棚卸資産の評価と期末棚卸の決定版|7つの評価方法・届出期限・評価損の要件を税理士が解説【2026年版】

決算の直前に、経理担当者から「在庫の金額はいくらで入れますか」と聞かれて、毎年なんとなく答えている——中小企業ではよくある光景です。 しかし、期末の棚卸資産の金額は売上原価を通じてそのまま利益に直結します。在庫を100万円多く計上すれば、利益が100万円増え、法人税等がその分増えます。逆に在庫を落とせば利益が減ります。だからこそ税務調査で必ず見られる論点であり、同時に、評価方法の届出を出していないだけで、選べたはずの方法が使えなくなっている会社が実際に少なくありません。 税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも、「売れ残った在庫を評価損で落とせますか」というご相談が実際に寄せられます。結論から申し上げると、落とせる場合と落とせない場合が条文と通達ではっきり分かれています。 本記事では、選べる7つの評価方法、届出をしなかった場合の法定評価方法、変更の3年ルール、取得価額に入れるもの・入れなくてよいもの、実地棚卸に代えられる方法、そして評価損を計上できる事実とできない事実まで、棚卸資産の税務を条文レベルで整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 3行サマリー
  2. 2. 棚卸資産の評価が利益を決める——出発点の条文
  3. 3. 選べる評価方法——原価法6種類と低価法(省略せず全掲載)
  4. 4. 届出をしないとどうなるか——法定評価方法は最終仕入原価法
  5. 5. 評価方法の変更——「3年」の壁
  6. 6. 取得価額に何を入れるか——3%の実務基準
  7. 7. 実地棚卸——「代えられる」条件がある
  8. 8. 評価損——落とせる事実と、落とせない事実
  9. 9. 個人事業主の場合——白色申告は原価法しか選べない
  10. 10. 消費税——免税と課税を行き来するときの調整
  11. 11. 失敗vs王道
  12. 12. まとめ
  13. よくある質問(FAQ)

1. 3行サマリー

  • 期末の棚卸資産の価額は、法人が選定した評価の方法により評価した金額です。評価の方法を選定しなかった場合、または選定した方法により評価しなかった場合は、最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法によります(法人税法第29条第1項、法人税法施行令第31条第1項)。
  • 選べるのは原価法6種類(個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法)と低価法です(法人税法施行令第28条第1項)。低価法を使うには届出が必要で、届出をしていない会社は自動的に最終仕入原価法になります。
  • 在庫が売れ残っただけでは評価損を計上できません。「単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、評価損の計上ができる事実に該当しない」と通達が明記しています(法人税基本通達9−1−6)。落とせるのは、災害による著しい損傷・著しい陳腐化・破損や型崩れ等に準ずる特別の事実があるときです。

2. 棚卸資産の評価が利益を決める——出発点の条文

法人税法第29条第1項は、期末棚卸資産の価額について次のように定めています。

棚卸資産の取得価額の平均額をもつて事業年度終了の時において有する棚卸資産の評価額とする方法その他の政令で定める評価の方法のうちからその内国法人が当該期末棚卸資産について選定した評価の方法により評価した金額(評価の方法を選定しなかつた場合又は選定した評価の方法により評価しなかつた場合には、評価の方法のうち政令で定める方法により評価した金額)とする。

売上原価は「期首棚卸高+当期仕入高−期末棚卸高」で計算されますから、期末棚卸高が大きいほど売上原価が小さくなり、利益が大きくなります。棚卸資産の評価方法とは、この「期末棚卸高をいくらとするか」のルールです。

3. 選べる評価方法——原価法6種類と低価法(省略せず全掲載)

法人税法施行令第28条第1項が定める評価の方法は、次のとおりです。条文の定義を要約せずに掲げます。

① 原価法(6種類)

期末棚卸資産につき次のいずれかの方法によってその取得価額を算出し、その算出した取得価額をもって期末棚卸資産の評価額とする方法です。

  • 個別法……期末棚卸資産の全部について、その個々の取得価額をその取得価額とする方法
  • 先入先出法……期末棚卸資産を種類等(種類、品質および型)の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、期末棚卸資産を事業年度終了の時から最も近い時において取得をした種類等を同じくする棚卸資産から順次成るものとみなし、そのみなされた棚卸資産の取得価額をその取得価額とする方法
  • 総平均法……種類等の同じものについて、期首の取得価額の総額と当期取得分の取得価額の総額との合計額を、これらの総数量で除して計算した価額を、その一単位当たりの取得価額とする方法
  • 移動平均法……種類等の同じものについて、取得の都度、平均単価を改定したものとみなし、事業年度終了の時から最も近い時において改定されたものとみなされた一単位当たりの取得価額を、その一単位当たりの取得価額とする方法
  • 最終仕入原価法……種類等の同じものについて、事業年度終了の時から最も近い時において取得をしたものの一単位当たりの取得価額を、その一単位当たりの取得価額とする方法
  • 売価還元法……期末棚卸資産を種類等または通常の差益の率の異なるごとに区別し、期末の通常の販売価額の総額に原価の率を乗じて計算した金額をその取得価額とする方法

② 低価法

期末棚卸資産を種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、原価法により評価した価額と、当該事業年度終了の時における価額とのうち、いずれか低い価額をもってその評価額とする方法です(同項第2号)。

個別法が使えない棚卸資産

⚠️ 個別法(およびそれを基礎とする低価法)は、棚卸資産のうち通常一の取引によって大量に取得され、かつ、規格に応じて価額が定められているものについては選定することができません(法人税法施行令第28条第2項)。ネジや部材のように大量・規格品として仕入れるものは、個別法では評価できません。

低価法の「時価」とは

低価法を適用する場合の「当該事業年度終了の時における価額」は、その時においてその棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額(棚卸資産の期末時価)によります(法人税基本通達5−2−11)。

💡 通達は注記で、期末時価の算定にあたっては「通常、商品又は製品として売却するものとした場合の売却可能価額から、見積追加製造原価(未完成品に限る)および見積販売直接経費を控除した正味売却価額による」ことに留意すると述べています。単なる「仕入値が下がった」ではなく、売却可能価額から出すという点が重要です。

低価の事実の判定は、原則として棚卸資産の種類等の同じものについて行いますが、法人が事業の種類ごとに、かつ施行令第29条第1項に規定する棚卸資産の区分ごとに一括して計算した場合には、これを認めるとされています(法人税基本通達5−2−9)。

4. 届出をしないとどうなるか——法定評価方法は最終仕入原価法

評価の方法を選定しなかった場合、または選定した評価の方法により評価しなかった場合の評価方法は、最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法です(法人税法施行令第31条第1項)。

🔴 つまり、届出を出していない会社は、自動的に最終仕入原価法になります。低価法を使いたければ、届出が必要です。

選定の単位

棚卸資産の評価の方法は、法人の行う事業の種類ごとに、かつ、次の資産の区分ごとに選定しなければなりません(法人税法施行令第29条第1項)。

  • 商品または製品(副産物および作業くずを除く)
  • 半製品
  • 仕掛品(半成工事を含む)
  • 主要原材料
  • 補助原材料その他の棚卸資産

なお、法人は事業所別に、または上記の区分をさらにその種類の異なるごとその他合理的な区分ごとに細分して、それぞれ異なる評価の方法を選定することができます(法人税基本通達5−2−12)。

届出の時期(法人)

  • 普通法人を設立した場合……設立第1期の確定申告書の提出期限(仮決算による中間申告書を提出するときはその提出期限)まで
  • 公益法人等および人格のない社団等が新たに収益事業を開始した場合……その事業年度の確定申告書の提出期限まで
  • 公共法人が収益事業を行う公益法人等に該当することとなった場合……その事業年度の確定申告書の提出期限まで
  • 公共法人または収益事業を行っていない公益法人等が普通法人等に該当することとなった場合……その事業年度の確定申告書の提出期限まで
  • 設立後、新たに他の種類の事業を開始し、あるいは事業の種類を変更した場合……その事業年度の確定申告書の提出期限(仮決算による中間申告書を提出するときはその提出期限)まで

提出先は納税地の所轄税務署長です(手続根拠:法人税法施行令第29条第2項、第184条第5項)。

💡 見落とされやすいのが最終行です。既存の会社でも、新しい種類の事業を始めたり、事業の種類を変えたりしたときは、その事業年度の確定申告書の提出期限までに届け出ることができます。新規事業を立ち上げたタイミングは、評価方法を見直す数少ない機会です。

特別な評価方法の承認

上記の7つ以外の評価方法を使いたい場合は、納税地の所轄税務署長の承認を受ける必要があります(法人税法施行令第28条の2)。申請書には、採用しようとする評価の方法の内容、その方法を採用しようとする理由、その方法により評価額の計算をしようとする事業の種類および資産の区分等を記載します。税務署長は、その方法によっては各事業年度の所得の金額の計算が適正に行われ難いと認めるときは、申請を却下します。

5. 評価方法の変更——「3年」の壁

いったん選定した評価方法を変更しようとするときは、納税地の所轄税務署長の承認を受けなければなりません(法人税法施行令第30条第1項)。

  • 申請書は、その新たな評価の方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに提出します(同条第2項)。
  • 税務署長は、現によっている評価の方法を採用してから相当期間を経過していないとき、または変更しようとする評価の方法によっては所得の金額の計算が適正に行われ難いと認めるときは、申請を却下することができます(同条第3項)。
  • 申請書の提出があった場合において、その事業年度終了の日まで(中間申告書を提出すべき法人については、その事業年度開始の日以後6か月を経過した日の前日まで)にその申請につき承認または却下の処分がなかったときは、その日において承認があったものとみなされます(同条第5項)。

「相当期間」=原則3年

法人税基本通達5−2−13は、「相当期間」を次のとおり具体化しています。

一旦採用した棚卸資産の評価の方法は特別の事情がない限り継続して適用すべきものであるから、法人が現によっている評価の方法を変更するために変更承認申請書を提出した場合において、その現によっている評価の方法を採用してから3年を経過していないときは、その変更が合併や分割に伴うものである等その変更することについて特別な理由があるときを除き、相当期間を経過していないときに該当するものとする。

さらに注記で、「その変更承認申請書の提出が3年を経過した後になされた場合であっても、その変更することについて合理的な理由がないと認められるときは、その変更を承認しないことができる」としています。

🔴 「今期は利益が出そうだから低価法に変えて在庫を落とす」といった、その期の税負担を目的とする変更は通りません。3年経過は必要条件であって、十分条件ではありません。

6. 取得価額に何を入れるか——3%の実務基準

棚卸資産の取得価額は、資産の区分に応じて次のとおりです(法人税法施行令第32条第1項)。

  • 購入した棚卸資産……①その資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他その資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)+②その資産を消費し、または販売の用に供するために直接要した費用の額
  • 自己の製造、採掘、採取、栽培、養殖その他これらに準ずる行為に係る棚卸資産……①その資産の製造等のために要した原材料費、労務費および経費の額+②その資産を消費し、または販売の用に供するために直接要した費用の額
  • 上記以外の方法により取得をした棚卸資産……①その取得の時におけるその資産の取得のために通常要する価額+②その資産を消費し、または販売の用に供するために直接要した費用の額

なお、製造等に係る棚卸資産について算定した原価の額が上記①②の合計額と異なる場合において、その原価の額が適正な原価計算に基づいて算定されているときは、その原価の額に相当する金額をもって取得価額とみなされます(同条第2項)。

取得価額に算入しないことができる費用(3%基準)

法人税基本通達5−1−1は、購入した棚卸資産の取得価額に「これを消費し又は販売の用に供するために直接要した全ての費用の額」が含まれるとしたうえで、次に掲げる費用については、これらの費用の額の合計額が少額(当該棚卸資産の購入の代価のおおむね3%以内の金額)である場合には、その取得価額に算入しないことができるとしています。

  1. 買入事務、検収、整理、選別、手入れ等に要した費用の額
  2. 販売所等から販売所等へ移管するために要した運賃、荷造費等の費用の額
  3. 特別の時期に販売するなどのため、長期にわたって保管するために要した費用の額

注記も重要です。

  • 上記(1)〜(3)の費用の額の合計額が少額かどうかは、事業年度ごとに、かつ、種類等を同じくする棚卸資産ごとに判定することができます(事業所別に異なる評価方法を選定している場合には、事業所ごとの種類等を同じくする棚卸資産ごと)。
  • 棚卸資産を保管するために要した費用(保険料を含む)のうち(3)に掲げるもの以外のものの額は、その取得価額に算入しないことができます

そもそも入れなくてよい費用

法人税基本通達5−1−1の2は、次に掲げる費用の額は、たとえ棚卸資産の取得または保有に関連して支出するものであっても、その取得価額に算入しないことができるとしています。6項目すべてを掲げます。

  1. 不動産取得税の額
  2. 地価税の額
  3. 固定資産税および都市計画税の額
  4. 特別土地保有税の額
  5. 登録免許税その他登記または登録のために要する費用の額
  6. 借入金の利子の額
💡 不動産販売業のように土地・建物を棚卸資産として保有する事業では、固定資産税・不動産取得税・登録免許税・借入金利子を在庫原価に含めるかどうかで、期末の在庫金額が大きく変わります。通達は「算入しないことができる」としているので、含めない処理を選べば、その期の費用として落ちることになります。ここは決算前に必ず確認すべき論点です。

購入代価が期末までに確定していない場合

棚卸資産を取得した日の属する事業年度においてその購入の代価が確定していないため見積価額で取得価額を計算している場合において、その後の事業年度において購入の代価が確定したときは、その確定した金額と見積価額との差額に相当する金額は、その確定した日の属する事業年度の益金の額または損金の額に算入します。ただし、その差額が多額である場合には、原価差額の調整方法に準じて調整します(法人税基本通達5−1−2)。

7. 実地棚卸——「代えられる」条件がある

法人税基本通達5−4−1は、棚卸しの手続について次のとおり定めています。

棚卸資産については各事業年度終了の時において実地棚卸しをしなければならないのであるが、法人が、その業種、業態及び棚卸資産の性質等に応じ、その実地棚卸しに代えて部分計画棚卸しその他合理的な方法により当該事業年度終了の時における棚卸資産の在高等を算定することとしている場合には、継続適用を条件としてこれを認める

つまり、原則は期末日の実地棚卸ですが、部分計画棚卸し(サイクル棚卸し)その他の合理的な方法を継続して適用しているなら認められます。24時間稼働の工場や、多拠点で在庫を持つ小売業では現実的な選択肢です。

⚠️ ポイントは「継続適用を条件として」です。今年は実地、来年は帳簿在庫、という運用は認められません。方法を決めたら文書化し、毎期同じやり方を続けてください。

8. 評価損——落とせる事実と、落とせない事実

ここが最も相談の多い論点です。

原則は「評価損は損金にならない」

法人税法第33条第1項は、「内国法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、その減額した部分の金額は、損金の額に算入しない」と定めています。原則は損金不算入です。

例外=政令で定める事実がある場合

同条第2項は、災害による著しい損傷により資産の価額が帳簿価額を下回ることとなったことその他の政令で定める事実が生じた場合において、法人が評価換えをして損金経理により帳簿価額を減額したときは、評価換え直前の帳簿価額と評価換えをした日の属する事業年度終了の時における価額との差額に達するまでの金額を損金の額に算入すると定めています。

棚卸資産について「政令で定める事実」は、次のとおりです(法人税法施行令第68条第1項第1号)。

  • 当該資産が災害により著しく損傷したこと
  • 当該資産が著しく陳腐化したこと
  • イまたはロに準ずる特別の事実

「著しい陳腐化」の意味と例示

法人税基本通達9−1−4は、「著しく陳腐化したこと」の意味を次のとおり定義しています。

棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないにもかかわらず経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあることをいう。

そのうえで、例えば商品について次のような事実が生じた場合がこれに該当するとしています。

  1. いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らかであること
  2. 当該商品と用途の面ではおおむね同様のものであるが、型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、当該商品につき今後通常の方法により販売することができないようになったこと

「準ずる特別の事実」の例示

法人税基本通達9−1−5は、「イ又はロに準ずる特別の事実」には、例えば破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになったことが含まれるとしています。

🔴 落とせない場合

法人税基本通達9−1−6は、明確に釘を刺しています。

棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、評価損の計上ができる事実に該当しないことに留意する。

「作りすぎた」「相場が下がった」「値下げした」——これらは評価損の理由になりません。ここが、実務で最も誤解される部分です。

💬 実務の現場から
「倉庫に何年も動いていない在庫がある」というご相談は実際によく寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、なぜ売れないのかを説明できるかどうかが分かれ目になります。季節商品で時期を過ぎた、後継製品が出て仕様が合わなくなった、保管中に変色した——こうした事実があり、それを写真・在庫年齢表・値下げ販売の実績などで示せるなら、通達の例示に当てはめて検討できます。一方、「なんとなく売れない」だけでは、条文にも通達にも当てはまりません。在庫を落としたいなら、決算のときに考えるのではなく、事実が発生した時点で記録を残してください。

なお、評価損の計上を検討する前に、低価法を選定していれば、そもそも期末時価まで評価を下げられます(法人税法施行令第28条第1項第2号)。評価損の要件は厳しいので、在庫の値下がりが構造的に発生する事業では、低価法の届出を出しておくほうが現実的です。

9. 個人事業主の場合——白色申告は原価法しか選べない

個人事業主にも同じ枠組みがありますが、いくつか重要な違いがあります。

  • 選べる評価方法は法人と同じ7種類ですが、🔴その年分の所得税について青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けていない場合には、原価法(6種類)のみとされています(所得税法施行令第99条第1項)。白色申告では低価法を使えません
  • 届出は、新たに事業所得を生ずべき事業を開始した日、または新たに他の種類の事業を開始し、もしくは事業の種類を変更した日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに行います(同令第100条第2項)。
  • 評価方法を変更する場合の申請書は、その新たな評価の方法を採用しようとする年の3月15日までに提出します(同令第101条第2項)。その年の12月31日までに承認または却下の処分がなかったときは、同日において承認があったものとみなされます(同条第5項)。
  • 届出をしなかった場合の法定評価方法は、法人と同じく最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法です(同令第102条第1項)。

10. 消費税——免税と課税を行き来するときの調整

棚卸資産は、消費税でも独立した論点があります(国税庁タックスアンサーNo.6491)。

  • 免税事業者が課税事業者となる日の前日において所有する棚卸資産のうち、免税事業者であった期間中の課税仕入れ等に係るものがある場合は、その棚卸資産についての課税仕入れ等の税額は、課税事業者となった課税期間の仕入控除税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額とみなされます。適用を受けるには、対象となる棚卸資産の明細を記録した書類を、作成した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存しなければなりません。
  • 課税事業者が免税事業者となる日の前日において所有する棚卸資産のうち、その前日の属する課税期間中に仕入れたものについての課税仕入れ等の税額は、その課税期間における仕入控除税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額に含めません。なお、免税事業者となる課税期間の直前の課税期間において簡易課税制度の適用を受けるときは、この調整を行う必要はありません
  • 対象となる棚卸資産は、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵中の消耗品等で、現に所有しているものです。取得価額には、購入金額のほか、引取運賃や荷造費用、そのほかこれを購入するために要した費用の額などが含まれます。
  • 仕入税額控除の対象とすることができる消費税額は、その棚卸資産の取得価額に110分の7.8(軽減税率の適用対象となる棚卸資産については108分の6.24)を掛けた金額です。
  • インボイス制度の経過措置(免税事業者等からの仕入れについて仕入税額相当額の一定割合を控除できる措置)の適用を受けていた棚卸資産を有している場合には、調整する課税仕入れ等の税額は、その棚卸資産を仕入れた時期に応じた割合を掛けて計算します。割合は令和8年度税制改正で見直されており、令和5年10月1日から令和8年9月30日までは80%、令和8年10月1日から令和10年9月30日までは70%、令和10年10月1日から令和12年9月30日までは50%、令和12年10月1日から令和13年9月30日までは30%です(28年改正法附則52、53。国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問113〔令和8年4月改訂〕)。
💡 インボイス制度で課税事業者になった年は、開始日の前日の在庫について仕入控除税額を取れます。届出や明細の保存が要件になっているため、「気づかなかった」で取り損ねる事業者が出やすい論点です。あわせて、令和8年10月1日以後の仕入分は経過措置の割合が80%から50%へ下がる点にも注意してください。

11. 失敗vs王道

❌ よくある失敗
  • 評価方法の届出を出したことがなく、自動的に最終仕入原価法になっていることに気づいていない。値下がりが構造的に起きる商材なのに低価法を選べていない。
  • 「利益が出そうだから今期から低価法に変える」と決算間際に考える。変更承認申請書は採用しようとする事業年度開始の日の前日までであり、しかも採用から3年を経過していなければ却下されうる
  • 売れ残った在庫を「動かないから」という理由だけで評価損に落とす。単に物価変動・過剰生産・建値の変更等による低下は該当しない(通達9−1−6)。
  • 期末日の実地棚卸をやめて帳簿在庫に切り替え、翌期はまた実地に戻す。継続適用が条件なので、この運用は認められない。
  • 不動産販売業で、固定資産税・登録免許税・借入金利子を当然に在庫原価へ算入している。通達5−1−1の2により算入しないことができる
  • インボイス制度で課税事業者になった年に、開始日の前日の在庫に係る仕入控除税額の調整を取り忘れる。
  • 期末在庫の数量だけ数えて、単価の根拠資料(最終仕入の請求書等)を残していない。調査で単価を説明できない。
⭕ 王道の進め方
  • まず自社が何法で評価しているかを届出書の控えで確認する。控えがなければ最終仕入原価法である前提で組み立てる。
  • 評価方法を変えたいなら、変更したい事業年度が始まる前日までに申請する。理由は税負担ではなく、在庫の実態を適正に表すことで組み立てる。3年経過も確認する。
  • 新規事業を始めた年は、評価方法を届け出られる(施行令第29条第2項第5号)。事業の種類が増えたタイミングを逃さない。
  • 在庫の値下がりが構造的に起きる事業は、評価損ではなく低価法で対応する。評価損は要件が厳しく、毎期は使えない。
  • 評価損を検討するなら、事実が起きた時点で証拠を残す。季節商品の販売期間、後継製品の発売時期と仕様差、破損や変色の写真、値下げ販売の実績。決算のときに集め始めない。
  • 実地棚卸に代える方法を採るなら、手順書を作り、継続適用する
  • 期末在庫は数量・単価・金額の3点セットで根拠資料を綴る。単価の根拠(最終仕入の請求書、原価計算資料)まで残す。

12. まとめ

  • 期末棚卸資産の価額は、法人が選定した評価の方法によります。選定しなかった場合・選定した方法で評価しなかった場合は、最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法です(法人税法第29条第1項、施行令第31条第1項)。
  • 選べるのは原価法6種類(個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法)と低価法です。個別法は、通常一の取引によって大量に取得され、規格に応じて価額が定められているものには選定できません。
  • 届出は事業の種類ごと、かつ資産の区分ごとに行います。設立第1期のほか、新たに他の種類の事業を開始し、または事業の種類を変更した事業年度にも届け出られます。
  • 変更には税務署長の承認が必要で、申請は変更しようとする事業年度開始の日の前日まで採用から3年を経過していないときは、特別な理由がない限り却下されうるのが通達の立場です。
  • 取得価額には購入の代価と直接要した費用が入りますが、買入事務・検収・整理・選別・手入れ等の費用等は購入の代価のおおむね3%以内なら算入しないことができ不動産取得税・地価税・固定資産税および都市計画税・特別土地保有税・登録免許税等・借入金の利子は、そもそも算入しないことができます
  • 評価損が計上できるのは、災害による著しい損傷・著しい陳腐化・これらに準ずる特別の事実があるときに限られます。単に物価変動、過剰生産、建値の変更等で時価が下がっただけでは計上できません
  • 個人事業主は、青色申告の承認を受けていなければ原価法しか選べません。変更申請はその年の3月15日までです。

税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、在庫を持つ事業の決算について、評価方法の選定・変更の可否、取得価額に算入する費用の整理、評価損の要件該当性の検討、実地棚卸の手続設計まで一体でご支援しています。在庫の評価は決算月に決められることがほとんどありません。期首から数か月のうちにご相談ください。

よくある質問(FAQ)

棚卸資産の評価方法の届出を出した記憶がありません。どうなっていますか?

届出をしていない場合、または届け出た方法によって評価しなかった場合の評価方法は、最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法です(法人税法施行令第31条第1項)。多くの中小企業がこの状態にあります。最終仕入原価法は期末に最も近い時の仕入単価で一律に評価する方法で、事務負担は軽い一方、値下がりを反映できません。値下がりが構造的に起きる商材を扱っているなら、低価法の届出を検討する価値があります。

今期から低価法に変えて、在庫を時価まで下げられますか?

今期からは変えられません。評価方法の変更には税務署長の承認が必要で、申請書は新たな評価の方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに提出する必要があります(法人税法施行令第30条第2項)。さらに法人税基本通達5−2−13により、現在の方法を採用してから3年を経過していないときは、合併や分割に伴うもの等の特別な理由がない限り却下されうるとされています。3年を経過していても、変更に合理的な理由がないと認められるときは承認されないことがあります。

何年も売れていない在庫を評価損で落とせますか?

「売れていない」という事実だけでは落とせません。法人税基本通達9−1−6は、棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、評価損の計上ができる事実に該当しないと明記しています。落とせるのは、災害により著しく損傷した場合、著しく陳腐化した場合(季節商品の売れ残りで今後通常の価額では販売できないことが既往の実績等から明らかな場合、型式・性能・品質等が著しく異なる新製品の発売により通常の方法で販売できなくなった場合)、およびこれらに準ずる破損・型崩れ・たなざらし・品質変化等がある場合です。

期末に必ず実地棚卸をしなければいけませんか?

原則は各事業年度終了の時における実地棚卸です。ただし法人税基本通達5−4−1により、業種、業態および棚卸資産の性質等に応じ、実地棚卸に代えて部分計画棚卸しその他合理的な方法で期末の在高等を算定している場合には、継続適用を条件として認められます。重要なのは継続適用で、年によって方法を変える運用は認められません。採用する方法を手順書として文書化し、毎期同じやり方を続けてください。

仕入れた商品の運賃や検収の人件費は、在庫の金額に含めますか?

引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税などは購入の代価に加算します(法人税法施行令第32条第1項第1号)。一方、買入事務・検収・整理・選別・手入れ等に要した費用、販売所等から販売所等へ移管するための運賃・荷造費、特別の時期に販売するため長期保管するための費用については、これらの合計額が購入の代価のおおむね3%以内であれば取得価額に算入しないことができます(法人税基本通達5−1−1)。少額かどうかは事業年度ごと、種類等を同じくする棚卸資産ごとに判定できます。

不動産販売業です。土地の固定資産税や借入金利子は在庫原価に入れますか?

法人税基本通達5−1−1の2により、不動産取得税、地価税、固定資産税および都市計画税、特別土地保有税、登録免許税その他登記・登録に要する費用、借入金の利子については、たとえ棚卸資産の取得または保有に関連して支出するものであっても、取得価額に算入しないことができます。算入しない処理を選べば、その期の費用として損金になります。保有期間が長い事業では金額が大きくなるため、方針を決めて継続適用してください。

インボイス制度で課税事業者になりました。在庫について何かできますか?

免税事業者が課税事業者となる日の前日において所有する棚卸資産のうち、免税事業者であった期間中の課税仕入れ等に係るものについては、その課税仕入れ等の税額を、課税事業者となった課税期間の仕入控除税額の計算の基礎に含めることができます(国税庁タックスアンサーNo.6491)。対象となる棚卸資産の明細を記録した書類を、作成した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存することが要件です。金額は取得価額に110分の7.8(軽減税率対象は108分の6.24)を掛けて計算します。

個人事業主でも低価法は使えますか?

その年分の所得税について青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている場合に限り使えます。承認を受けていない(白色申告の)場合は、原価法6種類の中からしか選べません(所得税法施行令第99条第1項)。また評価方法の変更申請は、その新たな評価の方法を採用しようとする年の3月15日までに提出する必要があり、その年の12月31日までに承認・却下の処分がなかったときは承認があったものとみなされます(同令第101条)。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、棚卸資産の評価および期末棚卸の手続についての一般的な情報提供であり、個別の取引に関する税務判断に代わるものではありません。評価方法の変更が承認されるかどうか、評価損の計上ができる事実に該当するかどうか、実地棚卸に代える方法が合理的といえるかどうかは、いずれも個別の事実関係により結論が異なり、税務署長の判断によります。取得価額に算入しないことができる費用の取扱いは、継続して適用することが前提となります。消費税の棚卸資産に係る調整およびインボイス制度の経過措置については、適用期間および要件を最新の情報でご確認ください。個別の判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年8月3日

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公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、棚卸資産の評価方法の選定・変更の可否、取得価額に算入する費用の整理、評価損の要件該当性の検討、実地棚卸の手続設計まで一体でご支援しています。在庫の評価は決算月に決められることがほとんどありません。期首から数か月のうちにご相談ください。

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」を掲げ、税務顧問・改正対応から資産防衛・相続・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。