種類株式・属人的株式とは?議決権を残したまま自社株を承継する方法を税理士が解説【2026年版】

「後継者に株式を渡したいが、経営権はまだ手放したくない」「株を分けると、将来もめて会社が動かなくなるのではないか」——オーナー経営者から、税理士法人 小山・ミカタパートナーズには、事業承継における議決権の設計についてのご相談が数多く寄せられます。自社株は「財産」であると同時に「議決権(=会社を動かす力)」でもあり、この2つをどう切り分けるかが承継の成否を分けます。 その切り分けを可能にするのが、種類株式(会社法108条)と属人的株式(会社法109条2項)です。うまく使えば、後継者に株式の大半を渡して相続対策を進めながら、先代は議決権を握り続ける、といった設計ができます。本記事では、両者の違い、事業承継での代表的な使い方、そして見落とされがちな相続税評価承継時の落とし穴までを、網羅的に解説します。
📋 この記事の目次
  1. 1. なぜ「株式」と「議決権」を分けるのか(3行サマリー)
  2. 2. 種類株式とは(会社法108条の9種類)
  3. 3. 属人的株式とは(会社法109条2項)
  4. 4. 事業承継での代表的な使い方
  5. 5. 種類株式の相続税評価(見落とされやすい論点)
  6. 6. 議決権設計の失敗と王道
  7. 8. まとめ
  8. よくある質問(FAQ)

1. なぜ「株式」と「議決権」を分けるのか(3行サマリー)

  • 自社株には2つの顔がある——普通株式は「配当・残余財産を受け取る財産的権利」と「株主総会での議決権」がセットです。承継では、財産(株価)は早めに後継者へ移して相続税を抑えたい一方、議決権(経営権)はすぐには渡せない、という場面が多くあります。
  • 種類株式・属人的株式でこの2つを分けられる——議決権のない株式(無議決権株式)を後継者以外に渡す、拒否権を持つ株式(いわゆる黄金株)を先代が1株だけ持つ、といった設計で、財産の移転と経営権の維持を両立できます。
  • 設計を誤ると承継が止まる——議決権を分散させたまま相続が起きると、少数株主が経営を膠着させることがあります。属人的株式は「その株主個人」に付くため相続で失効する、といった論点もあり、入口の設計と出口(相続)の設計を同時に描くことが不可欠です。
💡 事業承継でつまずく多くのケースは「税金」より「議決権」です。株価を下げる工夫だけに目が向き、誰が会社を動かせる状態で承継が終わるのかの設計が抜けると、後継者が経営判断のたびに他の株主の顔色をうかがう、という事態になりかねません。

2. 種類株式とは(会社法108条の9種類)

種類株式とは、権利の内容が異なる2種類以上の株式のことです。会社法108条は、次の9つの事項について普通株式と異なる定めを置けるとしています。定款に定め、登記することで発行できます。

#種類株式内容
剰余金の配当配当を優先・劣後させる(配当優先株式など)
残余財産の分配解散時の分配を優先・劣後させる
議決権制限議決権の全部または一部を制限する(無議決権株式など)
譲渡制限その種類の株式の譲渡に会社の承認を要する
取得請求権付株主が会社に買取りを請求できる
取得条項付一定の事由で会社が強制的に取得できる
全部取得条項付株主総会の決議で全部を取得できる
拒否権付(黄金株特定の決議に、この種類株主総会の承認を要する
役員選任権付その種類株主総会で取締役・監査役を選任できる(非公開会社のみ)

事業承継でよく使われるのは、③無議決権株式(財産は渡すが議決権は与えない)と、⑧拒否権付株式(黄金株)(重要事項に先代が「待った」をかけられる)です。

3. 属人的株式とは(会社法109条2項)

属人的株式は、株主ごとに議決権・配当・残余財産分配について異なる取扱いを定款で定めるものです(会社法109条2項)。非公開会社(全株式に譲渡制限のある会社)に限って認められます。

種類株式が「株式」ごとに内容を変えるのに対し、属人的株式は「株主(人)」ごとに内容を変えるのが最大の違いです。たとえば「甲(先代)は1株につき100個の議決権を持つ」と定めれば、先代はごくわずかな株式でも議決権の過半を握れます。

比較項目種類株式(108条)属人的株式(109条2項)
区別の単位株式ごと株主(人)ごと
対象会社公開・非公開いずれも非公開会社のみ
登記必要(第三者に見える)不要(登記されない)
導入の決議定款変更(特別決議)特殊決議(総株主の半数以上かつ総株主の議決権の4分の3以上・会社法309条4項)
効力の帰属株式に付く(承継される)その株主個人に付く(相続で失効)
💡 属人的株式は登記されないため、外部から議決権の設計が見えないという実務上の利点があります。一方で、導入には特殊決議という重いハードルがあり、少数株主への影響が大きい設計は「株主平等原則の趣旨に照らして著しく不当」として無効とされた裁判例もあります。乱用はできません。

4. 事業承継での代表的な使い方

議決権設計は、承継の局面ごとに次のように使い分けます。

  • 後継者に株を集中させつつ、他の相続人には無議決権株式——後継者に議決権のある普通株式を、他の子には配当は受け取れるが議決権のない無議決権株式を相続させれば、財産は公平に分けつつ、経営権は後継者に一本化できます。遺留分への配慮にもなります。
  • 先代が黄金株(拒否権付株式)を1株持つ——後継者に株式の大半を生前贈与しても、先代が拒否権付株式を1株持てば、重要な決議(役員選任・定款変更・M&Aなど)に「待った」をかけられます。段階的に経営権を渡す「見守り期間」をつくれます。
  • 属人的株式で先代に多議決権——株式のほとんどを後継者に渡して株価(相続財産)を早く移しながら、「先代は1株100議決権」と定めれば、当面の議決権は先代が維持できます。相続対策と経営権維持の両立に有効です。
💬 実務の現場から
事業承継のご相談で最初につまずきやすいのが、「株を渡す=経営権も渡す」と思い込んでおられるケースです。株式の財産としての価値と議決権は切り分けられる、と一般論としてお伝えすると、「それなら早めに株価対策を進められる」と道筋が見えてくることが少なくありません。

5. 種類株式の相続税評価(見落とされやすい論点)

種類株式を使うと、「議決権がない株は評価が下がるのでは」と期待されがちですが、相続税評価は必ずしもそうなりません。国税庁は「相続等により取得した種類株式の評価について(照会)」(平成19年2月26日)で、事業承継で使われる代表的な3類型の評価方法を示しています。

種類株式相続税評価の取扱い
配当優先の無議決権株式原則として議決権の有無を考慮せず、普通株式と同様に評価(配当優先分は「1株当たりの配当金額」を種類ごとに計算)。ただし同族株主が取得した場合、一定要件のもとで無議決権株式を5%評価減し、その減額分を議決権株式に加算する調整計算を選択できる
社債類似株式一定の要件(優先配当・無議決権・一定期間後に発行価額で償還など)を満たすものは、社債に準じて発行価額により評価
拒否権付株式(黄金株)拒否権は評価上考慮せず、普通株式と同様に評価(1株でも普通株式と同じ評価額)

つまり、無議決権にしても原則として株価は下がらず、黄金株も普通株式と同じ評価です。議決権設計は「株価を下げる手法」ではなく、あくまで「経営権を誰に残すかを設計する手法」だと理解することが重要です。株価そのものを下げたい場合は、自社株評価(類似業種比準・純資産価額)や持株会社化など別の対策と組み合わせます。

💡 無議決権株式の5%評価減は「議決権株式への加算」とセットで、同族株主グループ全体の評価額は原則として変わらない仕組みです(付け替え)。「無議決権にすれば全体の相続税が減る」という理解は誤りで、狙いは評価減ではなく議決権の集中にあります。

6. 議決権設計の失敗と王道

❌ 議決権設計でやってしまいがちな失敗
  • 「無議決権にすれば相続税が下がる」と誤解し、評価が変わらず期待外れに
  • 属人的株式を導入したが、その株主の死亡で効力が失われることを知らず、相続で議決権設計が崩れる
  • 黄金株を発行したまま先代が急逝し、黄金株が想定外の相続人に渡って経営が膠着
  • 少数株主への影響が過大な属人的定めを入れ、株主平等原則の趣旨に反すると争われる
  • 議決権を分散させたまま相続が続き、後継者が過半数を握れず重要決議ができない
⭕ 議決権設計を活かす王道
  • 目的を「株価対策」ではなく「経営権を誰に、いつ、どう残すか」に置く
  • 属人的株式は相続で失効する前提で、次の世代までの承継シナリオを描いておく
  • 黄金株には取得条項(先代の死亡等で会社が取得できる)を付け、想定外の相続を防ぐ
  • 導入時は特殊決議・株主平等原則への配慮を弁護士とともに確認する
  • 自社株評価・持株会社化・生前贈与・遺言と一体で設計し、財産の分け方と経営権を同時に固める

よくある質問(FAQ)

無議決権株式にすれば、その分だけ自社株の相続税評価は下がりますか?

原則として下がりません。国税庁の取扱い(平成19年2月26日照会)では、配当優先の無議決権株式も議決権の有無を考慮せず普通株式と同様に評価します。同族株主が取得した場合に無議決権株式を5%評価減できる選択がありますが、その減額分は議決権株式に加算されるため、同族グループ全体の評価額は原則変わりません。議決権設計は株価対策ではなく、経営権を集中させる手法です。

黄金株(拒否権付株式)とは何ですか。1株持つ意味はありますか?

特定の株主総会決議や取締役会決議に、その種類株主総会の承認を要する株式です(会社法108条1項8号)。役員選任・定款変更・重要な財産の処分・M&Aなどを対象に設定でき、先代が1株持つだけで、これらの決議に「待った」をかけられます。後継者に株式の大半を渡した後も、一定期間は重要事項を先代が見守る、という段階的承継に使われます。

属人的株式は種類株式と何が違いますか?

種類株式は「株式」ごとに内容を変えるのに対し、属人的株式は「株主(人)」ごとに議決権・配当・残余財産分配を変えるものです(会社法109条2項)。非公開会社に限られ、登記が不要で外部に見えない反面、導入には総株主の半数以上かつ議決権の4分の3以上の特殊決議が必要です。最大の注意点は、その株主個人に付く定めなので、その株主が亡くなると効力を失い相続人には引き継がれないことです。

議決権を後継者に集中させるには、株式の何割を渡せばよいですか?

重要度に応じて必要な議決権割合が変わります。普通決議(役員選任など)は過半数、定款変更や重要事項の特別決議は3分の2以上が目安です。安定経営には後継者に議決権の3分の2以上を集めるのが理想ですが、すぐに集中できない場合に、無議決権株式・黄金株・属人的株式で「実質的な議決権」を先に固める設計が有効です。

種類株式や属人的株式は、うちのような小さな会社でも使えますか?

使えます。むしろ株主が家族・親族に限られる中小の同族会社ほど、議決権設計の効果が出やすい場面です。ただし定款変更・決議要件・相続時の失効・株主平等原則など法務と税務が絡むため、会社法と相続税評価の両面から設計することが不可欠です。導入後の変更は容易でないため、承継の全体像を描いたうえで着手してください。

8. まとめ

種類株式(会社法108条)と属人的株式(会社法109条2項)は、自社株の「財産」と「議決権」を切り分け、財産の承継と経営権の維持を両立させるための道具です。要点は次のとおりです。

  • 自社株は財産的権利と議決権の二面を持つ。承継では株価対策と議決権設計を分けて考える
  • 種類株式は株式ごと・登記あり、属人的株式は株主ごと・登記なし(非公開会社限定・特殊決議・相続で失効)。
  • 事業承継の定番は無議決権株式(財産は渡すが議決権を与えない)と黄金株=拒否権付株式(先代が1株で重要決議に待った)。
  • 相続税評価では無議決権でも原則株価は下がらず、黄金株も普通株式と同評価。議決権設計は評価減の手法ではない。
  • 属人的株式の相続失効、黄金株の想定外相続が最大の落とし穴。取得条項の付与と次世代までのシナリオが必須。

「後継者に議決権を集中させたい」「株は渡しても経営権は当面残したい」「黄金株や属人的株式を安全に設計したい」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、自社株評価・議決権設計から、持株会社化・生前贈与・事業承継税制・遺言との一体設計まで伴走します。議決権の設計は導入後の変更が難しいため、承継を決める前のお早めの段階でご相談ください。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、種類株式・属人的株式に関する一般的な情報提供であり、個別の法務・税務判断に代わるものではありません。定款変更の決議要件・株主平等原則の適用・種類株式の相続税評価は、会社の株主構成・定款・事実関係により異なり、制度の要件は改正により変わることがあります。実際の設計・実行にあたっては、税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月15日

自社株の議決権設計・事業承継は KMP へ

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」を掲げ、税務顧問・改正対応から資産防衛・相続・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。