「総則6項」とは?相続税の伝家の宝刀はどんなときに抜かれるのか――最高裁・最近の判例から発動基準を税理士が解説
- 1. 結論(3行サマリー)
- 2. 総則6項とは何か――「ルールブックを外す」規定
- 3. 最高裁が示した発動基準――最判 令和4年4月19日(タワマン事件)
- 4. 宝刀は非上場株式にも及ぶ――国側が負けた例・勝った例
- 5. 専門家の視点:6項が抜かれる「節税」と、抜かれない「対策」の境目
- 6. 実務で押さえるべきこと
- 7. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 結論(3行サマリー)
- 総則6項は、財産評価基本通達による画一的な評価が「実質的な租税負担の公平に著しく反する」例外的な場合に、国税庁が通達によらず時価(鑑定評価額など)で課税できる規定。最高裁はこれを認めた(最判 令和4年4月19日)
- ただし、「評価額と時価が著しくかけ離れている」だけでは6項は発動できない。最高裁は、相続税の負担を意図的に軽減する目的の行為があり、他の納税者との間に「看過し難い不均衡」が生じる場合に限って適用を認めた
- この基準は不動産だけでなく非上場株式にも及ぶ。近年は、租税回避の意図が認められず納税者が勝った例(仙台薬局事件)と、減額目的が明白だとして国側が勝った例の両方が出ており、勝敗は「乖離の大きさ」より「意図・行為の有無」で分かれている
2. 総則6項とは何か――「ルールブックを外す」規定
相続税・贈与税で財産を評価するときは、原則として国税庁の「財産評価基本通達」に従います。土地は路線価、非上場株式は類似業種比準価額や純資産価額――というように、誰が計算しても同じ答えになるよう、評価方法が細かく定められています。これは、納税者ごとに評価がバラバラにならないようにするための「公平のためのルール」です。
ところが、その総則(第1章)の6項には、次の趣旨の定めが置かれています。
つまり、通達どおりに評価するとかえって不公平になる例外的な場合には、通達を外して評価し直してよい、という“安全弁”です。これが総則6項であり、実務では国税庁が通達評価を否認して時価(鑑定評価額など)で課税し直す根拠として使われます。
3. 最高裁が示した発動基準――最判 令和4年4月19日(タワマン事件)
総則6項の発動基準を初めて最高裁レベルで示したのが、いわゆる「タワマン事件」(最高裁 令和4年4月19日 第三小法廷判決/令和2年(行ヒ)283号)です。国側勝訴で確定しています。
事案の概要
| 項目 | 内容(公表されている概要) |
|---|---|
| 取得した財産 | 被相続人が亡くなる数年前に購入した不動産2件 |
| 購入額 | 合計 約13億8,700万円(約8億3,700万円+約5億5,000万円) |
| 借入金 | 購入資金として 合計 約10億円を金融機関から借入 |
| 通達による評価額 | 合計 約3億3,300万円(路線価等による) |
| 鑑定による時価 | 合計 約12億7,300万円(約7億5,400万円+約5億1,900万円) |
| 申告の結果 | 不動産の通達評価額と借入金(債務)を相殺して課税価格を圧縮し、相続税額は0円として申告 |
| 課税処分 | 国税庁が総則6項を適用し、鑑定評価額で評価し直して更正処分(約3億円超の追徴) |
通達どおりに評価すれば相続税はほぼゼロ。しかし実際の時価との差は約9億円――この差を使って税負担を消していたわけです。
最高裁の判断枠組み
最高裁は、まず大前提として「租税法上の平等原則」を確認しました。通達による画一的な評価は、納税者間の公平・効率的な徴税のために合理的であり、特定の納税者だけ通達と異なる評価をすることは、原則として平等原則に反して許されないとしたのです。
そのうえで、例外的に総則6項で通達と異なる評価が許されるのは、次のような「特別の事情」がある場合に限られるとしました。
- 通達評価額と時価との間に著しいかい離があること(ただし、これだけでは足りない)
- 被相続人や相続人が、相続税の負担を減らす(あるいは免れる)ことを意図して、あえてその取引・借入などの行為をしたこと
- その結果、ほかに同じ財産を相続する納税者との間に看過し難い不均衡が生じ、租税負担の公平に反すること
ポイントは、「乖離が大きいこと」単独では6項を正当化できないと最高裁が明言した点です。乖離に加えて「租税回避の意図に基づく行為」があって初めて、伝家の宝刀が許されるのです。
4. 宝刀は非上場株式にも及ぶ――国側が負けた例・勝った例
総則6項は不動産だけの話ではありません。非上場株式(自社株)の評価でも、通達評価額と実際の価値が大きくかい離する場面で6項が問題になります。近年、その当否を争う裁判が相次ぎ、国側が負けた例と勝った例の両方が出ています。勝敗を分けたのは、やはり「租税回避の意図・行為があったか」でした。
❌ 国側が負けた例:仙台薬局事件(非上場株式・M&A)
調剤薬局グループの非上場株式をめぐる事案(東京地裁 令和6年1月18日判決/東京高裁 令和6年8月28日判決、いずれも納税者の主張が認められたと解説されています)では、相続の前にあったM&Aの譲渡代金(実際の売買価格)と、通達による評価額との間に大きな差がありました。国側はこの差を理由に総則6項を適用しましたが、裁判所は次のように判断したと報じられています。
- M&Aの譲渡代金は、必ずしも非上場株式の客観的な交換価値(時価)を反映しているとは限らない(非上場株式は会社ごとの個別性が強い)
- 通達評価額と取引価格に乖離があるというだけでは「特別の事情」とはいえない
- 納税者に相続税の負担軽減を目的とした行為(租税回避の意図)が認められない
結果として、総則6項の適用は認められず、課税処分は取り消される方向で判断されました。「乖離があるだけでは抜けない」という最高裁の枠組みが、非上場株式でも貫かれた例です。
⭕ 国側が勝った例:増資スキームをめぐる事案(非上場株式)
一方、相続の直前に増資(多額の出資)を行って自社株の評価を圧縮したとみられる事案では、地裁段階では納税者が勝ったものの、東京高裁 令和7年6月19日判決で国側が逆転勝訴したと解説されています(その後の上級審の係属が見込まれ、確定はしていません)。報じられている事案の概要は、相続の数か月前に多額の出資を行い、通達評価では株式が大きく圧縮されていた、というものです。裁判所は、
- 軽減された税額・軽減割合などを総合的に考慮し、
- 証券会社等との協議の内容から相続税を減らす目的が明白であったとして、
「特別の事情」があると判断したとされます。タワマン事件と同じく、「減らす意図に基づく行為」が認定されると宝刀が抜かれることを示す例です。
5. 専門家の視点:6項が抜かれる「節税」と、抜かれない「対策」の境目
実務家の立場から申し上げると、総則6項をめぐる一連の判例から読み取るべき教訓は、「乖離を作りにいく節税は危ない/合理的な事業目的のある対策は守られやすい」という境目です。
ここを誤解される富裕層・オーナー経営者がとても多いのですが、最高裁も下級審も、通達評価そのものを否定しているわけではありません。否定されているのは、「相続税を減らすこと自体が目的化した、不自然な借入・購入・増資」です。逆に、
- 事業上・生活上の合理的な必要性がある不動産取得や組織再編
- 通達評価額と時価のかい離が、意図的に作り出したものではなく、制度上やむを得ず生じているもの
であれば、乖離があっても直ちに6項で否認されるわけではありません。問題は「乖離の大きさ」ではなく「なぜその行為をしたのか(目的・経緯)」なのです。
そして、総則6項のリスクは富裕層の資産防衛全体の中で見るべきものです。タワマン節税の現在地、相続税対策の王道、非上場株式(自社株)の事業承継――これらと一体で、「税務署に否認されない、説明できる対策」を設計することが重要になります。
6. 実務で押さえるべきこと
総則6項のリスクを避けながら相続・事業承継の対策を進めるための要点を、失敗例と王道で整理します。
- 「通達どおりに評価したのだから絶対に否認されない」と考え、節税目的が前面に出た不自然な借入・購入・増資を行う
- 評価額と時価の乖離さえ作れば税負担を消せると考え、行為の目的・経緯(なぜそれをしたか)を説明できる資料を残していない
- 相続直前に駆け込みで大型の不動産購入・増資を行い、「相続税対策のため」と関係者間でやり取りした記録が残っている
- 判例の結論だけを見て「不動産は危ない/株式は大丈夫」と単純化し、自社の事情に当てはめずに対策を進める
- 不動産取得・組織再編・増資には、相続税対策以外の合理的な事業目的・必要性を持たせ、その目的を文書で説明できるようにしておく
- 通達評価額と想定される時価の乖離の程度を事前に把握し、乖離が大きい財産ほど慎重に判断する
- 「いつ・誰が・なぜ」その行為をしたのかの経緯を記録し、租税回避の意図に基づく行為と見られないよう備える
- 相続・事業承継の対策は早めに・段階的に進め、相続直前の駆け込みスキームを避ける
守秘義務がありますので詳細は控えますが、構図としてお伝えすると、「相続税を大きく圧縮できる対策があると勧められたが、後で否認されないか不安だ」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、こうした場面で危ういのは、対策の中身そのものよりも、「相続税を減らすこと」だけが目的になっていて、ほかに合理的な理由を説明できないケースです。私たちが関与する場面では、まずその取引・組織再編に税負担の軽減以外のどんな事業上・生活上の必要性があるのかを一緒に整理し、通達評価額と時価の乖離の程度を確認したうえで、後から第三者に経緯を説明できる形に組み立てる――この順番で、「節税の効果」と「否認されない説明力」の両立を最優先にしています。
7. まとめ
総則6項(財産評価基本通達6項)は、相続税の評価において、通達による画一的な評価が「著しく不適当」「実質的な租税負担の公平に著しく反する」例外的な場合に、国税庁が通達を外して時価で課税し直すことを認める“伝家の宝刀”です。最高裁令和4年4月19日判決は、その発動には通達評価額と時価の著しいかい離だけでは足りず、相続税の負担を減らす意図に基づく行為があって、ほかの納税者との間に看過し難い不均衡が生じることが必要だと示しました。
この基準は不動産だけでなく非上場株式にも及び、近年は租税回避の意図が認められず納税者が勝った例(仙台薬局事件)と、減額目的が明白として国側が勝った例の両方が出ています。勝敗を分けるのは「乖離の大きさ」ではなく「意図・行為の有無」です。
税理士法人 小山・ミカタパートナーズは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、不動産・自社株を含む相続税対策・事業承継を、「節税の効果」と「税務署に否認されない説明力」の両面から設計します。乖離の大きな財産をお持ちの方、相続・事業承継対策が総則6項のリスクに触れないか不安な方は、お早めにご相談ください。
よくある質問(FAQ)
総則6項(そうそく6こう)とは何ですか?
評価額と時価が大きく違えば、必ず総則6項で否認されますか?
総則6項は不動産だけの話ですか?
どんな相続税対策なら総則6項のリスクが低いですか?
相続直前の駆け込み対策は危険ですか?
出典・参考資料
- 国税庁 法令解釈通達「財産評価基本通達」第1章 総則(6項を含む)| https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/01.htm
- 国税庁 税務大学校論叢「財産評価基本通達の定めによらない財産の評価について-裁判例における『特別の事情』の検討を中心に-」| https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/80/02/index.htm
- 判例:最高裁判所 令和4年4月19日 第三小法廷判決(令和2年(行ヒ)283号。総則6項の適用を認め国側勝訴・確定)。非上場株式に関する下級審として、東京地裁 令和6年1月18日判決・東京高裁 令和6年8月28日判決(仙台薬局事件・納税者勝訴とされる)、東京地裁 令和7年1月17日判決・東京高裁 令和7年6月19日判決(国側勝訴とされる。上級審係属が見込まれ未確定)。個別判決の事件番号・確定状況は最新の公表情報をご確認ください。
- 参考:PwC Japanグループ/税理士法人等による総則6項判例の解説(評価通達6項に係る最高裁判決および非上場株式に関する裁判例の整理)。
本記事は、国税庁の公表資料および判例の公表内容に基づく一般的な情報提供であり、特定の税務処理の結果を保証するものではありません。総則6項の適用の有無は、財産の種類、取引・行為の目的と経緯、評価額と時価のかい離の程度など個別の事実関係により異なり、下級審判決の確定状況も変わり得ます。実際の判断にあたっては、最新の法令・通達・判例をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月23日
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