相続税が払えないときはどうする?延納と物納の要件・期間・利子税を税理士が解説【令和8年の特例割合は上がっています】

相続財産の中身が土地と自社株ばかりで、預金がほとんどない。それなのに相続税の納期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月でやってきます。 このとき使えるのが、延納(分割払い)と物納(モノで納める)です。どちらも相続税法にきちんと書かれた正規の制度で、裏技でも救済措置でもありません。ただし、申請できるのは納期限まで——つまり申告期限と同じ日です。「払えないと分かってから考える」では、まず間に合いません。 そして2026年、この制度に静かな変化が起きています。延納の利子税を決める「延納特例基準割合」が、令和7年の0.9%から令和8年は1.3%へ上がりました。金利のある世界に戻ったことが、相続税の分割払いのコストにそのまま反映されています。 税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも、「不動産は残したいが納税資金がない」というご相談は実際に寄せられます。本記事では、条文と国税庁の公表資料をもとに、延納と物納の要件・期間・利子税・落とし穴を一通り整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 結論(3行サマリー)
  2. 2. 大前提:相続税は「金銭で一時に納付」が原則
  3. 3. 延納の4つの要件
  4. 4. 延納期間と利子税——令和8年は特例割合が上がっています
  5. 5. 物納——「延納でも払えない」ことが入口
  6. 6. 申請から許可までの流れと、途中で使える2つの制度
  7. 7. 実務でどう備えるか
  8. 8. まとめ
  9. よくある質問(FAQ)

1. 結論(3行サマリー)

  • 相続税は金銭一時納付が原則。まず延納(相続税法第38条)、延納でも払えないときに初めて物納(同法第41条)という順序が法律で決まっています。飛び越えて物納だけを申請することはできません
  • 延納も物納も、申請期限は「納期限または納付すべき日」=期限内申告なら申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)。この日までに申請書と担保提供関係書類(物納なら物納手続関係書類)を提出しなければ、権利そのものが消えます
  • 令和8年(2026年)中に開始する分納期間の延納特例基準割合は1.3%(令和7年は0.9%)。租税特別措置法第93条第3項の算式に当てはめると、一般の延納相続税額の利子税は年0.7%から年1.0%へ上がる計算になります

2. 大前提:相続税は「金銭で一時に納付」が原則

国税は金銭で、納期限までに、一時に納めるのが原則です。相続税もその例外ではありません。

しかし相続税には、他の税目にない事情があります。課税対象が「亡くなった方が持っていた財産」であって、「相続人が持っている現金」ではないという点です。財産の中身が土地・建物・非上場株式に偏っていれば、評価額は大きくても、納税に充てられる現金は手元にない。この構造的なズレを埋めるために用意されているのが、延納と物納です。

法律は、この2つに明確な優先順位を置いています。

  • 延納(相続税法第38条第1項)… 「納期限までに、又は納付すべき日に金銭で納付することを困難とする事由がある場合」に、年賦(年払い)を許可できる
  • 物納(相続税法第41条第1項)… 「延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合」に、一定の相続財産による納付を許可できる

条文の「延納によっても」という一句が、順序を決めています。物納は延納の次の手段であり、いきなり物納から入る制度設計にはなっていません。

💡 贈与税にも延納はありますが、物納はありません … 相続税法第38条第3項は贈与税についても延納(5年以内)を認めていますが、物納を定める第41条は相続税のみを対象としています。生前贈与で贈与税が払えなくなっても、モノで納める道はありません。

3. 延納の4つの要件

延納を申請できるのは、次のすべてを満たす場合です(相続税法第38条第1項・第4項、第39条第1項)。

(1)相続税額が10万円を超えること

(2)金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること

(3)延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること ただし、延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下である場合には担保は不要です(同法第38条第4項ただし書)。

(4)延納申請期限までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること 延納申請期限は、期限内申告の場合は申告期限、更正・決定の場合は通知が発せられた日の翌日から起算して1か月を経過する日、期限後申告・修正申告の場合は申告書の提出の日です。

3-1. 「金銭で納付することを困難とする金額」はこう計算する

ここが延納の実質的な関門です。相続税法施行令第12条第1項は、延納の許可限度額を次のように定めています。

延納の許可限度額 = 納付すべき相続税額 −〔納期限に有する現金・預貯金その他換価の容易な財産の価額 −(生活費の3か月分 + 事業の継続のために当面必要な運転資金)〕

つまり、手持ちの現預金から「3か月分の生活費」と「当面の運転資金」だけを残して、あとは全部納税に充てなさい、というのが法律の立て付けです。ここでいう生活費は、本人だけでなく生計を一にする配偶者その他の親族の分も含みます(事実婚の相手方とその親族も含まれます)。

「換価の容易な財産」から物納に充てることができる財産(不動産・有価証券・動産)は除かれます。上場株式そのものは物納対象財産なので、この計算では除外されるという整理です。

⚠️ 相続財産だけでなく、相続人自身の財産も見られます … 施行令第12条第1項第2号は「納税義務者が……納期限において有する現金、預貯金その他換価の容易な財産」と書いており、相続で取得したものに限っていません。相続人がもともと持っていた預金も、納付困難額の計算に入ってきます。ここを誤解したまま申請すると、想定より延納できる金額が小さくなります。

3-2. 担保として提供できるもの

延納の担保にできる財産は、次の6種類に限られます。

  1. 国債および地方債
  2. 社債その他の有価証券で税務署長等が確実と認めるもの
  3. 土地
  4. 建物、立木、登記される船舶などで、保険に附したもの
  5. 鉄道財団、工場財団など
  6. 税務署長等が確実と認める保証人の保証

重要なのは、相続または遺贈により取得した財産に限られないという点です。相続人の固有の財産でも、共同相続人や第三者が所有している財産でも、担保として提供できます。税務署長が担保を適当でないと認めたときは変更を求められ、通知を受けた日の翌日から20日以内に変更後の担保提供関係書類を出さなければ、申請は却下され得ます(相続税法第39条第4項・第5項)。

担保提供関係書類が申請期限までに揃わない場合は、担保提供関係書類提出期限延長届出書を出すことで、1回につき3か月を限度に、最長6か月まで提出期限を延ばせます(同条第6項〜第8項)。

4. 延納期間と利子税——令和8年は特例割合が上がっています

延納できる期間と利子税の割合は、課税相続財産の価額のうちに「不動産等の価額」が占める割合によって決まります。まず、この「不動産等」の中身を押さえてください。

4-1. 「不動産等」には自社株が入る

相続税法第38条第1項は「不動産、立木その他政令で定める財産」と書き、その政令=相続税法施行令第13条が、次の3つを挙げています。

  • 不動産の上に存する権利(借地権など)
  • 事業用の減価償却資産
  • 株式および出資——ただし、その者またはその親族その他特別の関係がある者が、発行済株式または出資の総数・総額の10分の5を超える数・金額を有する場合における、その法人の株式・出資に限る(上場会社等を除く)

つまり、同族会社のオーナー一族が保有する非上場株式は「不動産等」に含まれます。自社株の評価額が大きいオーナー経営者ほど、不動産等の割合が高くなり、延納期間が長く、利子税の割合が低くなる側に寄っていくということです。ここは意外と知られていません。

なお、不動産等の割合は、延納の許可をする時までに納付すべき税額の確定した相続税額の計算の基礎となった財産の価額を基準に計算します(施行令第14条第3項)。

4-2. 令和8年の特例割合はこう決まる

延納の利子税は、条文上の割合(本則)がそのまま適用されるわけではありません。租税特別措置法第93条第3項が、次の調整を定めています。

特例割合 = 延納利子税割合 × 延納特例基準割合 ÷ 7.3%

(租税特別措置法第96条第1項により、0.1%未満の端数は切り捨て、計算した割合が年0.1%未満のときは年0.1%とします)

そして、この「延納特例基準割合」の定義が肝心です。租税特別措置法第93条第4項第2号は、各分納期間の開始の日の属する年の「利子税特例基準割合」をいうと定めています。利子税特例基準割合は、平均貸付割合+年0.5%(同条第2項)。

国税庁が公表している利子税特例基準割合は、令和7年1月1日〜令和7年12月31日が0.9%、令和8年1月1日〜令和8年12月31日が1.3%です。したがって、令和8年中に開始する分納期間の延納特例基準割合は1.3%になります。

上の算式に当てはめると、次のようになります。

不動産等の割合が75%以上の場合

対象となる延納相続税額延納期間(最高)と利子税の割合(本則→令和7年→令和8年)
動産等に係る延納相続税額最高10年/年5.4% → 0.6% → 0.9%
不動産等に係る延納相続税額(下記の森林計画立木を除く)最高20年/年3.6% → 0.4% → 0.6%
森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額最高20年/年1.2% → 0.1% → 0.2%

不動産等の割合が50%以上75%未満の場合

対象となる延納相続税額延納期間(最高)と利子税の割合(本則→令和7年→令和8年)
動産等に係る延納相続税額最高10年/年5.4% → 0.6% → 0.9%
不動産等に係る延納相続税額(下記の森林計画立木を除く)最高15年/年3.6% → 0.4% → 0.6%
森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額最高20年/年1.2% → 0.1% → 0.2%

不動産等の割合が50%未満の場合

対象となる延納相続税額延納期間(最高)と利子税の割合(本則→令和7年→令和8年)
一般の延納相続税額(下記3区分を除く)最高5年/年6.0% → 0.7% → 1.0%
立木の割合が30%を超える場合の立木に係る延納相続税額(森林計画立木を除く)最高5年/年4.8% → 0.5% → 0.8%
特別緑地保全地区等内の土地に係る延納相続税額最高5年/年4.2% → 0.5% → 0.7%
森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額最高5年/年1.2% → 0.1% → 0.2%

(本則の割合と延納期間の根拠:相続税法第38条第1項・第52条第1項、租税特別措置法第70条の8の2第1項・第3項〔森林計画立木〕、第70条の9第1項〔特別緑地保全地区等内の土地〕、第70条の10第1項・第2項〔不動産等の割合4分の3以上の20年・3.6%〕、第70条の11〔6.6%→6.0%等の読替え〕。令和7年の特例割合は国税庁タックスアンサーNo.4211の掲載値。令和8年の特例割合は、国税庁が公表した令和8年の利子税特例基準割合1.3%を租税特別措置法第93条第3項・第96条第1項の算式に当てはめて計算した値です)

⚠️ 数字の性格をはっきりさせておきます … 国税庁タックスアンサーNo.4211に掲載されている表の特例割合は、令和7年1月1日現在の延納特例基準割合0.9%で計算されたものです。同ページには「『延納特例基準割合』の変更があった場合には、次の表の『特例割合』も変動しますので、延納申請に際し所轄税務署で確認願います」と明記されています。上の表の令和8年欄は、公表された利子税特例基準割合1.3%から条文の算式で機械的に導いた値であり、実際の適用にあたっては必ず所轄税務署でご確認ください

4-3. 少額のときは期間が自動的に短くなる

延納税額が50万円未満(不動産等の割合が10分の5以上の場合は150万円未満)のときは、延納期間は「延納税額 ÷ 10万円」で得た数(1未満の端数は1とする)に相当する年数を超えられません(相続税法第38条第1項後段)。たとえば延納税額が40万円なら4年が上限、ということです。

なお、延納年割額を計算して1,000円未満の端数が出たときは、その端数はすべて第1回に納付すべき分納税額に合算されます(施行令第14条第4項)。

5. 物納——「延納でも払えない」ことが入口

物納は、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、その困難とする金額を限度として認められます(相続税法第41条第1項)。

物納の許可限度額は、相続税法施行令第17条が定めています。延納の許可限度額の計算をさらに進め、納期限の翌日から延納期間の終了する日までに見込まれる収入を加え、その期間中の生活費・運転資金を控除し、延納によって納付できる額を差し引いた残りが物納できる額です。「将来の収入で分割払いできるなら、そこまでは延納で払ってください」という考え方が、そのまま条文になっています。

5-1. 物納できる財産と、その順位

物納に充てられるのは、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、日本国内に所在するもので、次の順位によります(相続税法第41条第2項〜第5項)。

第1順位

  1. 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(特別の法律により法人の発行する債券および出資証券を含み、短期社債等は除く)
  2. 不動産および上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

第2順位

  1. 非上場株式等(特別の法律により法人の発行する債券および出資証券を含み、短期社債等は除く)
  2. 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

第3順位

  1. 動産

後順位の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合、および先順位の財産に適当な価額のものがない場合に限って物納に充てられます。なお、特定登録美術品(美術品の美術館における公開の促進に関する法律第2条第3号に規定する登録美術品で、相続開始の時において既に登録を受けているもの)は、この順序にかかわらず、一定の書類を提出することで物納に充てることができます。

💡 海外の不動産は物納できません … 相続税法第41条第2項は物納財産を「この法律の施行地にあるもの」に限っています。海外の不動産や外国の金融機関に預けた資産は、相続税の課税対象にはなっても、物納の対象にはなりません。海外資産の比率が高い方ほど、納税資金は国内で用意しておく必要があるということです。

また、次の財産は物納の対象になりません。

  • 相続時精算課税の適用を受けた財産
  • 非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた非上場株式等
  • 個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた事業用資産

5-2. 管理処分不適格財産——そもそも受け取ってもらえない財産

物納に不適格な財産(管理処分不適格財産)は、相続税法施行令第18条に定められています。不動産については次のとおりです。

  • 担保権の設定の登記がされていることその他これに準ずる事情がある不動産
  • 権利の帰属について争いがある不動産
  • 境界が明らかでない土地
  • 隣接する不動産の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産
  • 他の土地に囲まれて公道に通じない土地で、民法第210条(公道に至るための他の土地の通行権)の規定による通行権の内容が明確でないもの
  • 借地権の目的となっている土地で、その借地権を有する者が不明であることその他これに類する事情があるもの
  • 他の不動産(他の不動産の上に存する権利を含む)と社会通念上一体として利用されている不動産もしくは利用されるべき不動産、または二以上の者の共有に属する不動産
  • 耐用年数を経過している建物(通常の使用ができるものを除く)
  • 敷金の返還に係る債務その他の債務を国が負担することとなる不動産(申請者において清算することを確認できる場合を除く)
  • その管理または処分を行うために要する費用の額が、その収納価額と比較して過大となると見込まれる不動産
  • 公の秩序または善良の風俗を害するおそれのある目的に使用されている不動産その他社会通念上適切でないと認められる目的に使用されている不動産
  • 引渡しに際して通常必要とされる行為がされていない不動産
  • 地上権、永小作権、賃借権その他の使用および収益を目的とする権利が設定されている不動産で、暴力団員または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(暴力団員等)、暴力団員等によりその事業活動を支配されている者、法人で暴力団員等を役員等とするものが、その権利を有しているもの

株式については次のとおりです。

  • 譲渡に関して金融商品取引法その他の法令の規定により一定の手続が定められている株式で、その手続がとられていない株式
  • 譲渡制限株式
  • 質権その他の担保権の目的となっている株式
  • 権利の帰属について争いがある株式
  • 共有に属する株式(共有者全員がその株式について物納の許可を申請する場合を除く)
  • 暴力団員等によりその事業活動を支配されている株式会社、または暴力団員等を役員とする株式会社が発行した株式

上記以外の財産についても、その性質がこれらに準ずるものとして税務署長が認めるものは管理処分不適格財産となります。

⚠️ 同族会社の株式は、多くの場合そのままでは物納できません … 定款に譲渡制限を置いている非上場会社は珍しくありませんが、譲渡制限株式は管理処分不適格財産です。「自社株を物納すればよい」という発想は、定款の確認から始まります。また、境界が確定していない土地も同様に不適格です。測量・境界確定・共有の解消には時間がかかりますから、これは相続が起きてから始める作業ではありません。

5-3. 物納劣後財産——他に出せるものがないときだけ

次の財産は物納劣後財産とされ、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り物納に充てられます(相続税法施行令第19条)。

  • 地上権、永小作権もしくは耕作を目的とする賃借権、地役権または入会権が設定されている土地
  • 法令の規定に違反して建築された建物およびその敷地
  • 土地区画整理法による土地区画整理事業、新都市基盤整備法による土地整理、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法による住宅街区整備事業、土地改良法による土地改良事業の施行に係る土地につき、仮換地または一時利用地の指定がされていない土地(その指定後において使用または収益をすることができない土地を含む)
  • 現に納税義務者の居住の用または事業の用に供されている建物およびその敷地(納税義務者がその建物および敷地について物納の許可を申請する場合を除く)
  • 配偶者居住権の目的となっている建物およびその敷地
  • 劇場、工場、浴場その他の維持または管理に特殊技能を要する建物およびこれらの敷地
  • 建築基準法第43条第1項(敷地等と道路との関係)に規定する道路に2メートル以上接していない土地
  • 都市計画法の規定による都道府県知事の許可を受けなければならない開発行為をする場合において、その開発行為が開発許可の基準に適合しないときにおけるその開発行為に係る土地
  • 都市計画法に規定する市街化区域以外の区域にある土地(宅地として造成することができるものを除く)
  • 農業振興地域の整備に関する法律の農業振興地域整備計画において農用地区域として定められた区域内の土地
  • 森林法の規定により保安林として指定された区域内の土地
  • 法令の規定により建物の建築をすることができない土地(建物の建築をすることができる面積が著しく狭くなる土地を含む)
  • 過去に生じた事件または事故その他の事情により、正常な取引が行われないおそれがある不動産およびこれに隣接する不動産
  • 事業の休止(一時的な休止を除く)をしている法人に係る株式に係る株券

5-4. 収納価額は「相続税評価額」——ここが物納の本質

物納財産を国が収納するときの価額は、原則として相続税の課税価格計算の基礎となったその財産の価額です(相続税法第43条第1項)。つまり相続税評価額で国が引き取ります。

これが物納の性格を決めています。相続税評価額が実際の売却可能価額を上回っている財産——たとえば市街化調整区域の土地、接道の悪い土地、買い手のつきにくい山林など——については、市場で売って納税するより、物納で納めるほうが手取りベースで有利になり得ます。逆に、売れば評価額より高く売れる財産は、売却して金銭で納めるほうが合理的です。

なお、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用を受けた相続財産を物納する場合の収納価額は、特例適用後の価額になります。80%減額した後の価額で国に引き取られるということですから、小規模宅地等の特例を適用した宅地を物納に充てるのは、通常は不利な選択です。

💬 実務の現場から
「土地はたくさんあるのだから物納すればいい」というご相談は実際に少なくありません。ただ、実務でつまずくのはほぼ例外なく財産そのものではなく、財産の状態です。境界が確定していない、私道の持分が整理されていない、賃貸借契約書が見当たらない、共有のまま何十年も経っている——こうした点はすべて管理処分不適格の論点になります。過去のご相談の傾向として申し上げると、物納が実際に通るかどうかは、相続が起きるより前の「土地の手入れ」でほぼ決まっています

6. 申請から許可までの流れと、途中で使える2つの制度

6-1. 審査期間と、書類が間に合わないときの延長

延納・物納とも、税務署長は申請期限から3か月以内に許可または却下を行います。ただし、延納は担保などの状況によって最長6か月まで、物納は申請財産の状況によって最長9か月まで、この期間を延長する場合があります(相続税法第39条第2項、第42条第2項)。

書類が間に合わないときは、届出書による延長ができます。

  • 延納:担保提供関係書類提出期限延長届出書により、1回につき3か月を限度に、最長6か月まで
  • 物納:物納手続関係書類提出期限延長届出書により、1回につき3か月を限度に、最長1年まで

6-2. 物納が却下されたとき

物納申請した財産が管理処分不適格財産に該当すると判断されて却下されたときは、却下の日の翌日から20日以内に、その却下された財産に代えて他の財産による物納の再申請を1回に限り行うことができます(相続税法第45条第1項)。

一方、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がないと判断されて物納申請が却下されたときは、その却下された相続税額について延納の申請をすることができます。

6-3. 特定物納——延納から物納への切替えは10年以内

延納の許可を受けた後で延納条件を履行することが困難になった場合、申告期限から10年以内に限り、分納期限が未到来の税額部分について延納から物納へ変更できます。これを特定物納といいます(相続税法第48条の2)。

ここで決定的に重要な違いがあります。

特定物納に係る財産の収納価額は、当初の物納と異なり「特定物納申請書を提出した時の価額」になります(同条第5項)。相続開始時の相続税評価額ではありません。地価が下がっていれば、その下がった価額で国に引き取られるということです。また、物納財産を納付するまでの期間に応じ、当初の延納条件による利子税を納めることになります。

💡 「とりあえず延納して、だめなら物納」は割高になり得ます … 当初から物納すれば収納価額は相続開始時の相続税評価額。延納してから特定物納に切り替えると、収納価額は申請時の時価に置き換わり、そこまでの利子税も乗ります。延納と物納は「順番に試すもの」ではなく、申告期限までにどちらで行くかを決めきるものと考えるのが実務です。

6-4. 却下・取下げのときの利子税と延滞税

ここは見落とされがちですが、金額に直結します。

  • 延納の申請が却下された、または取り下げたものとみなされた場合:納期限または納付すべき日の翌日から、却下の日または取下げとみなされる日までの期間について、年7.3%(租税特別措置法第93条第1項により、利子税特例基準割合が7.3%未満のときはその割合。令和8年は1.3%)の利子税がかかります(相続税法第52条第4項)
  • 物納の申請が却下された、または取り下げたものとみなされた場合:同じく、その期間について利子税がかかります
  • 自ら物納申請を取り下げた場合:納期限または納付すべき日の翌日から、延滞税がかかります

「自分から取り下げる」と延滞税、「却下される・みなし取下げになる」と利子税、という違いです。令和8年の延滞税の割合は、納期限の翌日から2か月を経過する日までが年2.8%、それ以後が年9.1%です。

6-5. 物納の条件付許可——許可の後も5年間は終わっていない

汚染物質除去の履行義務などの条件を付されて物納の許可を受けた後に、許可財産に土壌汚染などの瑕疵があることが判明した場合には、汚染の除去などの措置を求められます。物納許可後5年以内にこの措置を求められ、それができない場合には、物納許可が取り消されることがあります。物納は、国が受け取った時点で終わりではありません。

7. 実務でどう備えるか

❌ よくある失敗
  • 相続税額が確定してから「払えない」と気づく。延納・物納の申請期限は申告期限と同じ日なので、この時点ではもう間に合いません
  • 「土地があるから物納できる」と考えて、境界未確定・共有・私道未整理のまま申告期限を迎える(いずれも管理処分不適格の論点です)
  • 自社株を物納するつもりでいたが、定款に譲渡制限があった(譲渡制限株式は管理処分不適格財産です)
  • 海外の不動産を納税原資に見込む(物納できるのは日本国内に所在する財産のみです)
  • 小規模宅地等の特例を適用した宅地を物納に充てる(収納価額は減額後の価額になります)
  • とりあえず延納しておき、後で物納に切り替えるつもりでいる(特定物納の収納価額は申請時の価額に置き換わります)
  • 手続が面倒だからと物納申請を自ら取り下げる(利子税ではなく延滞税に切り替わります)
⭕ 王道の進め方
  • 相続が起きる前に、納税資金がいくら足りないかを計算しておく。財産評価と納税額の試算は、生前にできる作業です
  • 不動産は、境界確定・共有の解消・賃貸借関係の書面化を平時に済ませておく。物納が通るかどうかは、ここでほぼ決まります
  • 非上場株式を納税原資に考えるなら、定款の譲渡制限の見直しを含めて設計する
  • 生命保険を納税資金として使う。死亡保険金には法定相続人1人あたり500万円の非課税枠があり、受取人固有の財産として遺産分割を待たずに受け取れます
  • 延納を使うなら、不動産等の割合を正しく計算する。同族会社の非上場株式(10分の5超保有)は「不動産等」に含まれ、期間と利子税の条件が有利になります
  • 延納の利子税と金融機関からの借入金利を比較する。令和8年の特例割合(一般で年1.0%、不動産等で年0.6%の計算)は、借入と比べて依然として低い水準です。ただし延納には担保が必要である点を含めて比較してください
  • 申告期限の3か月前には、延納か物納か金銭一時納付かの方針を確定させる。担保提供関係書類・物納手続関係書類の準備には、それだけの時間がかかります

8. まとめ

相続税の延納と物納は、「払えない人のための救済」ではなく、相続税という税目が構造的に抱えるズレを埋めるために、法律があらかじめ用意した納付方法です。

要点を3つに絞ります。

第一に、順序と期限が決まっていること。延納が先、物納が後。そして申請できるのは納期限まで=申告期限まで。この2つは動かせません。

第二に、令和8年は延納のコストが上がっていること。延納特例基準割合が0.9%から1.3%になったことで、一般の延納相続税額の利子税は年0.7%から年1.0%になる計算です。金額としては小さく見えますが、20年の延納なら20回この差が乗ります

第三に、物納が通るかどうかは、相続が起きる前の準備で決まること。境界、共有、譲渡制限、賃貸借契約書。すべて、平時にしか整理できない項目です。

税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、財産評価と納税資金の試算から、延納・物納・売却・借入のどれで行くかの比較、そして物納を見据えた不動産の事前整理まで、一連の流れでご支援しています。相続が起きてからでは選べる手段が限られます。財産の中身が不動産や自社株に偏っている方は、生前の段階でご相談ください。

よくある質問(FAQ)

延納と物納は、どちらか好きなほうを選べますか?

選べません。相続税法第41条第1項は、物納の要件を「延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合」と定めています。まず延納で納付できるかを検討し、それでも足りない部分についてのみ物納が認められるという順序です。相続税法施行令第17条の物納許可限度額の計算も、延納で納付できる額を控除する構造になっています。

延納の申請はいつまでにすればよいですか?

延納しようとする相続税の納期限または納付すべき日(延納申請期限)までです。期限内申告の場合は申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月)、更正または決定の場合は通知が発せられた日の翌日から起算して1か月を経過する日、期限後申告または修正申告の場合は申告書の提出の日が申請期限になります。この日までに延納申請書と担保提供関係書類を提出する必要があります。

担保がないと延納はできませんか?

原則として担保が必要ですが、延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下である場合には不要です(相続税法第38条第4項ただし書)。また、担保に提供できる財産は相続財産に限られず、相続人の固有の財産、共同相続人や第三者が所有する財産でも構いません。税務署長等が確実と認める保証人の保証も担保になります。

令和8年の延納の利子税は結局いくらですか?

国税庁が公表した令和8年の利子税特例基準割合は1.3%です。租税特別措置法第93条第4項第2号により、各分納期間の開始の日の属する年の利子税特例基準割合が延納特例基準割合となりますので、令和8年中に開始する分納期間の延納特例基準割合は1.3%です。同条第3項の算式(延納利子税割合×延納特例基準割合÷7.3%、0.1%未満切捨て)に当てはめると、一般の延納相続税額は年1.0%、不動産等に係る延納相続税額は年0.6%、動産等に係る延納相続税額は年0.9%という計算になります。国税庁タックスアンサーNo.4211の表は令和7年の0.9%で計算されたものですので、申請にあたっては所轄税務署でご確認ください

自社株は「不動産等」に入るのですか?

入る場合があります。相続税法施行令第13条は、延納期間が15年以内または10年以内に延長される財産として、不動産の上に存する権利、事業用の減価償却資産、および株式・出資を挙げています。株式・出資については、その者またはその親族その他特別の関係がある者が発行済株式・出資の総数・総額の10分の5を超える数・金額を有する場合における、その法人(上場会社等を除く)の株式・出資に限られます。オーナー一族で過半を保有する非上場会社の株式は、これに該当します。

海外にある不動産を物納できますか?

できません。相続税法第41条第2項は、物納に充てることができる財産を「納税義務者の課税価格計算の基礎となった財産でこの法律の施行地にあるもの」と定めています。海外資産は相続税の課税対象にはなりますが、物納の対象にはなりません。海外資産の比率が高い場合は、国内で納税資金を確保しておく必要があります。

物納すると、いくらで国に引き取ってもらえますか?

原則として、相続税の課税価格計算の基礎となったその財産の価額(相続税評価額)です(相続税法第43条第1項)。ただし、収納の時までにその財産の状況に著しい変化が生じたときは、収納の時の現況により収納価額が定められることがあります。また、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用を受けた相続財産を物納する場合の収納価額は、特例適用後の価額になります。

譲渡制限のある自社株は物納できますか?

そのままではできません。相続税法施行令第18条第2号ロは、譲渡制限株式を管理処分不適格財産としています。ほかにも、譲渡に関して法令上一定の手続が定められているのにその手続がとられていない株式、質権その他の担保権の目的となっている株式、権利の帰属について争いがある株式、共有に属する株式(共有者全員が物納の許可を申請する場合を除く)が管理処分不適格財産とされています。

延納を始めた後で、やはり払えなくなったらどうなりますか?

申告期限から10年以内であれば、分納期限が未到来の税額部分について延納から物納へ変更できます(特定物納。相続税法第48条の2)。ただし、特定物納に係る財産の収納価額は特定物納申請書を提出した時の価額であり、当初から物納した場合の相続税評価額とは異なります。また、物納財産を納付するまでの期間について、当初の延納条件による利子税がかかります。なお、延納税額の滞納その他延納の条件に違反したときは、税務署長は延納の許可を取り消すことができます(同法第40条第2項)。

物納の申請が却下されたら、もう打つ手はありませんか?

却下の理由によります。物納申請財産が管理処分不適格財産に該当するとして却下されたときは、却下の日の翌日から20日以内に、他の財産による物納の再申請を1回に限り行うことができます(相続税法第45条第1項)。延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がないとして却下されたときは、その却下された相続税額について延納の申請をすることができます。

出典・参考資料

  • 国税庁タックスアンサー No.4211「相続税の延納」
  • 国税庁タックスアンサー No.4214「相続税の物納」
  • 国税庁「延滞税の割合」(利子税特例基準割合・還付加算金特例基準割合の年別一覧を含む)
  • 国税庁「延納・物納申請等」
  • 国税庁タックスアンサー No.4205「相続税の申告と納税」
  • 相続税法(昭和25年法律第73号)第33条(納付)/第38条(延納の要件)/第39条(延納手続)/第40条(延納申請に係る徴収猶予等)/第41条(物納の要件)/第42条(物納手続)/第43条(物納財産の収納価額等)/第45条(物納申請の却下に係る再申請)/第47条(物納の撤回に係る延納)/第48条の2(特定の延納税額に係る物納)/第52条(延納等に係る利子税)
  • 相続税法施行令(昭和25年政令第71号)第12条(延納の許可限度額)/第13条(延納期間の延長される財産)/第14条(不動産等の価額に対応する延納税額の計算等)/第17条(物納の許可限度額)/第18条(管理処分不適格財産)/第19条(物納劣後財産)/第19条の2
  • 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第70条の8の2(計画伐採に係る相続税の延納等の特例)/第70条の9(特別緑地保全地区等内の土地に係る相続税の延納に伴う利子税の特例)/第70条の10(不動産等に係る相続税の延納等の特例)/第70条の11(相続税の延納に伴う利子税の特例)/第93条(利子税の割合の特例)/第96条(利子税等の額の計算)
  • 民法(明治29年法律第89号)第210条(公道に至るための他の土地の通行権)
  • 建築基準法(昭和25年法律第201号)第43条第1項(敷地等と道路との関係)
  • 美術品の美術館における公開の促進に関する法律(平成10年法律第99号)第2条第3号(登録美術品)
ご利用上の留意事項
本記事は、法令および国税庁の公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。本記事中の令和8年の特例割合は、国税庁が公表した令和8年の利子税特例基準割合1.3%を租税特別措置法第93条第3項および第96条第1項の算式に当てはめて計算した値であり、国税庁が表として公表したものではありません。国税庁タックスアンサーNo.4211にも「延納特例基準割合の変更があった場合には特例割合も変動するので、延納申請に際し所轄税務署で確認願います」と記載されています。実際の適用にあたっては必ず所轄税務署でご確認ください。また、延納・物納の許可は税務署長の調査に基づく個別判断であり、本記事の記載をもって許可を保証するものではありません。最新の法令・通達をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年8月2日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から富裕層・オーナー経営者の資産防衛・国際税務・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。