち戻し相続開始前一定期間(最長7年)は加算加算されない
贈与税の申告110万円以内なら不要110万円以内なら不要
💬 実務の現場から
——「相続時精算課税は一度選ぶと戻れないから怖い」というお声を、弊社でも実際によく頂きます。たしかにかつてはそうでした。一般論として申し上げると、令和6年の改正で毎年110万円の非課税枠が持ち戻し不要で使えるようになったことで、相続時精算課税は「使いにくい制度」から「相続が近い世代や、値上がりが見込まれる自社株・収益物件の早期移転に効く制度」へと位置づけが変わっています。私たちが関与する場面でも、お客様の年齢・財産構成・将来の値動きの見通しを踏まえ、暦年課税との有利不利を一件ごとに試算してご提案しています。

6. 暦年課税と相続時精算課税、どちらを選ぶべきか

「結局どちらが得か」は、贈与する人の年齢・財産の規模・財産の値動きによって変わります。一概にどちらが有利とは言えませんが、考え方の軸は次のとおりです。

❌ よくある失敗:仕組みを理解せずに選んでしまう
  • 相続時精算課税を「2,500万円も非課税ならお得」と早合点し、暦年課税に戻れないことを知らずに選択する
  • 暦年課税で毎年贈与していたが、相続の直前だったため7年分が持ち戻され、対策の効果がほとんど出なかった
  • 値上がり確実な自社株を「いま動かすと贈与税が高い」と先送りし、相続時にさらに評価が上がって相続税が膨らんだ
⭕ 王道:年齢・財産・値動きで使い分ける
  • 相続まで時間がある(若い・健康)/少額をコツコツ暦年課税。毎年110万円(特例税率の枠も活用)を、相続で財産を取得しない孫も含め長期で渡す
  • 相続が比較的近い/まとまった額を一度に相続時精算課税。持ち戻し不要の年110万円を毎年使いつつ、2,500万円枠でまとめて移す
  • 値上がりが見込まれる財産(自社株・収益不動産)相続時精算課税。贈与時の評価額で相続財産に取り込めるため、将来の値上がり分を相続財産から切り離せる

いずれの場合も、贈与契約書を作る・銀行振込で記録を残す・もらった人が自分で口座を管理するといった「贈与の事実を客観的に示す証拠」を残すことが、税務調査で否認されないための大前提です。

7. 生前贈与でよくある失敗と王道

生前贈与は「やったつもり」になっているケースが、相続税の税務調査で最も狙われます。

❌ 否認されやすい失敗パターン
  • 名義預金:孫名義の口座にお金を入れていたが、通帳も印鑑も祖父が管理し、孫は存在を知らなかった→「贈与は成立しておらず祖父の財産」と認定される
  • 定期贈与とみなされる:「毎年100万円を10年間贈与する」と最初に約束していた→「総額1,000万円を渡す約束」とみなされ、初年度に一括で贈与税がかかるおそれ
  • 証拠が何もない:現金を手渡しし、契約書も振込記録もない→贈与の時期も金額も証明できない
⭕ 否認されない王道パターン
  • 贈与契約書を都度作成し、贈与者・受贈者の双方が署名する
  • 銀行振込で渡し、お金の流れを記録に残す
  • もらった人が自分で口座・通帳・印鑑を管理し、自由に使える状態にする
  • 毎年、贈与する時期や金額を少しずつ変える(定期贈与とみなされないため)
💡 「110万円ぴったりではなく、あえて111万円を贈与して1,000円の贈与税を申告・納税し、贈与の証拠を残す」という方法が紹介されることがあります。一定の効果はありますが、申告納税の事実だけで贈与が認められるわけではありません。あくまで契約書・振込・受贈者の管理という実態が伴ってこそ有効です。

よくある質問(FAQ)

年110万円までの贈与なら、本当に税金はかからないのですか?

暦年課税では、もらった人1人あたり年間110万円までは贈与税がかからず、申告も不要です。ただし暦年課税の場合、相続開始前の一定期間(最長7年)に相続人等へ贈与した分は相続財産に加算されます。相続時精算課税の年110万円は、この持ち戻しの対象外です。

暦年課税と相続時精算課税は、途中で切り替えられますか?

暦年課税から相続時精算課税への切り替えは、選択届出書を提出すればできます。しかし相続時精算課税を一度選ぶと、その贈与者からの贈与は生涯、暦年課税に戻せません。選択は慎重に判断する必要があります。

孫への贈与は相続税対策になりますか?

相続や遺贈で財産を取得しない孫への暦年贈与は、原則として生前贈与加算(持ち戻し)の対象になりません。世代を飛ばして資産を移せるため、有効な対策になり得ます。ただし、孫を生命保険の受取人や遺言の受遺者にしている場合などは加算対象になることがあるため、全体設計のなかで判断が必要です。

自社株を子に贈与したいのですが、暦年と精算課税どちらがよいですか?

今後の値上がりが見込まれる自社株や収益不動産は、相続時精算課税が有利になりやすい財産です。贈与時の評価額で相続財産に取り込めるため、将来の値上がり分を相続財産から切り離せます。事業承継税制(特例)との併用も含め、株価評価と一体での検討をおすすめします。

住宅資金や教育資金の贈与には、別の非課税制度がありますか?

あります。直系尊属からの住宅取得等資金の非課税、教育資金・結婚子育て資金の一括贈与の非課税など、目的を限った特例があります。期限や要件が改正で変わることが多いため、利用前に最新の取扱いを確認してください。

9. まとめ

生前贈与は、相続対策の最も基本的で効果の大きい手段です。要点は次のとおりです。

  • 贈与税の課税方法は暦年課税相続時精算課税の2つ。受贈者が贈与者ごとに選ぶ。
  • 暦年課税は年110万円まで非課税。ただし令和6年改正で、相続開始前の持ち戻し期間が3年→7年に延長された(延長4年分は総額100万円控除)。
  • 相続時精算課税は累計2,500万円まで非課税(超過分20%)。令和6年から年110万円の基礎控除が新設され、この110万円は相続財産に加算されない
  • どちらを選ぶかは年齢・財産規模・値動きで決める。時間があるなら暦年、相続が近い・値上がり資産なら精算課税が有力。
  • 最大の落とし穴は名義預金・定期贈与・証拠不足。契約書・銀行振込・受贈者の管理で「贈与の事実」を残すのが王道。

「暦年と精算課税のどちらが自社に有利か試算したい」「自社株や不動産を、税負担を抑えて次の世代へ渡したい」「相続税の試算もあわせてやっておきたい」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、生前贈与の設計から相続税のシミュレーション、自社株評価・事業承継まで、資産を守って次世代へ遺すご支援をしています。お気軽にご相談ください。

出典・参考資料

  • 相続税法 第19条(相続開始前一定期間内に贈与があった場合の相続税額)・第21条の9〜第21条の18(相続時精算課税)
  • 国税庁タックスアンサー No.4402(贈与税がかかる場合)/No.4408(贈与税の計算と税率(暦年課税))/No.4161(贈与財産の加算と税額控除(暦年課税))/No.4103(相続時精算課税の選択)
  • 国税庁「相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」(令和5年6月)
  • 財務省「令和5年度税制改正」(相続時精算課税・生前贈与加算の見直し)
ご利用上の留意事項
本記事は、生前贈与に関する一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。控除額・税率・加算期間等は改正により変わることがあります。実際の贈与・相続の判断にあたっては、税理士等の専門家にご確認ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月22日

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小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」を掲げ、税務顧問・改正対応から資産防衛・相続・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp