「土地の無償返還に関する届出書」の決定版|権利金の認定課税・相当の地代・貸宅地80%評価を税理士が解説【2026年版】
- 1. 3行サマリー
- 2. なぜ「権利金の認定課税」が起きるのか
- 3. 相当の地代は年8%か、年6%か
- 4. 「土地の無償返還に関する届出書」——中小企業の現実解
- 5. 相続税評価はどう変わるか——ここが本丸
- 6. よくある3つの事故
- 7. 実務で押さえるべきこと
- 8. 失敗vs王道
- 9. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 3行サマリー
- 法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させ、その地代が相当の地代に満たないときは、原則として権利金相当額を借地人等に贈与したものとして取り扱われます(法人税基本通達13−1−3)。相手が役員または使用人であれば、贈与ではなく給与の支給として扱われます。
- これを避ける道は3つあります。①権利金を払う ②相当の地代を払う ③「土地の無償返還に関する届出書」を出す。中小企業で圧倒的に多いのは③です。契約書に将来無償で返還することを定め、その旨を借地人等との連名の書面で遅滞なく所轄税務署長に届け出れば、権利金の認定は行われません(同13−1−7)。
- 届出書を出すと、相続税の評価も変わります。その土地に係る借地権の価額は零(相当の地代通達5)、貸宅地の価額は自用地としての価額の100分の80(同8)になります。ただし使用貸借(無償)で貸している場合の貸宅地は自用地としての価額そのまま(同8の注)です。地代を取るか取らないかで、評価が2割変わります。
2. なぜ「権利金の認定課税」が起きるのか
法人税法上、法人が無償で資産を譲渡したり役務を提供したりしても、時価で取引があったものとして益金が計上されます。土地の貸借も同じで、法人税法施行令第137条は「土地の使用に伴う対価についての所得の計算」を定めています。
その具体的な運用が、法人税基本通達第13章「借地権の設定等に伴う所得の計算」です。まず前提として、通達13−1−2は相当の地代をこう定めています。
そのうえで、通達13−1−3が認定課税の根拠になります。
つまり、権利金をもらわず、相当の地代ももらわないなら、権利金相当額をあげたものとみなすという構造です。
なお、権利金の認定が行われない場面もあります。通達13−1−5は、その土地の使用の目的が単に物品置場、駐車場等として土地を更地のまま使用し、又は仮営業所、仮店舗等の簡易な建物の敷地として使用するものであるなど、その土地の使用が通常権利金の授受を伴わないものであると認められるときは、権利金の認定は行わないとしています。
3. 相当の地代は年8%か、年6%か
ここが実務でもっとも混乱するところです。
前章のとおり、法人税基本通達13−1−2の本文は「おおむね年8%程度」と書かれています。ところが、実務で使われている数字は年6%です。矛盾しているように見えますが、そうではありません。
平成元年3月30日付直法2−2「法人税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて」という個別通達が、13−1−2を読み替えているのです。原文はこうです。
この通達の趣旨には「最近における地価の異常な高騰にかんがみ」と書かれています。国税庁のタックスアンサーNo.5732も、相当の地代の額は「原則として、その土地の更地価額のおおむね年6パーセント程度の金額です」としています。
土地の更地価額として使える金額も、通達13−1−2の注1と平元直法2−2により、次のいずれでも構いません。
- その土地の更地としての通常の取引価額
- その土地の近くにある類似した土地の公示価格等から合理的に計算した価額
- 財産評価基本通達第2章の例により計算した価額(=いわゆる相続税評価額)
- 上記の相続税評価額の過去3年間における平均額
そして相続税・贈与税の側でも、相当の地代は年6%です。昭和60年6月5日付課資2−58(相当の地代通達)1は、「当該権利金の支払に代え、当該土地の自用地としての価額に対しておおむね年6%程度の地代(以下『相当の地代』という。)を支払っている場合は、借地権を有する者……については当該借地権の設定による利益はないものとして取り扱う」と定め、注1で自用地としての価額は過去3年間における平均額によるものとしています。
相当の地代を選ぶ場合、地代の改訂方法も決めておく必要があります。通達13−1−8は、契約書で(1)土地の価額の上昇に応じて地代を相当の地代に改訂する方法、または(2)(1)以外の方法、のいずれかを定め、その旨を借地人等との連名の書面で遅滞なく所轄税務署長に届け出るものとし、届出がないときは(2)の方法を選択したものとするとしています。手続名は「相当の地代の改訂方法に関する届出」(国税庁の手続案内C1−64)です。
4. 「土地の無償返還に関する届出書」——中小企業の現実解
権利金も相当の地代も負担が重い、というのが中小企業の実情です。そこで使われるのが、法人税基本通達13−1−7の取扱いです。
ポイントを分解します。
① 効果は「権利金の認定をしない」こと。 一時に大きな権利金相当額が課税される事態を避けられます。
② ただし、地代の差額は毎期の問題として残る。 通達の後段が定めるとおり、相当の地代の額と実際の地代の額の差額は、各事業年度において借地人等に贈与したものとして取り扱われます。「届出書を出せば地代はいくらでもよい」ではありません。
③ 使用貸借(無償)でも同じ扱い。 通達13−1−7の第2段落は「使用貸借契約により他人に土地を使用させた場合……についても、同様とする」としています。
④ 相当の地代の見直しは、おおむね3年以下の期間ごと。 通達13−1−7の注は、本文の取扱いを適用する場合における相当の地代の額は、おおむね3年以下の期間ごとにその見直しを行うものとし、この場合の土地の価額は「当該事業年度開始の時」で計算すると定めています。
⑤ 返還時に立退料を払わなくてよい。 通達13−1−14は、借地の返還に当たり通常は立退料等を授受する慣行があるにもかかわらず収受しなかった場合でも、借地権の設定等に係る契約書において将来借地を無償で返還することが定められていること又はその土地の使用が使用貸借契約によるものであること(いずれも13−1−7により所轄税務署長に届け出られている場合に限る)を理由とするときは、これを認めるとしています。届出書は、契約の入口だけでなく出口でも効きます。
届出の実務
国税庁の手続案内「C1−63 土地の無償返還に関する届出」によれば、手続の内容は次のとおりです。
- 提出時期……土地を無償で返還することを定めた都度、遅滞なく
- 提出先……土地所有者の納税地の所轄税務署長(国税局の調査課所管法人にあっては、所轄国税局長)
- 提出方法……法人と借地人の連名で行う。書面の場合は届出書および添付書類を1部(提出先に応じて2部)提出
- 添付書類……1 契約書の写し、2 土地の価額の計算の明細その他参考となる事項を記載した書類
- 提出者……国税庁は「なお、この届出書は、土地所有者が個人である場合であっても、提出することができます」と明記しています
5. 相続税評価はどう変わるか——ここが本丸
届出書の本当の価値は、法人税ではなく相続税に出ます。
昭和60年6月5日付課資2−58(相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて)は、次のように定めています。
借地権側(借りている会社の側)
貸宅地側(貸している個人の側)
そして、この8には決定的な注が付いています。
つまり、こうです。
- 会社から地代を取っている(賃貸借)+無償返還届出書あり → 貸宅地は自用地価額の80%
- 会社から地代を取っていない(使用貸借)+無償返還届出書あり → 貸宅地は自用地価額の100%
地代を取っているかどうかだけで、土地の相続税評価額が2割変わります。
会社の株式にも20%が乗る
貸主側で2割減った分は、どこへ行くのか。相当の地代通達8のなお書きは、被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けている場合には、昭和43年10月28日付直資3−22ほか2課共同「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」通達の適用があるとしています(同通達中「相当の地代を収受している」とあるのは「『土地の無償返還に関する届出書』の提出されている」と読み替える)。
この43年通達により、同族会社の株式の評価上、純資産価額の計算において自用地としての価額の20%に相当する金額が計上されます。
小規模宅地等の特例との関係
地代の有無は、小規模宅地等の特例にも効きます。同族会社に貸している土地が特定同族会社事業用宅地等に該当すれば、400㎡まで評価額の80%が減額されます(国税庁タックスアンサーNo.4124)。
ただし、この特例は被相続人等の「事業」の用に供されていた宅地等を対象とし、事業と称するに至らない不動産の貸付けについては「相当の対価を得て継続的に行うもの」(準事業)であることが前提とされています。無償で貸している(使用貸借)土地は、ここに当たりません。
「税金がかかると困るので、会社からは地代を取っていません」というお話は、実際によく伺います。ところが相続の場面では、この判断が土地の評価を2割上げ、小規模宅地等の特例まで落とす方向に働きます。守秘義務がありますので詳細は控えますが、構図としては「毎年の所得税を数十万円惜しんだ結果、相続税で数千万円動いた」というものです。地代の水準は、法人税・所得税・相続税の3つを同時に見て決めるものです。
6. よくある3つの事故
① 届出書が見当たらない。 先代の代から会社が土地を使っているが、届出書の控えがない。この場合、まず所轄税務署に提出の有無を確認します。提出していなければ、通達13−1−7の要件(契約書に無償返還の定めがあり、連名で遅滞なく届け出た)を満たしていないため、原則に戻って13−1−3の認定課税が問題になります。国税庁の手続案内は提出時期を「土地を無償で返還することを定めた都度遅滞なく」としていますので、今から出せば過去も遡って救われる、という制度ではありません。現状の契約関係を整理したうえで、専門家を交えて対応を検討してください。
② 契約書に「無償返還」の定めがない。 届出書だけ出していても、通達13−1−7は「その借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められており、かつ」と定めています。契約書と届出書はセットです。
③ 地代の見直しをしていない。 通達13−1−7の注は、相当の地代の額をおおむね3年以下の期間ごとに見直すものとしています。20年前に決めた地代のまま、という会社は少なくありません。
7. 実務で押さえるべきこと
① まず現状を3点確認する。 (1) 土地の賃貸借契約書に「将来無償で返還する」旨の定めがあるか、(2) 「土地の無償返還に関する届出書」が提出されているか(税務署への提出控えがあるか)、(3) 実際に地代を収受しているか。この3点で、税務上の立ち位置がほぼ決まります。
② 地代は「ゼロ」にしない。 使用貸借にすると、貸宅地の評価は自用地価額の100%になり(相当地代通達8の注)、小規模宅地等の特例も使えません。固定資産税相当額以下の授受は使用貸借とされる点にも注意が必要です(昭和48年11月1日付直資2−189「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」1)。
③ 地代の水準は3つの税で決める。 個人側の不動産所得(所得税・住民税)、法人側の損金、そして相続税評価。高くすれば個人に所得税がかかり、低くすれば法人側で贈与認定の差額が生じます。
④ 逆パターン(会社の土地に社長が建物)も同じ構造。 この場合、貸主が法人、借主が個人になります。認定課税を受けるのは個人(役員なら給与課税)です。届出書の提出先は土地所有者である法人の納税地の所轄税務署長です。
⑤ 建物の所有者と土地の所有者を分けたままにしない。 相続で建物と土地が別の相続人に渡ると、権利関係が固定化します。届出書の有無とあわせ、誰に何を渡すかを事業承継の設計に組み込んでください。
8. 失敗vs王道
- 社長個人の土地に会社が建物を建て、権利金も地代も払わないまま放置する
- 「税金がもったいない」と地代をゼロにする(使用貸借になり、貸宅地評価は100%、小規模宅地等の特例も使えない)
- 届出書だけ出して、契約書に「将来無償で返還する」旨の定めを入れていない
- 20年前に決めた地代を一度も見直していない(相当の地代はおおむね3年以下ごとに見直すもの)
- 法人税基本通達13−1−2の「年8%」だけを見て地代を計算する(平成元年直法2−2により年6%と読み替えられている)
- 相続の直前になって初めて届出書の有無を調べる
- 契約書に「将来無償で返還する」旨を明記し、連名の書面で遅滞なく所轄税務署長に届け出る(土地所有者が個人でも提出できる)
- 地代は固定資産税相当額を明確に超える水準に設定し、賃貸借であることを事実で示す
- 相当の地代の計算基礎は、相続税評価額の過去3年平均を使うなど、認められた方法から選ぶ
- おおむね3年以下の期間ごとに地代を見直し、議事録と契約書の更新を残す
- 相続税の試算では、貸宅地80%と自社株への20%加算を同時に織り込む
- 小規模宅地等の特例(特定同族会社事業用宅地等・400㎡・80%減額)の要件を、法人役員要件・保有継続要件まで含めて事前に確認する
9. まとめ
「土地の無償返還に関する届出書」は、たった1枚の紙です。しかしこの1枚があるかないかで、権利金の認定課税を受けるかどうかが決まり、相続のときの土地の評価が2割変わり、小規模宅地等の特例が使えるかどうかも変わります。
そして、その効果を完全に引き出すには、契約書の定め・届出・地代の水準・定期的な見直しの4つが揃っている必要があります。どれか1つ欠けると、意図した結果になりません。
税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、オーナー経営者の個人資産と法人の資産をまたぐこうした論点について、法人税・所得税・相続税を一体で見た設計をご支援しています。
よくある質問(FAQ)
「土地の無償返還に関する届出書」は、いつまでに出せばよいですか?
土地の所有者が個人でも届出書を出せますか?
相当の地代は年8%ですか、年6%ですか?
届出書を出せば、地代はいくらでもよいのですか?
会社から地代を取らない(使用貸借)と、相続税の評価はどうなりますか?
固定資産税相当額の地代をもらっていれば、賃貸借になりますか?
会社の土地を社長個人が借りて自宅を建てる場合も同じですか?
届出書を出していない状態を、今から直せますか?
相当の地代を選んだ場合、届出は不要ですか?
出典・参考資料
- 国税庁 法人税基本通達 第13章「借地権の設定等に伴う所得の計算」(13−1−1〜13−1−16)(相当の地代の定義、権利金の認定、権利金の認定見合せ、相当の地代の改訂、借地権の無償譲渡等、貸地の返還を受けた場合の処理)
- 国税庁「法人税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて」(平成元年3月30日付直法2−2、平成3年課法2−4改正)(法人税基本通達13−1−2の「年8%」を「年6%」と読み替え、財産評価基本通達による価額の過去3年平均を追加)
- 国税庁「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年6月5日付課資2−58、平成17年課資2−4改正)(相当の地代=自用地としての価額のおおむね年6%、無償返還届出書がある場合の借地権の価額は零〔5〕、貸宅地は自用地としての価額の100分の80〔8〕、使用貸借の場合は自用地としての価額〔8の注〕)
- 国税庁「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年11月1日付直資2−189)(使用貸借に係る使用権の価額は零、公租公課相当額以下の授受は使用貸借に該当)
- 国税庁タックスアンサーNo.5732「相当の地代及び相当の地代の改訂」(更地価額のおおむね年6パーセント、更地価額として認められる金額、改訂方法の届出)
- 国税庁タックスアンサーNo.5731「借地権の取得価額」
- 国税庁タックスアンサーNo.5733「借地権の返還を受けた場合の処理」
- 国税庁タックスアンサーNo.4613「貸宅地の評価」(借地権の目的となっている宅地の評価、借地権の取引慣行がないと認められる地域の借地権割合20%)
- 国税庁タックスアンサーNo.4611「借地権の評価」
- 国税庁タックスアンサーNo.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」(特定同族会社事業用宅地等400㎡・80%減額、法人役員要件・保有継続要件、準事業=相当の対価を得て継続的に行うもの)
- 国税庁タックスアンサーNo.3111「土地を貸し付けて権利金などをもらったとき」
- 法人税法施行令(昭和40年政令第97号)第137条(土地の使用に伴う対価についての所得の計算)|e-Gov法令検索
- 法人税法施行令第138条(借地権の設定等により地価が著しく低下する場合の土地等の帳簿価額の一部の損金算入)|e-Gov法令検索
- 国税庁 手続案内「C1−63 土地の無償返還に関する届出」(提出時期=定めた都度遅滞なく、提出先=土地所有者の納税地の所轄税務署長、添付書類=契約書の写し・土地の価額の計算の明細、土地所有者が個人でも提出可)、同「C1−64 相当の地代の改訂方法に関する届出」
- 昭和43年10月28日付直資3−22ほか2課共同「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」(同族会社の株式の評価上、自用地としての価額の20%に相当する金額を計上)
本記事は、法人と個人の間の土地の貸借に関する税務の一般的な情報提供であり、個別の取引に関する税務判断に代わるものではありません。権利金の認定課税の有無、相当の地代の水準、賃貸借と使用貸借のいずれに該当するか、小規模宅地等の特例の適用可否は、いずれも契約内容・地代の水準・使用の実態など個別の事実関係により結論が異なります。「土地の無償返還に関する届出書」が提出されていない場合の対応、および過年度分の取扱いについては、事実関係の確認が不可欠です。同族会社の株式の評価に与える影響は、会社規模区分および評価方式(類似業種比準価額との併用の有無)により変わります。個別の判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年8月5日
社長個人の土地と会社の関係は KMP へ
公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、土地の賃貸借契約と無償返還届出書の整備、地代水準の設計、貸宅地評価と自社株評価を同時に見た相続税の試算、小規模宅地等の特例の適用可否の検討まで一体でご支援しています。届出書の有無が表に出るのは相続のときです。元気なうちに整えてください。
無料相談はこちらこの記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。
