退職金の税金はいくら引かれる?退職所得控除の計算と「10年ルール」を税理士が解説【2026年版】

長年勤めた会社を退職するとき、あるいは経営者が自分自身に退職金を支給するとき、必ず気になるのが「税金はいくら引かれるのか」です。退職金は給与や賞与とはまったく別のルールで課税され、結論から言えば税制上きわめて優遇されています。なぜ優遇されているのか、いくら手元に残るのか、そして令和7年度税制改正で2026年から変わった「10年ルール」まで、税理士法人 小山・ミカタパートナーズが2026年(令和8年)の最新の取扱いで網羅的に整理します。 退職金は、サラリーマンの老後資金であると同時に、経営者にとっては会社の損金と個人の手取りを両立できる「最後の大きな節税の場面」でもあります。仕組みを正しく知っておけば、受け取り方ひとつで税負担は大きく変わります。
📋 この記事の目次
  1. 1. 退職金の税金が優遇される理由(3行サマリー)
  2. 2. 退職所得の計算式(ここがすべての出発点)
  3. 3. 退職所得控除額の計算(勤続20年が分岐点)
  4. 4. 実際にいくら引かれるのか(計算例)
  5. 5. 「2分の1」が使えない人がいる(短期退職・特定役員)
  6. 6. 【最新】2026年から「5年ルール」が「10年ルール」へ
  7. 7. 経営者の退職金は「最後の大きな節税」
  8. 8. 手続きで損しないために(退職所得の受給に関する申告書)
  9. 10. まとめ
  10. よくある質問(FAQ)

1. 退職金の税金が優遇される理由(3行サマリー)

  • 退職金にかかる所得税・住民税は、「退職所得」として給与とは分離して計算されます(分離課税)。
  • 勤続年数に応じた「退職所得控除」を差し引き、さらに残額を2分の1にしてから課税します。
  • だから同じ金額でも、退職金は給与・賞与より圧倒的に税金が軽くなる仕組みになっています。

退職金が優遇されるのは、長年の勤労に対する報償であり、かつ老後の生活を支える原資という性格があるためです。根拠は所得税法第30条(退職所得)に置かれた正式な制度で、国税庁タックスアンサー No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」に計算方法が明示されています。

2. 退職所得の計算式(ここがすべての出発点)

退職所得の金額は、次の式で計算します。

💡 退職所得の金額 =(収入金額〔源泉徴収される前の金額〕- 退職所得控除額)× 2分の1(国税庁 No.1420)

ポイントは2つです。第一に、勤続年数に応じた退職所得控除額をまるごと差し引けること。第二に、控除しきれなかった残りも、最後に2分の1にしてから税率をかけること。この「控除+2分の1」の二段構えが、退職金の税負担を大きく下げています。

3. 退職所得控除額の計算(勤続20年が分岐点)

退職所得控除額は、勤続年数によって計算式が変わります。国税庁 No.1420 のとおり、次の表で計算します。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
20年超800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

※勤続年数に1年未満の端数があるときは、1年に切り上げます(例:30年2か月→31年)。

勤続年数ごとに退職所得控除額がいくらになるかを、具体的に示すと次のとおりです。

勤続年数退職所得控除額の計算退職所得控除額
10年40万円 × 10年400万円
20年40万円 × 20年800万円
25年800万円 + 70万円 × 5年1,150万円
30年800万円 + 70万円 × 10年1,500万円
38年800万円 + 70万円 × 18年2,060万円

勤続20年を超えると1年あたりの控除額が40万円から70万円に増えるため、長く勤めた人ほど有利になります。たとえば勤続38年なら退職所得控除額は2,060万円。退職金が2,060万円以下であれば、それだけで所得税・住民税はゼロになります。

4. 実際にいくら引かれるのか(計算例)

仕組みは分かっても、結局いくら手取りが残るのかが知りたいところです。2つのケースで計算してみます。所得税には復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)が上乗せされ、住民税は退職所得に対して一律10%(道府県民税4%+市町村民税6%)が分離課税されます。

ケースA:勤続30年・退職金2,000万円

項目金額
退職金(収入金額)20,000,000円
退職所得控除額(800万+70万×10年)15,000,000円
課税退職所得金額((2,000万-1,500万)×1/2)2,500,000円
所得税(速算表:10%-97,500円)152,500円
復興特別所得税(所得税×2.1%)3,202円
住民税(課税退職所得×10%)250,000円
税額合計約405,702円
手取り約19,594,298円

2,000万円の退職金で、引かれる税金は約40万円。実効税率はわずか約2%です。

ケースB:勤続10年・退職金500万円

項目金額
退職金(収入金額)5,000,000円
退職所得控除額(40万×10年)4,000,000円
課税退職所得金額((500万-400万)×1/2)500,000円
所得税(速算表:5%)25,000円
復興特別所得税(所得税×2.1%)525円
住民税(課税退職所得×10%)50,000円
税額合計約75,525円
手取り約4,924,475円

同じ500万円を給与や賞与で受け取れば、所得税・住民税・社会保険料で大きく目減りします。退職金がいかに優遇されているかが分かります。

💡 所得税の速算表(課税退職所得金額に対応):195万円以下=5%/195万円超330万円以下=10%・控除97,500円/330万円超695万円以下=20%・控除427,500円/695万円超900万円以下=23%・控除636,000円/900万円超1,800万円以下=33%・控除1,536,000円/1,800万円超4,000万円以下=40%・控除2,796,000円/4,000万円超=45%・控除4,796,000円。

5. 「2分の1」が使えない人がいる(短期退職・特定役員)

退職金の優遇の柱である「2分の1」課税ですが、勤続年数が短い場合には制限があります。ここを誤解している経営者は少なくありません。

区分対象2分の1課税の扱い
特定役員退職手当等役員等としての勤続年数が5年以下の役員等2分の1課税は適用なし(控除後の全額が課税対象)
短期退職手当等役員等以外で勤続年数が5年以下の人控除後の残額のうち300万円を超える部分は2分の1課税なし

つまり、設立して間もない会社で社長が短期間だけ役員を務めて高額の退職金を取る、といった使い方は税制上ブロックされています。退職金の優遇は「長く働いた人への報償」という制度趣旨に沿って設計されているわけです。

6. 【最新】2026年から「5年ルール」が「10年ルール」へ

ここが、2026年に退職金を考えるうえで最も重要な改正点です。退職所得控除は「勤続年数」で決まりますが、同じ期間を別々の退職金で二重に使えないよう調整する規定があります。iDeCo(個人型確定拠出年金)の一時金と会社の退職金を、別の年に受け取るときに関係します。

令和7年度税制改正により、2026年(令和8年)1月1日以後、iDeCoなどの確定拠出年金の一時金を先に受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合、退職所得控除の重複排除の対象となる期間が、従来の「前年以前4年内」から「前年以前9年内」へ拡大されました。これがいわゆる「5年ルール → 10年ルール」です。

💡 改正のポイント:iDeCo等の一時金を先に受け取り、その後に退職金を受け取るケースでは、退職金を受け取る年の前年以前9年内(改正前は4年内)にiDeCoの一時金を受け取っていると、退職所得控除の計算で勤続(加入)期間の重複が排除され、控除額が小さくなります(2026年1月1日以後に受け取る退職金から適用)。
❌ やりがちな失敗
  • 60歳でiDeCoを一時金で受け取り、65歳で会社の退職金を受け取る計画を立てていた(旧5年ルールなら控除を満額使えたが、新10年ルールでは重複排除され税負担が増える)
  • iDeCoと退職金を「とりあえず近い時期に」受け取り、両方で退職所得控除を満額使えると思い込んでいた
  • 受け取る順番・年だけで税額が大きく変わることを知らずに手続きしてしまった
⭕ 王道の対応
  • iDeCoと退職金がある人は、受け取る順番と年(タイミング)を設計してから動く
  • 「退職金を先に受け取り、その後にiDeCo」の順なら別の調整ルール(前年以前19年内)が適用されるため、自分の年齢・退職予定とあわせて有利な順番を試算する
  • 2026年以降の受け取りは新ルール前提で、退職前に一度シミュレーションする
💬 実務の現場から
——弊社にも、「退職金とiDeCoをどの順番で、いつ受け取れば税金が一番軽くなるのか」というご相談が、定年を控えた方や経営者から実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、受け取るタイミングを1〜2年ずらすだけで税額が変わるケースは珍しくありません。私たちが関与する場面では、退職金・iDeCo・公的年金の受け取り時期を一体で試算し、生涯の手取りが最大になる順番をご提案するところまでお手伝いしています。

7. 経営者の退職金は「最後の大きな節税」

ここまでは主に受け取る側の話でしたが、会社を経営する側にとって退職金はさらに重要です。役員退職金は、会社にとっては損金(経費)になり、受け取る役員個人にとっては優遇された退職所得になります。つまり、法人税の節税と個人の手取り確保を同時に実現できる、数少ない場面です。これは事業承継・M&Aの「出口」設計の中核でもあります。

ただし、役員退職金として損金にできる金額には「不相当に高額な部分は損金不算入」という上限があります(法人税法第34条)。実務では、次の「功績倍率法」が一つの目安として広く用いられています。

💡 功績倍率法(実務上の目安):役員退職金 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率。功績倍率は役職に応じた倍率で、代表取締役で3.0前後が一つの目安とされますが、絶対的な基準ではなく、同業同規模の支給実態などから個別に判断されます。

役員退職金は、株主総会の決議や退職の事実など手続き・タイミングの要件も厳格です。金額の妥当性も含め、支給の前に必ず専門家と設計することをおすすめします。

8. 手続きで損しないために(退職所得の受給に関する申告書)

退職金を受け取るときに必ず提出したいのが「退職所得の受給に関する申告書」です。これを勤務先(支払者)に提出しておくと、支払者が退職所得控除を適用して正しい税額を計算し、源泉徴収してくれるため、原則として確定申告は不要になります。

逆に、この申告書を提出しないと、退職金の支払金額に対して一律20.42%の所得税・復興特別所得税が源泉徴収されてしまいます(国税庁 No.2732)。退職所得控除が反映されないため、多くの場合は払いすぎになり、取り戻すには自分で確定申告が必要になります。

❌ やりがちな失敗
  • 「退職所得の受給に関する申告書」を出し忘れ、退職金から20.42%が天引きされてしまった
  • 払いすぎた税金を取り戻す確定申告をせず、そのままにしている
  • 医療費控除や住宅ローン控除などで、退職所得を含めて確定申告したほうが有利なケースを見落としている
⭕ 王道の対応
  • 退職金を受け取る前に、勤務先へ「退職所得の受給に関する申告書」を必ず提出する
  • 申告書を出し忘れて源泉徴収されすぎた場合は、確定申告で精算(還付)を受ける
  • 退職した年は所得が変動するため、ふるさと納税や各種控除とあわせて確定申告の要否を確認する

よくある質問(FAQ)

退職金にも社会保険料はかかりますか?

いいえ。退職金(退職手当)には、健康保険・厚生年金などの社会保険料はかかりません。引かれるのは所得税・復興特別所得税・住民税のみで、給与や賞与より負担が軽くなります。

退職金が退職所得控除額より少ない場合、税金はゼロですか?

はい。退職金の額が勤続年数に応じた退職所得控除額以下であれば、課税退職所得金額がゼロとなり、所得税・住民税はかかりません。

勤続年数の端数(◯年◯か月)はどう数えますか?

1年未満の端数は1年に切り上げて計算します。たとえば勤続20年1か月でも21年として、退職所得控除額は800万円+70万円×1年=870万円になります。

iDeCoと会社の退職金、どちらを先に受け取るのが得ですか?

ケースにより異なります。2026年以後はiDeCoを先に受け取ると「10年ルール(前年以前9年内)」で重複調整されるため、年齢・退職時期・金額をふまえた個別の試算が必要です。

退職金をもらったら必ず確定申告が必要ですか?

「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出していれば、原則として確定申告は不要です。未提出で源泉徴収されすぎた場合や、他の控除を使う場合は確定申告で精算します。

10. まとめ

退職金は、勤続年数に応じた退職所得控除を差し引き、さらに2分の1にしてから課税される、税制上きわめて優遇された所得です。ポイントは次のとおりです。

  • 退職所得控除は勤続20年が分岐点(20年以下=40万円×年数/20年超=800万円+70万円×超過年数)。
  • 勤続5年以下の役員・短期退職者は「2分の1」課税に制限がある。
  • 2026年から、iDeCoを先に受け取る場合の重複調整が「5年ルール→10年ルール」に拡大。受け取る順番と年で税額が変わる。
  • 経営者の役員退職金は法人の損金と個人の優遇所得を両立できる、事業承継の出口でもある。

「自分の退職金はいくら引かれるのか」「iDeCoと退職金をどう受け取るのが得か」「役員退職金をいくらまで損金にできるか」——税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」として、退職金の手取り試算から受け取りタイミングの設計、経営者の役員退職金・事業承継の出口戦略まで伴走支援しています。お気軽にご相談ください。

出典・参考資料

  • 所得税法 第30条(退職所得)・第34条の準用、法人税法 第34条(役員給与の損金不算入)
  • 国税庁 タックスアンサー No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732.htm
  • 令和7年度税制改正(退職所得控除の調整規定の見直し・確定拠出年金一時金との重複排除期間の拡大/2026年1月1日以後適用)
ご利用上の留意事項
本記事は、退職金の税金に関する一般的な情報提供であり、個別の税務判断に代わるものではありません。退職所得控除の計算や受け取りタイミングの有利不利、役員退職金の損金算入額は個別事情により異なります。実際の判断にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年6月8日

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」を掲げ、税務顧問・改正対応から資金調達・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp