役員借入金とは?社長の貸付金が相続財産になる理由と解消法5つを税理士が解説【2026年版】
- 1. 役員借入金とは(3行サマリー)
- 2. なぜ役員借入金は生まれるのか——3つの典型パターン
- 3. 最大の論点——社長の貸付金は相続財産として評価される
- 4. 解消法① 返済する——最も素直で、最も見落とされる方法
- 5. 解消法② 債権放棄(債務免除)——効くが、3方向にリスクがある
- 6. 解消法③〜⑤ 資本に振り替える・現物で返す・報酬設計を変える
- 7. よくある失敗と王道
- 8. まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 役員借入金とは(3行サマリー)
- 役員借入金とは、会社が役員(多くは社長)から金銭を借り入れている場合に、会社の貸借対照表(BS)の負債の部に計上される債務です。社長側から見れば、会社に対する貸付金債権になります。
- 創業時の運転資金の立替え、資金繰りが苦しい時期の個人資金の投入、社長個人が立て替えた経費の未精算——といった経緯で発生し、返済されないまま何年も積み上がるのが典型です。
- 会社にとっては「返済を求められない安定した資金」に見えますが、社長に相続が発生した瞬間に相続財産となり、現金がないのに相続税だけが発生するという形で表面化します。
2. なぜ役員借入金は生まれるのか——3つの典型パターン
| 発生パターン | 具体的な経緯 | 見分け方 |
|---|---|---|
| ① 創業期・資金繰りの穴埋め | 会社の資金が不足したときに社長個人の預金から入金し、返済しないまま残高が積み上がる | 決算書上、増加のタイミングが赤字期・大型支出期と一致している |
| ② 経費の立替えの未精算 | 社長が個人のカード・現金で会社の経費を支払い、精算せずに借入金として計上し続ける | 毎期少額ずつ、コンスタントに増えている |
| ③ 役員報酬の未払い分の振替 | 資金繰りの都合で役員報酬を支給せず、未払金または借入金に振り替えたまま残す | 役員報酬の月額と、増加額に対応関係がある |
いずれも「会社を守るために社長が身銭を切った」結果であり、経営判断としては何も間違っていません。問題は、それが精算されないまま長期間放置されることにあります。放置された分だけ、社長個人の相続財産が静かに膨らんでいきます。
3. 最大の論点——社長の貸付金は相続財産として評価される
原則:返してもらう予定がなくても、額面で評価される
社長が会社に対して有する貸付金債権は、社長の相続が発生したときに相続財産になります。国税庁は、相続税がかかる財産について「現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか貸付金、特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの」としています(国税庁タックスアンサーNo.4105「相続税がかかる財産」)。
その評価方法は、財産評価基本通達204に定められています。
(1)貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額
(2)貸付金債権等に係る利息の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額
(出典:国税庁 財産評価基本通達 第6節「その他の財産」(204・205))
つまり、原則は額面(返済されるべき金額)そのままの評価です。会社の業績が悪く、現実には回収の見込みがなくても、原則としてその評価額は減りません。ここが最も誤解される点です。
例外:元本に算入しなくてよい場合(財産評価基本通達205)
回収不能または著しく困難と見込まれる場合には、その金額を元本の価額に算入しないこととされています。財産評価基本通達205は、次の場合を掲げています(省略なく掲載します)。
(1)債務者について次の事実が発生している場合の、その債務者に対して有する貸付金債権等の金額(質権・抵当権によって担保されている部分を除く)
| 記号 | 事実 |
|---|---|
| イ | 手形交換所(これに準ずる機関を含む)において取引停止処分を受けたとき |
| ロ | 会社更生法(平成14年法律第154号)の規定による更生手続開始の決定があったとき |
| ハ | 民事再生法(平成11年法律第225号)の規定による再生手続開始の決定があったとき |
| ニ | 会社法の規定による特別清算開始の命令があったとき |
| ホ | 破産法(平成16年法律第75号)の規定による破産手続開始の決定があったとき |
| ヘ | 業況不振のため、またはその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し、または6か月以上休業しているとき |
(2) 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定、または法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債権の切捨て・棚上げ・年賦償還等の決定があった場合において、これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額および次に掲げる金額
| 記号 | 内容 |
|---|---|
| イ | 弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合における、その債権の金額 |
| ロ | 年賦償還等の決定により割賦弁済されることとなった債権の金額のうち、課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額 |
(3) 当事者間の契約により債権の切捨て・棚上げ・年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものと認めるものであるときにおける、その債権の金額のうち(2)に掲げる金額に準ずる金額
(出典:国税庁 財産評価基本通達205)
自社株評価が下がっても、貸付金は別枠で残る
「会社の業績が悪いので自社株の評価はほぼゼロ。だから相続は心配ない」というお考えを伺うことがあります。しかし、役員借入金は会社の負債ですから、負債が多いほど純資産は減り、自社株の評価はむしろ下がります。その一方で、社長個人の側では貸付金債権が額面で相続財産に加算されます。
つまり、役員借入金は「株価を下げながら、その下げた分以上を貸付金として相続財産に積み上げる」という構造を持っています。株価が下がっているから安心、ではなく、株価が下がっている会社ほど、貸付金の負担が相対的に重くなるのが実態です。
「会社にお金を入れ続けてきたが、返してもらうつもりはないので相続には関係ない」とおっしゃる社長は、実際によくいらっしゃいます。守秘義務がありますので詳細は控えますが、構図としては、ご本人の意思と税務上の評価は別です。返してもらうつもりがなくても、債権は債権として残り、原則として額面で評価されます。しかも相続人が受け取るのは現金ではなく「返ってこない債権」ですから、納税資金の裏づけがないまま相続税だけが発生します。過去のご相談の傾向として申し上げると、この論点は社長ご本人よりも、後から知ったご家族のほうが強い衝撃を受けられます。生前に手を打てる論点である、というのがいちばんお伝えしたいことです。
4. 解消法① 返済する——最も素直で、最も見落とされる方法
会社に返済余力があるなら、まず現金で返済するのが正攻法です。借入金の返済は、会社にとっても社長にとっても課税関係が生じません(元本部分)。社長は税負担なく資金を回収でき、相続財産も同額だけ減ります。
実務上のポイントは次のとおりです。
- 金銭消費貸借契約書と返済計画を作り、毎月または毎年、計画どおりに返済する
- 一度に全額返す必要はない。毎期少しずつでも減っている実績が、金融機関の評価にも相続の説明にも効く
- 役員報酬を下げて、その分を借入金の返済に充てる方法は、社長の手取りに対する所得税・社会保険料の負担を減らしながら資金を回収できるため、有効な選択肢になり得る(ただし報酬減額は定期同額給与の要件に留意)
5. 解消法② 債権放棄(債務免除)——効くが、3方向にリスクがある
社長が「会社への貸付金を放棄する」方法です。会社の負債が消えるため財務体質は改善し、社長の相続財産も減ります。ただし、次の3つの課税リスクを同時に検討する必要があります。
(1)会社側——債務免除益が発生する
債務の免除を受けた会社では、免除された金額が債務免除益として益金に算入されます(法人税法第22条第2項)。繰越欠損金があればそれと相殺できますが、欠損金が足りなければ法人税が課税されます。放棄額が大きいほど、この検討は不可欠です。
(2)他の株主側——みなし贈与になり得る
これが最も見落とされる論点です。相続税法基本通達9−2は、同族会社の株式または出資の価額が次に掲げる場合に該当して増加したときには、その株主または社員が増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うと定めています。
| 号 | 増加の原因 | 贈与者とされる者 |
|---|---|---|
| (1) | 会社に対し無償で財産の提供があった場合 | 当該財産を提供した者 |
| (2) | 時価より著しく低い価額で現物出資があった場合 | 当該現物出資をした者 |
| (3) | 対価を受けないで会社の債務の免除、引受けまたは弁済があった場合 | 当該債務の免除、引受けまたは弁済をした者 |
| (4) | 会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合 | 当該財産の譲渡をした者 |
(出典:国税庁 相続税法基本通達 第9条《その他の利益の享受》関係(9−2))
社長が債権を放棄すると会社の純資産が回復し、他の株主(子・配偶者など)が持つ株式の価値が上がります。この上昇分は、社長からの贈与とみなされ、贈与税の対象になり得ます。「相続税を減らすために放棄したら、子に贈与税がかかった」という結末は、実際に起こり得る話です。
(3)例外——会社が資力を喪失している場合
ただし、重要な例外があります。相続税法基本通達9−3は、同族会社の取締役、業務を執行する社員その他の者が、その会社が資力を喪失した場合において9−2の(1)から(4)までに掲げる行為をしたときは、それらの行為によりその会社が受けた利益に相当する金額のうち、その会社の債務超過額に相当する部分の金額については、9−2にかかわらず贈与によって取得したものとして取り扱わないとしています。
そして「会社が資力を喪失した場合」とは、法令に基づく会社更生、再生計画認可の決定、会社の整理等の法定手続による整理のほか、株主総会の決議、債権者集会の協議等により再建整備のために負債整理に入ったような場合をいうのであって、単に一時的に債務超過となっている場合は、これに該当しないことが明記されています(国税庁 相続税法基本通達9−3)。
6. 解消法③〜⑤ 資本に振り替える・現物で返す・報酬設計を変える
③ DES(デット・エクイティ・スワップ)——債権を資本に振り替える
社長が持つ貸付金債権を会社に現物出資し、代わりに株式を受け取る方法です。会社の負債が資本に振り替わるため、財務体質は大きく改善します。
ただし、次の点に注意が必要です。
- 現物出資される債権の時価が額面を下回る場合、その差額について会社に債務消滅益が生じ、法人税の課税対象となり得る
- 社長側では、額面より低い時価で評価された場合に貸倒損失や譲渡損の問題が生じ得る
- 発行株式数が増えるため、持株比率と議決権のバランスが変わる(他の株主がいる場合はとくに慎重に)
- 現物出資であるため、会社法上の検査役調査の要否など手続面の検討も必要
DESは効果が大きい反面、税務・会社法の両面で高度な判断を要します。単独で進めず、必ず事前に専門家と設計してください。
④ 現物弁済——会社の資産で返す
会社が保有する不動産・車両・有価証券などを、借入金の返済に充てて社長に引き渡す方法です。現金がなくても借入金を減らせますが、会社側ではその資産を時価で譲渡したものとして扱われ、簿価との差額に譲渡損益が生じます。時価と離れた価額でやり取りすると、役員給与や寄附金の問題にもつながります。必ず時価で行い、価額の根拠資料を残してください。
⑤ 役員報酬の設計を変えて、発生源を断つ
そもそも役員借入金が増え続けているなら、原因は「会社の資金が不足しているのに、社長個人が補填し続けている」ことにあります。返済や放棄でいったん残高を消しても、構造を変えなければ翌期からまた積み上がります。
- 役員報酬の水準が実態に合っているか(低すぎて生活費を会社に立て替えさせていないか)
- 社長個人が立て替えた経費が、毎月きちんと精算される運用になっているか
- 資金繰りの計画がなく、その都度の個人資金の投入で穴埋めしていないか
この3点を同時に手当てしなければ、解消は一時的なものに終わります。
7. よくある失敗と王道
- 「返してもらうつもりはない」と考え、相続財産になることを知らないまま放置している
- 「会社が赤字だから貸付金の評価もゼロ」と思い込んでいる(財産評価基本通達205は法的整理・事業廃止・6か月以上の休業などの外形的事実を求めており、単なる赤字・債務超過では該当しない)
- 自社株の評価が下がっていることをもって安心し、貸付金が別枠で額面加算されることを見落とす
- 相続対策のつもりで債権放棄したところ、他の株主に贈与税が生じた(相続税法基本通達9−2)
- 「債務超過だから9−3で贈与にならない」と自己判断した(一時的な債務超過は該当しないと通達に明記)
- 債権放棄によって会社に債務免除益が生じ、繰越欠損金が足りずに法人税が発生した
- DESを税務・会社法の検討なしに実行し、債務消滅益や持株比率の変動で想定外の結果になった
- 残高だけ消して、低すぎる役員報酬・経費の未精算という発生源を放置し、翌期からまた積み上がった
- まず残高の内訳と発生年度・発生原因を洗い出す(資金投入・経費立替・報酬振替のどれか)
- 相続が起きた場合の税額を今の残高で試算し、家族と共有する(現金のない財産であることを含めて)
- 会社に返済余力があるなら、金銭消費貸借契約書と返済計画をつくって計画的に返済する(元本返済に課税なし)
- 役員報酬と返済のバランスを見直し、税・社会保険の負担が軽い順路で資金を回収する
- 債権放棄を検討するなら、放棄前後の株価を試算して他の株主への価値移転額を把握し、贈与税・債務免除益とあわせて総額で比較する
- DES・現物弁済は、税務と会社法の両面から事前に設計し、時価の根拠資料を残す
- 事業承継の設計とセットで考える(自社株・役員退職金・借入金の3つを同じ図の上で並べる)
- 最後に発生源を断つ。報酬水準・経費精算ルール・資金繰り計画の3点を同時に整える
8. まとめ
役員借入金は、会社から見れば「返済を求められない安定資金」ですが、社長個人から見れば相続財産になる債権です。要点は次のとおりです。
- 役員借入金は会社の負債であり、その裏側は社長の会社に対する貸付金債権。相続財産に含まれる(国税庁タックスアンサーNo.4105)。
- 貸付金債権等の評価は、原則として元本=返済されるべき金額と既経過利息の合計(財産評価基本通達204)。回収の見込みがなくても、原則は額面。
- 元本に算入しなくてよいのは、取引停止処分・更生手続開始・再生手続開始・特別清算開始・破産手続開始・事業廃止または6か月以上の休業などの外形的事実がある場合(財産評価基本通達205)。単なる赤字・債務超過では該当しない。
- 役員借入金は自社株の評価を下げながら、貸付金として相続財産を増やす。株価が下がっているから安心、にはならない。
- 解消法は、①返済 ②債権放棄 ③DES ④現物弁済 ⑤役員報酬の設計変更。元本の返済には課税がなく、最も素直な方法。
- 債権放棄は、会社に債務免除益、他の株主にみなし贈与(相続税法基本通達9−2)が生じ得る。資力喪失の例外(同9−3)はあるが、一時的な債務超過は該当しないと明記されている。
- 何より、低すぎる役員報酬・経費の未精算という発生源を断たなければ再発する。
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よくある質問(FAQ)
会社に貸したお金を「返してもらわなくていい」と思っています。それでも相続税はかかりますか?
会社が債務超過で赤字続きです。それでも貸付金は額面で評価されますか?
社長が債権放棄すれば、相続財産を減らせますか?
会社が債務超過なら、みなし贈与にはならないと聞きました。本当ですか?
DES(デット・エクイティ・スワップ)で資本に振り替えるのは有効ですか?
出典・参考資料
- 国税庁タックスアンサーNo.4105「相続税がかかる財産」(貸付金が相続財産に含まれること)
- 国税庁タックスアンサーNo.4126「相続財産から控除できる債務」
- 国税庁 財産評価基本通達 第6節「その他の財産」(204 貸付金債権の評価、205 貸付金債権等の元本価額の範囲)
- 国税庁 相続税法基本通達 第9条《その他の利益の享受》関係(9−2 株式又は出資の価額が増加した場合、9−3 会社が資力を喪失した場合における私財提供等)
- 国税庁タックスアンサーNo.4638「取引相場のない株式の評価」(自社株評価の基本)
- 国税庁タックスアンサーNo.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」(定期同額給与)
- 相続税法第9条(その他の利益の享受)、第22条(評価の原則)
- 法人税法第22条(各事業年度の所得の金額の計算)、第34条(役員給与の損金不算入)
- 財産評価基本通達189(特定の評価会社の株式)
本記事は、役員借入金に関する一般的な情報提供であり、個別の会社における解消方法や相続対策の判断に代わるものではありません。適切な方法は、会社の業績・資金繰り・株主構成・相続および事業承継の見通しにより異なります。とくに債権放棄・DES(デット・エクイティ・スワップ)・現物弁済は、法人税・贈与税・会社法の各面から事前の検討が不可欠です。実行の前に必ず税理士等の専門家にご相談ください。記載の取扱いは執筆時点の法令等にもとづきます。
発行:税理士法人 小山・ミカタパートナーズ / 文責:代表 小山晃弘(公認会計士・税理士・米国公認会計士)
出典確認日:2026年7月27日
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