取引相場のない株式(自社株)の評価とは?類似業種比準・純資産価額・配当還元を税理士が解説【2026年版】

「父から会社の株を引き継ぐことになったが、上場していない自社株にいくらの相続税がかかるのか分からない」——オーナー経営者のご家庭で、最も見えにくく、そして最も金額が大きくなりやすいのが、この自社株(取引相場のない株式)の評価です。 上場株式なら証券取引所の株価を見ればいくらか一目で分かりますが、市場で売買されていない中小企業の株には「時価」がありません。そこで相続税・贈与税では、財産評価基本通達という国税庁のルールに従って評価額を計算します。ここで問題になるのが、黒字で純資産が厚い優良企業ほど自社株の評価額が高くなり、業績が良い会社ほど承継のときの税負担が重くなるという逆説です。本記事では、自社株評価の3つの方式と、誰がどの方式で評価されるのかを、事業承継を強みとする税理士が整理します。
📋 この記事の目次
  1. 1. 結論(3行サマリー)
  2. 2. なぜ「取引相場のない株式」の評価が必要なのか
  3. 3. 第一関門:株主の立場で「原則」か「配当還元」かが決まる
  4. 4. 原則的評価方式は「会社規模」で決まる
  5. 5. 3つの評価方式のしくみ
  6. 6. 専門家の視点:優良企業ほど「株価対策」が承継の生命線になる
  7. 7. 実務で押さえるべきこと
  8. 8. まとめ
  9. よくある質問(FAQ)

1. 結論(3行サマリー)

  • 自社株の評価は、まず株主の立場で二つに分かれる。会社を支配する同族株主等は原則的評価方式(高くなりやすい)、支配権のない少数株主は特例的評価方式=配当還元方式(低くなりやすい)で評価する
  • 原則的評価方式は会社規模(大会社・中会社・小会社)で決まり、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は両者の併用方式が原則(国税庁No.4638)
  • 黒字で純資産が厚い優良企業ほど株価が高騰し、承継税負担が重くなる。自社株評価は事業承継対策の出発点であり、まず現状の株価を把握することがすべての前提になる

2. なぜ「取引相場のない株式」の評価が必要なのか

取引相場のない株式とは、証券取引所に上場しておらず、市場での取引価格(時価)が存在しない株式のことです。日本の会社の大多数を占める、同族経営の中小企業の株式がこれにあたります。

この自社株の評価が必要になるのは、主に次の場面です。

場面なぜ評価が必要か
相続先代経営者が亡くなり、後継者が自社株を相続する。相続税の課税対象になる
生前贈与生前に自社株を後継者へ贈与する。贈与税の課税対象になる
事業承継税制の適用猶予される税額の計算の前提として、まず株価を評価する
自己株式(金庫株)の取得会社が株主から自社株を買い取るときの価格の基礎になる
M&A・第三者への売却売買価格の一つの目安(税務上の適正額の検討)になる

いずれも、評価額が1株いくらかが決まらなければ税額も対策も始まりません。そして非上場株式は、後述する評価方式の選び方一つで金額が大きく変わるため、実務では「どの方式が適用されるか」を正しく見極めることが最初の関門になります。

3. 第一関門:株主の立場で「原則」か「配当還元」かが決まる

自社株の評価は、いきなり会社の数字を計算するのではなく、まず「株を取得する人が、その会社を支配する立場か否か」で入口が二つに分かれます。

  • 同族株主等(会社を支配する側) … 原則的評価方式(類似業種比準・純資産価額・併用)。会社の実力を反映するため、高くなりやすい
  • 同族株主以外の株主等(支配権のない少数株主) … 特例的評価方式=配当還元方式。配当だけに着目するため、低くなりやすい

同じ1株でも、誰が取得するかで評価額が何倍も変わることがあります。これは、支配権のある株主にとっての株式は「会社そのものの価値」を持つ一方、配当をもらうだけの少数株主にとっての株式は「配当を受け取る権利」にすぎない、という実態の違いを反映したものです。

💡 同族株主の判定は「株主の1人とその同族関係者」で見る … 一般に、株主とその同族関係者(親族等)の議決権割合の合計が30%以上(筆頭株主グループが50%超のときはそのグループ)となる株主グループを同族株主といいます。後継者一族が会社を支配しているケースでは、原則的評価方式が適用されるのが通常です。

4. 原則的評価方式は「会社規模」で決まる

同族株主等が取得する場合の原則的評価方式は、会社の規模(大会社・中会社・小会社)によって、次のように適用する方式が決まります(国税庁No.4638)。

会社規模原則となる評価方式
大会社類似業種比準方式(純資産価額方式のほうが低ければそちらを選択可)
中会社類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式(Lの割合0.90/0.75/0.60)
小会社純資産価額方式(類似業種比準0.50と純資産0.50の併用も選択可)

会社規模は、業種(卸売業・小売サービス業・その他)ごとに、従業員数・総資産価額・取引金額(売上高)の組み合わせで判定します。目安として、従業員数が70人以上の会社は、それだけで大会社に区分されます(財産評価基本通達178)。

ポイントは、大会社に近いほど類似業種比準方式(上場企業と比べる方式)のウェイトが高く、小会社に近いほど純資産価額方式(会社の中身で計算する方式)のウェイトが高くなることです。一般に類似業種比準方式のほうが評価額が低く出やすいため、会社規模の判定は評価額を大きく左右します。

5. 3つの評価方式のしくみ

① 類似業種比準方式(上場している同業他社と比べる)

評価会社と事業内容が似た上場企業の株価を基準に、評価会社の1株当たりの「配当金額」「利益金額」「純資産価額(簿価)」の3要素を比べて評価する方式です。国税庁が毎月公表する「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」を使います。

算式の最後に、会社規模に応じたしんしゃく率(大会社0.7/中会社0.6/小会社0.5)を乗じて、上場企業との規模差を調整します。3要素のうち利益金額の影響が大きいため、その期の利益が大きいと株価も跳ね上がりやすいのが特徴です。逆に、役員退職金の支給などで利益を適正に圧縮すると、株価を下げられる余地があります。

② 純資産価額方式(会社を解散したらいくら残るかで計算する)

会社の資産・負債を相続税評価額に洗い替えたうえで、資産の合計から負債の合計を差し引き、さらに含み益(相続税評価額と帳簿価額の差額)に対する法人税額等相当額(38%)を控除して、1株当たりの純資産価額を求める方式です。この38%は、法人税(地方法人税及び防衛特別法人税を含む)・事業税(特別法人事業税を含む)・道府県民税・市町村民税の税率の合計に相当する割合として、財産評価基本通達186-2に定められています(令和8年課評2-28外改正)。

「今この会社を解散・清算したら株主にいくら残るか」という発想に近く、含み益のある不動産や有価証券を多く持つ会社ほど評価額が高くなります。土地・株式を多く抱える資産管理会社などで金額が大きくなりやすい方式です。

③ 配当還元方式(少数株主向け・低く出やすい)

支配権のない少数株主が取得する場合に使う特例的な方式で、過去2年間の平均の年配当金額を10%の利率で還元して元本である株式の価額を求めます。

配当還元価額 =(年配当金額 ÷ 10%)×(1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)

配当という「もらえる果実」だけに着目するため、原則的評価方式に比べて評価額が大幅に低くなるのが通常です。従業員持株会や、少数の株式を持つ親族などに適用されます。

💡 特定の評価会社は原則「純資産価額方式」 … 資産の大半が株式の会社(株式等保有特定会社)、資産の大半が土地の会社(土地保有特定会社)、3要素のうち2つがゼロの会社(比準要素数1の会社)、開業後3年未満の会社などは、類似業種比準方式を使えず、原則として純資産価額方式で評価します。持株会社(ホールディングス)の設計では、この株式等保有特定会社に該当しないかの確認が欠かせません。

6. 専門家の視点:優良企業ほど「株価対策」が承継の生命線になる

実務家の立場から申し上げると、自社株評価でオーナー経営者が最初に直面するのが、「黒字で内部留保も厚い、良い会社であるほど、自社株の評価額が高くなる」という現実です。会社を大きく育てた経営者ほど、その株を次の世代に渡すときの贈与税・相続税が重くなる——ここを知らないまま相続を迎えると、後継者が納税資金を用意できず、事業の継続そのものが揺らぐことがあります。

だからこそ、事業承継ではまず現在の株価を評価し、そのうえで計画的に株価を引き下げ、渡し方を設計するという順番が王道になります。役員退職金の支給による利益・純資産の圧縮、生前贈与の活用、事業承継税制(納税猶予)の検討、持株会社化——これらはすべて、現状の株価を正確に把握してはじめて効果と順番を判断できます。

💬 実務の現場から
守秘義務がありますので詳細は控えますが、構図としてお伝えすると、「そろそろ息子に株を渡そうと思うが、いくら税金がかかるのか見当もつかない」というご相談は実際に多く寄せられます。過去のご相談の傾向として申し上げると、もったいないのは、株価が高い状態のまま何年も放置され、対策の打ちようが狭まってしまっているケースです。私たちが関与する場面では、まず自社株を評価して「今いくらか」を数字で共有し、そこから利益の出方・退職金のタイミング・贈与の順番を逆算します。自社株評価は、事業承継という長い設計図の“最初の一枚”です。

7. 実務で押さえるべきこと

自社株評価を正しく活かすために、オーナー経営者が押さえるべき要点を、失敗例と王道で整理します。

❌ つまずきがちな失敗
  • 「非上場だから株には価値がない」と思い込み、実際は評価額が数億円になっていることに相続時まで気づかない
  • 株価が高い状態のまま何年も放置し、いざ承継というときに打てる対策が残っていない
  • 利益が最も出た期に慌てて贈与し、類似業種比準価額が跳ね上がったタイミングで高い株価のまま渡してしまう
  • 少数株主だからと配当還元方式のつもりでいたら、株主構成上は同族株主に当たり原則的評価方式だった、と後で判明する
⭕ これから取るべき王道
  • まず現状の自社株を評価し、「今いくらか」「どの方式が適用されるか」を数字で把握する
  • 役員退職金・生前贈与・事業承継税制・持株会社化などの株価対策を、評価額を前提に順番を設計する
  • 利益の出方と株価の連動を理解し、株価が下がるタイミングを狙って計画的に渡す
  • 株主構成(同族株主かどうか)と会社規模を早めに確認し、適用される評価方式を取り違えない

8. まとめ

取引相場のない株式(自社株)の評価は、まず株主の立場で原則的評価方式か配当還元方式かが分かれ、原則的評価方式は会社規模(大・中・小)に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式・併用方式が決まります(国税庁No.4638)。黒字で純資産が厚い優良企業ほど株価が高くなり、承継の税負担が重くなる——この逆説を乗り越える出発点が、正確な自社株評価です。

自社株の評価は、事業承継・相続対策のすべての土台になります。株価を把握しないまま行う対策は、効果も順番も定まりません。税理士法人 小山・ミカタパートナーズは、公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、自社株の評価から、役員退職金・生前贈与・事業承継税制・持株会社化を組み合わせた株価対策、そしてM&Aという出口まで一体で伴走します。自社株の承継をお考えの経営者の方は、株価が高いまま時間が過ぎてしまう前に、お早めにご相談ください。

よくある質問(FAQ)

上場していない会社の株にも、相続税や贈与税はかかるのですか?

かかります。取引相場のない株式(自社株)は、市場価格がない代わりに、財産評価基本通達に基づいて評価額を計算し、その金額に対して相続税・贈与税が課税されます。黒字で純資産が厚い会社ほど評価額が高くなるため、上場していなくても数億円規模になることは珍しくありません。

類似業種比準方式と純資産価額方式では、どちらが評価額が低くなりますか?

一概には言えませんが、一般的には類似業種比準方式のほうが低く出やすいとされます。ただし、含み益のある不動産や有価証券を多く持つ会社では純資産価額方式が高くなり、利益が大きく出た会社では類似業種比準方式が高くなるなど、会社の状況で逆転します。実際にはどちらの方式が適用されるか(会社規模の判定)と、両方式の試算の両面から確認する必要があります。

配当還元方式だと評価額が低いと聞きました。誰でも使えますか?

使えません。配当還元方式は、会社を支配する立場にない「同族株主以外の少数株主」が取得する場合に限って使える特例的な方式です。後継者一族のように会社を支配する同族株主が取得する株式には、原則的評価方式(類似業種比準・純資産価額・併用)が適用されます。

自社株の評価額を下げることはできますか?

合法的な範囲で、株価を引き下げる余地はあります。代表的なのは、役員退職金の支給による利益・純資産の圧縮です。類似業種比準方式は利益金額の影響が大きいため、適正な退職金の支給で株価が下がるタイミングを作れる場合があります。ただし、対策の効果と順番は現状の株価を評価してはじめて判断できるため、まず評価が出発点になります。

会社の規模(大・中・小)は何で決まりますか?

業種(卸売業・小売サービス業・その他の3区分)ごとに、従業員数・総資産価額・取引金額(売上高)の組み合わせで判定します。目安として、従業員数が70人以上の会社は、それだけで大会社に区分されます。会社規模によって適用される評価方式のウェイトが変わるため、判定は評価額に直結します。

出典・参考資料

ご利用上の留意事項
本記事は、公表資料に基づく一般的な情報提供であり、特定の評価結果や税額を保証するものではありません。取引相場のない株式の評価額は、会社の規模・株主の立場・資産構成・利益や配当の状況など個別の事実関係により大きく異なります。実際の評価・対策にあたっては、最新の法令・通達をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月13日

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公認会計士・税理士・米国公認会計士のトリプルホルダーの視点で、自社株の評価から、役員退職金・生前贈与・事業承継税制・持株会社化を組み合わせた株価対策、M&Aという出口まで一体で伴走します。自社株の承継をお考えの経営者の方は、株価が高いまま時間が過ぎてしまう前にお早めにご相談ください。

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小山晃弘 公認会計士・税理士・米国公認会計士
小山 晃弘(こやま あきひろ)
税理士法人 小山・ミカタパートナーズ 代表
公認会計士・税理士・米国公認会計士(ワシントン州)のトリプルホルダー。デロイト トーマツ(監査)出身。中小企業の税務顧問から富裕層・オーナー経営者の資産防衛・事業承継、国際税務まで伴走。著書7冊・累計6万部、YouTube登録者11万人超。 🔗 kmp.or.jp / お問い合わせ:info@kmp.or.jp

この記事は執筆時点の法令・通達に基づいています。最終確認日:2026年8月2日(現行制度との照合を実施)。税制は改正されます。実際のご判断の前に、最新の情報をご確認いただくか、税理士法人 小山・ミカタパートナーズまでご相談ください。