事業用資産の買換え特例が令和11年まで3年延長|繰延べ80%と60%の分かれ目を税理士が解説【2026年版】

工場を移す。本社を建て替える。倉庫を売って、別の土地に建てる。——事業用の土地建物を買い換えるとき、売った側には譲渡所得税がかかります。 移転のために売ったのであって、手元に現金が残るわけではないのに、税金だけが先に出ていく。この不合理をやわらげるために置かれているのが、特定の事業用資産の買換えの特例(租税特別措置法第37条)です。 この特例には、2026年(令和8年)に大きな変更が入りました。 適用期限が3年延長された一方で、課税を繰り延べられる割合が80%から60%に下がる買換えの型が新しく生まれ、対象から外れた買換えもあります。 さらに厄介なのが、国税庁タックスアンサーNo.3405が、この記事の執筆時点で改正前の内容のままだということです。「令和8年3月31日まで」と書かれた期限を見て「もう終わった」と判断すると、使えるはずの特例を自分で捨てることになります。 弊社にも、「工場を移転したいが、税金がどれくらい出るのか」というご相談は実際に寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、この特例は「知らずに使わなかった」で終わるケースが最も多い制度です。届出の期限が独立して走っているため、確定申告のときに気づいても間に合わないことがあるからです。 本記事では、4つの買換えの型、令和8年度改正で変わった点、繰延べ割合の全体像、そして「繰延べ」は減税ではなく先送りであるという制度の本質まで、条文と公表資料に沿って網羅的に整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 3行サマリー
  2. 2. 制度の基本——「非課税」ではなく「繰延べ」
  3. 3. 4つの買換えの型(措置法37条1項の表)
  4. 4. 令和8年度改正で変わった5点
  5. 5. 繰延べ割合と課税割合の全体像
  6. 6. 適用要件を1つずつ
  7. 7. 届出書の期限——ここで落ちる案件がいちばん多い
  8. 8. よくある失敗と王道
  9. 9. まとめ
  10. よくある質問(FAQ)

Table of Contents

1. 3行サマリー

  • 適用期限が3年延長されました。原則は令和11年(2029年)12月31日まで、所有期間10年超の土地建物等(第3号)は令和11年3月31日まで、建設業・ひき船業に使う船舶は令和10年12月31日までです(租税特別措置法第37条第1項・第3項・第4項)
  • 繰延べ割合が80%から60%に下がる買換えが新設されました。既成市街地等のうち、防災再開発促進地区・特定都市再生緊急整備地域・都市機能誘導区域・被災市街地復興推進地域のいずれにも当たらない区域へ買い換える場合です(同条第1項)
  • この特例は非課税ではなく課税の繰延べです。買換資産は譲渡資産の取得価額を引き継ぐため(同法第37条の3)、将来売ったときの譲渡所得も、毎年の減価償却費も、引き継いだ低い金額を基礎に計算されます

2. 制度の基本——「非課税」ではなく「繰延べ」

事業に使っている土地建物等を売り、一定期間内に別の事業用資産を買って事業に使ったときは、売却代金の一部を「なかったもの」として扱い、譲渡所得への課税を将来に先送りできます。

売却代金のうち何割を「なかったもの」とするかが繰延べ割合で、原則は80%です。裏返して、課税される側の割合(課税割合)は20%になります。

💡 根拠条文:租税特別措置法第37条第1項(要旨)
個人が、昭和45年1月1日から令和11年12月31日(第1項の表の第3号の上欄に掲げる資産は同年3月31日、同表の第4号の上欄の資産のうち建設業その他政令で定める事業に使うものは令和10年12月31日)までの間に、表の各号の上欄の資産で事業に使っているものを譲渡し、譲渡の日の属する年の12月31日までに同表の下欄の資産を取得し、取得の日から1年以内に事業に使ったとき(または使う見込みのとき)は、税務署長に届出をした場合の譲渡について、収入金額の100分の80(一定の場合は100分の60)を超える部分の譲渡があったものとして譲渡所得を計算する。

ここで必ず押さえていただきたいのは、「なかったもの」にした部分の税金は消えていないということです。

取得価額を引き継ぐ——だから将来必ず精算される

この特例を使うと、買換資産の取得価額は、実際に払った金額ではなく、譲渡資産の取得価額を引き継ぎます(租税特別措置法第37条の3)。

たとえば、40年前に2,000万円で買った土地を1億円で売り、1億円で新しい土地を買ったとします。新しい土地は1億円払って手に入れたのに、税務上の取得価額は2,000万円台にとどまります(正確には、収入金額の20%に相当する部分に対応する分だけが上乗せされます)。

この結果、次の2つが将来にわたって効いてきます。

  • 将来その資産を売ったときの譲渡所得は、引き継いだ低い取得価額を基礎に計算されるため、含み益が再び顔を出します
  • 建物や構築物の減価償却費も、引き継いだ低い金額を基礎に計算されるため、毎年の経費が実際の投資額より小さくなります

つまりこの特例は、税金を減らす制度ではなく、払う時期を後ろにずらす制度です。「特例を使えば得」と単純化せず、繰り延べた分をいつ・どういう形で精算するのかまで見て判断する必要があります。

💬 実務の現場から
——弊社にも、「買換えの特例を使ったので税金は終わったと思っていた」というご相談は実際に寄せられます。一般論として申し上げると、問題が表に出るのは特例を使った年ではなく、その資産を次に売る年か、相続が起きた年です。私たちが関与する場面でも、まず「引き継いだ取得価額はいくらなのか」を資料から確定させ、将来の精算額を数字にしてお見せするところから整えています。この金額を把握していない状態で次の売却や承継を決めると、資金計画が大きくずれます。

3. 4つの買換えの型(措置法37条1項の表)

対象になる買換えは、4つの型に限られています。 「事業用の土地を売って事業用の土地を買った」だけでは対象になりません。ここが最初の関門です。

  • 第1号:航空機騒音障害区域の内から外への買換え
  • 第2号:既成市街地等の内での買換え(土地の計画的・効率的な利用に資する施策に伴うもの)
  • 第3号所有期間10年超の国内の土地建物等から、国内の一定の土地建物等への買換え
  • 第4号日本船舶の買換え

実務でいちばん使われるのは第3号です。所有期間10年超という要件だけで、区域の制約がないためです。以下、号ごとに要点を整理します。

第1号:航空機騒音障害区域の内から外へ

譲渡資産は、次の区域内にある土地等・建物・構築物です。

  • 特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法に規定する航空機騒音障害防止特別地区(令和2年4月1日前にその区域となった区域を除く)
  • 公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律に規定する第二種区域(同じく令和2年4月1日前にその区域となった区域を除く)

買換資産は、これらの区域以外の地域内にある土地等・建物・構築物・機械装置です(農業・林業に使うものは市街化区域以外に限られます)。

令和8年度改正で、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律に規定する第二種区域に係る措置が、この第1号から除外されました。 改正前は同区域も対象で、この場合の繰延べ割合は70%(課税割合30%)とされていました。

第2号:既成市街地等の内での買換え

譲渡資産は既成市街地等の内にある土地等・建物・構築物です。既成市街地等とは、首都圏整備法第2条第3項の既成市街地、近畿圏整備法第2条第3項の既成都市区域などをいいます。

買換資産は、既成市街地等の内にある土地等・建物・構築物・機械装置で、土地の計画的かつ効率的な利用に資する政令で定める施策の実施に伴い、その施策に従って取得されるものに限られます。

この号は、令和8年度改正で繰延べ割合が区域によって二段構えになりました。 詳細は次章で扱います。

第3号:所有期間10年超の土地建物等

譲渡資産は、譲渡の日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超える、国内にある土地等・建物・構築物です。

買換資産には、令和8年度改正で新しい絞り込みが入りました。

  • 土地等特定施設の敷地の用に供されるもの(その特定施設に係る事業の遂行上必要な駐車場を含む)、または駐車場の用に供されるもの(建物・構築物の敷地に供されていないことについて政令で定めるやむを得ない事情があるものに限る)で、その面積が300平方メートル以上のもの
  • 建物特定施設の用に供されるものに限る(改正で追加された限定)
  • 構築物特定施設に係る事業の遂行上必要なものに限る(改正で追加された限定)

特定施設とは、事務所、工場、作業場、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅その他これらに類する施設をいい、福利厚生施設に該当するものは除かれます(租税特別措置法施行令第25条第10項)。

改正前は、建物・構築物にこの限定がありませんでした。社宅や保養所のような福利厚生施設への買換えは、改正後は対象になりません。

なお、土地等が駐車場でよいとされる「やむを得ない事情」は、次の手続等が進行中であることが財務省令で定める書類で明らかにされた場合に限られます(同施行令第25条第11項)。

  • 都市計画法第29条第1項または第2項の規定による許可の手続
  • 建築基準法第6条第1項に規定する確認の手続
  • 文化財保護法第93条第2項に規定する発掘調査
  • 建築物の建築に関する条例の規定に基づく手続(国土交通大臣が証明したものに限る)

第4号:日本船舶の買換え

譲渡資産は、船舶法第1条に規定する日本船舶(漁業に使うものを除く)のうち、進水の日から譲渡の日までの期間が政令で定める期間に満たないものです。その期間は事業の区分により異なります(同施行令第25条第12項)。

  • 海洋運輸業に使われている船舶:20年
  • 沿海運輸業に使われている船舶:23年
  • 建設業またはひき船業に使われている船舶:30年

令和8年度改正で、建設業・ひき船業に使われる船舶については、譲渡資産から「原動機の定格出力の合計が1,500キロワット以下のもの」が除外されました。 平成23年1月1日以後に建造されたものも従前どおり除かれます。

買換資産は、環境への負荷の低減に資する船舶として国土交通大臣が財務大臣と協議して指定した日本船舶で、譲渡した船舶と同一の事業に使われるものに限られます。

4. 令和8年度改正で変わった5点

財務省「令和8年度 税制改正の解説」(租税特別措置法等(所得税関係)の改正)に沿って、変更点を整理します。

⑴ 第1号から防衛施設周辺の第二種区域を除外 防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律の第二種区域に係る措置が、制度の対象から外れました。

⑵ 第2号の繰延べ割合を区域で二段構えに 買換資産が既成市街地等のうち一定の区域以外の区域にある場合、繰延べ割合が80%から60%に引き下げられました。あわせて、繰延べ割合が80%のままとなる区域に買い換える場合には、確定申告書への添付書類が追加されました(租税特別措置法施行規則第18条の5第4項第4号ロ)。

⑶ 第3号の買換資産を特定施設用に限定 買換資産のうち建物は特定施設の用に供されるものに、構築物は特定施設に係る事業の遂行上必要なものに、それぞれ限定されました。

⑷ 第4号の譲渡資産から小出力船を除外 建設業・ひき船業に使われる船舶について、原動機の定格出力の合計が1,500キロワット以下のものが譲渡資産から除かれました。

⑸ 適用期限を延長 原則3年、船舶の一部は2年の延長です。

期限は3本立てになっている

買換えの型現在改正前
原則(1号・2号)令和11年12月31日令和8年12月31日
3号(10年超)令和11年3月31日令和8年3月31日
4号(建設業等の船舶)令和10年12月31日令和8年12月31日

表の「原則(1号・2号)」は第1号と第2号、「3号(10年超)」は所有期間10年超の土地建物等、「4号(建設業等の船舶)」は第4号のうち建設業・ひき船業に使われる船舶を指します。

この「原則は12月31日、第3号だけ3月31日」という9か月のずれが、実務で最も事故を起こしやすいところです。実務でよくお見かけするのは、いちばん使われる第3号がいちばん早く期限を迎えることを見落とし、年末に間に合うと思い込んでしまうケースです。

💡 補足:適用時期(改正法附則第37条第7項・第8項)
上記⑴の改正は、令和8年4月1日以後に譲渡資産の譲渡をした場合に適用され、同日前の譲渡は従前どおりです。
上記⑵から⑷までの改正は、令和8年4月1日以後に譲渡資産の譲渡をし、かつ、同日以後に買換資産の取得をする場合に適用されます。同日前に譲渡した場合、および同日以後に譲渡したが同日前に買換資産を取得していた場合は、いずれも従前どおりです。
つまり「譲渡」と「取得」の両方が令和8年4月1日以後かどうかで判定します。先行取得をしていた案件は、改正前のルールが残る余地があります。

⚠️ タックスアンサーNo.3405は改正前の内容のまま

国税庁タックスアンサーNo.3405「事業用の資産を買い換えたときの特例」は、本記事の出典確認日時点で「令和7年4月1日現在法令等」と表示されており、令和8年度改正が反映されていません。 具体的には、次の記載が現行の条文と食い違っています。

  • 第3号の期限を「令和8年3月31日まで」としている(現行は令和11年3月31日)
  • 第1号の対象区域に防衛施設周辺の第二種区域を残している(現行は除外)
  • 課税割合に、防衛施設周辺の第二種区域の場合の30パーセントを残している(現行は該当なし)
  • 所有期間5年超要件の停止期間を「令和8年3月31日まで」としている(現行は令和11年3月31日。次章参照)
  • 第2号について、繰延べ60%(課税割合40%)となる場合の記載がない

ページ自体は正常に表示されるため、リンク切れのチェックでは検出できません。期限と金額は、タックスアンサーではなく条文(e-Gov)か財務省「税制改正の解説」を正にしてください。

5. 繰延べ割合と課税割合の全体像

繰延べ割合と課税割合は、足して100%になる裏表の関係です。

  • 繰延べ90%(課税割合10%):第3号で、集中地域内から集中地域以外への買換え
  • 繰延べ80%(課税割合20%):原則
  • 繰延べ75%(課税割合25%):第3号で、集中地域内(下記70%の地域を除く)への買換え
  • 繰延べ70%(課税割合30%):第3号で、東京都特別区等への買換え
  • 繰延べ60%(課税割合40%):第2号の一定の区域への買換え/第3号で譲渡・買換えのいずれもが主たる事務所資産

第2号で60%になるのはどの区域か

第2号(既成市街地等の内での買換え)は、買換資産がある区域によって繰延べ割合が分かれます。買換資産の区域が次のイ・ロに当たれば80%のまま、イ・ロのいずれにも当たらない区域(条文のハ)なら60%です。

繰延べ80%が維持される区域(イ・ロ)

  • :既成市街地等であって、次のいずれかの区域
  • 密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律第3条第1項の防災街区整備方針に定められた防災再開発促進地区の区域
  • 都市再生特別措置法第2条第5項の特定都市再生緊急整備地域内の区域
  • 都市再生特別措置法第81条第1項の立地適正化計画に記載された都市機能誘導区域
  • ※その区域が都市再開発法第2条の3第1項の大都市の区域に該当する場合は、その大都市の都市再開発の方針に定められた同項第2号の地区(いわゆる2号地区)の区域に該当するものに限られます
  • :既成市街地等であって、被災市街地復興特別措置法第5条第1項により都市計画に定められた被災市街地復興推進地域内の区域

繰延べ60%になる区域(ハ)

  • :既成市街地等であって、上記イ・ロに掲げる区域以外の区域

つまり、既成市街地等の中であっても、政策的に指定された区域へ向かう買換えだけが80%を維持し、それ以外は60%に下がるという構造です。同じ既成市街地等の内での買換えでも、買換資産の所在地が数百メートル違うだけで割合が変わり得ます。

80%を適用する場合には、区域を証明する書類の添付が必要です。買換資産の所在地を管轄する都道府県知事(防災再開発促進地区・特定都市再生緊急整備地域)、市町村長(都市機能誘導区域・被災市街地復興推進地域)が証する書類で、指定都市の区域内なら市長、特別区の区域内なら区長が証する書類になります。大都市の区域内であれば、これに加えて2号地区であることの証明書類も必要です。

第3号で割合が動くのはどの組み合わせか

第3号は、譲渡資産と買換資産がどの地域にあるかで割合が動きます(租税特別措置法第37条第10項)。ここでいう地域は地域再生法の集中地域を基準にします。

  • 買換資産が集中地域以外の地域にあるとき:繰延べ90%(課税割合10%)
  • 買換資産が集中地域(次の区域を除く)にあるとき:繰延べ75%(課税割合25%)
  • 買換資産が地域再生法第17条の2第1項第1号に規定する政令で定めるもの(東京都特別区等)にあるとき:繰延べ70%(課税割合30%)。ただし、譲渡資産と買換資産のいずれもが主たる事務所資産に該当する場合は繰延べ60%(課税割合40%)

主たる事務所資産とは、その個人の主たる事務所として使用される建物・構築物と、これらの敷地に供される土地等をいいます(同項)。

方向で覚えると間違いません。地方へ出る買換えは有利(90%)、東京都特別区等へ入る買換えは不利(70%、本社移転なら60%)という設計です。

6. 適用要件を1つずつ

譲渡資産・買換資産の両方が事業用であること

譲渡資産も買換資産も、事業(事業に準ずるものを含む)に使っている/使うものでなければなりません。事業の範囲は国税庁タックスアンサーNo.3402で整理されています。

買換資産の土地等は「譲渡した土地等の5倍以内」

買換資産に土地等があるときは、その面積が、譲渡した土地等の面積に5を乗じて計算した面積を超える部分は、買換資産に該当しません(租税特別措置法第37条第2項、同施行令第25条第14項)。

100平方メートルを売って600平方メートルを買った場合、500平方メートル分までが対象で、超えた100平方メートル分は特例の対象外です。「全部が対象外になる」わけではなく、超えた部分だけが外れる点が重要です。

取得の時期は「前年・同年・翌年」の3パターン

買換資産の取得時期は、譲渡した年を基準に3つあります。

  • 譲渡した年の前年中に取得(先行取得)。工場等の敷地造成・建設・移転に通常1年を超える期間を要する事情等がある場合は、前年以前2年の期間内(同施行令第25条第15項)
  • 譲渡した年の同年中に取得
  • 譲渡した年の翌年中に取得する見込み。やむを得ない事情があって税務署長の承認を受けたときは、翌年12月31日後2年以内で税務署長が認定した日までの期間(取得指定期間)

なお、特定非常災害として指定された非常災害に基因するやむを得ない事情により、取得指定期間内の取得が困難となった場合は、取得指定期間の末日後2年以内の政令で定める日まで延長する承認を受けられます(同法第37条第8項)。令和8年熊本地震のような災害に見舞われた場合の救済規定です。

取得から1年以内に事業に使うこと

買換資産を取得した日から1年以内に事業に使う必要があります。取得から1年以内に事業に使わなくなった場合は、原則として特例の適用を受けられません。

適用を受けたあとで、この要件を満たさなくなったときは、修正申告が必要になります(同法第37条の2)。

土地等は所有期間5年超が原則——ただし現在は停止中

土地等の譲渡については、その年1月1日において所有期間が5年以下のものは、原則として特例の対象から外されています(同法第37条第5項)。

ところが、この第5項は、平成10年1月1日から令和11年3月31日までの間にした土地等の譲渡については適用しないとされています(同条第12項)。つまり現在この5年超要件は停止中で、期限は令和8年3月31日から令和11年3月31日まで3年延長されました。

タックスアンサーNo.3405は、この停止期間を「令和8年3月31日まで」と記載しています。この記載を見て「5年超でないと使えない」と判断しないでください。

なお、第3号の所有期間10年超は、これとは別の個別要件なので、停止の対象ではありません。第3号を使うには10年超が必要です。

確定申告書への記載と添付が必須

この特例は、譲渡をした日の属する年分の確定申告書に、適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、譲渡価額・買換資産の取得価額(または見積額)に関する明細書その他財務省令で定める書類の添付がある場合に限り適用されます(同法第37条第6項)。

記載や添付がなかったことについてやむを得ない事情があると税務署長が認めるときは、書類を提出した場合に限り適用できるとされています(同条第7項)が、これは救済規定です。原則は「申告時に自分で書いて添付する」ことが適用の条件です。

重複適用はできない

この特例を適用する資産については、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例や、減価償却資産の特別償却・所得税額の特別控除の特例など、他の特例を重ねて受けることはできません。

また、譲渡資産の譲渡が収用等・贈与・交換・出資・代物弁済によるものである場合、買換資産の取得が贈与・交換・一定の現物分配・所有権移転外リース取引・代物弁済によるものである場合は、いずれも対象外です。

7. 届出書の期限——ここで落ちる案件がいちばん多い

この特例には、確定申告とは別に、独立して走る届出の期限があります。取得の時期によって手続が違います。

譲渡した年の同年中に取得した場合

「特定の事業用資産の買換えの特例の適用に関する届出書」を、譲渡資産の譲渡の日または買換資産の取得の日のいずれか早い日を含む三月期間の末日の翌日から2か月以内に提出します。

譲渡(または先に取得)の日届出書の提出期限
1月1日から3月31日まで5月末日
4月1日から6月30日まで8月末日
7月1日から9月30日まで11月末日
10月1日から12月31日まで翌年2月末日

譲渡した年の前年中に取得した場合(先行取得)

「先行取得資産に係る買換えの特例の適用に関する届出書」を、取得した年の翌年3月15日までに提出します(同施行令第25条第16項)。届出書には、届出者の氏名・住所、取得資産の種類・構造または用途・規模(土地等は面積)・所在地・取得年月日・取得価額、譲渡する見込みの資産の種類・所在地・譲渡予定年月日、該当する号の区分などを記載します。

譲渡した年の翌年中に取得する予定の場合

確定申告書に、「買換(代替)資産の明細書」を添付します。取得予定年月日、取得価額の見積額、どの号の買換えに該当するかの別などを記載します。

この届出の期限は、確定申告期限より先に到来することがあります。 たとえば1月に譲渡して同年中に買換資産を取得した場合、届出書の期限は5月末日で、その年分の確定申告期限(翌年3月15日)より10か月近く早いのです。ここを外すと、要件をすべて満たしていても特例を使えません。

8. よくある失敗と王道

❌ 特定の事業用資産の買換えでよくある失敗
  • タックスアンサーの「令和8年3月31日まで」を見て、第3号はもう使えないと判断した(現行は令和11年3月31日)
  • 原則の期限(12月31日)と第3号の期限(3月31日)を同じだと思い込み、年内なら間に合うと考えていた
  • 届出書の期限が確定申告期限とは別に走っていることを知らず、申告時に気づいた
  • 買換資産の建物が福利厚生施設(社宅・保養所)で、改正後は第3号の対象外になっていることに気づかなかった
  • 既成市街地等の内での買換えなので80%と思い込んでいたが、区域がハに当たり60%だった
  • 80%の区域なのに、区域を証明する書類を添付していない(添付がないと80%を使えない)
  • 譲渡した土地の5倍を超える土地を買い、超過部分が対象外になることを織り込んでいなかった
  • 買換資産を取得したが、1年以内に事業に使い始めていない
  • 取得価額を引き継ぐことを知らず、翌期以降の減価償却費を実際の投資額で計算していた
  • 「特例を使えたので税負担ゼロ」と考え、将来の精算額を資金計画に入れていない
  • 収用等による譲渡や交換による取得なのに、この特例で処理しようとした
⭕ 王道の進め方
  • 売る前に、どの号に当てはまるのかを確定させる。号が決まらないと期限も割合も決まりません
  • 第3号を狙うなら、譲渡の年の1月1日時点で所有期間10年超かを登記事項証明書で確認する
  • 買換資産の所在地の区域を、買う前に自治体で確認する。第2号は区域で80%と60%が分かれ、第3号は集中地域か否かで90%・75%・70%が分かれます
  • 買換資産の建物・構築物が特定施設に該当するかを、用途から確認する(福利厚生施設は外れます)
  • 譲渡日が決まった時点で、届出書の期限を先にカレンダーに入れる(三月期間の翌日から2か月)
  • 買った土地の面積が譲渡した土地の5倍以内かを、契約前に計算する
  • 繰り延べた税額を「将来の負債」として把握しておく。次の売却・相続・M&Aのときに必ず出てきます
  • 特例を使うか使わないかは、当年の税額だけでなく、引継取得価額による将来の増税分まで含めて比較して決める
  • 法人で同じことを検討している場合は、法人版(租税特別措置法第65条の7)は別制度なので、そちらの要件・期限で確認する

9. まとめ

特定の事業用資産の買換えの特例は、期限が3本立てになり、繰延べ割合が区域で細かく分かれる制度になりました。押さえるべき点を整理します。

  • 適用期限は、原則令和11年12月31日、第3号は令和11年3月31日、建設業・ひき船業用の船舶は令和10年12月31日
  • 繰延べ割合は60%から90%まで5段階。第2号は買換資産の区域で80%と60%に分かれ、第3号は集中地域との位置関係で90%・75%・70%・60%に分かれる
  • 令和8年度改正で、第3号の買換資産の建物・構築物が特定施設用に限定され、福利厚生施設は外れた
  • 改正の適用は、譲渡と取得の両方が令和8年4月1日以後かどうかで判定する
  • タックスアンサーNo.3405は改正前の内容。期限と割合は条文か財務省「税制改正の解説」で確認する
  • 5年超要件は令和11年3月31日まで停止中。第3号の10年超は別要件なので必要
  • 届出書の期限は確定申告期限より先に来ることがある
  • この特例は非課税ではなく繰延べ。取得価額を引き継ぐため、将来の譲渡所得と減価償却費に必ず跳ね返る

税理士法人 小山・ミカタパートナーズでは、工場・本社・店舗の移転や、遊休不動産の組み替えについて、当年の税額と、繰り延べた分が将来出てくる金額の両方を数字にしてからご判断いただくようにしています。移転の計画が動き出す前の段階が、いちばん打ち手のある時期です。

よくある質問(FAQ)

事業用の土地を売って事業用の土地を買えば、必ず特例が使えますか?

いいえ。対象は租税特別措置法第37条第1項の表に掲げる4つの型に限られます。実務でよく使われるのは第3号(所有期間10年超の土地建物等から国内の一定の土地建物等への買換え)ですが、この場合も買換資産の土地等は特定施設の敷地等で300平方メートル以上、建物は特定施設の用に供されるものという限定があります。「事業用から事業用」だけでは要件を満たしません。

タックスアンサーには「令和8年3月31日まで」と書いてありますが、もう使えないのですか?

使えます。第3号の期限は令和11年3月31日まで3年延長されています(租税特別措置法第37条第1項)。タックスアンサーNo.3405は「令和7年4月1日現在法令等」の内容で、令和8年度改正が反映されていません。期限は条文または財務省「令和8年度 税制改正の解説」でご確認ください。

繰延べ割合が80%から60%に下がると、税額はどれくらい変わりますか?

課税される収入金額の割合が20%から40%へ、2倍になります。売却代金が1億円で全額を買換えに充てた場合、収入金額として認識される金額が2,000万円から4,000万円に増えます。実際の税額は取得費・譲渡費用・所有期間(長期か短期か)によって変わりますので、個別に試算する必要があります。

社宅への買換えは対象になりますか?

第3号の買換資産は、建物であれば特定施設の用に供されるものに限られます。特定施設は事務所、工場、作業場、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅その他これらに類する施設をいい、福利厚生施設に該当するものは除かれます(租税特別措置法施行令第25条第10項)。社宅や保養所が福利厚生施設に当たるかは実態による判断になりますので、取得前にご確認ください。なお、この限定は令和8年度改正で入ったもので、譲渡と取得の両方が令和8年4月1日以後の場合に適用されます。

届出書を出し忘れました。確定申告で書けば大丈夫ですか?

届出書の提出は、譲渡した年の同年中に買換資産を取得した場合の適用要件です。提出期限は、譲渡(または先に取得した)日を含む三月期間の末日の翌日から2か月以内で、確定申告期限より早く到来することがあります。期限を過ぎた場合の取扱いは個別の事実関係によりますので、速やかに所轄の税務署または税理士にご相談ください。 記載・添付がなかったことにやむを得ない事情があると認められる場合の救済規定(同法第37条第7項)はありますが、当然に適用されるものではありません。

譲渡した土地の10倍の広さの土地を買いました。特例は全部だめになりますか?

全部だめにはなりません。5倍を超える部分の面積に対応する土地等だけが買換資産に該当しないものとして扱われます(同法第37条第2項、同施行令第25条第14項)。5倍以内の部分については特例が適用されます。

買換資産を先に買ってから売る場合も使えますか?

使えます。譲渡した年の前年中に買換資産を取得した場合(先行取得)が該当し、「先行取得資産に係る買換えの特例の適用に関する届出書」を取得した年の翌年3月15日までに提出します。なお、令和8年度改正のうち第2号から第4号に係る改正は、譲渡と取得の両方が令和8年4月1日以後の場合に適用されるため、同日前に買換資産を取得していた場合は従前のルールによることになります。

相続で取得した土地でも、所有期間10年超になりますか?

相続や贈与により取得した資産の取得の日は、原則として被相続人・贈与者が取得した日を引き継ぎます(所得税法第60条第1項第1号)。したがって、被相続人の所有期間を通算して10年超になることがあります。ただし限定承認に係る相続などは取扱いが異なりますので、登記と相続の経緯を確認したうえで判断してください。

会社(法人)でも同じ特例がありますか?

法人には租税特別措置法第65条の7(特定の資産の買換えの場合の課税の特例)という別の制度があります。考え方は似ていますが、要件・割合・期限・圧縮記帳という会計処理の方法などが異なります。個人の第37条の内容をそのまま当てはめないでください。

特例を使ったほうが有利かどうかは、どう判断すればよいですか?

当年の税額の減少額と、取得価額を引き継ぐことによる将来の増税額(将来の売却時の譲渡所得の増加と、毎年の減価償却費の減少)を比べて判断します。買換資産を長く持ち続けて事業に使うのであれば繰延べの効果は大きく、数年内の再売却や相続が見込まれるのであれば効果は小さくなります。所有期間、次の出口の時期、資金繰りをあわせて見る必要がありますので、判断の前に試算をお勧めします。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、法令・財務省および国税庁の公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に関する税務上の取扱いを保証するものではありません。買換えの型の判定、区域の該当性、繰延べ割合、届出書の提出期限、特定施設への該当性は、個々の事実関係および資産の所在地により異なります。本記事に記載した国税庁タックスアンサーの内容は出典確認日時点で令和8年度改正が反映されていないため、実際の適用にあたっては条文および最新の公表資料をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年8月24日

工場・本社の移転をお考えなら、売る前にご相談ください

公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、買換えの型の判定から、繰延べ割合、届出期限、そして繰り延べた税額が将来出てくる金額まで、当年と将来の両方を数字にしてお示しします。この特例は届出の期限が確定申告より先に来るため、譲渡の計画段階でのご相談がもっとも効果的です。

無料相談はこちら
小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から、相続・事業承継、国際税務・資産防衛まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。