移転価格課税で二重課税になったら?相互協議(MAP)は平均39.6か月、事前確認(APA)との使い分けを税理士が解説

海外に子会社を持つ会社が、いちばん恐れている課税があります。移転価格課税です。 日本の税務当局が「その値段は安すぎる(高すぎる)」と判断して所得を積み増す。ところが海外子会社の側では、すでにその値段で申告して現地の税金を払い終えている。同じ利益に、日本と相手国の両方で課税される。これが国際的な二重課税です。 このとき使う出口が、相互協議(MAP:Mutual Agreement Procedure)です。日本の国税庁と相手国の税務当局が直接テーブルにつき、「この所得はどちらの国のものか」を話し合って決める手続です。租税条約に根拠があり、日本が締結している租税条約のうち80以上に相互協議の規定が置かれています。 ただし、この手続には知っておくべき現実があります。 国税庁が公表した令和6事務年度の実績では、相互協議1件を処理するのに要した平均期間は39.6か月でした。3年3か月あまりです。前の事務年度は31.8か月でしたから、1年近く延びています。 税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも、「海外子会社との取引価格を税務署に指摘されたらどうなるのか」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、課税を受けてから相互協議の存在を知るという順番になっている会社が少なくありません。本来は逆で、課税される前に手を打つ制度が用意されています。 本記事では、相互協議の数字の実態と手続、そして「先に確認しておく」制度である事前確認(APA:Advance Pricing Arrangement)との使い分けを、国税庁の公表資料と事務運営指針の原文にさかのぼって整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 何が公表されたのか(3行サマリー)
  2. 2. 前提:相互協議とはどういう手続か
  3. 3. 数字で見る令和6事務年度
  4. 4. 専門家の視点:なぜ「先に確認する」が7割を占めるのか
  5. 5. 実務で押さえるべきこと
  6. 6. まとめ
  7. よくある質問(FAQ)

1. 何が公表されたのか(3行サマリー)

  • 国税庁は令和7年11月、「令和6事務年度の『相互協議の状況』について」を公表しました(事務年度は7月1日から翌年6月30日まで)。
  • 令和6事務年度の発生件数は280件(前事務年度比132%)、処理件数は242件事務年度末の繰越件数は773件で、発生が処理を上回り繰越が積み上がっています。
  • 処理1件当たりの平均処理期間は39.6か月(前事務年度31.8か月)。内訳は事前確認に係るもの42.4か月/移転価格課税その他28.5か月でした。

2. 前提:相互協議とはどういう手続か

相互協議は、納税者と税務署が争う手続ではありません。国と国の税務当局どうしが協議する手続です。ここが不服申立てや訴訟と決定的に違います。

国税庁のガイダンスは、相互協議を「租税条約の規定に基づき、租税条約締約国等の税務当局間で解決を図るための協議手続」と定義し、対象を大きく2つに分けています。

① 課税事案 … 一方または双方の国の措置により、租税条約の規定に適合しない課税が行われた場合 ② 事前確認事案独立企業間価格の算定方法等について、事前に二国間で確認を求める場合

根拠になるのは租税条約の相互協議規定です。たとえば日米租税条約であれば第25条がこれに当たります。日本が締結している租税条約は、おおむねOECDモデル租税条約に沿った規定を採用しています。

💡 押さえておきたいポイント OECDモデル租税条約第25条2項は、成立した合意について「両締約国の法令上のいかなる期間制限にもかかわらず、実施されなければならない」と定めています。国内法の更正の期間制限(除斥期間)が過ぎていても、合意に基づく調整は実施されるということです。時間がかかる手続だからこそ置かれている、重要な仕組みです。

相互協議を申し立てられるのは、移転価格だけではない

移転価格課税のイメージが強い制度ですが、事務運営指針が挙げる申立ての類型はもっと広いものです。

  • 日本または相手国で移転価格課税を受けた(受けるに至ると認められる)場合
  • 相手国での恒久的施設(PE)の有無、またはPEに帰属する所得の金額について、条約に適合しない課税を受けた場合
  • 相手国で行われる所得税の源泉徴収について、条約に適合しない課税を受けた場合
  • 日本国籍を持つ非居住者が、相手国でその国の国民より重い課税を受けた場合
  • 日本と相手国の双方で居住者とされる者(双方居住者)について、どちらの居住者とみなすかの決定を求める場合
  • 相続税・贈与税について、日米相続税条約に基づき二重課税の回避を求める場合
  • 条約または国内法の濫用防止規定の適用によって、条約に適合しない課税を受けた場合

「海外子会社との取引価格」だけの話ではなく、駐在員事務所がPEと認定された、支払ったロイヤルティに条約の税率を超える源泉税をかけられた、といった場面も射程に入ります。

3. 数字で見る令和6事務年度

まず件数の推移です。すべて国税庁の公表資料(別紙1)の数値です。

事務年度発生件数処理件数繰越件数
令和4301191742
令和5212219735
令和6280242773

(出典:国税庁「令和6事務年度の『相互協議の状況』について」別紙1)

令和6事務年度は発生280件に対して処理242件。差し引き38件が積み残り、事務年度末の繰越は773件となりました。

内訳を見ると、この制度の性格がはっきりします。

区分事前確認移転価格その他
発生1946719
処理194408
繰越59515127

(令和6事務年度。出典:同上。「移転価格」は移転価格課税に係るもの、「その他」には恒久的施設(PE)に関する事案や源泉所得税に関する事案などが含まれます)

発生件数280件のうち194件(69%)、処理件数242件のうち194件(80%)が事前確認に係るものです。つまり、いま国税庁の相互協議室で動いている案件の多数派は、「課税されたから争う」案件ではなく、「課税される前に決めておく」案件だということになります。

平均処理期間は39.6か月

そしてこの記事でいちばんお伝えしたい数字です。

区分令和6事務年度令和5事務年度
全体39.6か月31.8か月
事前確認に係るもの42.4か月35.8か月
移転価格課税その他28.5か月21.5か月

(出典:同上)

全体で39.6か月、事前確認だけなら42.4か月。3年半です。しかも1年前より長くなっています。

ここで一つ、正確に読んでおくべき点があります。BEPSプロジェクトの行動14最終報告書(平成27年10月公表)は、課税事案に係る相互協議について「各国は平均24か月以内に解決するよう努める」ことを勧告しており、国税庁もこの勧告の遵守を目標としていると明記しています。

つまり比較すべきなのは、全体の39.6か月ではなく、課税事案の28.5か月と目標の24か月です。目標は超えていますが、全体の39.6か月という数字は事前確認事案(42.4か月)に引っ張られたものであり、「課税されてから解決まで一律に3年3か月かかる」という読み方は正確ではありません。

相手はどこの国か

繰越773件を地域別に見ると、アジア・大洋州が426件で最多、次いで米州211件、欧州・アフリカ136件です。国別の構成比は次のとおりでした。

国・地域構成比
米国25%
インド15%
中国13%
韓国12%
ドイツ5%

(出典:同上)

もう一つ見落とせないのが、OECD非加盟国・地域との案件です。令和6事務年度の発生は112件、処理は104件、繰越は334件。この334件は、繰越773件の43%に当たります。そして平均処理期間は49.0か月(前事務年度42.2か月)。OECD加盟国相手より、さらに1年近く長くかかっています。

繰越事案の相手国・地域は30か国・地域で、うちOECD非加盟国・地域は11か国・地域(インド、インドネシア、シンガポール、タイ、台湾、中国、ベトナム、香港、マレーシア、南アフリカ共和国、ルーマニア)です。アジア展開している会社ほど、時間がかかる側に立たされやすいという構図が数字に出ています。

4. 専門家の視点:なぜ「先に確認する」が7割を占めるのか

処理件数の80%が事前確認だという事実は、実務家の判断がどこに向かっているかを示しています。

事前確認(APA)とは、納税者が申し出た独立企業間価格の算定方法等について、税務当局が事前に確認を行う制度です。国税庁のガイダンスはその効果をこう説明しています。「納税者は、確認された内容に基づき申告を行っている限り、移転価格課税を受けることはありません。」

移転価格事務運営要領6-16も同じ内容を定めています。確認を受けた事業年度において、確認を受けた取引について事前確認の内容に適合した申告を行っている場合には、その取引は独立企業間価格で行われたものとして取り扱う、と。

これがどれだけ大きいかは、事後の相互協議と並べてみると分かります。

❌ よくある失敗
  • 移転価格の文書化だけ整えて、価格の妥当性は「税務調査で聞かれたら説明する」で先送りにする
  • 更正通知書を受け取ってから相互協議を検討し始める。ここから合意まで平均28.5か月かかる
  • 相互協議を申し立てただけで安心し、納税の猶予を申請しないまま更正税額を納付してしまう
  • 相手国側でも子会社が別に申立てをしており、日本側と説明内容が食い違っている
  • 相手国がOECD非加盟国であることを織り込まずに、解決までの資金繰り計画を立てる
⭕ 王道の進め方
  • 取引の規模が大きい、または算定方法に判断の余地がある取引は、課税される前に事前確認を申し出る
  • 事前確認は相互協議を伴う二国間(バイラテラル)で申し出る。日本だけの確認では相手国の課税は防げない
  • 申出前に事前相談を使う。国税庁相互協議室への事前相談は代理人を通じた匿名でも可能で、手数料もかからない
  • 更正を受けた場合は、相互協議の申立てと同時に納税の猶予(および地方税の徴収猶予)を申請する
  • 日本側と相手国側に出す資料・説明の内容とタイミングを揃える

事前確認は「過去」にも効かせられる

もう一つ、実務上とても大きい仕組みがあります。移転価格事務運営要領6-23が定める、確認対象事業年度前の各事業年度への準用(いわゆるロールバック)です。

確認申出法人から「確認対象事業年度における独立企業間価格の算定方法等を、それより前の事業年度にも準用したい」という申出があった場合、その事前確認の申出が相互協議の申立てを伴うものであって、その算定方法等が過去の事業年度においても最も適切な方法であると認められるときは、所要の処理を行うこととされています。

ここで見落としてはいけないのが条件です。ロールバックが認められるのは、相互協議の申立てを伴う事前確認の場合に限られます。日本の当局だけに確認を求めるユニラテラルAPAでは、この規定の適用対象になりません。二国間で申し出るべき理由が、もう一つあるということです。

加えて6-16は、事前確認を行う旨の通知があった時点で既に経過している確認事業年度について、その通知や行政指導により自主的に修正申告書を提出する場合、これは国税通則法第65条第1項・第5項の「更正があるべきことを予知してされたもの」には該当しないと定めています。調査通知後に提出された場合でも、事前確認の内容に適合させるための部分は「調査通知がある前に行われたもの」として取り扱われます。過少申告加算税の扱いに直結する定めです。

5. 実務で押さえるべきこと

相互協議の申立て

申立ては、相互協議申立書(別紙様式1)と添付資料をそれぞれ1部、国税庁相互協議室に提出して行います。提出先は国税庁長官官房相互協議室(東京都千代田区霞が関3-1-1)です。申立ておよび事前相談に手数料はかかりません。

期限には注意が必要です。OECDモデル租税条約第25条1項は、条約に適合しない課税に係る措置の最初の通知の日から3年以内に申立てを行わなければならないと定めています。日本が締結している多くの租税条約もこれと同様ですが、個々の条約によって異なります。適用される条約の条文を必ず確認してください。

不服申立て・訴訟と並行してよい

これは誤解の多い点です。事務運営指針は、相互協議の申立ては申立者またはその国外関連者がその課税について不服申立てまたは訴訟を行っているかどうかにかかわらず行うことができると明記しています。「どちらかを選ばなければならない」という制度ではありません。

ただし並行する場合は、相互協議申立書に、不服申立て・訴訟を行っている旨と主張の概要を記載した資料、および不服申立書または訴状の写しを添付する必要があります。また、日本で不服申立てまたは訴訟の結論が示されている場合、国税庁相互協議室はその内容を尊重して相互協議を実施することとされています。国内の手続で先に結論が出ると、相互協議の余地はその分狭まるということです。

納税の猶予を忘れない

移転価格課税等の更正・決定を受けて相互協議を申し立てた場合、申請に基づいて納税の猶予を受けることができます。根拠は租税特別措置法第66条の4の2(法人)および第40条の3の4(個人)です。

猶予される期間は、更正・決定に係る納期限(申請が納期限後であればその申請の日)から、相互協議の合意に基づく更正があった日の翌日から1か月を経過する日まで。3年以上かかる手続であることを考えれば、資金繰りへの影響は決定的です。

要件は次の5つすべてを満たすことです。

  • 日本で移転価格課税等の更正または決定を受けていること
  • その更正・決定について相互協議の申立てを行っていること
  • 猶予を受けようとする金額が、その相互協議の対象となるものであること
  • 猶予に係る国税以外の国税の滞納がないこと
  • 原則として、猶予に係る金額に相当する担保の提供があること

担保が不要になるのは、猶予に係る所得税等が100万円以下である場合、猶予期間が3月以内の場合、担保を提供できない特別の事情がある場合です。担保の種類は国税通則法第50条各号に規定するもの(国債・地方債、有価証券、土地、保険を付した建物等、各種財団、税務署長が確実と認める保証人の保証、金銭)です。

💡 押さえておきたいポイント 猶予期間中は延滞税が免除されます。ただし、更正・決定があってから猶予の申請を行うまでに生じた延滞税は免除されません。更正通知書が届いてから申請までの時間が、そのまま負担になります。なお猶予期間中は、納税証明書その3(未納税額が無い証明)の発行を受けられない点にも注意が必要です。

地方税についても同じ趣旨の制度があります。道府県民税・市町村民税・事業税について徴収猶予を受けられ、根拠は地方税法第55条の2(法人の道府県民税)などです。相互協議申立書の該当欄に希望の有無を記載する運用になっており、国税の猶予と地方税の徴収猶予は、申立書の記載段階で意思表示しておくのが実務です。

事前確認の手続

事前確認は、確認対象事業年度のうち最初の事業年度の開始の日までに、「独立企業間価格の算定方法等の確認に関する申出書」(別紙様式2)を所轄税務署長等に提出して申し出ます。確認対象事業年度は原則として3事業年度から5事業年度です(移転価格事務運営要領6-7)。

添付資料は同要領6-3(1)がイからルまでの11項目を列挙しており、取引の内容と流れ、当事者の事業内容と組織、果たす機能・負担するリスク・使用する資産、算定方法が最も適切な方法であることの説明、前提となる重要な事業上・経済上の諸条件、資本関係・実質的支配関係、過去3事業年度分の営業・経理の状況、といったものが求められます。

確認を受けた後も義務は続きます。同要領6-17により、確認事業年度ごとに「独立企業間価格の算定方法等の確認に関する報告書」(別紙様式8)を、確定申告書の提出期限(または所轄税務署長等があらかじめ定める期限)までに提出することを求められます。

そして6-21は取消事由を定めています。前提となる事情の変更が生じたのに改定の申出を行わなかった場合、確認の内容に適合した申告を行わなかった場合、報告書を提出しなかったまたは報告書に重大な誤りがあった場合、確認の基礎とした事実関係が真実でない場合です。取ったら終わりではなく、維持する制度だと理解しておく必要があります。

合意できないときは仲裁という出口がある

日本が締結している一部の租税条約には、仲裁規定が置かれています。両国の税務当局が相互協議を開始してから一定期間内に合意に至らない場合、申立者からの要請に基づき、未解決の事項を第三者で構成する仲裁委員会に付託する手続です。

OECDモデル租税条約第25条5項は、両国の権限ある当局が求める全ての情報が提供された日から2年以内に合意に達することができない場合に、書面による要請で仲裁に付託できるとしています。仲裁決定は、直接影響を受ける者がこれを実施する合意を受け入れない場合を除き、両締約国を拘束し、国内法上のいかなる期間制限にもかかわらず実施されます。

ただし制約もあります。いずれかの締約国の裁判所または行政審判所が既に決定を行った未解決の事項は、仲裁に付託されません。訴訟を先行させると仲裁の道が閉じる場合がある、ということです。仲裁規定はすべての条約にあるわけではないため、適用される条約と付属議定書の確認が前提になります。

6. まとめ

  • 相互協議(MAP)は、移転価格課税などによる国際的な二重課税を、国と国の税務当局間の協議で解く手続です。根拠は租税条約の相互協議規定(日米租税条約なら第25条)で、日本が締結する80以上の条約に置かれています。
  • 令和6事務年度の実績は、発生280件・処理242件・繰越773件。平均処理期間は39.6か月(事前確認42.4か月/移転価格課税その他28.5か月)で、前事務年度より1年近く延びています。
  • 処理件数の80%は事前確認(APA)に係るものです。実務の重心は「課税されてから争う」ではなく「課税される前に決めておく」に移っています。
  • 事前確認は、相互協議を伴う二国間で申し出ることに意味があります。日本だけの確認では相手国の課税を防げず、過去の事業年度への準用(ロールバック)も相互協議を伴う場合に限られます。
  • 更正を受けた場合は、相互協議の申立てとあわせて納税の猶予(租税特別措置法第66条の4の2)と地方税の徴収猶予を検討してください。猶予期間中の延滞税は免除されますが、更正から申請までの間に生じた延滞税は免除されません。
  • 申立期限は原則として最初の通知の日から3年以内(条約により異なる)。申立ても事前相談も手数料は無料で、代理人を通じた匿名の事前相談もできます。動き出しのコストは、思われているより低い制度です。

海外取引のある会社にとって、移転価格は「調査で指摘されてから考える」には時間軸が長すぎる論点です。税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、海外子会社との取引価格の設計から、文書化、事前確認の要否の判断までをあわせてご相談いただいています。

よくある質問(FAQ)

相互協議を申し立てれば、必ず二重課税は解消されるのですか?

必ずではありません。OECDモデル租税条約第25条2項は、権限ある当局は合意によって事案を解決するよう「努める」と定めており、合意義務までは課していません。国税庁の処理件数には、相手国税務当局との合意のほか、納税者による申立ての取下げ等により相互協議を終了した件数も含まれます。合意に至らずに終了する場合があることを前提に、仲裁規定の有無や国内の不服申立てとの関係を含めて検討する必要があります。

申立てにはいつまでという期限がありますか?

OECDモデル租税条約第25条1項は、条約に適合しない課税に係る措置の最初の通知の日から3年以内と定めています。日本が締結している多くの租税条約も同様の規定を置いていますが、個々の条約により異なるため、適用される条約の条文を確認してください。なお事前相談自体に期限はありません。

相互協議の申立てや事前相談に費用はかかりますか?

日本においては、相互協議の申立ておよび事前相談について手数料は不要です(国税庁ガイダンスQ2-8)。

税務署と争いながら、同時に相互協議もできますか?

できます。事務運営指針は、相互協議の申立ては申立者またはその国外関連者が不服申立てまたは訴訟を行っているかどうかにかかわらず行うことができると明記しています。ただし申立書に不服申立書または訴状の写し等を添付する必要があり、また日本で不服申立て・訴訟の結論が示されている場合、国税庁相互協議室はその内容を尊重して相互協議を実施することとされています。

相談したいが、社名を出す前に感触を知りたい。可能ですか?

可能です。国税庁ガイダンスQ2-3は、国税庁相互協議室が申立て前の事前相談に応じており、代理人を通じた匿名の事前相談も可能であると明記しています。事前相談は予約制です。

事前確認(APA)は日本の当局だけに求めることもできますか?

制度上はできます(ユニラテラルAPA)。ただし日本だけの確認では相手国での移転価格課税を防ぐことはできません。また、確認対象事業年度より前の事業年度への準用(移転価格事務運営要領6-23)は、相互協議の申立てを伴う事前確認の場合に限られます。二重課税の防止と過去年度への効果の両方を狙うのであれば、相互協議を伴う二国間での申出が原則になります。

事前確認の申出はいつまでに行う必要がありますか?

移転価格事務運営要領6-2(2)により、確認対象事業年度のうち最初の事業年度の開始の日までに確認申出書を提出して行います。その日が日曜日・祝日その他一般の休日等に当たるときは、これらの日の翌日までとされています。確認対象事業年度は原則として3事業年度から5事業年度です(同6-7)。

納税の猶予に担保は必ず必要ですか?

原則として必要ですが、猶予に係る所得税等が100万円以下である場合、猶予期間が3月以内の場合、担保を提供することができない特別の事情がある場合は不要とされています。担保の種類は国税通則法第50条各号に規定するもので、税務署長が確実と認める保証人の保証も含まれます。

相互協議が合意しても、日本の更正の期間制限を過ぎていたら調整できないのでは?

OECDモデル租税条約第25条2項は、成立した合意は「両締約国の法令上のいかなる期間制限にもかかわらず、実施されなければならない」と定めています。仲裁決定についても同条5項に同様の定めがあります。時間を要する手続であることを前提に置かれた仕組みです。

相手国がアジアの国だと、何か違いはありますか?

統計上は時間がかかる傾向が出ています。令和6事務年度末の繰越773件のうち334件(43%)がOECD非加盟国・地域との案件で、その平均処理期間は49.0か月(OECD加盟国を含む全体は39.6か月)でした。繰越事案の相手国・地域を地域別に見てもアジア・大洋州が426件で最多です。アジア展開している会社ほど、解決までの期間を長めに見込んだ資金繰りの検討が必要になります。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、国税庁が公表した統計資料・事務運営指針・ガイダンスおよび条文原文に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。相互協議の申立てができるかどうか、申立期限が何年か、仲裁規定があるかどうかは、適用される租税条約(付属議定書を含む)の規定により異なります。事前確認の可否・確認対象事業年度・過去年度への準用の可否は、取引の内容および算定方法の適切性により個別に判断されます。統計数値は令和6事務年度(令和6年7月1日から令和7年6月30日まで)のものです。実際の対応にあたっては、最新の法令・租税条約および国税庁の公表資料をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年8月15日

海外子会社との取引価格のご相談は KMP へ

公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、海外子会社との取引価格の設計から、文書化、事前確認(APA)を申し出るべきかどうかの判断までを一体でご相談いただけます。移転価格は、指摘を受けてから動くには時間軸が長すぎる論点です。

無料相談はこちら
小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。富裕層・オーナー経営者の資産防衛・事業承継から中小企業の税務顧問まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。