短期前払費用の決定版|1年分を前払いして全額損金にできる条件と「2月払いはダメ」の理由を税理士が解説【2026年版】

「今期は利益が出そうなので、家賃を1年分まとめて払ってしまいましょう」——決算前になると必ず出てくる話です。 これは短期前払費用という取扱いを使った、正真正銘の合法的な手当てです。根拠は法人税基本通達2−2−14(短期の前払費用)。ただし、使い方をひとつ間違えると全額が否認されます。しかも、この論点でいちばん誤解されているのは「1年以内ならいい」という理解のほうです。 税理士法人 小山・ミカタパートナーズにも、「決算対策で来期分の家賃を先に払いたい」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、危ないのは支払う時期です。国税庁は質疑応答事例のなかで、同じ「1年分の前払い」でも、支払うタイミングによって認められる事例と認められない事例をはっきり分けて示しています。ここを知らずに「1年分だから大丈夫」と処理している会社が、実務では少なくありません。 本記事では、前払費用がなぜ原則として今期の経費にならないのかという土台から、短期前払費用の要件、国税庁が示した5つの事例の境界線、消費税と個人事業主の扱い、そして翌期以降の縛りまでを、通達の原文とあわせて整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 3行サマリー
  2. 2. まず土台——費用はいつ損金になるのか
  3. 3. 例外としての短期前払費用——通達の原文
  4. 4. 「1年以内」の起算点は支払った日——国税庁が示した5つの事例
  5. 5. そもそも使えないもの
  6. 6. 消費税はどうなるか——法人税に連動する
  7. 7. 個人事業主の場合——12月31日が基準
  8. 8. いちばん重い縛りは「継続」——出口まで考えてから使う
  9. 9. 実務で押さえるべきこと
  10. 10. 失敗vs王道
  11. 11. まとめ
  12. よくある質問(FAQ)

1. 3行サマリー

  • 費用が今期の損金になるかどうかは、債務が確定しているかで決まります(法人税法第22条第3項第2号、法人税基本通達2−2−12)。来期分の家賃を先に払っても、来期の役務に対応する部分は本来「前払費用」として資産に計上され、今期の損金にはなりません。
  • その例外が法人税基本通達2−2−14(短期の前払費用)です。支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係る前払費用を支払い、その全額を継続して支払った日の属する事業年度の損金に算入しているときは、それが認められます。企業会計の重要性の原則を税務でも認める、という趣旨です。
  • 落とし穴は支払時期です。国税庁の質疑応答事例では、3月決算法人が3月末に翌年3月までの1年分を払う事例は「認められる」、2月に翌年3月までの1年分を払う事例は「認められない」とされています。役務を受け始める前に払い、支払時から1年を超える期間が対価の対象期間になるためです。

2. まず土台——費用はいつ損金になるのか

法人税法第22条第3項は、その事業年度の損金の額に算入すべき金額を3つに分けています。第2号が「販売費、一般管理費その他の費用」で、条文はここに「償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く」という縛りをかけています。これが実務でいう債務確定主義です。

では「債務が確定している」とは何か。法人税基本通達2−2−12が、次の3つをすべて満たすものと定めています。

(1) 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。
(2) 当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
(3) 当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。
(法人税基本通達2−2−12)

国税庁も、修繕費を例に「建物等の修繕を発注し、業者によって修繕が完了し、かつ金額の見積りが客観的にでき得る状況にあれば、上記の3つの要件を満たし未払金等として計上できる」と説明しています(タックスアンサーNo.5387)。

ここで注意したいのが (2) です。お金を払ったかどうかは要件になっていません。逆に言えば、払っただけでは損金になりません。来期分の家賃を今期に振り込んでも、来期の入居という「給付をすべき原因となる事実」はまだ起きていない。だから原則は資産(前払費用)です。

💡 ここを誤解される経営者がとても多いのですが、法人税は「払ったら経費」ではありません。役務を受けたか(債務が確定したか)で決まります。 「決算前に振り込んでおけば経費になる」という発想そのものが、原則から見れば例外を求めていることになります。

3. 例外としての短期前払費用——通達の原文

その例外が、法人税基本通達2−2−14です。原文をそのまま掲げます。

(短期の前払費用)
2−2−14 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
(法人税基本通達2−2−14)

国税庁のタックスアンサーNo.5380も同じ内容を、より平易にまとめています。

この通達から読み取れる要件を、実務の言葉に分解すると次の5つになります。

  1. 前払費用であること……「一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用」。単発の役務の対価や、物を買うための前払い(前払金)は、そもそもここに入りません。
  2. まだ役務の提供を受けていない部分であること……期末時点で未提供の部分が対象です。
  3. 支払った日から1年以内に提供を受ける役務であること……起算点は「期末」ではなく支払った日です。ここが第5章の分かれ目になります。
  4. 実際に支払っていること……通達は「支払った場合」と書いています。未払計上では使えません。
  5. 継続して支払時の損金にしていること……「継続して」が明文です。今期だけ、という使い方は想定されていません。
💡 実務でよくお見かけするのは、4番と5番の抜けです。決算月に請求書だけ受け取って未払計上する、あるいは利益が出た年だけ1年分払って翌年はやめる。どちらも通達の文言から外れます。

4. 「1年以内」の起算点は支払った日——国税庁が示した5つの事例

この論点でもっとも実務的な資料が、国税庁の質疑応答事例「短期前払費用の取扱いについて」です。年1回3月決算の法人が、次のような支払いを継続的に行う場合に2−2−14を適用してよいか、という照会に対する回答が公表されています(いずれも法人税法第64条の2第3項に規定するリース取引には該当しない賃貸借取引が前提)。

  • 事例1……期間40年の土地賃借。毎月月末に翌月分の地代月額1,000,000円を支払う。
  • 事例2……期間20年の土地賃借。毎年、地代年額(4月から翌年3月)241,620円を3月末に前払いする。
  • 事例3……期間2年(延長可能)のオフィスビルフロアの賃借。毎月月末に翌月分の家賃月額611,417円を支払う。
  • 事例4……期間4年のシステム装置のリース料。12か月分(4月から翌年3月)379,425円を3月下旬に支払う。
  • 事例5……期間10年の建物賃借。毎年、家賃年額(4月から翌年3月)1,000,000円を2月に前払いする。

回答は明快です。

・事例1から事例4までについては、照会意見のとおりで差し支えありません。
事例5については、法人税基本通達2−2−14の適用が認められません。
(国税庁 質疑応答事例「短期前払費用の取扱いについて」)

事例2と事例5は、どちらも「4月から翌年3月までの1年分を前払いする」という点では同じです。違うのは支払月だけ(3月末か、2月か)。それでも結論が分かれます。

国税庁は理由をこう説明しています。

本通達は、1年以内の短期前払費用について、収益との厳密な期間対応による繰延経理をすることなく、その支払時点で損金算入を認めるというものであり、企業会計上の重要性の原則に基づく経理処理を税務上も認めるというものです。
(中略)一方では、利益が出たから今期だけまとめて1年分支払うというような利益操作のための支出や収益との対応期間のズレを放置すると課税上の弊害が生ずると認められるものについては、これを排除していく必要があります。
このため、継続的な支払を前提条件とすることや収入との直接的な見合関係にある費用については本通達の適用対象外とするということは、従来と同様、当然に本通達の適用に当たって必要とされるのですが、これに加え、役務の受入れの開始前にその対価の支払が行われ、その支払時から1年を超える期間を対価支払の対象期間とするようなものは、何らかの歯止めを置いた上で本通達の適用を認めることが相当と考えられます。
(同上)

つまり、2月に払って翌年3月分まで賄うと、支払日から数えて13か月になります。通達の文言は「その支払った日から1年以内に提供を受ける役務」ですから、最後の1か月分が「1年以内」から外れる。これが事例5が落ちた理由です。

💡 実務での結論はシンプルです。3月決算なら、支払いは3月中に行う。 「決算対策だから早めに」と2月に動かすと、逆に全額が否認されうる。早く払うほうが危ないという、直感に反する論点です。

5. そもそも使えないもの

(1) 収益と直接ひもづく費用

通達の(注)が名指ししています。借入金を預金や有価証券等に運用する場合の、その借入金に係る支払利子。これは受取利息という収益と対応させる必要があるため、後段の取扱い(支払時損金)は使えません。タックスアンサーNo.5380も同じ注意書きを置いています。

この考え方は借入金利子に限りません。質疑応答事例の回答も「収入との直接的な見合関係にある費用」は対象外だと明示しています。売上原価に相当するもの、収益獲得に直接ひもづく外注費なども、同じ理屈で慎重に見る必要があります。

(2) そもそも前払費用でないもの

通達の定義は「一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用」です。ここから外れるものは、1年以内かどうか以前の問題として対象外です。

  • 物を買うための前払い(商品や資産の購入代金の手付金・前渡金)……役務ではありません。
  • 単発の役務の対価……「継続的に」に当たりません。
  • 期間の経過に関係なく提供される役務……たとえば、期間中に一度だけ成果物が納品されるようなもの。

(3) 未払いのもの

繰り返しになりますが、通達は「支払った場合」です。期末に未払計上しただけでは使えません。 決算日までに実際に資金が動いている必要があります。

6. 消費税はどうなるか——法人税に連動する

見落とされやすいのが消費税です。仕入税額控除は原則として「課税仕入れを行った日」=役務の提供を受けた日の属する課税期間で行います(消費税法基本通達11−3−1)。すると「法人税では今期の損金、消費税では来期の控除」というねじれが起きそうに見えます。

これを解消しているのが、消費税法基本通達11−3−8です。

11−3−8 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した課税仕入れに係る支払対価のうち当該課税期間の末日においていまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。)につき所基通37−30の2又は法基通2−2−14《短期前払費用》の取扱いの適用を受けている場合は、当該前払費用に係る課税仕入れは、その支出した日の属する課税期間において行ったものとして取り扱う。
(消費税法基本通達11−3−8)

つまり、法人税で短期前払費用の取扱いを使えば、消費税の仕入税額控除も同じ課税期間で取れます。逆に言えば、法人税で使わない(原則どおり資産計上する)なら、消費税も原則どおりになります。法人税と消費税をバラバラに処理しない、という点が実務のポイントです。

なお、インボイス制度のもとでは、控除を受けるために適格請求書等の保存が必要です。1年分をまとめて支払う場合も、その支払いに対応する適格請求書(または一定の要件を満たす契約書と支払の事実を示す書類の組み合わせ)を保存しておく必要があります。

相手が免税事業者のとき——経過措置の割合は「支払った日」で決まる

見落とされやすい応用論点があります。支払先が適格請求書発行事業者でない(免税事業者等の)場合です。この場合でも、区分記載請求書等と同様の記載事項が記載された請求書等と一定の記載をした帳簿を保存していれば、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置が使えます(所得税法等の一部を改正する法律〔平成28年法律第15号〕附則52、53)。

問題は割合です。この経過措置の割合は令和8年度税制改正で見直され、令和5年10月1日〜令和8年9月30日=80%、令和8年10月1日〜令和10年9月30日=70%、令和10年10月1日〜令和12年9月30日=50%、令和12年10月1日〜令和13年9月30日=30%の4段階になりました(国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問113〔令和8年4月改訂〕)。

ここで短期前払費用が効いてきます。国税庁は同Q&Aの問113−4(令和8年4月追加)で、3月決算法人が毎年1月にその年1年分(1月から12月分)の保守料金を支払い短期前払費用として処理している事例について、令和8年1月中に支払った令和8年分の保守料金は、短期前払費用の取扱いを受けていることを踏まえ、1年間分の保守料金全額について仕入税額相当額の80%の割合により経過措置の適用を受けることとして差し支えないとしています。

つまり、短期前払費用として処理すれば、課税仕入れの時期が支出した日の属する課税期間に固定されるため、経過措置の割合もその時点のもので確定します。令和8年9月30日までに支払った1年分については、翌年分に食い込む部分も含めて80%で計算できるということです。

💡 これは実務でかなり効きます。令和8年10月1日から割合が80%から70%に下がるため、免税事業者に支払う継続的な役務の対価は、9月中に1年分を支払って短期前払費用として処理すれば、その1年分は80%のままになります。ただし、第5章のとおり支払時期の縛り(支払った日から1年以内)は当然に守る必要があります。なお、経過措置の適用を受けた短期前払費用の金額が契約変更等により変動した場合は、変動が生じた課税期間の課税仕入れに係る消費税額に、当初の申告時に適用を受けた割合で加算または減算することとされています(同Q&A問113−4)。

7. 個人事業主の場合——12月31日が基準

法人だけの話ではありません。所得税にも同じ取扱いがあります。

(短期の前払費用)
37−30の2 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。
(所得税基本通達37−30の2)

構造は法人と同じで、基準日が「事業年度終了の時」から「その年12月31日」に変わるだけです。個人事業主の場合、12月中に支払えば翌年12月分までが射程に入ります。11月に払って翌年12月分まで、という組み方は、法人の事例5と同じ理由で危うくなります。

8. いちばん重い縛りは「継続」——出口まで考えてから使う

短期前払費用は、実はやめるときのほうが痛い取扱いです。

たとえば、家賃を月払い(年1,200万円)から3月末の年払いに切り替えた初年度を考えます。その年は、月払い11か月分+翌年度1年分を同じ事業年度で払うことになり、損金が一時的に大きく膨らみます。しかしこれは初年度限りの効果です。翌年度以降は毎年1年分ずつなので、損金の額は元に戻ります。

そして、資金繰りが苦しくなって年払いをやめると、その年度は支払いが発生しないため、家賃の損金がゼロになります。前年度までに1年分を先取りしているからです。やめた年に利益が跳ね上がる——これが最大のリスクです。

💬 実務の現場から
私たちが関与する場面でも、最初につまずきやすいのがここです。「今期の利益を圧縮したい」という一点で年払いに切り替え、翌々期に資金が回らなくなって月払いに戻す。そうすると戻した期の課税所得が跳ね上がり、結果として税負担を先送りしただけで、しかも苦しい年に重くなる。一般論として申し上げると、短期前払費用は節税ではなく、課税の繰延べです。使うなら、5年先まで払い続けられる金額に限るのが安全です。

もう一点。通達の「継続して」は、一度採用したら毎期続けることを求めています。利益の出た年だけ使い、出ない年はやめる、という運用は、質疑応答事例が名指しで排除している「利益操作のための支出」に近づきます。

9. 実務で押さえるべきこと

  • 契約書を先に直す。 月払いの契約のまま1年分を振り込んでも、契約上の債務は月ごとです。年払いに変更する旨を契約書か覚書で残します。
  • 支払日は決算月の中に置く。 3月決算なら3月中。前倒しは危険です。
  • 対象は「毎月同じサービスが続くもの」に絞る。 家賃、地代、リース料(法人税法上の売買扱いとなるリース取引を除く)、保守料、サーバー・システム利用料、保険料、会費など。
  • 金額の重要性を意識する。 この通達の趣旨は企業会計の重要性の原則です。売上規模に対して不相応に大きな前払いは、趣旨から外れます。
  • 消費税の処理を法人税に揃える。 消基通11−3−8。処理がズレていると、どちらかが誤りになります。
  • 借入金利子と、収益に直接ひもづく費用は外す。 通達の(注)と質疑応答事例の回答。

10. 失敗vs王道

❌ よくある失敗
  • 決算対策として、2月のうちに翌年3月までの1年分を前払いする(支払日から13か月=国税庁の事例5そのもの)。
  • 決算月に請求書だけもらい、未払計上して損金にする(通達は「支払った場合」)。
  • 利益の出た年だけ年払いにし、翌年は月払いに戻す(「継続して」の要件を欠く/利益操作と見られやすい)。
  • 商品仕入の前渡金や、単発のコンサルティング費用を短期前払費用として処理する(そもそも前払費用ではない)。
  • 借入金の利息を1年分前払いして損金にする(通達2−2−14の(注)で明確に対象外)。
  • 法人税では損金にしたのに、消費税は翌期の控除にしている(消基通11−3−8と不整合)。
  • 契約は月払いのままで、実際の振込だけ1年分にする(契約上の債務が確定していない)。
⭕ 王道の進め方
  • 対象を毎月同質のサービスが続くもの(家賃・地代・保守料・システム利用料・保険料等)に限定する。
  • 契約書または覚書を年払いに変更してから、決算月中に支払う。3月決算なら3月中。
  • 初年度に一時的な損金が出ることと、やめた年に反動が来ることを、5年程度の資金繰り表で先に見ておく。
  • 一度採用したら毎期継続する。やめる判断は、翌期以降の課税所得への影響を試算してから行う。
  • 法人税・消費税の処理を同じ課税期間に揃える(消基通11−3−8)。適格請求書の保存もあわせて確認する。
  • 借入金利子や収益に直接ひもづく費用は、最初から対象外として整理しておく。

11. まとめ

短期前払費用は、決算対策として使える数少ない「その場で効く」取扱いです。ただし、通達の文言は短く、そのぶん誤読の余地が大きい。

要点は3つです。第一に、起算点は期末ではなく支払った日であること。2月に払えば13か月になり、国税庁の質疑応答事例が明確に否定した事例5と同じ形になります。第二に、実際に支払い、継続すること。未払計上や単年度限りの利用は要件を満たしません。第三に、これは節税ではなく課税の繰延べであること。やめた年に反動が来ます。

税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、決算対策を単年度の損金づくりで終わらせず、翌期以降の課税所得と資金繰りまで見た形でご提案しています。年払いへの切替えは、契約変更・支払時期・消費税の処理・出口までをセットで設計してはじめて安全に機能します。

よくある質問(FAQ)

3月決算です。3月31日に翌年3月分までの家賃を払えば、全額今期の損金にできますか?

国税庁の質疑応答事例の事例2(3月末に4月から翌年3月までの地代年額を前払い)は、適用が認められるとされています。支払日から1年以内に提供を受ける役務に係るものであり、継続して支払時に損金算入していることが前提です。契約が年払いになっているか、実際に3月中に支払いが完了しているかをあわせてご確認ください。

2月に1年分を払ってはいけない理由が、いまひとつ腑に落ちません。

通達の文言が「その支払った日から1年以内に提供を受ける役務」だからです。2月に支払って翌年3月分までを対象にすると、対象期間は13か月になり、最後の1か月分が「1年以内」に収まりません。国税庁は質疑応答事例のなかで、「役務の受入れの開始前にその対価の支払が行われ、その支払時から1年を超える期間を対価支払の対象期間とするようなもの」には歯止めが必要である、と理由を明示しています。

未払計上ではだめですか。請求書は届いています。

法人税基本通達2−2−14は「支払った場合において」と定めており、実際の支払いを要件にしています。請求書の受領や未払計上では、この取扱いは使えません。なお、すでに役務の提供を受けた分(当期分)であれば、債務確定主義(法人税基本通達2−2−12)のもとで未払計上により損金にできます。両者は別の話です。

今年だけ利益が大きいので、今年だけ年払いにしたいのですが。

通達は「継続して……損金の額に算入しているとき」と定めています。単年度限りの利用は要件を満たしません。国税庁の質疑応答事例も、「利益が出たから今期だけまとめて1年分支払うというような利益操作のための支出」を排除すべき対象として明記しています。

年払いをやめたら、その年の家賃はどうなりますか。

その事業年度に支払いが発生しなければ、家賃の損金は生じません。前年度までに1年分を先取りしているためです。結果として、やめた年の課税所得が大きくなります。切替えの判断は、翌期以降の資金繰りとあわせて行う必要があります。

消費税の仕入税額控除も、支払った期に取れますか。

消費税法基本通達11−3−8により、法人税基本通達2−2−14(個人は所得税基本通達37−30の2)の取扱いの適用を受けている場合、その前払費用に係る課税仕入れは支出した日の属する課税期間に行ったものとして取り扱われます。法人税と消費税を同じ期間で揃えて処理してください。控除を受けるには、インボイス制度のもとで適格請求書等の保存が必要です。

どんな費用なら使えますか。逆に使えないものは?

毎月同質のサービスが継続して提供されるもの——家賃、地代、リース料(法人税法上の売買扱いとなるリース取引に該当しないもの)、保守料、システム・サーバー利用料、保険料、会費など——が典型です。使えないのは、物を買うための前渡金、単発の役務の対価、そして通達の(注)が明示する「借入金を預金・有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子」のように収益の計上と対応させる必要があるものです。

個人事業主でも使えますか。

使えます。所得税基本通達37−30の2に同じ取扱いがあります。基準日が「その年12月31日」になる点だけが異なり、支払った日から1年以内であること、継続して支払時に必要経費に算入していることという要件は同じです。

金額に上限はありますか。

通達に金額基準はありません。ただし、この取扱いの趣旨は企業会計の重要性の原則にあります(国税庁 質疑応答事例)。事業規模に対して不相応に大きな前払いは趣旨から外れるため、金額が大きい場合は個別にご相談ください。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、短期前払費用の取扱いに関する一般的な情報提供であり、個別の取引に関する税務判断に代わるものではありません。法人税基本通達2−2−14および所得税基本通達37−30の2は取扱いを認める旨の通達であり、要件を満たすかどうかは契約の内容と支払いの実態に即して個別に判断されます。国税庁の質疑応答事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、具体的な取引に適用する場合には回答内容と異なる課税関係が生ずることがあります。金額の重要性、継続適用の有無、収益との対応関係については、事業規模や取引の性質により結論が変わり得ます。消費税の仕入税額控除には、インボイス制度のもとで適格請求書等の保存等の要件があります。個別の判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年8月10日

決算対策と課税の繰延べの設計は KMP へ

公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、年払いへの切替えの可否判定、契約書・支払時期の設計、消費税の処理の整合、そして翌期以降の課税所得と資金繰りへの影響の試算まで一体でご支援しています。短期前払費用は、やめる年のことまで決めてから使う制度です。決算月に入る前にご相談ください。

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。「日本一、経営者の視点に立てる税理士法人」を掲げ、税務顧問・改正対応から資産防衛・相続・事業承継まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。