不動産や自社株を公益法人に寄附すると税金はどうなる?措置法40条の非課税承認と公益信託への拡大を税理士が解説【2026年7月改訂】

2026年7月31日、国税庁が措置法40条(租税特別措置法第40条)の通達改正の「あらまし」を公表しました。地味な発表に見えますが、個人が持っている不動産・自社株を、公益財団法人や公益信託に寄附するときの所得税の扱いを左右する、富裕層にとっては見過ごせない内容です。 意外に知られていないのですが、個人が法人に財産をタダで渡すと、渡した本人に所得税がかかります。売っていないのに、です。この「みなし譲渡課税」を止められる唯一の入口が措置法40条の非課税承認で、今回の改正は、その入口に公益信託という新しいルートが加わったことに伴う整備でした。 税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも、「創業した会社の株の一部を財団にしたい」「先祖から受け継いだ土地を社会のために使いたい」というご相談は実際に寄せられます。そのたびに最初にお伝えするのが、先に渡してしまうと後戻りできないという一点です。 本記事では、措置法40条の全体像(一般特例と承認特例)、今回の改正で何が変わったのか、そして実務で最も事故が起きやすいポイントまでを整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 何が起きたのか(3行サマリー)
  2. 2. 前提知識:タダであげたのに、なぜ税金がかかるのか
  3. 3. 措置法40条には「一般特例」と「承認特例」の2つがある
  4. 4. 今回の改正で何が変わったのか(公益信託への拡大)
  5. 5. 実務で押さえるべきこと
  6. 6. まとめ
  7. よくある質問(FAQ)

1. 何が起きたのか(3行サマリー)

  • 令和8年7月31日、国税庁が資産課税課情報 第13号「措置法第40条第1項後段の規定による譲渡所得等の非課税の取扱いについて」の一部改正のあらましをホームページに掲載(情報の日付は令和8年7月28日、改正通達本体は令和8年6月25日付 課資5-140ほか1課共同
  • 改正の背景は、公益信託に関する法律(令和6年法律第30号)が令和8年4月1日から施行されたこと。これに伴い、令和6年度・令和7年度税制改正で、非課税承認の対象となる「公益法人等」の範囲に公益信託の受託者が追加された
  • 今回のあらましは、贈与又は遺贈のあった日の判定、適正に運営される公益信託であるかどうかの判定(新設)、特別の利益を与えること(新設)、株式の2分の1判定(新設)など、公益信託を使う場合の具体的な取扱いを明らかにしたもの
💡 本記事の位置づけ … 今回公表されたのは、すでに成立・施行された法令に基づく通達の取扱いの整理です。制度そのものが新設されたわけでも、既存の要件が緩和されたわけでもありません。措置法40条の基本的な仕組み(2年ルール・不当減少要件など)は従来どおりです。

2. 前提知識:タダであげたのに、なぜ税金がかかるのか

みなし譲渡課税(所得税法第59条第1項第1号)

個人が、土地・建物・株式などの財産(事業所得の基因となるものを除きます)を法人に寄附した場合、その財産は寄附時の時価で譲渡があったものとみなされ、取得時から寄附時までの値上がり益に所得税が課税されます。根拠は所得税法第59条第1項第1号です。

これは「無償で渡したのに課税するのは酷だ」という話ではなく、個人に帰属していた値上がり益を、法人に移る前に清算しておくという制度的な要請によるものです。国税庁のリーフレットも同じ趣旨を明記しています。

つまり、こういうことが起こります。

  • 40年前に3,000万円で買った土地を、時価3億円のときに財団法人へ寄附した
  • 売っていないので現金は1円も入ってこない
  • しかし2億7,000万円の譲渡益があったものとして所得税・住民税が課税される

現金を受け取っていないのに納税だけが発生する、という最悪の形です。

そこで措置法40条の「非課税承認」

このみなし譲渡課税を止めるのが、租税特別措置法第40条第1項後段の規定です。財産(国外の土地など一定のものを除きます)を公益法人等に寄附した場合に、一定の承認要件を満たすものとして国税庁長官の承認(非課税承認)を受けたときは、この所得税が非課税になります。

ここで押さえておきたいのは、「税務署に届け出れば非課税」ではないという点です。承認するのは国税庁長官であり、申請しても要件を満たさなければ承認されません。そして承認は、後から取り消されることがあります(後述)。

💬 実務の現場から
ご相談の入口で最も多い誤解が、「公益法人に寄附すれば、それだけで税金はかからない」というものです。実際には、寄附という行為そのものが自動的に非課税になるのではなく、申請して、審査を経て、承認を受けてはじめて非課税になります。しかも申請期限は寄附の日から原則4か月です。先に登記を移してしまってから相談に来られるケースが一定数あり、そのときにはもう打てる手がほとんど残っていません。

3. 措置法40条には「一般特例」と「承認特例」の2つがある

非課税承認には、対象となる法人の種類と承認要件が異なる2つの制度があります。

制度自動承認の仕組み
一般特例なし
承認特例あり

一般特例(対象が広い/自動承認なし)

対象となる法人は、公益社団法人、公益財団法人、特定一般法人(一般社団法人・一般財団法人のうち法人税法に掲げる一定の要件を満たすもの)、その他の公益を目的とする事業を行う法人(社会福祉法人、学校法人、宗教法人、NPO法人など)です。令和6年度税制改正により、ここに公益信託の受託者(非居住者・外国法人に該当するものを除きます)が加わりました。

承認要件は次の3つをすべて満たすことです。

要件1|寄附が公益の増進に著しく寄与すること

具体的には、次の4つをすべて満たすときに該当するものとして取り扱われます。

  1. 寄附を受けた公益法人等のその寄附に係る公益目的事業が、その事業の内容に応じ、その公益目的事業を行う地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有すること
  2. 事業の遂行により与えられる公益が、それを必要とする人の現在又は将来における勤務先・職業などにより制限されることなく、公益を必要とするすべての人に与えられるなど、公益の分配が適正に行われること
  3. その公益目的事業について、公益の対価がその事業の遂行に直接必要な経費と比べて過大でないことその他、その公益目的事業の運営が営利企業的に行われている事実がないこと
  4. 事業の運営について、法令に違反する事実その他公益に反する事実がないこと

要件2|寄附財産が、寄附の日から2年を経過する日までの期間内に、公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込みであること

いわゆる「2年ルール」です。寄附した土地の上に建物を建てて公益目的事業に使う場合で、建物の建設に通常2年を超える期間を要するときなど、一定のやむを得ない事情があると認められるときは、国税庁長官が認める日まで期間が延びます。

なお、収用や災害など一定のやむを得ない理由で寄附財産を譲渡した場合に、その譲渡収入の全部に相当する金額で取得した減価償却資産・土地・土地の上に存する権利・株式などは「代替資産」として、寄附財産と同じ扱いを受けます。

要件3|所得税・相続税・贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること

これが最大の関門です(次章で詳述)。

承認特例(対象は限定/自動承認あり)

対象となる法人は、公益法人等のうち、国立大学法人等、公益社団法人、公益財団法人、学校法人、社会福祉法人、認定NPO法人等、そして公益信託の受託者です。

承認要件は次の3つをすべて満たすことです。

  1. 寄附をした人が、寄附を受けた法人の役員等及び社員並びにこれらの人の親族等に該当しないこと(公益信託の場合は、受託者及び信託管理人並びにこれらの人の親族等に該当しないこと)
  2. 寄附財産が、一定の基金若しくは基本金に組み入れる方法により管理されていること、又は不可欠特定財産に係る必要な事項が定款で定められていること
  3. 寄附を受けた法人の理事会等において、寄附の申出を受け入れること及び上記2の組入れ又は不可欠特定財産とすることが決定されていること

承認特例には、承認申請書の提出があった日から1か月(特定国立大学法人等以外の承認特例対象法人に対する一定の株式等の寄附の場合は3か月)以内に非課税承認も不承認の決定もなかったときは、承認があったものとみなされるという自動承認の仕組みがあります。

💡 要件1の意味を取り違えない … 承認特例の要件1は、「自分が役員をしている財団に寄附する場合は、承認特例を使えない」ということです。オーナー経営者がご自身で設立し、ご自身が理事長を務める財団に自社株を寄附する、という典型的な形は、この時点で承認特例の対象外になります。その場合は一般特例で申請することになり、要件3(不当減少要件)の審査を正面から受けることになります。

手続きの流れ

提出期限 原則として寄附の日から4か月以内です。ただし、その期間を経過する日前に、寄附した日の属する年分の所得税の確定申告書の提出期限が到来する場合は、その提出期限までとなります。

提出する人 原則として寄附をした人です。遺贈の場合は、遺贈をした人の相続人及び包括受遺者が提出します。

提出先 寄附をした人の所得税の納税地を所轄する税務署です。

部数 「租税特別措置法第40条の規定による承認申請書」及び添付書類は、それぞれ3部提出することとされています。

通知 非課税承認がされた場合、寄附をした人と寄附を受けた公益法人等の双方に通知されます。

承認特例で承認を受けた人は、寄附財産が基金・基本金に組み入れられたこと又は不可欠特定財産とされたことが確認できる書類を、原則として寄附を受けた法人における寄附の日の属する事業年度終了の日から3か月以内に提出する必要があります。この書類を期限までに提出しないと、非課税承認は取り消されます。

4. 今回の改正で何が変わったのか(公益信託への拡大)

背景:公益信託制度が100年ぶりに作り直された

公益信託は大正11年の信託法制定以来、公益財団法人と類似の社会的機能を果たしてきましたが、抜本的な見直しがされておらず、主務官庁ごとに許可基準が異なること、許可審査基準や税法の規定により、信託事務が助成金の支給等に、信託財産として受け入れる資産が金銭に事実上限定されていたことなどが指摘されてきました。

そこで、公益信託の認可・監督を、主務官庁の裁量ではなく公益認定等委員会等の関与の下で内閣総理大臣又は都道府県知事が行う制度を創設する「公益信託に関する法律」(令和6年法律第30号)が制定され、令和8年4月1日から施行されました。

これを受けて令和6年度税制改正で、公益信託は公益法人と共通の枠組みで認可・監督が行われ公益性が担保されることも踏まえ、公益法人と同等の措置を講ずる観点から、公益信託に対する一定の財産の拠出が非課税特例の対象とされました。令和7年度税制改正では、承認特例の対象にも公益信託の受託者が追加されています。

つまり、現金しか入れられなかった公益信託に、不動産や株式を入れられる道が開いたというのが今回の実質的な変化です。

「贈与又は遺贈のあった日」はいつか(通達5)

措置法40条では、寄附の日が、所得税の課税年分の決定、承認申請書の提出期限、そして2年ルールの起算日をすべて決めます。公益信託の場合は、財産を拠出する方法によって効力発生時期が異なるため、通達で4つの類型ごとに整理されました。

① 設立・設定のための財産の贈与

  • 法人の場合:法人の成立した日
  • 公益信託の場合:信託契約の締結の日又は公益信託認可の日いずれか遅い日

② 既存の法人・公益信託への贈与(①を除く)

  • 法人の場合:受入れの決議をした日(理事会など権限ある機関での決議)
  • 公益信託の場合:信託行為において信託財産の受入れについて権限を有する者が受入れの決定をした日(受入れに公益信託の変更等の認可が必要な場合は、同日又はその認可の日のいずれか遅い日

③ 設立・設定のための遺言による財産の移転

  • 法人の場合:遺贈をした者の死亡の日
  • 公益信託の場合:公益信託認可の日

④ 既存の法人・公益信託への遺言による財産の移転(③を除く)

  • 法人の場合:遺贈をした者の死亡の日
  • 公益信託の場合:遺贈をした者の死亡の日(公益信託の変更等の認可が必要な場合は、その認可の日

③で法人と公益信託の扱いが分かれるのは、遺言による公益信託の設定は公益信託法第6条により公益信託認可を受けるまで効力が生じないこととされ、その認可申請は遺言者の死亡後に受託者になろうとする者が行うこととされているためです。

💡 ここが実務の落とし穴 … 公益信託ルートでは、「渡した日」が行政庁の認可の日に引きずられます。認可がいつ下りるかは自分では決められません。承認申請書の期限(4か月)も2年ルールも、この日から動き出します。スケジュールは認可の見込みから逆算して組む必要があります。

「適正に運営される公益信託か」の判定(通達19の3・新設)

公益信託が不当減少要件を満たすかどうかの判定要素の一つとして、「その公益信託が、その信託行為の定めるところにより適正に運営されるものであること」があります。今回、その判定基準が新設されました。

判定は、公益法人における「運営組織が適正であるかどうか」の判定(40条通達18)と整合的に、次の3点で行われます。

  1. 信託行為に、公益信託法において記載事項と定められている事項と、運営委員会等に関する事項が定められていること
  2. 事務の運営及び運営委員等の選任などが、法令及び信託行為に基づき適正に行われていること
  3. 経理について、事務の種類及び規模に応じて内容を適正に表示するに必要な帳簿書類を備えて記帳が適正に行われていること

このうち運営委員会等の要件が実務上重要です。公益信託には公益法人のような合議制の機関の設置が義務付けられておらず、個人や営利企業等さまざまな主体が受託者となり得るため、組織の適正性を担保する仕組みとして求められたものです。

  • 運営委員等から構成される運営委員会等を設置すること
  • 運営委員等の定数は3名以上であること
  • 運営委員等のうち親族等の数が3分の1以下であること
  • 議事の決定は、運営委員等の過半数が出席し、その出席した運営委員等の過半数の議決を必要とすること
  • 収支予算(事業計画を含む)/収支決算(信託概況報告を含む)/信託財産の処分/借入金その他新たな義務の負担及び権利の放棄/信託行為の変更/信託の終了並びに併合及び分割について、運営委員会等の同意を必要とすること
  • 運営委員等に支払われる報酬の額の算定の根拠で、その任務の遂行のために通常必要な費用の額を超えないことを明らかにするもの

さらに、寄附する財産が寄附者又はその親族が会社役員となっている会社の株式又は出資である場合には、その株式等に係る議決権の行使に当たり、あらかじめ運営委員会等において運営委員等の総数の3分の2以上の承認(運営委員会等が設置されていない場合は信託管理人の同意)を得ることを必要とする旨を、信託行為に定めなければならないとされています。

自社株を公益信託に入れた場合、その議決権を自由に振るうことはできない、ということです。ここは設計時に必ず確認すべき点です。

「特別の利益を与えること」とは(通達19の4・新設)

不当減少要件の判定において、公益信託が寄附者・受託者・信託管理人やその親族等に特別の利益を与えると認められる場合は、要件を満たしません。今回、その具体例が新設されました。

信託行為や事業計画書などに特別の利益を与える旨の記載がある場合のほか、受託者が公益信託事務を処理するに当たり、次のいずれかの行為をし、又はすると認められる場合が該当します。

  • 信託財産をこれらの者に居住、担保その他の私事に利用させること
  • これらの者に金銭の貸付けをすること
  • 信託財産をこれらの者に無償又は著しく低い価額の対価で譲渡すること
  • これらの者から金銭その他の財産を過大な利息又は賃借料で借り受けること
  • これらの者から所有する財産を過大な対価で譲り受けること、又は公益目的事業の用に直接供するとは認められない財産を取得すること
  • これらの者に対して、公益信託法第8条第11号に規定する支払基準等に比し過大な報酬を支払うこと
  • これらの者の債務に関して、保証、弁済、免除又は引受けをすること
  • 契約金額が少額なものを除き、入札等公正な方法によらないで、これらの者が行う物品販売、工事請負、役務提供、物品の賃貸その他の事業に係る契約の相手方となること
  • 事業の遂行により供与する公益を主として、又は不公正な方法で、これらの者に与えること

注目すべきは金銭の貸付けの扱いです。40条対象法人では「他の従業員に比し有利な条件で」貸し付けることが特別の利益の例示ですが、公益信託は公益事務を行うこと「のみ」を目的とし(公益信託法第8条第1号)、収益事業を行うことができないことなどから、貸付けを行うこと自体が公益信託の本旨に従った信託財産の運用とは考え難いとされ、条件を問わず特別の利益を与える行為として取り扱われることになりました。

株式は「発行済株式総数の2分の1」まで(通達19の5・新設)

不当減少要件の判定要素の一つに、寄附を受けた財産が株式の場合、その取得により保有することとなるその発行法人の株式が、発行済株式の総数の2分の1を超えることとならないことがあります(寄附前から保有する株式を含みます)。

公益信託では、受託者が信託財産として有する株式と、固有財産として有する株式を合計して2分の1を超えるかどうかを判定します。受託者が2人以上ある場合は、信託法第79条により信託財産は受託者全員の合有とされるため、信託財産に属する株式の全部を各受託者がそれぞれ有しているものとして判定します。

受託者が複数のときの窓口(通達23の3・新設)

非課税承認が取り消された場合、課税される公益法人等が公益信託の受託者で受託者が2人以上あるときは、信託事務を主宰する受託者(主宰受託者)に所得税が課されます。主宰受託者とは、中心となって公益信託事務の全体を取りまとめる受託者をいい、信託行為に基づき、信託財産の受入れ事務、信託財産の管理又は処分に関する事務、収益計算の報告事務等の処理の実態を総合的に判定します。

行政庁への窓口として定める「代表受託者」は、代表受託者であることだけをもって主宰受託者と判定されるものではない点に注意が必要です。

5. 実務で押さえるべきこと

① 「不当減少要件」の例外は、公益信託には用意されていない

一般特例の要件3(不当減少要件)については、40条対象法人向けにただし書の例外があります。法人の役員等及び職員のうちに寄附者やその親族等が含まれておらず、かつ、これらの者が財産の運用及び事業の運営に関して私的に支配している事実がなく、将来も私的に支配する可能性がないと認められる場合には、役員等の親族等の数を3分の1以下に制限する定款等の定めがなくてもよい、という取扱いです。宗教法人の信者など、法人の運営と全く関係のない「善意の第三者」からの寄附を想定した弾力的な対応です。

今回のあらましは、この例外を公益信託には適用しないことを明らかにしました。理由は、令和7年度税制改正により公益信託の受託者が承認特例の対象となったため、寄附者が受託者・信託管理人やその親族等に該当しない場合は承認特例で申請することが想定され、例外を設ける必要性が極めて低いと考えられるからです。

② 「2年以内に公益目的事業の用に直接供する」は、想像より厳しい

判定は、その財産そのものが公益目的事業の用に直接供されるかどうかで行われます。今回のあらましでは、財産が理事・監事・評議員(公益信託の場合は受託者・信託管理人・合議制の機関の構成員)や職員のための宿舎、保養所その他の福利厚生施設として利用される場合には、公益目的事業に間接的に寄与するにすぎず、公益目的事業の用に直接供されていることにはならないことが、公益信託についても改めて明らかにされました。

「社員寮にして社会貢献」は通りません。

③ 承認は「取り消される」ことがある

国税庁のリーフレットは、非課税承認が取り消される場合を3つ挙げています。

  • 寄附財産が、寄附の日から2年を経過する日までの期間内に公益目的事業の用に直接供されなかった場合 → 課税されるのは寄附をした人
  • 寄附財産が、公益目的事業の用に直接供されなくなった場合(上記を除く) → 課税されるのは寄附を受けた公益法人等
  • 承認特例で承認を受けた人が、基金・基本金への組入れ等が確認できる書類を期限までに提出しなかった場合 → 課税されるのは寄附をした人

取り消されると、その取り消されることとなった事実の内容に応じ、原則として取り消された日の属する年分の譲渡所得等として所得税が課されます。寄附から何年も経ってから、現金の入らない譲渡所得課税が発生するということです。

失敗と王道

❌ よくある失敗
  • 節税策として財団・公益信託を検討する。 措置法40条は、寄附者やその親族の税負担を不当に減少させないことが正面からの要件です。一族が実質的に支配する器を作り、そこに資産を移して税を軽くする、という発想は制度の趣旨と真正面から衝突します。
  • 先に財産を移してから相談する。 承認申請の期限は寄附の日から原則4か月。理事会の決議日・法人の成立日・公益信託認可の日で「寄附の日」が動くため、移転が先行すると期限管理が破綻します。
  • 自社株を入れれば議決権も自由に使えると考える。 公益信託では、寄附者やその親族が役員となっている会社の株式について、議決権行使に運営委員等の総数の3分の2以上の承認を要する旨を信託行為に定めることが求められます。
  • 寄附して終わりだと思う。 2年ルール、公益目的事業への直接供用の継続、承認特例での確認書類の提出。いずれかが崩れると承認は取り消されます。
⭕ 王道の進め方
  • 「何のためにやるのか」を先に決める。 措置法40条は、社会に対して継続的に公益を提供する器に財産を移すための制度です。目的が公益にあり、その手段として税の清算が繰り延べられる、という順番でなければ要件は満たせません。
  • 受け皿を先に作り、要件を1つずつ潰してから財産を動かす。 定款等の親族等3分の1以下の定め、残余財産の帰属先の定め、特別の利益を与えない体制、帳簿書類。すべて寄附の前に整えるものです。
  • 「一般特例か承認特例か」を最初に切り分ける。 ご自身が役員を務める法人への寄附なら承認特例は使えず、一般特例で不当減少要件の審査を受けます。判断は入口で変わります。
  • 2年ルールから逆算して、使い道を具体化しておく。 「いずれ公益に使う」では要件を満たしません。何を、いつから、どの事業に使うのかを、寄附前に固めます。
  • 専門家を早く入れる。 公益認定・公益信託認可は内閣府・都道府県の所管、非課税承認は国税庁長官の所管です。法務・行政手続と税務が同時に走るため、担当者が分かれたまま進むと必ず事故が起きます。

6. まとめ

  • 個人が法人に財産を無償で渡すと、寄附時の時価で譲渡があったものとみなされ、値上がり益に所得税が課税されます(所得税法第59条第1項第1号)
  • これを非課税にできるのが措置法40条の非課税承認です。承認するのは国税庁長官で、申請期限は原則として寄附の日から4か月以内
  • 制度は一般特例(対象が広い/自動承認なし)と承認特例(対象は限定/1か月又は3か月の自動承認あり)の2本立て。自分が役員をしている法人への寄附は承認特例を使えません
  • 一般特例の3要件は、①公益の増進に著しく寄与すること ②2年以内に公益目的事業の用に直接供され又は供される見込みであること ③所得税・相続税・贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること
  • 公益信託に関する法律(令和6年法律第30号)が令和8年4月1日から施行され、非課税特例の対象に公益信託の受託者が加わりました。現金に事実上限られていた公益信託に、不動産や株式を入れる道が開いています
  • 今回のあらましは、公益信託ルートについて、贈与又は遺贈のあった日(認可の日に連動)、運営委員会等の要件特別の利益の具体例株式の2分の1判定(信託財産+固有財産の合算)、主宰受託者を明らかにしました
  • 承認は取り消されることがあります。2年ルール違反、公益目的事業への直接供用の停止、承認特例での確認書類の未提出の3類型で、現金が入らないまま譲渡所得課税が発生します

措置法40条は、節税の道具ではなく、公益に財産を移すための道具です。順番を間違えなければ、資産の社会還元と税の清算を両立させる、非常に強力な選択肢になります。

よくある質問(FAQ)

現金を寄附する場合も、措置法40条の承認が必要ですか?

いいえ。措置法40条の非課税承認は、みなし譲渡課税(所得税法第59条第1項第1号)が生じる現物の寄附についての制度です。現金の寄附には値上がり益が存在しないため、みなし譲渡課税は生じず、承認申請も不要です。なお、現金の寄附についても寄附金控除などの制度がありますが、これは措置法40条とは別の制度です。

自分が理事長を務める財団に自社株を寄附したいのですが、可能ですか?

制度上、一般特例で申請すること自体は可能です。ただし、承認特例は「寄附をした人が寄附を受けた法人の役員等及び社員並びにこれらの人の親族等に該当しないこと」が要件ですので、この形では使えません。一般特例では、不当減少要件(要件3)の審査を正面から受けることになり、その判定基準には、定款等に役員等のうち親族等の数がそれぞれ3分の1以下とする定めがあること、寄附をした人や役員等・社員又はその親族等に特別の利益を与えないこと、解散した場合の残余財産が国・地方公共団体又は他の公益法人等に帰属する旨の定めがあること、株式の取得により保有することとなる発行法人の株式が発行済株式の総数の2分の1を超えないこと、などが含まれます。実際に承認が得られるかどうかは、法人の運営組織と実態によって個別に判断されます。

2年以内に使えなかった場合はどうなりますか?

寄附財産が寄附の日から2年を経過する日までの期間内に公益目的事業の用に直接供されなかった場合、国税庁長官は非課税承認を取り消すことができ、この場合は寄附をした人に所得税が課されます。ただし、寄附を受けた土地の上に建物を建設し、その建物を公益目的事業の用に直接供する場合で建設に通常2年を超える期間を要するときなど、一定のやむを得ない事情があると認められるときは、期間は国税庁長官が認める日までとなります。

公益信託とは何ですか。公益財団法人とどう違うのですか?

公益信託は、財産を受託者に信託し、公益事務を行うことのみを目的とする信託です。令和8年4月1日施行の公益信託に関する法律により、公益法人と共通の枠組みで、内閣総理大臣又は都道府県知事が認可・監督を行う制度になりました。法人格を設立する必要がないこと、公益事務を行うことのみを目的とし収益事業を行うことができないこと(公益信託法第8条第1号)などが公益財団法人との違いです。なお、公益法人については公益目的事業を行うことを「主たる」目的とすればよく、収益事業等を行うことができます。

公益信託に自社株を寄附した場合、議決権はどうなりますか?

今回新設された通達19の3により、寄附する財産が寄附者又はその親族が会社役員となっている会社の株式又は出資である場合には、その株式等に係る議決権の行使に当たり、あらかじめ運営委員会等において運営委員等の総数の3分の2以上の承認(運営委員会等が設置されていない場合は信託管理人の同意)を得ることを必要とする旨を、信託行為に定めることが求められます。寄附者が議決権を自由に行使できる仕組みにはなっていません。

申請してから承認までどのくらいかかりますか?

一般特例には自動承認の仕組みがなく、期間の定めもありません。承認特例には、承認申請書の提出があった日から1か月(特定国立大学法人等以外の承認特例対象法人に対する一定の株式等の寄附の場合は3か月)以内に非課税承認も不承認の決定もなかったときは承認があったものとみなす、という自動承認の仕組みがあります。

承認申請書はどこで手に入りますか?

「租税特別措置法第40条の規定による承認申請書」の用紙は国税庁ホームページに掲載されています。国税庁は、公益法人等への寄附の場合と公益信託への拠出の場合のそれぞれについて「記載のしかた」も公表しており、制度の概要や申請書の記載例が掲載されています。承認申請書及び添付書類は、それぞれ3部提出することとされています。

相続で取得した財産を公益法人に寄附する場合も対象になりますか?

措置法40条は、個人が公益法人等に財産を贈与又は遺贈した場合のみなし譲渡課税を非課税とする制度です。遺贈の場合、承認申請書を提出するのは遺贈をした人の相続人及び包括受遺者とされています。なお、相続税の側にも、相続財産を申告期限までに国・地方公共団体・特定の公益法人等へ寄附した場合の非課税の特例が別途ありますので、所得税と相続税の両面から確認が必要です。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、国税庁の公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。措置法40条の非課税承認は国税庁長官の承認を要するもので、要件の充足は寄附を受ける法人・公益信託の定款等・信託行為の内容および運営の実態によって個別に判断されます。本記事の記載をもって承認が得られることを保証するものではありません。また、公益認定・公益信託認可は内閣府又は都道府県の所管であり、税務上の非課税承認とは審査主体も基準も異なります。実際の判断にあたっては最新の法令・通達をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月31日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から富裕層・オーナー経営者の資産防衛・国際税務・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。